現役の高校英語教師、大竹保幹さんの連載「英文法パラダイス」。第4回は「助動詞」の問題5問を取り上げます。簡単そうに見えて実は奥深い――そんなクイズに挑戦して、英文法が楽しくなるパラダイスを目指しましょう。
パラダイス行き切符を手に入れる問題
英文法は、TOEICに出てくるような4択問題を解けたとしてもそれがゴールではありません。間違っている個所を自分で見付け出し、なぜ違うのかを説明できて初めて、本当に身に付いたと言っていいのです。
英文法パラダイスで間違いを見抜く力を磨いていきましょう。
次の(1) ~ (5) の英文について、正しいかどうかを判断してください。
正しい:〇 間違っている:× ちょっと怪しい:△
(1) We can see a beautiful moon tonight. It must be sunny tomorrow.
(2) “May I come in?” “Yes, you may.”
(3) The doctor said, “This disease can be serious.”
(4) My son could play the guitar when he was four.
(5) I heard that the train was delayed because of the accident. Eiji should be late.
今回のテーマは「助動詞」です。助動詞は話し手がある出来事をどのように捉えているかを表す品詞です。それがどのくらい起こりうるのか、どのくらいやり遂げる必要があるかなど、話し手の態度がずいぶんと反映されるので、ある意味で英文のニュアンスを決める要とも言えます。
話し手の気持ちや態度が色濃く反映されるので、極端なことを言えば、助動詞は何を使っても文法的に許容されることが多いのですが、そこに甘えているようでは英文法パラダイスの住人にはなれません。助動詞が表す意味のわずかな違いを確認していきましょう。
解答と解説
(1)
答え:× We can see a beautiful moon tonight. It must be sunny tomorrow.
英語では未来の出来事がどのくらいの確率で起こるのかを、基本的には助動詞で表現します。It will be rainy tomorrow. なら「明日は雨でしょう」と一般的な予想になり、It may be rainy tomorrow. なら「明日は雨かもね」と少し控えめな感じが伝わります。大して自信がなければIt might be rainy tomorrow. (ひょっとしたら明日は雨が降るかもしれないよ)と言うことだってできます。
このように、どんな助動詞を使うかによってある出来事に対する確信の度合いを変えるのが英語の規則でした。しかし、当たり前のことですが未来に何が起こるかなんて誰にも分かりません。そのため、未来予測とどうしても相性の悪い助動詞が存在します。それはmustです。
物事を判断するにはそれなりの証拠が必要
mustはbe動詞と共に使われると「~に違いない」という100%に近い自信をもって物事を断言します。
(〇)You must be clever!
君、絶対頭いいじゃん!
もしかしたらテストで100点を連発するなど、その人の頭が良いと断言できる状況に出くわしたのかもしれません。物事を判断するにはそれなりの証拠が必要ですからね。逆を言えば、確信を得るほど証拠を集めることができない未来の出来事についてはmustを使うことができません。
(×)Naoto must be late for the party tomorrow.
(〇)Naoto will surely be late for the party tomorrow.
ナオトは明日のパーティーに絶対遅れるはずだ。
willの予想をもっと強めたいときは例文のようにsurelyなどの副詞で補うといいですね。
もちろん、これから何かをしようという強い意志や義務感はあくまでも現在の気持ちなのでmustで表すことができます。
(〇)I must get up at five tomorrow.
明日は5時に起きなくては。
mustをbe動詞と一緒に使うときは気を付けなくてはいけません。
修正例
We can see a beautiful moon tonight. It will be sunny tomorrow.
今夜はきれいな月が見えるね。明日は晴れるんだろうな。
(2)
答え:〇または△ “May I come in?” “Yes, you may.”
“Can you swim?” “Yes, I can.”(「泳げるの?」「うん、泳げるよ」)というやりとりのように、疑問文には同じ助動詞を使って答えるのが英語の基本です。でも、基本はあくまでも基本であって、時と場合によってはあえて変えたほうがよいこともあります。
相手との関係性で使い分ける
例えば、今回の問題文ではMay I come in?(入ってもよろしいでしょうか?)と丁寧に相手の許可を求めています。きっと教授や上司など目上の人の部屋に入る必要があったのでしょう。そのセリフに対し部屋の中の相手は「入ってよい」ことを伝えているのですが、ここでちょっと感じ取らなくてはいけないニュアンスがあります。
それは、mayはそもそも「許可」を表す助動詞なので、「~してもよい」という意味では少し上から目線な感じが出てしまうということです。
(△)“May I come in?” “Yes, you may.”
「入ってもよろしいでしょうか?」「うむ、よろしい」
相手に入る許可を与えている以上、目上の人からのセリフなら許容されるでしょうが、それでも何だか偉そうだなと感じさせるのは間違いありません。こういうときは疑問文では使われていなくてもcanを使って優しく返事をするようにしましょう。「入ることができますよ」と相手がしても良いことを伝えたほうが、人間関係を良好に保つことができそうですね。
修正例
“May I come in?” “Yes, you can.”
「入ってもよろしいでしょうか?」「はい、いいですよ」
(3)
答え:〇 The doctor said, “This disease can be serious.”
医者が患者さんに診断結果を伝えています。なかなか深刻な場面のようですが、まずはcanの使い方についておさらいをしておきましょう。
canは「~できる」という「能力」を表す以外に、「~することがある」という「可能性」を表すことがあります。
(〇)Anything can happen.
