turn the tablesは「テーブルを回す」?いいえ、日本語の「ちゃぶ台返し」と似たこの英語には、別の意味があります。その他、「間一髪」「骨が折れる」など、日本語と英語で似た言葉の意味の違いを、カン・アンドリュー・ハシモトさんが詳しく説明します。
カン、一発だったね??
もう何年も前のことです。
ドアが閉まるチャイムが鳴っている電車に、友人と一緒に飛び乗ったことがありました。閉まりつつあるドアの隙間に、二人でジャンプするように体を滑り込ませ、電車にぎりぎりで乗ることができました(危険な行為で遅延の原因にもなります。申し訳ありません。もう二度としません)。
そのとき友人(日本人)が私にこう言いました。「カンイッパツだったね!」
私がなんと答えたのかは覚えていません。「やったね!」などと調子のいい返答をしたのでしょう。私のファーストネームはカンというのですが、友人の発言は「カン、一発で乗り込めたね!」という意味で「カン、一発だったね!」と言ったのだと思いました。そしてそう誤解したまま何年もたちました。ばかなのでしょうか。それとも自意識過剰なのでしょうか。もしかしたら両方なのかもしれません。
何年か後に、偶然「間一髪」という表現を知って驚きました。驚いた理由は2つ。1つは、なんて長い期間、恥ずかしい勘違いをしていたんだろう、ということ。もう1つは英語に全く同じ表現があることです。
今回は、英語と日本語でほとんど同じ言い方をする表現を紹介しようと思います。
by a hair
「間一髪」とは、「幅が髪の毛一本分の隙間」という意味から転じて「事がとても切迫した状態であること」、例えば「間一髪で間に合う」のような使い方をするとのことです。
英語にはby a hairという表現があります。
言葉通りに日本語にすれば「髪の毛1本ほどの差で」ですが、「ぎりぎりの状態で」という意味で使います。
「間一髪で電車に間に合ったね!」
あのとき友人はこう言っていたのですね。英語では次のように言います。
We made the train by a hair!
「間一髪でダメだった」ときにも同じ表現が使えます。
The ball was out by a hair.
ボールはぎりぎりアウト(線の外)だった。
ほぼ同じ意味で、日本語には「紙一重」という言葉もあります。間一髪と同じように、紙1枚分の厚さの違い、という意味から「2つの物を比較して差がとてもわずかなこと」を言います。
英語にも全く同じ言い方があります。paper-thinという言葉です。「紙のように薄い」という意味の形容詞でこんなふうに使います。
He beat the champion by a paper-thin margin.
彼はチャンピオンに紙一重の差で勝った。
marginは「差」ですから、まさに英語と日本語は全く同じ言い回しです。
He made a paper-thin excuse.
彼は見え透いた言い訳をした。
この場合のpaper-thinは「紙のように薄くて真実が透けて見えるような」というニュアンスです。しかし日本語の「紙一重」はこれに当てはまりません。「彼は紙一重の言い訳をした」という日本語はありませんよね。同様に、
Slice the onion paper-thin.
紙のように薄くタマネギをスライスして。
とは言いますが、「紙一重にタマネギを切ってね」という日本語はありません。日本語は2つを比べた差について言及をするときにのみ、「紙一重」を使うのですね。
backbreaking
音楽での収入がほとんどなかった20代の頃、さまざまなアルバイトをしました。その一つに英語の原稿チェックがありました。収録間際に届く原稿をできるだけ早くチェックする、というものでした。連絡があると、夜中でもテレビ局に飛んで行かなければならない仕事でしたが、その頃の私にとっては、当時働いていた釜飯屋さんの何倍もの時給で、私はそのアルバイトが決まって喜んでいました。しかしテレビ局の担当ディレクターは、仕事の初日に私にこう言いました。
「骨の折れる仕事ですが、どうかよろしくお願いします」
私は青くなりました。
デスクに積まれた原稿をただひたすらチェックするだけ、と聞いていたけれど、支払い額が高いのは、やはりそれなりの理由があるのか・・・。
もちろん「骨の折れる仕事」とは「困難な、労力を要する仕事」という意味であって「骨折をともなう仕事」という意味ではありません。その仕事で骨折することは一度もありませんでした。
そのときは全く気付きませんでしたが、英語にもこれとそっくりな言い方があります。
This job is backbreaking.
この仕事は骨が折れます。
Taking care of the rose garden is backbreaking work.
バラ園の手入れは骨の折れる作業です。
英語のbackは「背中」「腰」「背骨」などを指しますから、backbreakingは文字通り「骨が折れる」ということです。
アメリカ英語では、肉体労働などで「身体的に疲れる」ときに使うことが多い表現ですが、イギリス英語では単に「大きな苦労を伴う」といった意味です。日本語の「骨の折れる」と同様です。イギリス英語では、伴う労苦は身体的なものだけに限りません。
Japan eased the country’s backbreaking burden of debt.
日本は苦しめられている多額の借金を軽減した。
turn the tables
日本語の「ちゃぶ台返し」という言葉を最初に聞いたときも驚きました。
「ちゃぶ台」とは床に直接座って食事をするときの背の低いテーブルのことです。食事中でも、気に入らないことがあると父親はちゃぶ台をひっくり返して不満を表すことから、「順調に進んでいたことを台なしにする」という意味が生まれたそうです。大昔の日本ではそういうことがあった、と聞きました。そんな父親は、食事に対する感謝と食事を作った人の気持ちを思う心が欠けていると思います。
ところで、これとよく似た表現が英語にもあります。
turn the tables
文字どおり訳すと「テーブルをひっくり返す」で、日本語の「ちゃぶ台をひっくり返す」とほぼ同じになります。
ただ意味は少しだけ異なります。
The coach yelled, “Let’s turn the tables in the second half!”
「後半は逆転するぞ!」とコーチはげきを飛ばした。
Even a small thing can turn the tables in an election.
選挙では、ほんのわずかなことで形勢が逆転する。
The champion turned the tables in the end.
チャンピオンが最後には劣勢を覆した。
turn the tables(テーブルを回す)とは「形勢を一変させる」ことを言い、主に劣勢から優勢の状況に逆転する場合に使います。
チェスや将棋など、1対1で向かい合うゲームの途中で「テーブルを回して盤面を逆にすると優劣が逆転する」ことから生まれた説が有力です。
今回は、日本語とそっくりの言い回しの英語表現を紹介しました。最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次回もお楽しみに!
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トップ写真:山本高裕(ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部)
本文写真:engin akyurt, julien Tromeur, Abdullah Öğük
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