「イングリッシュ・ドクター」の異名を持つ西澤ロイさんが、英語に関わるさまざまな方にインタビューするYouTube動画<西澤ロイの頑張らない英語>から、今回の記事では歌手の堀澤麻衣子さんを紹介します。
堀澤麻衣子さんってどんな人?
今回ご紹介するのは、歌手の堀澤麻衣子さんです。単身アメリカに渡り、セリーヌ・ディオンやホイットニー・ヒューストンを手掛けるプロデューサーのもとで2014年にCDアルバムを制作した堀澤さん。人脈なし、資金なし、英語もしゃべれない状態からどのようにして夢をかなえたのでしょうか?ナビゲーターの上村 潤さんとともにお話を伺いました。
上村潤(以下、上村):いきなりロサンゼルスにCDの収録に行かれたんですか?
堀澤麻衣子(以下、堀澤):今まで歌っていた楽曲がヒーリングというなかなか日本では広がりにくいジャンルだったんです。だけど日本だけに絞るのではなくて、海外全部をターゲットにしたらどうなるかなと思って。あとは自分の声を聞いて、うまく料理してくださるプロデューサーさんに出会えたらという希望だけで、人脈も何もなく、実は英語を全くしゃべれない状態で、自分のデモテープだけを持ってアメリカに乗り込みました。
上村:話によると現地で音楽事務所の電話帳を買って、ひたすらデモテープを送ったとか。
堀澤:人も知らないし、英語もしゃべれないから、まず音楽事務所の電話帳を買いました。辞書で英語を調べつつ、聞いてくれそうなところにとにかく送ってみて、電話は片言でアクセスしていきました。そうしたら「すごく声が良いね」ということでシンディ・ローパーのプロデューサーさんに会っていただいたんですけど、世界的なプロデューサーなので製作費は高いだろうな、と心して行ったところ、本当にハリウッド価格でした。
西澤ロイ(以下、ロイ):すごそうですね。
堀澤:あまりに驚いて椅子から転げ落ちてしまいました(笑)。私には一生無理な金額だなと思いまして、「すみません」と言って尻尾を巻いて逃げ帰ったんです。
帰国後に発声法の本を書き、再度ハリウッドへ
堀澤:でも声を気に入ってくださったことが頭から離れなくて。どうしてもCDを制作したい。そのためには仕事を頑張るしかありませんでした。一度喉を痛めたことがあったため、とにかく早く高い声が出る、のどが痛くならない、透き通った声が出る、この3つを網羅した発声法を作りました。
上村:開発されたわけですね。
堀澤:はい。それが評判になって、本を書きました。自分の外見だけではなく、いわゆる自分そのものを表現するのが声なので、自分をちゃんと表現したい、声を変えたいという方がとても多いんです。その時代の流れに乗って本が8万部のヒットになり、なんとか製作費を用意することができました。
ロイ:執念というか・・・すごいですよね、本当に尊敬します。
英語ができなくてもアメリカへ
堀澤:じゃあ今度こそ、と思って、アメリカに製作費を持って行ったわけです。
ロイ:そこの話を是非聞きたいんですけど、どのくらい英語で会話できるんでしたっけ?
堀澤:本当に”This is a pen.”みたいな・・・。
ロイ:それでレコーディングですか!
堀澤:海外にはいつか行こうと思っていたので、ロイさんにも英語を習ったりはしたんです。おかげで英語がすごく好きになりました。「これは楽しい」ということになり、そこからやる気は出たんですが、発音に特化して学んだことがなかったので、英語の発音というものがすごく難しくて。
ロイ:今回、トレーニングをかなり受けられたんですよね。どれぐらい?
堀澤:世界で売り出していくには歌は歌えても発音があれだとちょっとがっかりされてしまうので、発音のレベルを上げるのが一番苦労しました。まず日本で4カ月間、発音矯正の先生について、その方は歌も歌える方だったので総合的にレッスンを受けました。アメリカにはボイストレーナーではなく「スターコーチ」といってスターに仕立て上げる特別なコーチがいるんですね。そのコーチに発音を習って、ロサンゼルスで3カ月滞在しながら、オーケストラやボーカルレコーディングしたのですが、その間、飛行機で何度かオレゴンにある彼女の家に2、3回、ブートキャンプみたいな感じで。
ロイ:ブートキャンプ!
堀澤:3、4日泊まり込みで、ずーっと移動中も発音の練習をしつつ。
ロイ:結構、口とか疲れたんじゃないですか?
