世界で活躍するゴスペルシンガー、ボイストレーナーのNOBU(鬼無宣寿)さんが教える、英語の発音と発声のトレーニング法の連載。今回は、摩擦音の「s」がしっかり発音できるようになるトレーニング法を紹介します。記事の最後で響く声を出す練習ができるゴスペルの動画を紹介しています。NOBUさんと一緒に「’Tis So Sweet to Trust in Jesus」を熱唱してみましょう。
なぜ日本人が発音する「s」は弱く聞こえてしまうのか
私が初めてゴスペルを指導したのは、24歳の頃だったと思います。とある音楽学校のゴスペルクラスを受け持つことになりました。ゴスペルクラスを指導する話を頂いたとき、自分はまだ未熟なのでお断りしたのですが、「大丈夫、鬼無さんならできるよ」という学校の先生の後押しを受け挑戦することに決めました。当時の私は、ピアノを弾くこともたどたどしく、ゴスペルを指導することも初めてだったため不安で一杯でした。自分に自信がなく、準備にとても時間をかけたことを覚えています。しかし教えるという立場に就かせていただいたからこそ、その責任を果たすため、声の出し方や英語の歌詞を調べることに真剣に向き合うことができました。
あれから約20年がたち、レッスンでいつも同じ指導をしていると、あることに気が付きました。それは、「s」の発音です。日本人が発音する「s」は弱くて聞き取りにくいのです。次の歌詞をご覧ください。
’Tis so sweet to trust in Jesus,
Just to take Him at His word;
Just to rest upon His promise,
Just to know, ”Thus saith the Lord.”
Jesus, Jesus, how I trust Him!
How I’ve proved Him o’er and o’er!
Jesus, Jesus, precious Jesus!
O for grace to trust Him more!
何と喜ばしい イエスを信頼することは
ただイエスの言葉を信じることは
ただ彼の約束を土台とすることは
「主がそう語られた」と知ることは
イエスよ イエスよ
どれほどあなたを信頼していることか!
どれほどあなたを証してきたことか!
イエスよ イエスよ 尊いイエスよ!
あなたをより信頼できうる 恵みのゆえに
この曲は、全世界の教会で歌われている有名な賛美歌で、タイトルは”’Tis So Sweet to Trust in Jesus”。1880年頃、イギリスのLouisa M. R Steadによって書かれた詩といわれています。’Tisとはit isの古英語で、タイトルは「イエスを信頼することはなんと喜ばしいことか」という意味です。
歌い出しのフレーズはこのタイトルから始まり、よく見ると「s」で始まる単語が続けて2回登場します。英語ネイティブの「s」は強くしっかりと聞こえるのに、私たち日本人がこの「s」を発音すると弱く聞こえてしまうのはなぜか。聞こえ方が違うことに悩みました。そしてそれは、体の使い方に違いがあるのではないかと考えました。今回は、1つ目に「sを発音するときの日本語と英語の違い」、2つ目に「体を使った音読トレーニング」を一緒に見ていきましょう。
「s」を発音するときの日本語と英語の違い
「s」は摩擦音という音で、その名の通り、舌の前部を歯茎に近付け息を流したときに起こる摩擦の音です。同じような音に日本語でも「す」という言葉がありますが、日本語と英語で体の使い方がどのように異なるのか見ていきましょう。
1.みぞおち部分を指で押さえる
おなかのみぞおち部分を、両手の指で押さえます。指を3本ずつ使って押さえ、みぞおち部分の動きを感じやすくしてみましょう。
2. みぞおち部分の動きを確認する。
1の状態で、次の日本語を音読してみてください。太字を音読するとき、押さえている両手部分がどう動くでしょうか?恐らく、両手部分はあまり動かないと思います。
ストロベリー味のスイーツをください。
3. 太字部分を意識しながら音読する。
もう一度1の状態で、次の太字部分を意識しながら音読します。音読するときに、両手部分がどう動くか確かめてみましょう。
strawberry味のsweetをください。
太字の部分を強調して音読すると、おなかの内側から両手が押し出されるように動くことを感じませんか?「s」などの摩擦音を発音するとき、息、横隔膜、おなか周りの筋肉が連動し摩擦音のこすれる音を強く発音していることが分かります。
