世界で活躍するゴスペルシンガー、ボイストレーナーのNOBU(鬼無宣寿)さんが教える、英語の発音と発声のトレーニング法の連載。今回は、欧米人のように英語を深く響く声で英語を話せるようになるトレーニング法を紹介します。記事の最後で響く声を出す練習ができるゴスペルの動画を紹介しています。NOBUさんと一緒に「Wade in the Water」を熱唱してみましょう。
「響く声」を作るトレーニングをすれば英語が相手に伝わりやすくなる
声が小さくて「え?」と、よく聞き返される・・・。話しているとすぐに声がかれてしまう・・・。先日、友人と日本語と英語の響きについて話していました。彼女は南米出身ですが、幼少期から日本で暮らしており、日本語のことをよく知っています。その彼女が、日本語の響きについてこんな興味深いことを語りました。
「自分の国の人が日本語を話すときのアドバイスとして、いつもこう言っているの。日本語を話すときには、とにかく感情的な声にならないこと。そして静かに話すことだってね」
この方の言葉を聞いて、確かに日本語はそうだなと思わされました。日本では、人前で大きな声を出すことをみっともないと思う風潮があり、大きく響いた声を使うことはためらわれます。日本語は、おしとやかで落ち着いた声と言い換えることができますが、海外においては声量や響きが比較的小さいのでしょう。
友人の言葉を聞いて、以前、アメリカのゴスペルカンファレンスに訪れたときのことを思い出しました。初めて会う人(主にアフリカンアメリカン)と話をするとき、会話の中で"excuse me?"と何度も聞き返されてしまうのです。私が話している文法や発音は間違っていないのに、なぜ聞き返されるのだろうと悩みました。そこで気が付いたのが、自分の声の響きが日本語を話すように小さい声で話していたことです。その後、大き過ぎるかなと思うほど響く声で話したところ、相手に真っすぐ言葉が届き聞き返されなくなりました。声量がなく響いていない声は相手に伝わらなかったのです。
喉仏の上下運動をして、英語特有の発声ができるようになろう
今回の記事では、ゴスペルでも指導している「響く声」を作るトレーニングを紹介します。2020年の記事 英語特有の発声法トレーニング!「ゴスペル」のプロが教える深く響く声チェストボイス において、既に「喉仏」を下げる大切さを述べました。とても大切なポイントなので、今回はさらに深めていきます。大きく3つについてご紹介します。
- 1つ目に「喉仏の上下運動」
- 2つ目に「5つの母音」
- 3つ目に「wの発音」です。
まず、喉仏の上下運動を見ていきましょう。
1. 喉仏の位置を確認しましょう。
手の平を喉に当てて、つばをゴクッと飲み込みます。そのときに動く甲状軟骨が「喉仏」と呼ばれる部分です。そのエリアを「喉頭(こうとう)」と呼びます。喉仏の動きがすぐに感じる人、よく動きが分からない人など個人差があります。
2. 喉仏が動くか確認しましょう。
喉に手の平を当てたまま、普段日本語を話すように「あー」と軽く発声してみてください。このとき、喉仏が動くか確認します。日本語発声のときは、恐らくあまり動きません。声の高さは、リラックスして自然に出したときの音程でOKです。
3. 喉仏を下げてみましょう。
今度は、手の平を喉に当てたまま、あくびをして「あー」と発音しましょう。あくびは、口の奥が開き空洞を作り声が響きやすくなります。また、喉仏が下がる動きを手の平に感じると思います。最初の頃は、動きが分かりにくいかもしれません。微動でもよいので、喉仏の動きを感じてみましょう。また、優しい小さい声ではなく、少し大きめの声で練習することで、より動きが分かりやすくなります。
4. 喉仏の上下運動をトレーニングしましょう。
2の日本語「あー」を発音しながら、喉仏を下げた3の「あー」に段々と変えていきます。この2⇄3の一連の動きを、一息で3回繰り返してみましょう。1日に5セット行います。これが「喉仏の上下運動」です。
喉仏の位置は、あくびをし始めたときに下がってきたあたりがベスト
喉仏を極端に下げ過ぎるのもよくありません!理由は、響く声でなくモゴモゴとこもった声になってしまうからです。喉仏の位置は、あくびをし始めたときに「下がってきたかな?」というあたりがよいでしょう。
歌を習っている方から、「コロナ禍が長引いたため声が響かなくなった」という相談を頻繁に受けるようになりました。その方の声をチェックすると、喉仏の上下運動があまりできなくなっていました。日本語は元来、大きい声で話さないことが多いのにコロナの感染防止対策により、さらに声を使わなくなったことで、喉仏を動かす筋肉が衰えてしまった。その結果、声が響かなくなっていたのです。
