「イングリッシュ・ドクター」の異名を持つ西澤ロイさんが、英語に関わるさまざまな方へのインタビューをするYoutube動画<西澤ロイの頑張らない英語>から、今回の記事では口や喉を鳴らして多彩な音楽を奏でるヒューマンビートボクサーのTATSUYAさんを紹介します。
口や喉で100の音を自在に操るTATSUYAさんとは?
今回ご紹介するのは、口や喉を鳴らして多彩な音楽を奏でるヒューマンビートボクサーのTATSUYAさんです。ヒューマンビートボックスの国際チャンピオンに輝いた経歴を持つTATSUYAさんは、アーティスト活動に留まらず一般社団法人日本ヒューマンビートボックス協会を設立し、ヒューマンビートボックスを通じた社会貢献にも取り組まれています。「英語が全く話せなかった」というTATSUYAさんが世界で活躍するようになったきっかけとは?
西澤ロイ(以下、ロイ):本日のゲストはヒューマンビートボクサーのTATSUYAさんです。「ヒューマンビートボックス」とはどんなものなのでしょうか?
TATSUYA:ヒューマンビートボックスは、アメリカ・ニューヨーク州のサウスブロンクスという貧困の激しいエリアで始まったものです。1970年代、肩に大きいラジカセを担いでラップをするのがかっこいいと言われていた時代にラジカセ=beat box(音の鳴る箱)を買えない方々が音楽をどうやって鳴らそうかと考え、口で演奏したのがヒューマンビートボックスの始まりといわれています。ボイスパーカッションと呼ばれるものもありますが、これはアカペラのパートとして使われることが多いです。ヒューマンビートボックスと違って歌の伴奏になることが多いので、リズム全体の大黒柱という役割で使われます。
TATSUYAさんのヒューマンビートボックス実演を見てみよう
ロイ:TATSUYAさんは、ヒューマンビートボックスの日本チャンピオンでいらして、国際チャンピオンでもいらっしゃる。ちょびっとその凄さを見せていただけますか?
TATSUYA:いいですよ。ありがとうございます。ヒューマンビートボックスはクリエイティビティを重要視しているので、「なんだ、その新しい表現は!」みたいなところを評価するところがあるので、その辺に是非注目していただけたらと思います(下の動画の3:52頃からTATSUYAさんの実演が視聴できます)。
ロイ:まさに打楽器(パーカッション)という感じなんですね。TATSUYAさんは一度に幾つぐらいのことをやっていらっしゃるんですか?歌的なものも入っていたし、打楽器的な音も聞こえました。
TATSUYA:いろいろな音が同時に聞こえたと思いますが、実際に同時に鳴っているのは2つの音しかありません。でも全体で言うと、今実演した中では20種類ぐらいの音を使いました。
ロイ:20種類!引き出しとしては何種類ぐらいあるんですか?
TATSUYA:単音で数えると100はあるんじゃないかと思います。
ヒューマンビートボックスとの出会いと初めての海外
ロイ:TATSUYAさんが最初にヒューマンビートボックスをやろうと思われたのはいつですか?
TATSUYA:僕は20歳の時にビートボックスを始めました。アメリカでビートボックスをされていた日本人の方が地元のデパートでパフォーマンスをするとたまたま聞き付けて、「面白そうだ」と見に行ったんです。それがあまりにも衝撃的で、「僕もやってみよう」と思ってスタートしました。
ロイ:当時、ヒューマンビートボックスをやっている方は日本にどのくらいいたんですか?
TATSUYA:恐らく全国的に数えても20~30人くらい、もっと少なかったかもしれないですね。
ロイ:その後、ご自身も海外に出て活動されるようになったんですよね。
TATSUYA:2009年にロンドンで開催された「ビートボックスコンベンション」という、世界中の人たちがビートボックスのトレンドを披露し合う場に出演させていただく機会がありまして、それが僕の人生初海外でした。
ロイ:人生初ですか!
TATSUYA:初でしたね。その年にドイツのベルリンで開催されたワールドビートボックス・チャンピオンシップという世界大会のゲストパフォーマンスでライブをやらせていただいたり、ニューヨークのアポロシアターにチャレンジしたり、2009年だけでも数カ国に行きました。海外の魅力もたくさん知りましたし、カルチャーショックも受けて、そこからいろいろチャレンジしたいと思うようになりました。
英語を学ぶポイントは、最初から英語を目的にしないこと
ロイ:ちなみに英語力はどうだったんですか?
