英語を話す欧米人の声はなぜ響くのか【ゴスペルで英語 シーズン2】

世界で活躍するゴスペルシンガー、ボイストレーナーのNOBU(鬼無宣寿)さんが教える、英語の発音と発声のトレーニング法の連載のシーズン2です。ゴスペルの背景にある聖書のお話やアメリカの歴史と共に、英語の発音と発声を楽しく学んでいきましょう!記事の末尾では学んだ発音が練習できるゴスペルの動画を紹介しています。NOBUさんと一緒に「Oh Happy Day」を熱唱してみましょう。

ゴスペルと英語学習の共通点

こんにちは。NOBU(鬼無宣寿)です。なぜ欧米人の声は響くの・・・?英語を発音しているつもりなのに、相手にうまく伝わらないのはなぜ・・・?これら全て、私がこれまでにゴスペルを歌っていて感じた疑問です。この疑問を解決する方法を、全6回に渡って、英語を学習するみなさんに紹介したいと思います。

ゴスペルと英語学習の共通点に気が付いたのは、ある出来事がきっかけでした。同時通訳者の横山カズ氏と対談していたときのことです。横山氏から、私がいつもどんな風にゴスペルを指導しているかと尋ねられ、普段ゴスペルを教えているときに行っている「英語の発音」や「英語の発声」トレーニングの話をしました。すると彼から、「それはまさに、英語学習者の方々も聞きたい内容だ!」と言ってくださったのです。

ゴスペルと英語学習(ゴスペルはアメリカ英語)には、大きく2つの共通点があります。

まず1つ目に「英語の発音」です。ゴスペルはアメリカ英語で歌いますが、私たち日本人が歌っていると以下の問題によく直面します。

  • 言葉が途切れて流れるように聞こえない。
  • 子音(sやp)の声が聞こえない。
  • 息が足りなくなって声が続かない。

例えば、英語がカタカナ英語のように聞こえたり、sの音が日本語の「さしすせそ」のように聞こえたりします。これらの問題は、日本中どこで指導していても起こり、私はなぜだろうと悩みました。なぜ同じような問題がどこに行ってもあるのだろうと。そしてそれは、日本語と英語のもつリズムの違いや、子音を発音しているときに使う日本語と英語の筋肉の違いがあることに気が付きました。

また2つ目の共通点として「英語の発声」です。これも次の問題によく直面します。

  • 声がどこか平たく聞こえる。
  • 大きい声が出ない。
  • 大きい声を出すと喉が痛くなる。

平たい声というのは、どこかペタッと聞こえる声のことです。例えば、営業の電話をかけるときをイメージしてみてください。そのとき、「あーもしもしー!」と、少し高めの声で話すと思います。響いているのだけど、甲高くてペタッとしている声です。営業のときはそれでよいのですが、ゴスペルでは基本的に「深く響く声」で歌います。

そういえば、欧米人の方が電車の中で話していると、車両の隅から隅まで聞こえるように感じることがありますよね?私たち日本人は、大きな声はみっともないと思うように、普段から大声で話すことはありません。(もちろん個人差はあります)だから響く声を作るためには、響くフォームを作るトレーニングを行う必要があります。もしトレーニングをせずに大きな声を出そうとすると、それは叫んでいる声になり、喉を痛めてしまいます。

先程の対談の中で横山氏はこう続けました。「内容が伝わればもうそれでいいんだと、発音や声質の改善を諦めている人もいる」

自分が直面してきた問題解決法が、英語学習者の方にもお役に立てられるのであればと、約2年かかり20年指導してきた発音と発声をまとめました。そして、2022年3月に 『ゴスペル式 英語の声を良くする本 Discover your own voice!』 を出版することになりました。次回2回目からの記事は、その本の内容から自分が直面した経験を交え、英語の発音と発声を紹介していきます。

コロナ禍で歌えなかったゴスペル

2020年よりコロナウイルスの影響で、ゴスペルを歌うことが敬遠されるようになりました。大勢による歌唱が制限されたからです。そろそろ再開できるかなとレッスンを再開すると、また感染が拡大してレッスン中止。2022年頃までそれを何度も繰り返しました。特に、2020年まで歌っていた皆さんは、約3年間、ゴスペルをほとんど歌えなくなりました。

ところが、ゴスペルを歌うことを止められたことによって、ゴスペルの大切さを感じさせられたという方も少なくはありません。ゴスペルを習っている30代の女性Aさんもその一人です。2021年頃、彼女はこのように話していました。

「コロナが始まってから、私自身の言動にトゲが出始めました。職場にいる周りの人はいつもと同じ人たちなのに、相手に対する気持ちや言動が変わってしまい、自分の心がすさんでいることが分かりました。なぜそうなったのかを考え直してみたら、そのときハッと、ゴスペルを歌っていないからということに気が付いたのです。2020年まで当たり前に歌っていたときは正直、そこまでゴスペルの大切さを感じていなかった。でもレッスンで教えてくれていた歌詞の意味が、歌うことをやめた今よみがえってきたのです。私が平安だったのは、ただ歌って満足していたからではなく、心に響く歌詞を味わっていたからだと分かったのです」

