「村神様」に「知らんけど」。新語・流行語大賞から考える、日本語と英語の違い【英会話頻出ワード・番外編】

2022年度の「新語・流行語大賞」にノミネートされた語から、アンちゃんことアン・クレシーニさんが、日本語と英語の違いを考察します。「知らんけど」「悪い円安」「ヌン活」など、アンちゃんの目を引いたノミネート語は?「村神様」は「かばん語」なのだそうです。

12月1日に、「『現代用語の基礎知識』選2022ユーキャン新語・流行語大賞」の表彰式が開催されました。毎年12月に、ノミネートされた30語から「年間大賞」と「トップテン」が発表されます。

この記事では、今年の新語・流行語大賞にノミネートされた語の幾つかをピックアップして、考えてみたいと思います!

村神様

今年、年間大賞に選ばれたのは「村神様」でした。史上最年少22歳で三冠王を取ったヤクルトスワローズの内野手、村上宗隆さんの愛称です。

実は「村神様」のような単語を、日本語では「かばん語」と呼んでいます。2つ以上の単語の一部を取って組み合わせた混成語のことです。村上投手の名字「村上」と「神様」の「神」の部分を合わせると、なかなか響きの良い「村神様」という新語が生まれました。もちろん「かみ」を表す漢字は違いますが、音は同じなので、最高に面白い単語ができたと思います。

英語にも似た現象があって、portmanteauと呼ばれています。もちろん、英語には漢字もありませんし、音声体形も異なりますから、全く同じものではありません。でも、似ていると思います。

portmanteauという語を知らない人は多いと思います。実は、私も最近まで知りませんでした。portmanteauは元々、スーツケースのことで、開くと両側に等分に収納スペースがあります。スーツケースのことだったので、日本語では「かばん語」というようになりました。portmanteauが初めて「かばん語」の意味で使われたのは、1871年だったそうです。ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』の中に、次の文章がありました。

Well, ‘SLITHY’ means ‘lithe’ and ‘slimy.’ ‘LITHE’ is the same as ‘active.’ You see, it’s like a portmanteau — there are two meanings packed into one word.

(そう、「スライジー」というのは「滑らか」で「ねばねばした」様子。「滑らか」は「活動的」ということ。この言葉は旅行かばんのようなもので―― 2つの意味が、1つの言葉に詰め込まれている)

では、英語にどんなportmanteauがあるか、見ていきましょう。

breakfast + lunch = brunch(朝食+昼食=ブランチ)
motor + hotel = motel(車+ホテル=モーテル)
web + log = blog(ウェブ+記録=ブログ)
ankle + bracelet = anklet(足首+ブレスレット=アンクレット)
brain + maniac = brainiac(脳+熱狂的な=並外れた頭脳の持ち主)
brother + romance = bromance(兄[弟]+ロマンス=ブロマンス ※男性同士の近い関係)
costume + roleplay = cosplay(衣装+ロールプレイ=コスプレ)
friend + enemy = frenemy(友人+敵=友人でもあり敵でもある人)
glamorous + camping = glamping(魅力的な+キャンピング=グランピング)
interconnected + network = internet(相互接続した+ネットワーク=インターネット)
iPod + broadcast = podcast(アイポッド+番組=ポッドキャスト)
spoon + fork = spork(スプーン+フォーク=スポーク[商標])
web + seminar = webinar(ウェブ+セミナー=ウェビナー)

「グランピング」「ウェビナー」「インターネット」「ブログ」など、この中の多くは日本語にもなっています。

ちなみに「コスプレ」という言葉は、元々日本で生まれた和製英語ですが、逆輸入されてcosplayとして使われています。言葉は面白すぎてたまりません!

