英語の発音がよくなる体の使い方~破裂音の練習法【ゴスペルで英語 シーズン2】

世界で活躍するゴスペルシンガー、ボイストレーナーのNOBU(鬼無宣寿)さんが教える、英語の発音と発声のトレーニング法の連載。今回は、英語特有の破裂音がネイティブスピーカーのように発音できるようになるトレーニング法を紹介します。記事の最後で響く声を出す練習ができるゴスペルの動画を紹介しています。NOBUさんと一緒に「Power Belongs to God」を熱唱してみましょう。

「p」や「b」の破裂音は、体の使い方で発音がよくなる

2020年9月、Forbesのニュースで興味深いタイトルがありました。それは、「なぜ英語を話すことは他の言語に比べコロナウイルスが拡散するのか」というものでした。日本語と英語の子音の違いについても述べられており要約すると、「英語は子音を使うときに息をたくさん使う。一方日本語は、英語に比べて子音で息を飛ばさない。よって、アメリカは日本よりもコロナ感染者数が多い」ということでした。当時、アメリカに比べ日本はコロナ感染者数が少なかったため、その理由として、日本語は子音の息が飛ばないからだろうという仮説が立てられたのです。

コロナはともかく、確かに英語の子音、中でも破裂音と呼ばれる「p」「t」「g」などは、日本語の「ぱ」「た」「が」などに比べて息を多く使うように聞こえます。そしてこの違いは、ゴスペルを歌うときにも必ず登場する課題です。例えば、次の歌詞をご覧ください。

Power belongs to God
God has spoken once
Twice I have heard this
That power belongs to God

力は神にあり
神は一度告げられた
二度私はそれを聞いた
力は神のものであることを

私たち日本人がこの歌詞を音読したり、歌ったりするとき、powerのpbelongsのbGodのgが弱く聞こえるのです。声の大きさが原因かと思い、大きな声で歌ってみても子音が飛んで聞こえてこないのです。一体英語と日本語における子音の発音は、何が違うのでしょうか。※spokenの「k」も破裂音ですが、この単語では強く発音しないため、ここでは取り上げておりません。

では、破裂音を発音するときの体の使い方を、詳しく見ていきましょう。

「p」を発音するときの日本語と英語の違いを感じてみよう

日本語の「パ」と英語の「p」を発音するとき、体の動きがどう違うのかを見ていきましょう。

1. みぞおち部分を両手の指で押さえる

みぞおち部分を両手の指でぐっと押さえてみてください。指は1本ではなく、3本で押さえると、みぞおち部分の動きをより感じやすくなると思います。

2. 1の状態で次の単語を音読する

1の状態でリラックスして、次の言葉を日本語でいつも話しているように音読してみましょう。太字の部分を発音するとき、両手で押さえたみぞおち辺りがどう動くか確かめてください。

ワー
ット
ーチ
ー(くまのプーさん)

おそらく、みぞおち部分はあまり動いていないでしょう。

3. 1の状態で次の英語を発音する

1の状態で次の英語を発音しましょう。太字の部分を発音するとき、両手で押さえたみぞおち辺りがどう動くか確かめてください。

power(力)

put(置く)

peach(桃)

Pooh(くまのプーさん)

英語の発音でpを発音した場合、日本語に比べて息が飛びます。そのとき、みぞおち部分が内側から手を押し返すような動きをしていることを感じられるはずです。体の中にある横隔膜やおなか周りの筋肉が連動し、息を強く飛ばしているのです。

普段私たちは日本語の「パ」を発音するとき、英語のpほど子音を必要としません。パをpaと表記した場合、どちらかと言うと「p」よりも「a=ア」の母音を強調している気がします。ゴスペルを歌ったり英語を音読したりするとき、powerの「p」の子音に勢いがない原因は、この日本語の体の使い方で「パワー」と発音しているからなのです。

横隔膜の位置については、2020年の記事「英語の発音に迫力が出る!『ゴスペル』のプロが教える横隔膜の筋トレ」 をご参考ください。

「b」を発音するときの、日本語と英語の違い

同じように「b」を発音するときの、日本語と英語における体の違いも見ていきましょう。

1. みぞおち部分を両手の指で押さえる

みぞおち部分を両手の指でぐっと押さえます。

2. 1の状態で次の単語を音読する

1の状態でリラックスして、次を日本語でいつもしているように音読してみましょう。

スケットボール
ーチ
イキング

これも先ほどの「p」と同様、太字の部分でみぞおちはあまり動いていないと思います。

3. 1の状態で次の英語を発音する

1の状態で次の英語を発音しましょう。

basketball(バスケットボール)

beach(浜)

baking(パンやケーキを焼くこと)

太字を発音するとき、みぞおち部分がポンと外に出ることを感じると思います。この「p」と「b」は、破裂音なのでその名の通り、破裂したように強く発音します。日本語に比べて息を強く使うために、体がそのような動きをしているのですね。

もちろんネイティブスピーカーが、いつもおなかの動きを意識して発音していることはないでしょう。しかし、「p」、「b」などの破裂音をしっかり相手に届けるために、このような体の使い方を身に付けておくことは大切です!

みぞおち部分を出せば勢いのある子音が発音できると思って、おなかを前部に出そうとしたり、おなかを膨らませて力んでしまったりする場合があります。おなかやみぞおち部分を出せば子音が飛ぶのではなく、体の中から強い息を出すために、自然にみぞおち部分が膨らむという意識を忘れずに!