ゴスペルと聞くと、大勢で手拍子をしながら歌う楽しい音楽の一つと想像するかもしれません。Gospelとは元来、「良い」という意味の古英語「god」と、「知らせ」という意味の古英語「spel」が合わさった言葉で、「良い知らせ」という意味です。良い知らせとは、聖書のことで、聖書の良い知らせ(福音と言う)を歌で表現しているのがゴスペルです。ですから元々は、音楽とは関係のない言葉でした。詳しくはこちらからシーズン1 を見てください。

例えば、ゴスペルに次のような歌詞があります。

As the deer panteth for the water, so my soul longeth after Thee.
シカが水を慕いあえぐように、私の魂はあなた(神)を慕い求めます。
「As The Deer」より

pantethとlongethの語尾ethは古英語で、今の英語でsの意味です。またTheeも古英語で、youの意味です。この歌詞は、旧約聖書に登場する詩篇42篇1節をモチーフに歌っており、一頭のシカが登場します。空腹で喉もカラカラなシカ。疲れ果てどのように生きていけばよいのかも分からない。しかしそのような中でも、決して落胆することなく、希望を持ってただただ水を求めるように、私の魂は希望を持って「Thee=神」を求めますと、作者は歌います。

コロナ禍によって、人と会話ができなくなったり、その結果うつっぽくなったりする人も多くなりました。もしAさんが、ストレス解消や自分が楽しむだけにゴスペルを歌っていたとしたら、コロナが広まったとき他の習い事にスイッチすればよいだけでした。ところが、自分の心の状態に向き合い、ゴスペルは自分の支えだったことに気が付きました。そして過去に習ったレッスン音源を引っ張り出し、家で何度も聞いたそうです。もちろんゴスペルを歌っている人たちが皆、同じように感じていたとは限りません。でもAさんにとってゴスペルは、本当の意味でのゴスペル=良い知らせだったのです。ゴスペルを通じ、困難の中でも希望を求めるシカのようになれたかもしれません。

Aさんのような方々のためにも、ゴスペルをやめることのないよう、私はオンラインレッスンを取り入れました。一方通行で聞くだけのレッスンではなく、オンラインでもハモりながら歌える工夫をしました。さらにオンラインが加速したことによって、本場アメリカのゴスペルシンガーにインタビューすることや、逆にインタビューを受けることもありました。

またアメリカ人のミュージックビデオに日本語訳を付けたり、記事末に紹介する「Oh Happy Day」のように、皆さんが自宅で楽しく味わっていただけるよう工夫した動画を作ったりしてきました。

Oh Happy Dayを一緒に歌おう

今回紹介するのは、Oh Happy Dayです。歌うのは苦手・・・という方もおられるかもしれませんが、ぜひ声を深く響かせるイメージで一緒に歌ってみましょう。「#ゴスペルで英語」というハッシュタグを付けて、音声や動画をSNSにアップロードしていただけたらうれしいです!

Happy day, happy day,
When Jesus washed my sins away!
He taught me how to watch and pray,
And live rejoicing every day;
Happy day, happy day,
When Jesus washed my sins away!

幸せな日 幸せな日
イエスキリストが私の罪を拭い去ってくれた日!
イエスは教えられた
どのように世の中を見て 祈り
毎日喜び生きていくかを
幸せな日 幸せな日
イエスが私の罪を拭い去ってくれた日!

NOBU(鬼無宣寿)さんの著書

増尾美恵子
文:NOBU(鬼無宣寿)

ゴスペルシンガー。関西外国語大学英米語学科卒業。2015年、ロサンゼルスを訪れ映画『天使にラブソングを2』のモデル「アイリス・スティーブンソン」氏と対談。同年、彼女を東京に招聘しゴスペルワークショップを開催。2017年から青山学院大学でゴスペル指導。同大学一年生対象の「キリスト教文化論」特別講義を行う。2019年4月、「天皇陛下御即位三十年奉祝感謝の集い」に松任谷由実、ゆずと共演。同年、NHKラジオ第2「カルチャーラジオ芸術その魅力『ゴスペルソングの歴史~讃美歌から現代まで~』」出演。2021年には、英字新聞The Japan Times Alphaで特集記事が組まれ、ゴスペルの素晴らしさを語る。2022年、『ゴスペル式英語の声を良くする本 Discover your own voice!』を出版。現在ARTOS代表。
・Twitter: @NobuhisaKinashi
・Homepage: https://www.nobuhisakinashi.com/

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編集:増尾美恵子

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