「何もしないしあわせ」を教えてくれるフィンランドの自然【マクヤマク  しあわせの味あわせ①】

北欧の小さな国フィンランド。ここに移住して16年になる日本人シェフが、星利昌(ほしとしあき)さんです。ヘルシンキでの料理修業と独立を経て、現在はオンライン料理教室「マクヤマク」を運営。世界中に「おいしさ」と「しあわせ」を届けています。そんな星さんが、フィンランドならではのあたたかな時間、味わい深い料理の数々、素朴で飾らないフィンランドの人々について綴ったエッセイ『マクヤマク しあわせの味あわせ』を上梓。本連載では「世界一幸福な国」と呼ばれるフィンランドの魅力を特別に“おすそ分け”します!

はじめに

はじめまして。星利昌(ほしとしあき)といいます。

フィンランドの首都ヘルシンキで生活して16年目、オンライン料理教室「マクヤマク」を運営しながら、妻と息子2人の家族4人で暮らしています。私は現在、フィンランドでこれまでになかったぐらいの幸せな毎日を送っています。そしてこの本は、そんな私のフィンランドでの日々を飾らずに書き綴ったものです。

フィンランド語の「マク」は「味」という意味で、「マクヤマク(maku ja maku)」では「味と味」です。しかし、実際に「マクヤマク(makujamaku)」という単語があるわけではなく、これは私が作った造語です。「マクヤマク」は「あじとあじを合わせてあじあわせ」。味と味を合わせて、食べて巡り合って幸せまで感じてほしいという願いを込めてオンライン料理教室の名前にしました。

フィンランドでの日々は、豪華なものや便利なものが出てくるわけではありません。ありのままのありふれた毎日の繰り返しの中から、私の「料理を大切に思う考え方」と、フィンランド人の「自分時間を大切にする生き方」を紹介します。世界一幸福度が高い国の人々の「幸せのとらえ方」が少しでも伝わればうれしいです。

フィンランドの自然

何もしないをする時間 ~湖のほとりで~

フィンランドには手つかずの自然が多くあり、その中でも湖はフィンランドの自然美の一つです。その数なんと19万近くもあるといわれています。

そんな湖のほとりに、フィンランド人は家族代々受け継がれた自分たちのモッキ(mökki)を持っています。モッキというのはコテージのことで、日本でいう別荘のひと回り小さいイメージでしょうか。モッキにはそれぞれ専用のサウナが離れのように建てられていて、サウナで熱くなった体を湖に入って冷やすのがフィンランドの夏の定番です。

フィンランドでは、暖かくなってくると、家族、親戚、友人が休暇を取ってモッキに集まってきます。モッキで1 カ月以上暮らすこともあります。彼らが何をしに行くかというと……何もしないことをしに行きます。おなかがすけば何かを食べ、大事な人と話し、眠りにつく。好きな時間にサウナに入る。サウナに入った後、湖につかっていると、まるで自分がフィンランドの自然の一部になったように感じます。そうやって、日々の“何かしなければならない時間”から解放され、“何もしないをする時間”を作っているのです。

フィンランド東部にサイマー湖と呼ばれる国内最大の湖があります。天然記念物のサイマーワモンアザラシが生息している、水のとてもきれいな湖です。

ある夏、この湖のすぐそばにあるモッキに遊びに行きました。友人のアレクシとユーリが誘ってくれたのです。そのモッキは木造で2部屋、電気は通っておらず、冷蔵庫もありません。トイレも水洗トイレではありません。電気がないというと不便に感じるかもしれませんが、フィンランドでは夏の間は日照時間が長く、夜遅くまで明るいので問題はありません。

飲食物の保存については地面を掘って作った倉庫に入れておけば、冷蔵庫とまではいきませんが、夏でも腐敗を遅らせることができます。こういう昔から続いてきた方法で生活してみると昔の人とつながることができたようで安心します。

みんなで楽しく夕食を取り、終始穏やかに過ごし、食後もおのおの自由に楽しむ。みんながみんなを自然体で受け入れている、そんなゆったりとした、心地よい時間が流れていました。

日本でも、フィンランドでも、現代の生活は便利です。どこにでも行けて、何でも手に入る、楽で効率のいい生活を私自身も快適だと感じています。ただ、普段の生活の中でも何のために学校に通ったり、仕事をしたりしているのかよく考えたいものです。誰かより勉強しなくちゃいけない、誰かに勝たなければならない……そういったことはこのモッキの日々にはなく、ただ自然に時間が流れて、暮らしを豊かに育んでいきます。

普段とは真逆の生活を取り入れることによって、普段の生活の中の大切なことに気づく。何もしないでいることによって、何をしたいか、何をするべきかに気づく。自然に近づいて溶け込んで、自然の一部になることによって、自分も自然の一部だということに気づき、自然にあらがわない大切さを知る。

こういったことを忘れないようにフィンランド人はモッキでの時間を大切にしていると、私は感じています。

フィンランドってこんな国①

まずは基本情報から!

面積 33.8万平方キロメートル
人口 約553万人(2021年、IMF)
言語 フィンランド語、スウェーデン語
通貨 ユーロ

森と湖の国フィンランド

フィンランドの湖と河川を合わせると、なんと国土の10%を占め、湖は約19万もあります!一方、森の面積も国土の3分の2に及びます。フィンランドはヨーロッパ一の森林国なのです。

フィンランドから「しあわせの秘密」を届ける1冊

フィンランドで暮らす日本人シェフ・星利昌さんによるエッセイ『マクヤマク しあわせの味あわせ』には、世界が注目するフィンランドの「しあわせの秘密」が満載です。

美しい自然、シャイで日本人に近いと言われるフィンランドの人々との関わり、滋養あふれる伝統料理の数々・・・。フィンランドの“ありのまま”を感じられる多数の写真と、星さんが紡ぐ静かで丁寧な文章が、フィンランドの魅力を教えてくれますよ。

星利昌(ほしとしあき)

和食の料理人になるために、神戸の割烹料理屋で修業。2008年、フィンランドに移住し、ヘルシンキ中心部のKämp Hotel内にある日本料理レストラン「Yume」、フレンチ、スカンジナビア料理レストラン「Chez Dominique」、フィンランド料理レストラン「Ateljé Finne」にて修行した後、独立。日本食レストラン「ほしと」をオープンする。2018年、7年3カ月続いた「ほしと」を惜しまれながら閉店し、現在は2016年から始めた陶芸に力を注ぎ、販売、展示会に出品するほか、オンライン料理教室「マクヤマク」を運営するなど、多岐にわたって活躍中。初めての著書となる本書では、著者自身が撮影した写真とともにフィンランドでの日々の生活が綴られている。

※この記事は、『マクヤマク しあわせの味あわせ』から一部編集・抜粋してお届けしています。

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