知らんけど

コテコテの関西弁「知らんけど」もランクインしました。関西出身のアイドルグループ、ジャニーズWestが「知らんけど」という曲をリリースしました。その中には「知らんけど」という表現が30回以上出てくるそうです。

「知らんけど」は、ずっと以前から関西の人が使っているので、新語ではなく流行語ですね。ジャニーズWestの曲が人気になったおかげで、この表現は全国的に注目されました。

私の親友は京都人で、いつも不満げに、関西の出身ではない人の「知らんけど」の使い方は若干違うと言っています。そこで、本物の関西人に「知らんけど」の正しい使い方を聞きました。簡単に言うと「責任を回避したいとき」に使うそうです。

何かについて熱く自信満々に語った後、「知らんけど」を言うのは正解のようです。ただし、適当にいつでも使えるわけではありません。

私の専門は「言葉」です。だから、和製英語や英語について語った後に、いきなり「知らんけど」を使うのはおかしいです。本当に知っていることを「知らんけど」と言うのは間違いです。

一方、私は「化粧」に関する知識は全くありません。だから、友達が「ねえ、これを使ったら、奇麗になるよね?しわが減るよね?」と私に聞いてきたときに、「うん!そうだよ!絶対に奇麗になるよ。知らんけど」と言うのは正解です。「しわが減らなくても、私を責めないでね!」という意味です。

また、人が困るような使い方もだめだそうです。私は関西人の友に、「知らんけど」の修行をされました。

ある日、私は「知らんけど」をちょっと使ってみよう!と思いました。東京の築地本願寺で友達と会う約束をしたときのことです。私が滞在していた場所から少し距離があったので、私はタクシーで行くことにしました。本願寺で会う約束はしていたものの、本願寺の「どこ」で会うかまでは決めていませんでした。本願寺に近づいたとき、タクシーの運転手さんに「正門でよろしいですか?」と聞かれました。私は元気よく、「うん!そうです!知らんけど」と言いました。

タクシーを降り、親友に会ったときにその話をしたら爆笑されて、叱られました。「駄目だよ!そういうときに『知らんけど』を使ったら、運転手さんは困るよね!」あ、なるほど。

では、「知らんけど」は英語でどう表したらいいでしょうか。

  • Yeah, but maybe I’m wrong.
  • Yeah, sure. Maybe. Who knows?
  • But I’m not really sure.
  • Yeah, but I may be wrong.
  • Yeah, wait. I’m talking out of my butt.
  • Yeah, of course. Wait, I don’t know.
  • Kind of. / Sort of. / In a way. / Maybe.

たくさんの言い方があります。インパクトが最も強いのはI’m talking out of my buttです。これは、スラング中のスラングで、フォーマルな場では絶対に使わない方がいいです。直訳すると「お尻から話している」という意味で、「言っている人は自信満々で言っているけど、本当は何も知らない」というようなニュアンスです。個人的にはKind of. / Sort of. / In a way. / Maybe.あたりが一番好きです。子供や若者がよく言います。

悪い円安

私の娘は今、アメリカに留学をしています。ノミネートされた「悪い円安」は痛いくらい心に響きます。というか、「良い円安」なんてない!生活費を毎月送るため、私は泣きながら送金しています。今年の円安は30年ぶりの悪さなのだそうですね・・・。

さて、日本語では「円安」「円高」「ドル安」「ドル高」のように言いますが、英語でどう表現したらよいでしょうか。文字をそのまま直訳すると、cheap yen、 expensive yen、cheap dollar、expensive dollarとなりますが、英語ではそうは言いません。cheap、expensive、high、lowではなく、weak (弱い)/strong(強い)と言います

文を見てみましょう。

The yen hasn’t been this weak in 30 years.
円がこんなに安くなったのは30年ぶりだ。

The dollar is really strong against the yen right now.
今、ドルは円に対してとても強くなっている

The weak yen is terrible for Japanese traveling overseas.
今の円安は、海外に行く日本人にとってつらい。

The weak yen is killing me.
円安で死にそう。

The dollar is really strong against the yen right now, so it is a good time for tourists to travel to Japan.
今は全くの円安ドル高で、日本に旅行する人にはタイミングが良い。

インティマシー・コーディネーター

外来語や和製英語が大好きな私にとって、最も興味深いのが、このインティマシー・コーディネーターです。

私がよく聞く不満は、「最近使われているカタカナ語の意味が分からない!」ということです。確かに、「インフォームドコンセント」「アンコンシャスバイアス」「コミットする」など、なじみのないカタカナ語が最近よく使われています。

新語・流行語大賞のノミネート語が発表されてすぐ、私はTwitterで次の質問をしました。

「インティマシー・コーディネーター」の「インティマシー」の意味は分かりますか?

