「多文化都市」と呼ばれるイギリスの首都ロンドン。この街で20年以上暮らすライターの宮田華子さんが、日々の雑感や発見をリアルに語ります。
行き過ぎた環境への配慮が「エコ警察」に!?
知人のエマは、優しさときっぷの良さを兼ね備えたすてきな女性だ。そんな彼女が珍しくプリプリしながら「ちょっとイラっとしたことがあったのよね」と話し始めた。
彼女は先日、ボランティア仲間を呼んで庭でバーベキューパーティーをした。皿もカトラリーもたっぷり用意したが、遅めにやって来たAさんが来たときには全て出払ってしまった。そこで「“disposable”(使い捨て)の皿とフォークを持って来るのでちょっと待ってて」と言ったところ、Aさんはすごい形相で「信じられない!」と怒り出した。
「あなた、まだ“single use”(一度しか使えない使い捨て)のプラスチック製品を使っているの?環境破壊について何も考えていないわけ!?」とまくし立てられたというのである。
今の時代らしい話なのだが、この話には続きがあった。エマが用意していたのは完全エコ仕様の「再生紙で作られた紙皿」と「木製フォーク」であり、single useでもなければプラスチック製でもなかったのだ。そのことを丁寧に説明しても「これって本当に再生紙?」「木の伐採だって環境破壊につながる」とぐだぐだ難癖をつけたという。
「あまりにうるさいので、私が使っていた磁器製のお皿とシルバーのフォークを洗って彼女に手渡したら、『これで心穏やかに食べられるわ』と言ったのよ。環境への配慮は大事だけど、みんなが“エコ警察”みたいになるのはどうかと思う」――そう言いながらやれやれという顔をした。
ロンドンを歩けば「プラスチック削減」に当たる?
ロンドンに暮らしていると、「使い捨てプラスチック削減(以下「プラ削減」)」への取り組みが進んでいることを実感する。例えばカフェなどの飲食店。最近は冷たいドリンク類も紙コップで提供されることが多く、テイクアウト用の袋類は全て再生紙製だ。
紙ストローは「まずい」「すぐふにゃふにゃになる」と不評だったが、最近は固めで長持ちなものが出てきた。
これは店側が環境に配慮しているというだけでなく、こうしないと「意識高い系の人」を集客できないという経営上の事情もある。特に若い世代は幼少期から学校で環境について学んでいるので、「環境に有害なビジネス」を利用しない傾向が強いのだ。
ファッション小売業もこの点への配慮が顕著に見える業界だ。最近は通販で服を買うと、厚手の紙袋の中に服が「そのまま」入っていることが多い。ビニール袋に包まれておらず、梱包(こんぽう)用テープも紙製。配送中に汚れて返品されるリスクも承知の上でこの方法を採用しているのだが、こうした姿勢は客側には好評だ。
少し高額な服はビニール包装していることもあるが、その場合「なぜビニール包装しているのか」について長~い講釈の手紙が入っているか、堆肥化可能なビニールを使用し、その旨が袋にはっきり印字されている。こうした取り組みいかんで客が離れていく可能性があるので、企業側も必死なのだ。
個人レベルでもエコにおけるマナーは存在する。例えばプレゼント用ラッピングは、全て紙か布にした方が安全だ。相手がどこまで気にしているか分からないので、セロハンテープもなるべく使わないが、「使い古し」のレジ袋やビニール袋に入れて渡すのはOK。これは「使い捨てしていない」ことを証明する行為なので、良いことと認識される。
新聞の付録の袋には「ジャガイモでんぷん由来の完全堆肥化可能素材」と明記されている。
塩化ビニール製食品用ラップも使いづらい。食品の持ち運びが必要なときに使いたくなるのだが、ラップでグルグル巻きの物を誰かにあげることは、エコのお作法的には良くないので悩むところ。どうしてもというときは、手渡す前に「ラップをしなくてはならなかった理由」を長々と言い訳したりもする。
コロナ禍で変化したプラスチックへの意識
見渡せば世の中はまだまだ使い捨てプラスチックであふれているのだが、ここ数年は「プラ削減に前向きでない人=意識が低い人」と烙印(らくいん)が押されるほど、意識の面は相当浸透したように感じていた。しかしコロナ禍となり、状況が大きく変化した。
軽くて丈夫、何より衛生面で絶大な威力を発揮するプラスチックの必需性に改めて気付いたのだ。ロックダウン中にネットスーパーが大活躍したが、配送員の安全と負担軽減のため「置き配」しやすいレジ袋が復活した。医療介護の現場では以前にも増して使い捨てプラスチックが多用されている。
以前は小分けしたお菓子や、プラ包装されて陳列される生鮮食品への批判があったが、コロナ禍では「包装=衛生面で安心」とされ、「プラスチック=悪者」扱いがやや沈静化したようにも見える。
ペットボトル削減のための取り組みとして、公共施設や路上に無料給水機が増えている。
これで「プラ削減の大合唱が終わってしまうの?」と一瞬思ったが、そんなことはなかった。コロナ禍を経て、人々に今までとは少し違う意識が芽生えたようなのだ。プラ削減がすぐには難しい分野がはっきりしたため、必須分野に使用枠を譲り、「その他のエリアでできるだけ削減しよう」と思い始めたのだ。結局は「引き続きプラ削減を頑張る」ということなのだが、なんのためかが明確になり、私自身も向き合う姿勢が変わってきたと感じている。
コロナ対策緩和に伴い、この1年は控えめだった量り売りや容器持参購入も復活してきた。そのうちまた新たなお作法も誕生するだろうが、今後は少し違う気持ちで取り組めそうな気がする。まずは地味だけど、今日も容器とエコバッグを持って買い物に行くとしよう。
写真:宮田華子
※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2021年12月号に掲載した記事を再編集したものです。
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