体を使って覚える英語の発音とリズム感覚【ゴスペルで英語 シーズン2】

世界で活躍するゴスペルシンガー、ボイストレーナーのNOBU(鬼無宣寿)さんが教える、英語の発音と発声のトレーニング法の連載。今回は、英語特有のリズムを体で覚えるトレーニング法を紹介します。英語のリズムを体得するのにピッタリのゴスペル動画も紹介するので、NOBUさんと一緒に「When the Saints Go Marching In (聖者の行進)」を熱唱してみましょう。

英語と日本語のリズムの違いを体得しよう

私たち日本人が話す英語は、どこかカクカクして聞こえる・・・。ゴスペルを歌っている中で何度も直面した問題は、英語が流れるように聞こえず、言葉がカクカクして聞こえてしまうことです。皆さんは、この曲を聞いたことはあるでしょうか。有名な『When the Saints Go Marching In (聖者の行進)』です。

O when the saints go marching in
O when the saints go marching in
O Lord, I want to be in that number
When the saints go marching in

ああ 聖徒たちが行進するとき
ああ 聖徒たちが行進するとき
ああ主よ そこに加わりたいのです
聖徒たちが行進するとき

これはゴスペルの曲で、1938年にジャズ界の巨匠ルイ・アームストロングとオーケストラがレコーディングしたことで有名になりました。この軽快な曲からは想像できませんが、アメリカの黒人教会では葬儀のときに歌われることもあるのです。歌詞に登場するsaintsは聖徒と訳され、この地上で神に忠実に生きようとした人々と言うことができます。「人生は苦しみで満ちている。悪が栄え理不尽に思うときがある。それでも信仰を持って生きていくのだ。そしていつの日か私が、またはこの世が終わるとき、天の御国で聖徒たちの行進に加えてください」この曲の作者は、そんな祈る気持ちでこの曲を書いたのかもしれません。

私たち日本人がこの曲を歌うとき、英語が「オーウェンザーセインツ」と区切ったように聞こえてしまいます。これはゴスペルを歌うときだけでなく、英語を話すときにも当てはまるのではないでしょうか。例えば、次のフレーズを日本人が音読した場合と、ネイティブスピーカー音読した場合とでは、流れるリズムが異なるように聞こえます。

May I have another cup of coffee?
コーヒーのお代わりを頂けますか。

英語のネイティブスピーカーが音読した場合は、太字部分を少し強く発音し、あとは横に流れるように聞こえます。日本人の多くが音読する場合、「メイアイハヴ アナザー カップオヴコーフィー」のように、細かく区切って聞こえます。私たちが英語を歌ったり話したりするときに、リズムが流れるように聞こえない原因は、日本語と英語には、「シラブル(音節)の違い」と「 縦リズムと横リズムの違い」があるからだと考えました。今回は、英語を流れるようなリズムで話すために大事な2つのことを一緒に見ていきましょう。

英語と日本語で異なるシラブル(音節)の数に注目しよう

日本人が話す英語が流れるように聞こえない理由として、シラブルの違いがあります。シラブルとは音節という意味で、1つとして感じる音の固まりのことです。例えば日本語の「明日」は、「あ」「し」「た」という3つのシラブルです。私たちは「明日」と発音するとき、3つのシラブルだと意識していなくても、感覚のどこかで3つの音として捉えているのです。このシラブル、日本語と英語では捉え方が異なります。具体的な例として「チョコレート」という単語を使ってその違いを見ていきましょう。

日本語で「チョコレート」を発音する場合

日本語で「チョコレート」を発音するときのシラブルは、「チョ」+「コ」+「レ」+「―」+「ト」の5つです。

伸ばす発音の「―」も1つのシラブルとしてカウントされ、全体的に細かく区切っています。もちろん普段から、このようにシラブルを意識して話すことはないでしょう。しかし、日本語でチョコレートと発音するとき、5つの音節を感じています。昔よく友達と、じゃんけんで遊んでいました。勝った方が1歩ずつ進んで行き、先にゴールに着いた方が勝ちというゲームです。グーで勝てば「ぐ」「り」「こ」で3歩進めます。同じようにパーで勝てば「パ」「イ」「ナ」「ッ」「プ」「ル」と6歩、チョキで勝てば「チ」「ヨ」「コ」「レ」「―」「ト」と6歩進めました。そのときには意識していませんでしたが、日本語発音のシラブルが一語を細かく捉えるために、そのような遊びが生まれたのかもしれません。

英語でchocolateを発音する場合

一方、chocolateを英語で発音する場合のシラブルは、「choc」+「o」+「late」の3つとして捉えます。※lateの語尾「ト」の発音は強く発音しないため、シラブルにはカウントしません。

日本語では5つの音として感じているチョコレートですが、英語だと3つです。もしも日本語シラブルの感覚で英語chocolateを発音したらどうでしょう。きっと流れるようなリズムでは発音されず、カクカクと細かく区切ったように聞こえると思います。他にもシラブルの数の違いに注目したい言葉を例に挙げてみました。次の日本語と英語のシラブルの数を考えてみましょう!こんなに違うんだーと、楽しみながら音読してみてくださいね。

