英語の「動詞」②:スマートに使いこなしたい「受動態」5問【大竹保幹の英文法パラダイス】

現役の高校英語教師、大竹保幹さんの連載「英文法パラダイス」。第5回のトピックは動詞の「受動態」。5題のクイズに挑戦して、英文法が楽しくなるパラダイスを目指しましょう。

パラダイス行き切符を手に入れる問題

英文に触れるたびに「どうしてこの形を使うのだろう」と考える習慣のある人は、自然と文法に強くなりますよね。英文の間違いを見抜くのはとても難しいことなのですが、そのきっかけとして今回も英文法パラダイスの問題に挑戦してみてください。

問題

次の(1) ~ (5) の英文について、正しいかどうかを判断してください。
正しい:〇  間違っている:×  ちょっと怪しい:△

(1) In the Heian era, this temple was built by people.

(2) Do you know what Riku did yesterday? The door was broken by him.

(3) No one should be discriminated because of race.

(4) Unfortunately, I was hit by a falling tree.

(5) His latest book about the English grammar is sold well.

今回のテーマは「受動態」です。この連載で動詞周辺の文法を扱うのも2回目になりました。動詞の形は英文を構成する上でとても重要ですから、正確に使えるようにしたいですよね。

「~される」という意味を表す受動態は、「する者」から「される者」への視点の変化だけに目が行きがちですが、実は他にもさまざまな効果を与えてくれたりもするのです。

能動態と受動態の違いをしっかりと理解して、状況に合った英語を使えるようにしていきましょう。

解答と解説

(1)

答え:×  In the Heian era, this temple was built by people.

「平安時代にこのお寺は人々によって建てられました」というこの文、日本語訳を読んでみても違和感があるのではないでしょうか? そうです。お寺は人が建てるのは当たり前のことなので、わざわざ言う必要なんてないのです。かえってby people(人によって)を加えたことで、「犬や猿などの動物ではなく・・・」という変な対比をさせることにもなりかねません。

受動態で「by」は使われないことが多い

英語の受動態はよく能動態からの書き換え練習で形から覚えることが多いのですが、「by ~」はむしろ使われないことの方が多かったりするのです。 

(〇)English is now spoken around the world.
   英語は今や世界中で話されています。
(〇)The atomic bomb was dropped in Hiroshima in 1945.
   原爆は1945年、広島に投下された。

上の英文はどちらもby以下がありませんが、正しい英文です。英語は人間が話すのが当たり前なのでby peopleはない方がいいですよね。では、2つ目の英文についてはどうでしょうか。もちろん爆弾は「人が」落とすものなので不要とも言えますが、この場合はむしろ誰が落としたかはっきりと言いにくいという理由があります。受動態は「誰がしたか」をあえて隠すこともできるというわけです。

「誰がしたか」を隠すことの効果

隠す効果はいろいろなところで活躍します。

(〇)Passengers are requested to fasten their seat belts.
   乗客の皆さまはシートベルトの着用をお願いいたします。

例えば空港などで、乗客へのお願いをしなくてはならない場面などでは、受動態を使うことで英文に丁寧な響きが加わります。We request passengers to ~ では「われわれは乗客に~を要請する」と、少し高圧的な印象を与えてしまうからです。

(〇)The document was accidentally thrown away.
   その書類はうっかり捨てられてしまったようです。

ちなみに、こちらは本当に隠している例です。大事な書類を自分がなくしてしまったのに、受動態の力を借りることで何となく他人事のような雰囲気を作り出しています。英語的には面白い表現ですが、当事者は笑えません。まずはちゃんと謝りましょう。

修正例
This temple was built in the Heian era.
このお寺は平安時代に建てられました。

(2)

答え:△  Do you know what Riku did yesterday? The door was broken by him.

イライラして思いっきり蹴飛ばしたりしたのでしょうか。昨日、リクくんによってドアが壊されてしまったのは間違いがないのですが、この英文はこのままではなんだか不自然な感じがします。このモヤモヤをみなさんは説明できますか?