皆さんの中にも、コロナ禍が長く続いたために声が出にくくなったと感じる方はいませんか?その方にとっても、喉仏の上下運動はおすすめです。
5つの母音「あいうえお」を発音して、喉仏の位置を調整しよう
母音でも、喉仏を下げて発音できるようにしましょう。この練習の目的は、どんな言葉でも、同じ響きを使って発音できるようにすることです。例えば、「あー」は響く声だけど、「いー」になると声が響かなくなるということが起こります。それが言葉になると、outは響く声で発音できるけど、inを発音するときは声が響かないということになります。ばらつきをなくし、outもinも、全ての言葉が同じ響く声で発音できるようになるための練習です。
1. 手の平を喉仏に当てます。
2. 「あー」とあくびをしながら、喉仏を下げます。
声の高さは、リラックスして自然に出したときの音程でOKです。
3. 2の「あー」を発音しながら、喉仏の位置をそのままキープして、「あーえーいーおーうー」と言葉を変えていきましょう。特に「え」「い」「う」を発音するとき、喉仏が極端に上昇しないよう気を付けます。
4. 3を1日5セット行います。
wの発音は、喉仏を下げると正しい発音になる
喉仏の上下運動は、wの発音にも効果的です。wの発音は、「唇を前に出して」とよく耳にします。ところが、そのフォームで発音しているのにどこかネイティブと違う、声が軽いと感じたことはありませんか?その理由は、唇を前に出していても、口(または口の奥)のスペースが狭くなっているからです。例えば、以下の言葉を日本語で音読してみましょう。喉仏に手のひらを当て、太字を発音するときに、喉仏が下がるか確かめてみてください。
- 「うれしい」
- 「うつくしい」
- 「うまい」
いかがでしょうか。唇は「う」と前に出ていても、喉仏はあまり下がっていないと思います。そのため声が響いていません。この日本語「う」の発音でwを発音すると、喉仏が下がらず、口の中のスペースも狭い軽い声になります。以下の方法でwを響く声で発音しましょう。
1. 手の平を喉仏に当てます。
2. 「あー」とあくびをしながら、喉仏を下げます。
声の高さは、リラックスして自然に出したときの音程でOKです。
3. 2の状態をキープしつつ、唇の先をほんの少し近付けて「あー」から「うー」に言葉を変えてみましょう。
4. 3の「うー」からスタートして、以下の単語を音読してみましょう。
wood(森)
wonderful(素晴らしい)
wade(水の中を歩く)
weak(弱い)
water(水)
いかがでしょうか。響く声でwを発音できましたか?顔や首全体が筒のように響くwの声を作っていきましょう。
自分の持っている声を磨いていこう
2013年、デューク大学とカリフォルニア大学が面白い研究をしました。それは、約800人(男性)の会社CEOを集めて、彼らが話す声の高さと年収の関係を調べたものです。研究結果は、低めの声で話すCEOの方が高い声のCEOよりも、大きな会社を経営し多くの年収を得ているとのことでした。もちろん実際は、話す方の雰囲気、語る内容、また話す気持ちが聞き手にとって大切だと思いますが興味深い 研究結果 です。
一方で、低い声を求め過ぎることには注意しなければなりません。それは、人それぞれ声の高さが違うからです。人の声をイメージしやすくするために、弦楽器が例えで用いられます。高い声の人はバイオリン、低い声の人はチェロです。もしバイオリンがチェロの低い音を出そうとしたり、チェロがバイオリンのように高い音を出そうとしたりすると無理が生じます。その結果、楽器が傷付いてしまいます。同じように、無理して低い声を出そうとすると、間違った発声方法になり、声がかれる場合も・・・。誰かと比べるのではなく、自分の持っている声を磨いていけば、聞き返されることのない相手に届く響く声になるでしょう!
「Wade in the Water」を一緒に歌おう
今回紹介するのは、「Wade in the Water」です。響く声のトレーニングにピッタリの歌ですので、記事に合わせて特別に動画を作成しました。歌うのは苦手・・・という方もおられるかもしれませんが、ぜひ声を深く響かせるイメージで一緒に歌ってみましょう。「#ゴスペルで英語」というハッシュタグを付けて、音声や動画をSNSにアップロードしていただけたらうれしいです!
Wade in the water
Wade in the water, children
Wade in the water
God's gonna trouble the water
水の中へ行こう
水の中へ行こう 子どもたちよ
水の中へ行こう
神が水をかきまぜてくださる
NOBU(鬼無宣寿)さんの著書
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編集:増尾美恵子