シラブルの数当てクイズに挑戦しよう

日本語で発音する場合と英語で発音する場合のシラブルの数を数えてみましょう。答えは記事の末尾にあります。

トイレットペーパー
ポテトサラダ
アシスタントマネージャー
toilet paper
potato salad
assistant manager

縦リズムと横リズムの違いを体で感じてみよう

先ほどのチョコレートの例えをもう一度振り返ってみます。日本語で読む場合は、強弱はあまりなく「チョ」「コ」「レ」「ー」「ト」とほぼ同じ音量で均等に発音しています。日本語のチョコレートは縦にカクカクと区切っているように聞こえるため、ここでは「縦リズム」と呼ぶことにします。一方、英語でchocolateと発音するとき、日本語より強弱がはっきりしています。チョの部分を強く、コレィは少し弱く発音していますね。そしてチョッコレィと跳ねているようにも感じます。気のせいか、chocolateをゆっくり3回音読すると、スキップしているようにも聞こえませんか?英語は横に跳ねているように聞こえるので、「横リズム」と呼ぶことにします。リズムの違いを分かりやすくするために、手振りを付けてチョコレートを発音してみましょう。

縦リズム(日本語読み)

1. 「1 2 3 4」と言いながら手を使ってリズムを取る

「1 2 3 4」と口に出して言いながら、次の図に合わせ両手を交互に縦に振ってみましょう。1のときに右手を振り下ろし、2のときに右手を上げ同時に左手を振り下ろす。それを繰り返します。行進しているような様子です。

2. リズムに乗って「チョコレート」と発音する

1のように両手を交互に縦に振りながら、チョコレートと日本語で音読してみましょう。

丸印は、音の強さを表しており、全体的にあまり強弱は変わりません。これが日本語の縦リズムです。私たち日本人は、言葉の持つこのような性質から、この縦リズムに慣れているかもしれません。

横リズム(英語読み)

度は、英語のchocolateを音読するときに、手振りを付けながらリズムを感じてみましょう。

3. 「1 2 3 4」と言いながら手を使ってリズムを取る

両手の指を下向きに軽くそろえて準備したら、指先で右側に空気を払うように動かして指先を上げたり下げたりします。スキップをして跳ねているように「いっち にぃい さっん しっい」と、言いながら両手を横に跳ねてみましょう。1の「いっ」のときに両手の指先が上がり、「ち」で両手の指先が下がります。また「にっ」のときに上がり、「い」で両手の指先を下げます。それを繰り返します。

4. リズムに乗ってchocolateと英語で発音する

3のように両手を交互に横にスキップさせながら、chocolateと英語で3回音読してみましょう。

大きい丸印は強く発音する部分、小さい丸印は弱く発音する部分を表しています。軽快にスキップをしているように感じませんか?ちなみに横に「いっち にっい」とスキップするようなリズムを、音楽用語でシャッフルと呼ぶことがあります。シャッフルは、ジャズやゴスペルなど黒人音楽に欠かせない基礎リズムの一つです。そのようなリズムが生まれたのも、英語という言語に横リズムがあるからではないかと勝手に想像しています。

日本語は縦リズム、英語は横リズム。どちらが良いとか悪いとかではありません。横リズムで歌う英語を、私たちは縦リズムで歌ってしまうことで違って聞こえてしまうのです。これは歌うときだけでなく、音読するときにも当てはまると思います。音読した英語がカタカナのように聞こえる場合、それは縦リズムで英語を捉えてしまっているのかもしれません。日常生活の中に、例えばトイレットペーパーやポテトサラダなど、英語でも発音できる言葉があります。そういう言葉を見つけて「今日は横リズムで発音してみよう!」と、楽しんでみてはいかがでしょうか。

「When the Saints Go Marching In(聖者の行進)」を一緒に歌おう

今回紹介するのは、「When the Saints Go Marching In(聖者の行進)」です。英語のリズムを体得するのにピッタリの歌なので、記事に合わせて特別に動画を作成しました。歌うのは苦手・・・という方もおられるかもしれませんが、ぜひ声を深く響かせるイメージで一緒に歌ってみましょう。「#ゴスペルで英語」というハッシュタグを付けて、音声や動画をSNSにアップロードしていただけたらうれしいです!

シラブルの数当てクイズの答え

① トイレットペーパー:9=「ト」「イ」「レ」「ッ」「ト」「ペ」「―」「パ」「―」
② ポテトサラダ:6=「ポ」「テ」「ト」「サ」「ラ」「ダ」
③ アシスタントマネージャー:11=「ア」「シ」「ス」「タ」「ン」「ト」「マ」「ネ」「―」「ジャ」「―」
④ toilet paper:4= toi-let pa-per
⑤ potato salad:5= po-ta-to sal-ad
⑥ assistant manager:6 = as-sis-tant man-ag-er

NOBU(鬼無宣寿)さんの著書

増尾美恵子
文:NOBU(鬼無宣寿)

ゴスペルシンガー。関西外国語大学英米語学科卒業。2015年、ロサンゼルスを訪れ映画『天使にラブソングを2』のモデル「アイリス・スティーブンソン」氏と対談。同年、彼女を東京に招聘しゴスペルワークショップを開催。2017年から青山学院大学でゴスペル指導。同大学一年生対象の「キリスト教文化論」特別講義を行う。2019年4月、「天皇陛下御即位三十年奉祝感謝の集い」に松任谷由実、ゆずと共演。同年、NHKラジオ第2「カルチャーラジオ芸術その魅力『ゴスペルソングの歴史~讃美歌から現代まで~』」出演。2021年には、英字新聞The Japan Times Alphaで特集記事が組まれ、ゴスペルの素晴らしさを語る。2022年、『ゴスペル式英語の声を良くする本 Discover your own voice!』を出版。現在ARTOS代表。
・Twitter: @NobuhisaKinashi
・Homepage: https://www.nobuhisakinashi.com/

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編集:増尾美恵子

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