世界で活躍する、ゴスペルシンガー、ボイストレーナーNOBUさんが教える、英語の発音と発声のトレーニング法。NOBUさんの、甘くて力強い歌声を聞きながら、英語の発音を磨いていきましょう。第1回は横隔膜を使う「p」の発音です。
初めまして、ゴスペルシンガーのNOBUです。私とゴスペルとの出合いは高校生のとき。初めてゴスペルをCDで聴いて涙が止まりませんでした。
イントロや曲間に語りが入っていたり、泣きながら叫んでいる人がいたり。英語だから言っていることがわからないけど、これまで聴いてきた音楽とは違う。この音楽を深く知りたい。そう思ったことが、自分がゴスペルシンガーになるきっかけでした。
私は英語の専門家ではありませんので、私の記事を読んでも、英語がすぐに上達するかどうかはわかりません。
でも、ちょうどお昼ご飯の定食に付いてくる小鉢のように、皆さまのイングリッシュ・ライフにおいて、箸休めとしてお役に立つことができれば幸いです。普段とは違った角度から英語の音に注目すると、何か新しい発見があるかもしれません。
第1回は、ゴスペルの全体像と、「p」の発音トレーニングについてご紹介します。
ゴスペルって何?
皆さん、「ゴスペル」という言葉を聞いて何を思い浮かべるでしょうか?
映画『 天使にラブ・ソングを・・・ 』や、教会で歌っている聖歌隊などのイメージでしょうか。ここでは大きく2つの視点から、ゴスペルについて紹介します。1つ目に言葉の意味から、2つ目に歴史の視点からゴスペルをみていきましょう。
「ゴスペル」=「神からのいい知らせ」
英語の「Gospel」は、英語の 「God=いい」+「Spell=知らせ」が元になった「神からのいい知らせ」 という意味の言葉で、元来、音楽とは関係のない言葉でした。
例えば、ヨハネの福音書のことを、「The Gospel of John」と言います。Gospelの発音は、「ゴスペル」ではなく「ガスポー」のように発音します。)
後に、 アフリカン・アメリカン(アメリカの黒人)の人たちが、聖書のストーリーや神への祈りを歌にした音楽を、ゴスペル・ミュージックと呼ぶ ようになりました。
「ゴスペル」の歴史
ゴスペル・ミュージックの歴史について語るとき、アメリカ、特にアフリカン・アメリカンの歴史と切り離すことはできません。
時は、世界が大航海時代を迎えた、1600年頃にさかのぼります。ヨーロッパの人々は、アフリカで拉致した人々を船にのせ、アメリカ大陸で売り、彼らを奴隷として働かせました。彼らアフリカ人たちは、日々苦しい労働の中、キリスト教会に行き、そこで聖書の神に出会います。
そして 賛美歌や聖書の内容が、彼ら独自のビートと融合し、新たな賛美歌が生まれ ていきます。
1900年代に入ると、奴隷制度も終わりを告げます。しかし、アフリカン・アメリカンに対する差別は残ったままでした。そのような背景の中、ゴスペルの父と呼ばれる「トーマス・ドーシー」が生まれます。トーマスは、アフリカン・アメリカンの音楽スタイルで神への賛美を歌った新しい賛美歌を作っていきました。そして彼は、その音楽を「ゴスペル・ミュージック」と呼びました。それ以来、 アフリカン・アメリカンが歌う神への賛美を総称して、「ゴスペル」と呼ぶようになった のです。
アメリカのキリスト教会において、ゴスペルは新しい形になりながら歌い継がれ、日本にも広がり、今では日本全国でゴスペルを歌う人がいます。
発音が難しい「p」のトレーニング法">発音が難しい「p」のトレーニング法
ゴスペルは英語の歌ですから、よい発音で歌うことを心がけています。中でも、特に発音が難しいとされる子音「p」について、発音の問題点、うまく発音できない原因、発音のトレーニング方法を紹介します。
「p」の発音の問題点
ゴスペルに、このような歌詞があります。
Power belongs to God!原曲はこちら: Power Belongs To God神に偉大な力あり!
以前、この曲を指導していたとき、歌詞にある“Power belongs toGod!”というフレーズに差し掛かったとき、どうも歌っているメンバーの迫力が感じられませんでした。よく聞いてみると、 「p」を発音するときに、破裂音があまり聞こえない からだとわかりました。
そこで、ティッシュを1枚用意して、両はしを両手で持ち、顔の前に近づけ、“Power!”と発音するときに、息によってティッシュが動くかどうか試してもらいました。結果、90パーセントの方のティッシュは、まったく動いていませんでした。ところが、「p」の発音がいいメンバーのテッシュは、ふわっと前に押し出されるように動いていました。
この違いは、どこにあるのでしょうか?
ずばり、「 横隔膜の使い方 」です。
横隔膜の動き方をチェック
実際に確かめてみましょう。まず、みぞおちあたりを指で押してください。そして、日本語っぽく軽く「パワー」と発音した場合と、Pの破裂音を強めにテンション高く“ P ower!”と発音した場合の動き方がどう異なるか調べてみましょう。おそらく前者は、ほとんど動かず、後者は両指が「ポン」と動くはずです。これは、後者の方が横隔膜(diaphragm)を使うことで指を押し出すような状態になるからです。
横隔膜は、なだらかなおわんを伏せたようなドーム型で、肋骨(ろっこつ)の丁度下部にあります 。横隔膜という名前から想像すると、膜のイメージが強いのですが、実は筋肉です。ですから 「p」の発音をよくするには、ずばり、横隔膜の筋トレをすればよい です!
イラスト:NOBU
発音トレーニング法
先ほどのように、みぞおちを指で押さえて、下記を強く、ゆっくりと発音してみましょう。
パ パ パ パ注意点ペ ペ ペ ペ
ピ ピ ピ ピ
ポ ポ ポ ポ
プ プ プ プ
- 一つ一つ、ちゃんと動いているか確認する
- 最初は小さな声で、慣れてきたら少し声を大きくする
- ゆっくりと行い、だんだんスピードをあげてもできるようにする
一緒に歌って「p」の発音練習の成果を楽しもう
「You Are Worthy」という曲の中にも“Power!”という単語が出てきます。
You are worthy to receiveGlory, Honor, and Power .という歌詞です。 ぜひ、一緒に歌って楽しみながら実践してみてください。あなた(神)は栄光、栄誉、力を受けるのにふさわしい方
決して宣伝ではありませんが(笑)、引用しやすいので、この曲が収録されている私のアルバムもご紹介します。2曲目が「You Are Worthy」ですので、よければ聴いてみてくださいね。
www.nobuhisakinashi.com次回は、「チェスト・ボイス」についてご紹介します。
青山学院大学が主催するゴスペルワークショップで、講師を担当するNOBUさん。
編集:増尾美恵子