198人から回答が来ました。

「分かる」は23%
「なんとなく分かる」は11%
「全く分からない」は66%

「コーディネーター」の意味が分かる人は多くいそうですが、「インティマシー」の方は、まだまだなじみがない単語のようです。

「インティマシー・コーディネーター」は英語のintimacy coordinatorから来ました。この単語は和製英語ではなくて、外来語です。しかし、英語でも最近までは、intimacy coordinatorはそれほど幅広くは使われていなかったそうです。

では、「インティマシー・コーディネーター」は、何をコーディネートするのでしょうか。

主な仕事は映画のセックスシーンを担当することです。セックスシーンを撮影している間に、役者の感情や意見が尊重されるようにサポートする仕事です。つまり、俳優が嫌と思うこと、したくないと思うことをさせられないように守る役割をします。

アメリカのハリウッド映画でこの仕事が特に重要視されるようになったのは、2018年ごろでした。2017年、ハリウッドの映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏が、多くの女優から性暴力・セクハラを訴えられ、アメリカ社会に大きな衝撃を与えました。これが「#MeToo運動」と呼ばれる現象につながり、女性を性的虐待から守ることが、さらに重視されるようになりました。若い俳優がベテラン製作者の指示に反論することは難しいので、俳優を守るため、撮影の際にintimacy coordinatorを使うことが普通になったそうです。

intimacy coordinatorをそのままカタカナにしても、多くの日本人になかなか理解されません。しかし、intimacyという単語を的確に言い表す日本語がないため、そのままカタカナで使うようになったのだと思います。

intimacyは主に名詞として使われていますが、ここでのように形容詞的に使われることがあります。似たような単語にconvenience storeがあります。convenienceは通常、名詞として使われますが、ここでは形容詞的に使われています。

さて、intimacyが英語でどのように使われているかを、少し見てみましょう。

最初に断っておかないといけないのは、intimacyという語は必ずしも「セックス」と結びつくものではない、ということです。ざっくりと説明すると、intimacyは「親密」という意味です。

辞書を見てみると、

  1. the state of being intimate
    (親密な状態)
  2. a close, familiar, and usually affectionate or loving personal relationship with another person or group
    (他者またはグループとの、密接で親しく、多くは情愛に満ち、また愛のある個人的な関係のこと)

出典:https://www.dictionary.com/browse/intimacy

intimacyには、次のようにさまざまな種類があります。

emotional intimacy(感情的)
physical, sexual intimacy(肉体的)
spiritual intimacy(精神的)
intellectual intimacy(知的)

あるサイトには、intimacyには12種類あると書いてありました。しかし簡単に言うと、intimacyは「二人の深いつながり」を表す語です。親子、夫婦、親友などの間にintimacyは生まれます。

では、例文を見ていきましょう

He isn’t very good at emotional intimacy.
彼は、本当の自分をうまくさらけ出すことができない。

Sexual intimacy is very important for a healthy marriage.
健全な結婚生活を送るためにセックスは大事だ。

They have physical intimacy but are emotionally distant.
彼らは肉体的な関係を持っているが、気持ちは離れている。

intimacyの形容詞形はintimateです。「親密の」という意味です。

It’s a small restaurant with a really intimate feel about it.
あのレストランは狭いけれど、とてもアットホームな雰囲気がある。

They have been in an intimate relationship for about a year.
彼らは約1年、男女の関係にあった。

They have been dating for over three years but are still not intimate.
あの二人は3年以上付き合っているが、まだ体の関係がない。