試しに能動態と受動態の場合を並べてみましょう。

(〇)Riku broke the door.
   リクがドアを壊した。
(〇)The door was broken by Riku.
   ドアはリクに壊された。

登場順は「知っている情報」→「知らない情報」

当然、「リクが壊した」のか「ドアが壊された」のかという視点の違いはあるものの、この2つの英文は全く問題がありません。ではなぜ(2)の流れでは不自然になるのでしょうか。

実は、受動態の視点の違いは話題の関心の違いと大きく関係があるのです。

英語では相手がすでに知っていることを先に、相手にとって初めて知るようなことを文末の方に置くという原則があります。そのため、話の流れによって能動態と受動態を使い分けて、語の順番を変えることがあります。

(〇)Do you know what Riku did yesterday? He broke the door.
   昨日リクが何をしたか知ってるか? あいつ、ドアを壊したんだよ。

話し手は「リクが何をしたか」を伝えたいので、実際の行動を文末に持ってくるために能動態を使います。では、受動態を使うのはどんな話の流れのときでしょうか。

(〇)Do you know who broke the door? It was broken by Riku.
   ドアを誰が壊したか知ってるか? リクに壊されたんだよ。

既にドアが壊れていることはみんなが分かっている状況で、「誰が壊したのか」を伝えようとするなら受動態がピッタリですね。

文法的には書き換えができたとしても、文脈的に不自然な流れになってしまうことがあるということを覚えておきましょう。

修正例
Do you know what Riku did yesterday? He broke the door.
昨日リクが何をしたか知ってるか? あいつ、ドアを壊したんだよ。

(3)

答え:×  No one should be discriminated because of race.

「誰だって人種を理由に差別されるべきではない」と伝えようとしている文です。身の回りのことは基本的な動詞を使ってある程度のことは表現できても、社会的なことなど大人な話題に関しては語彙も少し背伸びしなくてはいけません。discriminate(差別する)なんて、とても難しい単語です。

動詞と組み合わさる語を忘れるべからず

でも、こういう語を受動態で使うと、途端に一緒に使うべき前置詞を忘れてしまうなんてことありませんか?

例を挙げればきりがありませんが、take care of ~(~の面倒を見る)やspeak to ~(~に話しかける)のように、動詞は他の語句と組み合わせて使われることがよくあります。

(〇)Suddenly, a foreigner spoke to me.
   突然、外国人が話しかけてきた。

同じ場面のことであっても、私が「話しかけられた」のだと伝えたいのであれば受動態を使うことになりますが、speak toという表現に含まれている前置詞toが消えることはありません

(〇)Suddenly, I was spoken to by a foreigner.
   突然、外国人に話しかけられた。
(×)Suddenly, I was spoken by a foreigner.

「そんなの当たり前じゃん」と言いたくなる話なのですが、受動態になると、よほど意識しない限り必要な前置詞を入れ忘れてしまう人が多いのです。ちょっと高級な語を使うときはなおさらです。

(〇)We do not discriminate against the minority.
   私たちは少数派の方たちを差別したりしません。

(3)の英文にあるdiscriminate(差別する)は差別する対象をagainstという語で表します。受動態なら、be discriminated against という形にしなくてはいけませんね。

修正例
No one should be discriminated against because of race.

(4)

答え:〇  Unfortunately, I was hit by a falling tree.

森の中でも歩いていたのでしょう。急に倒れてきた木にぶつかってしまったようです。このように受動態では被害を受けている感じを表せるのが便利ですね。

さて、この(4)の英文には文法的な誤りがないのですが、同じような形でも次の例は正しくありません。その違いはどこにあるのでしょうか。

(×)On my way home, I was hit by a hammer.

