機械翻訳、上手に使って心が通じる対話を【どうなる?英語の未来⑦】

ホテルコンシェルジュは、ホスピタリティーを提供する仕事。相手の要望をかなえられるように寄り添い、全力でその一歩先を走ること、と語るK plus代表の阿部 佳さん。海外のお客さまが発する言葉や様子から感じ取るだけではなく、多くの知識を持つことが不可欠とのこと。その知識を得るために必要なのが英語の力だそうです。どのような情報が必要なのかお話を伺います。

今一度、英語を使う意味を考える

英語に初めて興味を持ったのは1970年ごろか。イギリスから来た「オリバー・ツイスト」のミュージカルにぞっこん入れ込んだときだった。小学生だった私は会場でレコードを買ってもらった。もちろん当時はジャケットに歌詞があり、読めない文字を追いながら何度も何度も繰り返して針を落とした。

昨今、多くの楽曲はインターネットからダウンロードされる。歌詞カードは無論なく、多くはただ聴き流されているように思う。それで覚えて口ずさんでいるところが若者たちの進化か。外国語を、視覚や文字の助けなしに、ネイティブの赤ん坊と同じような方法で身に付けられるようになっていることには感心するばかりである。言語教育もそれに合わせて正しく変化しなくてはならない。日本の英語教育が「読み書きができるのに話せない」と言われるようになって久しい。しかしだからと言って、読み書きや文法なんか気にしなくていい・・・と言うのはいかがなものか。今一度、英語を使う意味を考えるときなのではないか。

コンシェルジュとして30年弱、ホテルのロビーに立ってきた。コンシェルジュはホスピタリティーを提供する仕事と言われる。ホスピタリティーとは、相手の気持ちを感じ取り、読み解き、その要望をかなえられるように寄り添い、全力でその一歩先を走ること。

当時在職したホテルでは、6、7割が海外からのお客さまだったせいで、ほぼ一日中、英語で相手の気持ちを探る日々を過ごしていた。その頃、常にチームにも自らにも言い聞かせてきたのは、「言葉だけで知ろうとしない」「コミュニケーションは、言葉だけで成り立つわけではない」ということ。ジェスチャーや無意識に出る表情、服装や同伴者の様子など、言葉以上に人の思いを伝えるものは多い。

心を通わせるための英語力が求められる時代

お客さまが相談の結論としてI will take it.(そうします)やI like your choice.(それはいいですね)などと言ってくださったとしても、その言葉に安心してはいけない。そのおっしゃりよう次第で幅広い意味がある。しかし、それを読み解くには、様子から感じ取るだけでなく、多くの知識を持つことが不可欠なのである。世界のトレンドや、新鮮なマーケティングや調査にアンテナを張り、お客さま自身に関する情報を精査し、時にコミュニティーを通じて意見を交換する。人の思いがさらに多様になった今、国を超えたスピーディーな情報共有はこれまで以上に有効になっている。ここにもまた英語の力が大きく影響するのである。

今、日本の観光産業ではそうした最新情報が不足し、そのためにグローバルな対応が遅れている。なぜ、そうなったのか。日本ならではの慎重で堅実な考え方や、むやみに人に自慢しない、あるいは人に頼らない奥ゆかしさなど、もろもろの理由は考えられるが、もっと単純に、英語のままで最新の情報を得ている人が少ないから、海外の暮らしや考え方を知ろうとしていないから、という悲しい事実がある。海外の情報を原文でありのままに取り入れることなく、インバウンドのお客さまの来訪増加を望むのは無謀であろう。

世界中、あらゆる業種、職種で「英語が使えて当たり前」という時代が来ている。英語が達者な日本人も増えている。一方、まずまず正しい外国語を発信してくれる便利な機械が、誰にでも簡単に手に入るようにもなっている。英語の勉強などしなくても、十分に英語を利用できる手段が遠からず出てくると思われる。ありがたい話である。

しかし、それだけで本当に相手と心が通じているのか。情報は十分に伝わっているのか。今こそ、「英語を話すこと」と「英語で話すこと」の違いをしっかり理解し、区別する必要を感じる。英語は道具である。それを使って何をするかが課題なのである。

阿部 佳(あべ・けい)
阿部 佳(あべ・けい)

K plus代表、明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部教授、ホスピタリティ・ツーリズム総合研究所所長。ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル、グランドハイアット東京でチーフコンシェルジュを歴任。明海大学ホスピタリティ・ツーリズム総合研究所:meikai.ac.jp/htsoken/

シリーズ 英語の未来予想

阿部 佳さんの本

ENGLISH JOURNAL 2023年1月号

記事はENGLISH JOURNAL2023年1月号に掲載した特集「英語の未来」を再編集したものです。

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