世界で活躍するゴスペルシンガー、ボイストレーナーのNOBU(のぶ)さんが教える、英語の発音と発声のトレーニング法の連載です。甘くて力強い歌声を聞きながら、英語の発音を磨いていきましょう。第2回は、英語特有の発声法トレーニングです。
2019年2月、アメリカ・ワシントンで行われたゴスペルの大会に参加した後、帰国したときのことです。成田空港から東京方面の電車に乗って、ハッとしました。
それは、「電車の中の静けさ」です。
乗客は、車両に半分以上乗車している。でも物音がしない。話している人はいるけれども、ひそひそと話していてあまり聞こえない。
日本に住んでいると、あまり気にならない普通の光景ですし、むしろこの静けさが落ち着きます。しかし、アメリカで友人と話していたときは、結構大きな声で話しており(大きな声で話さないと伝わらないので)、耳がそのボリュームになれていたせいか、静けさに違和感を感じたのです。
日本では、電車に英語のネイティブスピーカーが乗り合わせていると、英語を話す声が目立って大きく響いて聞こえませんか?それは、チェストボイスを自然に使っているからなのです。この チェストボイスを私たちも身に付けることによって、英語がよりネイティブスピーカーの発音に近付く のです。
第2回目は、チェスト・ボイス、のどぼとけの動きとトレーニングについてご紹介します。
チェスト・ボイス(Chest Voice)とは?
人には色々な声質がありますが、チェスト・ボイスとは、よりチェスト =胸部が振動する声 だとイメージしてください。文字で説明するより、以下の違いを聞き比べてみましょう。ゴスペルの歌の一部です。
I will trust in God again.私は再び神を信じる。
1つ目は、普段日本語を話している声で発声したもの、2つ目が、チェスト・ボイスを使って発声したものです。 チェスト・ボイスの方が、胸が響いているような低音質を多く含む声 であることに気付いたでしょうか。
英語にもゴスペルにも大事な、深く響く声のサウンドを作るためには、このチェスト・ボイスを使いこなすことが欠かせません。
では、このようなチェスト・ボイスを出すには、どうしたらよいのか。実はこのチェスト・ボイスには、ある動きが必要なのです。
のどぼとけ(Adam’s Apple)を下げる
イラスト:NOBU
のどぼとけをみつけよう
チェスト・ボイスを出すには、のどぼとけを下げる ことが必要です。図のように、首に片手を置いてつばをゴクッと飲み込んでみましょう。
動いた箇所があると思います。それが、「のどぼとけ」、英語で言う「Adam’s Apple=アダムのリンゴ」です。創世記に登場するアダムが、禁じられていた善悪の知識の木から食べた実が、のどに引っかかっているように見えることに由来するという説があります。
のどぼとけの大きさには、個人差があり、存在がわかりにくい人もいるかもしれません。とにかく、 つばを飲み込んだときに、動く部分を見つけましょう 。
のどぼとけを下げて発声しよう
次に、首に片手を置いたまま、リラックスして、大きくあくびをしながら「アー」と声を出してみます。そのとき、のどぼとけが下方に動くのがわかるでしょうか。そして、「アー」という声も、あくびをすると深く響く声になったと思います。一体なぜ、あくびをして、のどぼとけが下がると、深く響く声になるのでしょうか。
こんな例えを想像してみてください。天井が低い部屋は、あまり声が響きません。でも、大聖堂のように天井が高い所では、小さな声でも声がよく響きます。これと同じ構図が、声にも当てはまります。
のどぼとけを下げることで、口やのどの奥が縦に広がり、声が共鳴するスペースができます。 よって、 深く、響きのある声になる のです。
次に、のどぼとけを下げるためのトレーニング方法を2つ紹介します。
チェストボイスを作るトレーニング
声に出してみよう「オーエーアーイーウー」
上記で試したように、首に片手を置いて、今度は「オー」と言いながらあくびをするように声を出してみましょう。今度は、その形のまま、「オーエーアーイーウー」と発音しましょう。
このトレーニングの目的は、「オ」という深い響きのまま、他の4つの母音も発音すること です。「オ」のフォームのまま、「オーウーアーエーイー」と発声してみましょう。
注意点
- のどぼとけの周りが力まないように、リラックスして行いましょう。
- 「エ」や「イ」を発音するとき、のどぼとけが上がらないように気を付けましょう。
- 音の高さは、自分にとって少し低いと思う声で行ってください。
フォールして発声しよう
のどに手を当てた状態で、自分にとって少し高目の音から、低い音にめがけて、「アー」とゆっくりフォールしてみましょう。
どうでしょうか。低い音に行くにつれて、のどぼとけが下がっていくことが確認できたと思います。 低い音になると、のどぼとけは下がりやすい のですが、中音や高音になると、下げることが難しくなります。
次のトレーニングの目的は、 音が高くなっても、のどぼとけを下げて発声することができるようにする ことです。
以下の音源を聞きながら行ってみてください。
注意点
- のどぼとけ周りが力まないように、リラックスして行いましょう。
- 手のひらを喉において、下がっていることを確認しながら行いましょう。
- 最初は大きな声で歌わないようにしましょう。
一緒に歌ってチェスト・ボイスを身に付けよう
私のアルバムの1番目に収録している「Holy, Holy, Holy」という曲の最初のフレーズを一緒に歌って、チェスト・ボイスを練習しませんか。
Holy, Holy, Holy, Lord, God almighty!歌い出しの“Ho” は、母音が「オ」なので、チェスト・ボイスのフォームを作りやすいと思います。少しキーが低くて歌いにくいと感じる方は、ご自身の好きなキーで自由に歌ってみてくださいね。聖なる 聖なる 聖なる 主なる偉大な神よ!
※「Holy, Holy, Holy」は1曲目です。
青山学院大学が主催するゴスペルワークショップで、講師を担当するNOBUさん。
編集:増尾美恵子