堀澤:そうですね、でも私より彼女が疲れていました。「こんなに熱心にやる生徒、あなたが初めて」「世界中の歌姫を60人教えてきたけどあなたの情熱はすご過ぎる」みたいに言われました。彼女とはお友達にもなって、英語に対して情熱的に教えていただいて、ちゃんと歌えるようになりました。
業界逆パターンのCD作成方法
上村:そして出来上がったアルバムが『KINDRED Spirits』なんですが、業界逆パターンな作成方法というか。
堀澤:英語がしゃべれないとかお金がないとか、いろいろな事があったんですけど、その模様を制作ドキュメンタリーにしてYouTubeに公開しました。『ハリウッドにほえろ!』というタイトルで、お笑いあり、涙ありみたいな内容になっています。普通はレコード会社に所属して、レコード会社が予算を作り、コンセプトを決めて、プロデューサーを決めて、そして制作という流れなんですが、私の場合はジャンル的に難しいのもあって・・・
ロイ:いきなりCDを作ってしまった。
堀澤:所属を考えてやっていた時期もあったんですが、なかなか上手くいかないので、「じゃあもう音楽業界をびっくりさせる程の良い作品を作ってしまおう」と。世界レベルのプロデューサーにプロデュースしてもらって、作りあげた音源で勝負しようと思って逆パターンをやってみたわけです。アーティストが自分の作品(オリジナルボイトレメソッドを書いた書籍)で資金を作り、プロデューサーを探し、プロデューサーとコンセプトを一緒に決めて、それに合ったものを作りました。
上村:プロデュースを手掛けてくれたのが、セリーヌ・ディオンやホイットニー・ヒューストンなど大物アーティストをプロデュースされているスティーブ・ドーフさん。この方は『ハリウッドにほえろ!』にもご出演されて、堀澤さんに対してメッセージを送られているので、これも見どころです。
堀澤:スティーブは本当に良い人で、何度も私を励ましながら、レコーディングスタジオに笑いをいっぱい提供してくださいました。ちょっと上手くいかなくて私が落ち込むと走ってスタジオに入ってきて、「ホイットニーもセリーヌもみんな一緒だよ、みんな迷うことはあるから大丈夫だよ」と言ってくれるんですよね。で、上手くいったときも走ってきて「麻衣子最高だよ、great!」って全身で喜びを表現してくださるので、私は英語をうまくしゃべれないのに魂同士でコミュニケーションするような、とてもシンプルで温かいものを毎回共有できました。その感動が声となって今回このアルバムに投影できたかなと思っています。
上村:その他にもミュージックビデオを作られたそうですが、これまたものすごい制作陣が関わっているそうですね。
堀澤:ご縁がありまして、映画『キングダム』の佐藤信介監督という映画監督がアルバムのミュージックビデオを作ってくださいました。普段はミュージックビデオというとミュージックビデオの監督が作ってくださるんですが、今回は映画監督がミュージックビデオを作るという、業界初の試みです。
上村:なんでも、17分あるショートムービーだということで。
堀澤:単なるミュージックビデオというより、ショートムービーのエンディングソングそのものが、ミュージックビデオという形になっています。監督がデビュー曲「Kindres Spirits」を気に入り、自らから脚本を書き下ろしてくださいました。当時として初の「ショートムービーミュージックビデオ」を制作してくださいました。役者さんの背中の表現まで、心象風景をちゃんと映像にしてくださる監督なんですけど、それがこのショートムービーでも表現されているので、是非見ていただけたらなと思っています。
英語学習者へのメッセージ
上村:最後に堀澤さんの想い、そしてリスナーへのメッセージをお願いします。
堀澤:音楽って、優しいメロディーを聞けば優しい気持ちになるし、勇気のあるメロディーであれば勇気が湧いてくるじゃないですか。音楽はそういう素晴らしいパワーを持っているので、私はその音楽を通じて聞く方の心が穏やかになる状態を作っていきたいと思っているんですね。そのために歌を届けていますし、同時に歌える喜びも届けたくて、ボイストレーニングをライブの中でコーナーとしてやらせていただいたり、スクールの方でやらせていただいたりしています。人とつながる喜びって、人間が持つ一番の原点だと思うんですね。それを生きている限り何かの形で伝えていきたくて、まずは一つ、この歌「Kindred Spirits」で、世界とつながった喜びを音楽で共有できたらなと思っています。
動画では、堀澤麻衣子さんとロイさんの対談の様子が見られます。興味のある方はぜひ「西澤ロイの頑張らない英語」をご覧ください。
構成:吉澤瑠美 編集:増尾美恵子
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