老舗の市場で働くフィンランドの人々との何気ない会話が、食材探しの時間をより豊かにしてくれる【マクヤマク しあわせの味あわせ③】

フィンランドに家族4人で暮らす、日本人シェフの星利昌(ほしとしあき)さん。オンライン料理教室「マクヤマク」を通して、フィンランドの魅力を世界に発信しています。星さんのエッセイ『マクヤマク しあわせの味あわせ』から、今回はフィンランドの人々の姿や彼らとの交流の様子を紹介します。

フィンランドの自然について綴った第1回はこちら

フィンランド伝統料理が食べたくなる第2回はこちら

フィンランドの人々

ハカニエミ市場で食材を買う

ヘルシンキの地下鉄ハカニエミ(Hakaniemi)駅から歩いてすぐのところにレンガ造りのハカニエミ市場があります。ここは1914年から100年以上続く老舗市場で、すぐそばの広場にもオレンジ色の屋根の八百屋や花屋、カフェなどが並んでいて、いつも大勢の人で賑わっています。

レストランをオープンしていた頃はこの市場に毎朝買い出しに行っていました。所狭しと並ぶ新鮮なものの中から、食材を厳選するのですが、こういった市場は何度行っても探検のようでわくわくします。食材の持つエネルギーを感じたり、知らない食材に出合ったり、どんな料理を作ろうかと考えを巡らす時間にもなります。そしてもう一つの楽しみが、お店の人との何気ない会話です。

毎日食材を仕入れに通っていると、お店の人たちも声をかけてくれるようになりました。

「あら、あなたの今日の髪型いいわね」
「キートス(ありがとう)。ここからすぐ近くのパヤという美容院で切ってるんですよ」

初めて声をかけられた時は一瞬とまどいましたが、こういった会話は心を和ませてくれます。

また、季節の変わり目も、食材が知らせてくれます。たとえば、カンタレッリやヘルックタッティという呪文のような名前のきのこが店に並べば、真夏から夏の終わりに向かっていることがわかり、スッピロバフベロというきのこを見ると、秋の到来を感じます。

同時に、「あー、もうカンタレッリが出てきたんだな。あの森に行ったら採れるかな」と、森の中の様子を想像します。カンタレッリは日本名アンズタケという黄色いきのこで、フィンランドの晩夏の味覚の代表です。

魚屋に行けば、ずらりと新鮮な魚が並びます。メインはフィンランド産の魚とノルウェーサーモン。アイスランド産やギリシャ産の魚を見かける時もあります。グラービという砂糖と塩を当てて調理されたものや、燻製も手に入ります。「今日はクハならこれかこれだよ」と魚屋のおじさんがポンポンと目の前におすすめの魚を置いてくれます。

めったに出回らないラスバカラというのがあるけど、どうする?」

自宅で調理して食べてみたところ、妙に脂分が多くぐちゃっとした食感で、お世辞にもおいしいとは言えませんでした。一度ヤツメウナギの燻製を食べたことがあるのですが、独特のくせのある匂いが強く、飲み込むのに苦労しました。ラスバカラはそれと同じぐらい私の口には合いませんでした。

市場に流通しない魚は、さばいて食べてみるとその理由がわかります。手間がかかりすぎたり、おいしくなかったりするせいです。

時々、見たことがない食材を、自分の知識欲のために購入します。
魚屋のおじさんは、売れない魚も仕入れる茶目っ気があって、私が知らないであろう魚が手に入れば取っておいてくれます。魚をさばくナイフを譲ってくれたこともありました。そのナイフは今でも大切にしています。

次は肉屋に向かいます。肉屋では、主に牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉を基本にいろいろな部位が売られています。

肉屋のおじさんとは以前はあいさつをするぐらいでしたが、顔なじみになると、「今日の新聞に君のレストランのことが出ていたのを見たよ。これからもっとお店が忙しくなるね」とか、「羊丸々1 頭、さばいてみたいって言ってたよね? だったらいつでもうちでやればいいよ」と、かけてくれる言葉も変わってきました。

フィンランドでは赤身のほうが価値が高く、霜降りのサシが入っていないほうが高価です。それでも、少し脂が入っていたほうが肉のねっとり感や食感のよさを感じるので、自分の目で見て、その日の料理に合う肉を吟味します。

こうして毎日通っていると、市場の人と顔なじみになり、買い物がしやすくなります。

2018年から行われていたハカニエミ市場の全面改修工事が終了し、2023年4月にリニューアルオープンしました。それ以前にも一部改修は時々行われていて、古株のお店もあれば新しく入ってきたお店もあります。市場全体が生きているかのような歴史には、「破壊と再生」といったパワーさえ感じます。

ここには地元の人が長年通っていて情緒があるし、活気もあります。市場にはいつもたくさんの人がいて、食卓の料理もこうして人の手から手に渡り、大切に扱われた食材からできているのです。

こちらは、フィンランドで人が住む最南西の小さな島、Utö(ウト)にある食料品店。

フィンランドってこんな国③

フィンランドの主要都市

【Helsinki(ヘルシンキ)】

フィンランドの首都。バルト海の乙女ともいわれる美しい街並みは、世界中の観光客を魅了しています。歴史的建造物も多く、特にヘルシンキの中央にある美しい白亜のヘルシンキ大聖堂はランドマーク的存在です。本文にも登場するヌークシオ国立公園はヘルシンキからもっとも近い国立公園として、地元の人からも愛されています。

【Oulu(オウル)】

ヘルシンキから飛行機で1時間、オウルはフィンランド中部に位置する街で、日本でも有名な「エア・ギター世界選手権」が行われる地でもあります。地元のオウル大学を中心に、世界トップクラスのICT産業をもつエリアとなり、ヨーロッパのシリコンバレーとも呼ばれています。

●いくつ知ってる?フィンランドのその他の町

下記に挙げた町も本書に登場します。ぜひお手に取って、星さんの文章とさまざまな写真をお楽しみください。

  • Rovaniemi(ロヴァニエミ)
  • Nuorgam(ヌオルガム)
  • Utsjoki(ウツヨキ)
  • Inari(イナリ)
  • Pello(ペッロ)
  • Kemijärvi(ケミヤルヴィ)
  • Hirvensalmi(ヒルヴェンサルミ)

フィンランドの人々の“息づかい”が聞こえてくる1冊

フィンランドで暮らす星利昌さんによるエッセイ『マクヤマク しあわせの味あわせ』。サウナから見るフィンランド人の思いやり、さり気ない優しさを持つお隣さん、市場や港で働く人々、長男が通う小学校の体制・・・。現地で生きる星さんだからこそ伝えられる、フィンランドの人々の姿を感じてみませんか?

書籍の詳細は下記リンクからもご覧いただけます。

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星利昌(ほしとしあき)

和食の料理人になるために、神戸の割烹料理屋で修業。2008年、フィンランドに移住し、ヘルシンキ中心部のKämp Hotel内にある日本料理レストラン「Yume」、フレンチ、スカンジナビア料理レストラン「Chez Dominique」、フィンランド料理レストラン「Ateljé Finne」にて修行した後、独立。日本食レストラン「ほしと」をオープンする。2018年、7年3カ月続いた「ほしと」を惜しまれながら閉店し、現在は2016年から始めた陶芸に力を注ぎ、販売、展示会に出品するほか、オンライン料理教室「マクヤマク」を運営するなど、多岐にわたって活躍中。初めての著書となる本書では、著者自身が撮影した写真とともにフィンランドでの日々の生活が綴られている。

※この記事は、『マクヤマク しあわせの味あわせ』から一部編集・抜粋してお届けしています。

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