何が起こるか分からないよ。
わずかな確率かもしれないけれども、どんなことだって「起こり得るのだ」という一般的な可能性を伝えるのがcanの役割です。ちなみに、この可能性をすべて否定するのでcannotは「~なはずがない」という意味を表します。
(〇)Yuri cannot be at home now.
ユリは今家にいるはずがない。
ユリさんが他のところへお出掛けしていることが分かっているからこそ、このような言い方をするわけです。
主観を入れず一般的な可能性を伝える
話をお医者さんに戻します。「この病気は深刻な可能性があります」と言いたいので、This disease can be serious.で全く問題ありません。ただ、そういった可能性はどの病気にもあるので、その深刻さを本気で伝えたいときは他の言い方にする必要があります。
(〇)This disease may be serious.
この病気は深刻なものかもしれませんよ。
may(~かもしれない)は、話し手の主観による判断を含む助動詞です。一般的な可能性を表すcanと比べると、少なくともこの場面においてはセリフの重みがだいぶ変わるのだということは知っておくとよいでしょう。
(4)
答え:〇 My son could play the guitar when he was four.
「息子は4歳のときにギターが弾けたんだ」と、わが子の話をしているようです。何かができることを表すのは助動詞canの役割なので、それを過去形のcouldにすれば「~することができた」という過去の能力を表すことができるようになります。
しかし、ここで満足していては英文法パラダイスの住人にはなれません。みなさんには是非、be able toとの違いまで感じ取れるようになって欲しいのです。
be able toは現在形であればcanとの違いをあまり気にすることなく使うことができます。
(○)I can speak English and Spanish.
(○)I am able to speak English and Spanish.
私は英語とスペイン語を話せます。
canの方が一般的な言い方なので、be able toはやや硬い印象を与えるとされていますが、どちらでも問題ありません。ところが、この2つの表現は過去形になると表す意味が大きく異なってきます。
能力を持っていたのか、達成できたのか
(○)I could pass the entrance exam.
僕は入学試験に合格しようと思えばできたんだ。
(○)I was able to pass the entrance exam.
僕は入学試験に合格することができた。
どちらも文法的には正しい英文ですが、couldが使われている方からは言い訳がましい感じが読み取れます。それはcouldが実際にできたかどうかではなく、「やろうと思えばできた」という能力を保有していたことしか伝えないからです。実際に達成できたときにはwas able toや単純な過去形(ここではpassed)を使うことを覚えておきましょう。
改めてbe able toとの違いを意識して(4)の問題文を考えてみると、どんなことが読み取れるでしょうか。
(○)My son could play the guitar when he was four.
うちの息子は4歳のときにはもうギターを弾けたんですよ。
(○)My son was able to play the guitar when he was four.
うちの息子は4歳のときに初めてギターを弾けたんですよ。
どちらの英文も音楽の才能豊かな息子さんの話なのですが、couldを使った方が才能の開花がもっと早かったことを匂わせることになりますね。
(5)
答え:△ I heard that the train was delayed because of the accident. Eiji should be late.
「電車が事故で遅れているからエイジが遅れてくるはずだ」と、これから起こる出来事を予測しています。未来予測では、その確信の度合いによってwillをはじめ多くの助動詞を使う、というのは(1)でも確認したところです。当然、普段は「~すべきだ」という助言をするときに使うshouldにだって、「~のはずだ」という意味を表すことがあります。
「願望」が込められるshould
ただし、この用法のshouldは基本的には「話し手にとって望ましい結果」を推測するときに使うのだということを知っておいてください。
(○)Yuki should be back home soon.
ユキはもうすぐ家に帰ってくるはずだよ。
早く家に帰ってきてほしいな、という願望がshouldに込められています。shouldに「本来こうあるべきだ」という意味合いがあるために、こういう用法を生むのでしょう。
ちなみに少し上級者向けの表現ですが、この用法を使った次のような慣用表現があります。
(○)I should be so lucky.
そんなうまい話があるわけがない。
そんなことが起こるなら「すごくラッキーなはず(なんだけど、実際にはそんなことあるわけない)」というように、( )で示された部分を皮肉っぽく伝える言い方です。「そうは問屋がおろさない」と訳してもいいですね。そういえば、この慣用表現がタイトルになっている洋楽がありました。おそらく誰もが耳にしたことのあるカイリー・ミノーグの歌です。歌には繊細な心の描写がたくさん含まれています。助動詞の使い方を学ぶにはいいかもしれませんよ。
さて、問題の(5)の英文ですが、エイジが遅れてくるのを普通は望ましいとは思っていないでしょうから、こういうときは次のように言いましょう。
修正例:
I heard that the train was delayed because of the accident. Eiji may be late.
事故で電車が遅れているらしい。エイジは遅れるだろうね。
まとめ
助動詞が表す微妙な違いを理解するには、たくさんの英文に触れる必要があります。英語を外国語として学んでいる以上、「ニュアンス」が勝手に身に付くなんていうことはなく、むしろ意識的に意味の違いを覚えていかなくてはいけません。覚えるのは苦手という人は、洋楽などの歌詞を見て、なんでここはこの助動詞なんだろうと考えてみるのもいいでしょう。とても長い道のりですが、細かな心理描写を英語で理解できるなんて、すてきではありませんか?
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