日本語の「す」の発音で英語の「s」を発音してしまうため、「s」の子音が聞こえにくくなっているのです。もちろんネイティブスピーカーが、みぞおちや腹筋などを考えて発音していることはないでしょう。でも想像してみてください。外国から日本に来られた方が、「あのー、すいません」と日本語で話すとき、「す」と「せ」の部分がとても強く聞こえませんか?それはやはり、摩擦音を自然に強く発音する体になっているからではないでしょうか。
おなかやみぞおち周りが動かなくても、英語の「s」を大きい音で発音できるかもしれません。しかし「s」はたくさん息を使う発音です。もしその後に続く文章が長いと、息が足りなくなることがあります。このおなか周りの動きを身に付けていれば、息をコントロールし、「s」をしっかりと発音しながら文章を音読することができるようになるでしょう。
体を使った音読トレーニング
次の順で体の使い方を意識しながら、「s」を発音してみましょう。
so(sóʊ)を発音してみよう
1.みぞおち部分を指で押さえる
おなかのみぞおち部分を、両手の指で押さえます。
2. みぞおち部分の動きを確認する。
無声音でs (スー)と発音します。スーと言うとき、みぞおち部分、おなか周りが外に向かってじわっと押し出されることを確認しましょう。このときは、息だけが出ています。
3. so (スーーオゥ)と声にして発音する。
みぞおち部分が押し出されてきたら、so (スーーオゥ)と声にして発音します。
4. 5回続けてsoを発音する。
おなかの動きを体に覚え込ませましょう。
5. 次の単語でもチャレンジしよう!
sound(sάʊnd)
音
say(séɪ)
言う
seat(síːt)
席
song(sˈɔːŋ)
歌
sweet(swíːt)
甘い
どうでしょう、体の動きをつかめましたか?
zoo(zúː)を発音してみよう
1.みぞおち部分を指で押さえる
おなかのみぞおち部分を、両手の指で押さえます。
2. みぞおちの動きを確認する。
有声音でz(ズー)と発音します。「s」のときと同様に、ズーと言いながらみぞおち部分、おなか周りが外に向かってじわっと押し出されることを確認しましょう。
3. zoo(ズー)と発音する。
みぞおち部分が押し出されてきたら、zoo(ズー)と発音しましょう。
4. 5回続けてzoo(ズー)と発音を音読する。
おなかの動きを体に覚え込ませましょう。
5. 次の単語でもチャレンジ!
resound(rɪzάʊnd)
響く
zero(zíːroʊ)
ゼロ
zip(zíp)
ジッパーを閉める・開ける
zone(zóʊn)
地域、地区、区域
摩擦音「s」や「z」は発音し始めるタイミングが大事
「s」を発音するときのタイミングは重要です。例えばsweetという単語を発音するとき、日本語と英語とでは、「s」の言い始めるタイミングが少し異なります。「1、 2、 3、 4」とカウントしながら音読をしたときの違いを比較してみました。シラブル(音節)とも関係があるので、手の動きも表示しています。シラブルと手の動きについては、vol.4をご覧ください。
日本語でスイーツと言う場合
スイーツと日本語発音する場合、スを音読し始めるタイミングは、1の部分になります。手を上下に振ると、手が完全に下に降りたときに「ス」と言い始めています。
英語でsweetと言う場合の「s」の始まる位置
一方英語のsは4のあたり、手が上がっているときには既に「スー」という無声音が始まります。また手を下ろす1の頭では「ス」ではなく、「wee」と発音します。
1の部分の日本語と英語を拡大して見てみましょう。
1の頭で日本語は「ス」、英語は「wee」と発音しており音が異なりますね。英語のsは、日本語より早く発音を始めていることがよく分かります。ということは、sなどの摩擦音を発音するとき、少し早めに言い始めればしっかりと子音が聞こえるのですね!
「’Tis So Sweet to Trust in Jesus」を一緒に歌おう
今回紹介した「’Tis So Sweet to Trust in Jesus」は、摩擦音「s」の発音を体得するのにピッタリの歌ですので、記事に合わせて特別に動画を作成しました。歌うのは苦手・・・という方もおられるかもしれませんが、ぜひ声を深く響かせるイメージで一緒に歌ってみましょう。「#ゴスペルで英語」というハッシュタグを付けて、音声や動画をSNSにアップロードしていただけたらうれしいです!
NOBU(鬼無宣寿)さんの著書
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編集:増尾美恵子