受動態と一緒に使われるのはbyとは限らない

一見するとhammer(ハンマー)も倒れてきた木と同じように「物」なので、入れ替えても問題なさそうなのですが、一つだけ直さなくてはいけない箇所があります。

(○)On my way home, I was hit with a hammer.
   帰宅途中、私はハンマーで叩かれた。

間違いの理由は単純で、「ハンマー叩かれた」のではなく、「(誰かに)ハンマー叩かれた」からです。試しに能動態にしてみるとこの違和感に気付くことができるのではないでしょうか。

(×)On my way home, a hammer hit me.
   帰宅途中、ハンマーが私を叩いた。
(○)On my way home, someone hit me with a hammer.
   帰宅途中、何者かが私をハンマーで叩いた。
(○)Unfortunately, a falling tree hit me.
   運が悪いことに、木が倒れてきて私にぶつかった。

byを使えるかどうかの一つの基準として「主語にできる物なのかどうか」を覚えておきましょう。ただ、魔法使いが登場するようなファンタジーでは、道具が生き物のように動き回っていることだってあるかもしれません。とても危なっかしいのですが、そういうときは、by a hammerを使った英文も正しいと言えるのが言葉の面白いところです。
 
もちろん、受動態でwithを使う動詞を熟語として覚えても構いません。代表的な語としてはこんなものがありますよね。 

(○)Mt. Fuji is now fully covered with snow.
   富士山は今や完全に雪に覆われている。
(○)The sky was filled with a lot of stars. 
   空はたくさんの星で埋め尽くされていた。
(○)Naoto seems to be satisfied with his family trip to Okinawa.
   ナオトは家族旅行で沖縄へ行ったことに満足しているようだ。

こういう語句だって、それぞれ「雪覆われている」「星埋め尽くされている」「旅行満足させられている」と考えればwithのつながりが見えてきます。熟語として前置詞の組み合わせを覚えたあとは、どうしてその前置詞を使うのだろうと考えてみると「英語の心」に近づけるのかもしれませんよ。

(5)

答え:×  His latest book about the English grammar is sold well.

彼が書いた英文法の最新刊がよく売れていると言いたいのでしょうけども、このままだと「上手に売られている」くらいに伝わってしまいそうです。実際に本を売るのは「人」なので、his latest book(彼の最新刊)を主語にするときはsell(売る)をbe sold(売られる)としたくなるのですが、ここでは少し特殊な形を使うことになります。

受動態にならないこともある

(○)The book sells well.
   その本はよく売れている。
(○)Potatoes cook slowly.
   ジャガイモは火の通りが遅い。
(○)This article reads well.
   この記事はよく読まれている。

本やジャガイモなどは実際には売られたり、読まれたり、料理されたりと、いつも人に何かを「される」ものなのですが、動詞によってはそのままの形で受動態のような意味を表すことがあります。英文法では「能動受動態」や「中間態」といった名前が付けられていますが、少しマニアックな用語ですね。

特徴として、wellやeasilyなど動詞の特徴を表す副詞と一緒に使われるということを覚えておくと、英文法上級者になったなという感じがします。

修正例
His latest book about the English grammar sells well.
彼が書いた英文法の最新刊はよく売れている。

まとめ

能動態と受動態は文法的には書き換えこそできるものの、同じ意味を表すことなどありません。ドリル形式の書き換え練習は形の定着には必要なことなのかもしれませんが、みなさんはそこで満足しないでくださいね。それぞれの形が与える印象を理解した上で、その場面にぴったりの描写をしていきましょう。

大竹保幹
大竹保幹

明治大学文学部文学科卒業。神奈川県立多摩高等学校教諭。平成23年度神奈川県優秀授業実践教員(第2部門)表彰。文部科学省委託事業英語教育推進リーダー。著書に『子どもに聞かれて困らない英文法のキソ』『まんがでわかる「have」の本』(いずれもアルク)『APPLAUSE LOGIC AND EXPRESSION Ⅰ~Ⅲ』(開隆堂出版)など。

大竹保幹さんの本

『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』では、「仮定法」をはじめとする、子どもが抱きそうな疑問・質問に対して、ある程度答えられるように英文法の基礎を学ぶことができます。英語を学ぶ面白さに触れられる雑学的な小話も随所にあり、楽しみながら英文法を復習できます。

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