TATSUYA:当時の僕を知っている方には「こいつ無口だな」という印象を持たれたと思います(笑)。全くしゃべれなかったです。
ロイ:技やパフォーマンスで乗り切られたということですね。
TATSUYA:そうですね。自分から話さないと会話もしてもらえませんが、ビートボックスを披露すると「今のはどうやって鳴らしてるの?」「いつからやってるの?」と質問されるので、あたふたしながら単語を並べてなんとか伝えていました。
ロイ:音楽は国境を越えますよね。日本人は「英単語をたくさん覚えなきゃ」「正確に文法を使わなきゃ」と考えてしまいがちですが、通じることが一番大事じゃないですか。それを実践していらっしゃるのが素晴らしいと思います。
TATSUYA:僕もビートボックスで世界に出て、いろんな方と出会う中で「この人たちとコミュニケーションを取れるようになりたい」と思って英語に取り組むようになったので。最初から英語を目的にすると難しいとは思いますね。
ロイ:そこで英語ができなくても行っちゃう勇気がすごい。行動力は大事ですよね。
TATSUYA:英語がしゃべれないのを理解してくれたり、ゆっくりしゃべってくれたり、世界にはそういう優しい方もたくさんいらっしゃるので、まずは行ってみた方がいいと思います。
日本や海外でチャンピオンに!
ロイ:その後、日本のジャパンビートボックス・チャンピオンシップで何度も優勝されていますが、この大会はTATSUYAさんが作られたと聞きました。
TATSUYA:2009年のワールドビートボックス・チャンピオンシップには世界約60カ国が集まっていましたが、当時の日本には世界とつながる窓口のような機関や日本一を決める公式な大会が存在しませんでした。そこで、帰国した2010年に日本ヒューマンビートボックス協会とジャパンビートボックス・チャンピオンシップという大会を同時に設立しました。
ロイ:ご自身で作った大会で優勝というのも面白いですよね。
TATSUYA:「自分で作った大会で優勝するなんてずるい」と思われるじゃないですか。だから海外から審査員を呼んで、世界基準の日本一を決めるということを大会のコンセプトにしました。その結果、しっかり初年度はベスト4敗退でした(笑)。
ロイ:でも、翌年にはリベンジを果たされました。
TATSUYA:今の僕の代名詞でもあるスラップベース(エレキベースの演奏を口で表現する技術)が世界的にも評価されて、2011年に日本一を取ることができました。その後は海外の国際大会にも挑戦し、2014年にフランスのパリで行われたラ・カップという大会では日本人初の4位、その後2016年にはシンガポールの国際大会で優勝させていただきました。
ロイ:TATSUYAさんは国内外の大会で優勝されていますが、その傍らビートボックスの協会も立ち上げられて、業界規模の大きな視野で動いていらっしゃいますね。
TATSUYA:元々、アーティストとして食べていくという選択肢は持っていませんでした。「50歳でビートボックスやってます」というのもかっこいいと思いますが、年齢を重ねるごとに知名度だけではやっていけない部分が出てくるので。まずはビートボックスの市場を向上させなければいけないという思いの方が強かったです。僕は「本当はあった方がいいのにこれないじゃん」というものを形にするのが好きなんです。ビートボックス協会も、ビートボックス業界にとって絶対に良いはずだと考えて作りましたし、日本一の大会を作ったのもビートボックスの業界を盛り上げたいという思いでやっていました。
ヒューマンビートボックスはスポーツだ!
ロイ:TATSUYAさんは今後どんな活動をご予定されているんですか?
TATSUYA:2021年に株式会社tentoTenを設立しました。名前の通り何かと何かを組み合わせたり、今までなかった価値観を形にしていったりする会社です。今、若い子たちが世界中でビートボックスを盛り上げてくれているので、その経験を生かして地域貢献をしたり、世の中にこういうものがあった方がいいよねというものを一つでも形にしていきたいと思っています。
ロイ:障害を持つ子供たちのプロデュースも考えていらっしゃるということですが。
TATSUYA:元々オリンピック競技にビートボックスを入れたいという思いがあって活動していました。フィールドがあって、対戦相手がいて、体の一部を動かすというのがスポーツの定義らしく、アメリカではチェスがスポーツとして認定されています。それならビートボックスの大会には会場もあるし、フィールドもあるし、対戦相手もいるので、これはスポーツなんじゃないかと。また、目の見えない方や車椅子でも関係なく大会を行えるので、オリンピックの垣根を越えた大会ができるんじゃないかと思って活動しています。
パラリンピックの閉会式にも関わらせていただいたんですが、障害を持つ方々が新しい可能性を見いだすところに僕もお手伝いしたいと思いました。今は視覚障害を持つ方の、ブラインドビートボクサーみたいなプロデュースをやっていきたいと思っています。
ロイ:ブラインドビートボクサー!かっこいいですね。興味があります。
TATSUYA:実現していきたいと思います。
動画では、TATSUYAさんとロイさんの対談の様子が見られます。興味のある方はぜひ「西澤ロイの頑張らない英語」をご覧ください。
構成:吉澤瑠美 編集:増尾美恵子