スローモーションで体の中の圧を感じてみよう

ここで先程のみぞおち部分の動きを、さらにゆっくりと確認してみたいと思います。「p」を発音する前の状態を、スローモーションで作ってみましょう。

1. 子音「p」を発音するために唇を閉じる

子音「p」を発音するために唇をしっかり閉じます。まだ声を発していません。

2. 1の状態から「パッ!」と発音する準備をして、体の中に圧が高まることを感じる

1の状態から「パッ!」と発音しようとすると、体の中に段々と圧が高まっていることを感じます。そして、みぞおち部分が内側から外に押し出されることを感じます。みぞおち部分だけでなく、おなか周りも動いています。
息を沢山吐こうとして高まってくるこの圧を「声門下圧(せいもんかあつ)」と呼び、大きい声を作ることに関連します。
まだ声を発していません。

3. 「パッ!」と息を放つ

体の中に圧が高まってきたら一気に強く、「パッ!」と息を放ちます。声に出してパと言うのではなく、息だけで「パッ!」と吐きます。この声になっていない息だけの音を「無声音」と呼びます

4. 3の無声音を次の言葉でテンポ良く発音する

3の「パッ!」の無声音を次の言葉でテンポ良く発音します。「パッ! ペッ! ピッ! ポッ! プッ!」

5. 4を1日5セット行う

4を1日5セット行います。

6. 4を有声音で発音する

今度は4に声を出して発音しましょう。あせって言葉を発するのではなく、1-3のプロセスを一語一語に感じながら発音してください。息だけでなく声になる音なので「有声音」と言います。これも5の後に5セット行います。

単語でも圧を感じて発音できるようにしてみましょう

1. 唇をしっかり閉じる

「p」を強く遠くに発音しようとして唇をグッとしっかり閉じます。

2. 勢いよく次の言葉を発音する

体の中に圧が高まってきたら勢いよく次の言葉を発音しましょう。太字の部分を強く発音します。

power(力)

pain(痛み)

peach(桃)

post(投稿メッセージ)

Pooh(くまのプーさん)

3. 有声音の破裂音「b」でチャレンジする

有声音の破裂音bでもチャレンジします。「b」を発音する前にも、体の中の圧が上がるのを感じ、次の言葉を発音してみましょう。

basketball(バスケットボール)

baking(パンやケーキを焼くこと)

beach(浜)

boy(少年)

boom(急上昇)

コロナ感染防止対策として人との会話が制限され、マスク生活が長引いたため、多くの方は顔の筋力が衰えたと感じています。実際にレッスンをしている中で、口を閉じる力の衰えを感じました。口を閉じる筋肉を「口唇閉鎖力」と呼び、破裂音「p」を強くするために大切な要素です。口唇閉鎖筋が衰えるとpやbなどの子音が遠くに飛ばなくなります。口をしっかり閉じ、体の中の圧を高めることでpやbをするどく飛ばせるようトレーニングしてみましょう

デンゼル・ワシントンのスピーチから破裂音を学ぼう

私の大好きな俳優デンゼル・ワシントンがディラード大学で行ったスピーチがあります。デンゼルが発するpの音はとても強く、話しているマイクも飛んでいきそうです。そのスピーチの中から、破裂音の練習をできる1フレーズ(YouTube0:13〜)を引用してみました。次の太字の部分を意識して音読してみましょう。強い「p」が、説得力のある言葉に繋がるのかもしれませんね。

Put God first. Put God first in everything you do.
神を一番に。すべての行動において、神を第一に考えなさい。

「Power Belongs to God」を一緒に歌おう

今回紹介するのは、「Power Belongs to God」です。破裂音のトレーニングにピッタリの歌ですので、記事に合わせて特別に動画を作成しました。歌うのは苦手・・・という方もおられるかもしれませんが、ぜひ声を深く響かせるイメージで一緒に歌ってみましょう。「#ゴスペルで英語」というハッシュタグを付けて、音声や動画をSNSにアップロードしていただけたらうれしいです!

Power belongs to God
God has spoken once
Twice I have heard this
That power belongs to God

力は神にあり
神は一度告げられた
二度私はそれを聞いた
力は神のものであることを

NOBU(鬼無宣寿)さんの著書

増尾美恵子
文:NOBU(鬼無宣寿)

ゴスペルシンガー。関西外国語大学英米語学科卒業。2015年、ロサンゼルスを訪れ映画『天使にラブソングを2』のモデル「アイリス・スティーブンソン」氏と対談。同年、彼女を東京に招聘しゴスペルワークショップを開催。2017年から青山学院大学でゴスペル指導。同大学一年生対象の「キリスト教文化論」特別講義を行う。2019年4月、「天皇陛下御即位三十年奉祝感謝の集い」に松任谷由実、ゆずと共演。同年、NHKラジオ第2「カルチャーラジオ芸術その魅力『ゴスペルソングの歴史~讃美歌から現代まで~』」出演。2021年には、英字新聞The Japan Times Alphaで特集記事が組まれ、ゴスペルの素晴らしさを語る。2022年、『ゴスペル式英語の声を良くする本 Discover your own voice!』を出版。現在ARTOS代表。
・Twitter: @NobuhisaKinashi
・Homepage: https://www.nobuhisakinashi.com/

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編集:増尾美恵子

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