恋愛に関する話をするときに使うintimateは、大抵、肉体関係を意味します。

ヌン活

次に解説したい語は「ヌン活」です。これは「アフタヌーンティーの活動」の省略で、友達と楽しくいろいろなアフタヌーンティー体験することです。最近、「〜活」という表現がとても多いですね。

さて、「活動」はよくactivityと訳されます。学校の部活をclub activityと言うように。しかし残念ながら、「〜活」の場合にactivity を使うと、とても不自然な英語になってしまいます。

終活(人生の終わりのための活動):getting one’s affairs in order at the end of one’s life
就活(就職活動):job hunting; looking for a job
ラン活(ランドセル活動):searching for the perfect school backpack
婚活(結婚活動):trying to find a suitable marriage partner
妊活(妊娠活動):trying to get pregnant
パパ活(パパ活動):looking for an older rich guy to take care of you
腸活(大腸活動):eating lots of foods full of probiotics that are good for colon health; taking care of your gut.
朝活(朝活動):getting up and at it; taking advantage of the morning by not wasting time

皆さんも分かるとおり、日本語にぴったり当てはまる単語はありません。「活動」に当たる英語も、活動の内容によって異なる表現を使う気がします。

では、例文を見ていきましょう。

My husband and I are trying to get pregnant, so I have decided to quit drinking for a while.
私たち夫婦は妊活中で、私はしばらくお酒を飲まないことにした。

I’m going to start looking for a job soon, so I need to dye my hair black again.
そろそろ就活を始めるから、髪の毛を黒に戻さないと。

I am trying to get my affairs in order, so I’ve made a will and spend my days decluttering the house.
終活中なので、遺言書を書いたし、断捨離をして日々を過ごしている。

Many Japanese people start looking for the perfect school backpack years before their kids start elementary school.
多くの日本人は、子供が小学校に上がる何年も前にラン活を始める。

These days everyone is talking about the importance of taking care of your gut.
最近、誰もが腸活の重要性を話題にしている。

では、今年の新語・流行語大賞にノミネートされた「ヌン活」はどうやって英語で説明したらよいでしょうか。

ううん、難しい・・・。

It’s all the rage these days to go around and try all kinds of different afternoon teas.
最近、さまざまな種類のアフタヌーンティーを楽しみに行くことが大流行している。

Afternoon teas are trending in Japan now.
今、日本ではアフタヌーンティーがはやっている。

Japanese people are crazy about trying afternoon tea in different shops.
日本の人々は、いろいろな店でアフタヌーンティーを楽しむことに夢中です。

元々、アフタヌーンティーはイギリスのものなので、アメリカ人がafternoon teaという言葉を聞いても、もしかしたら何のことか分からないかもしれません。

言葉は面白いですね。文化や人の価値観につながっているので、その違いを理解してもらうために、長い説明をしないといけないときがあります。

まとめ

ここまで日本の流行語大賞について話してきましたが、アメリカにも「ワード・オブ・ザ・イヤー」があります!

最近、二つの英語辞書が2022 Word of the Yearを発表しました。

Merriam-WebsterのWord of the Yearはgaslighting(ガスライティング)です。検索数は例年の1740%だったそうです。

何を隠そう、アンちゃんはこの言葉について記事を書いたことがあります!ぜひ、下のリンクから読んでみてください。

Dictionary.comのWord of the Yearはwoman(ウーマン)でした。今の世の中、ジェンダーアイデンティティーが大きな話題となっています。このサイトは「woman」を選びましたが、「the dictionary is not the last word on what defines a woman(辞書は女性の定義を最終決定するものではない)」と発表しています。

言葉は、生き物です。必要に応じて生まれて、不要になれば消えていきます。そして、意味も変わっていきます。結局、テレビや辞書が単語の意味や使い方を決めるわけではなく、決めるのは言葉を使う市民です。今でこそ、「ヌン活」や「インティマシー・コーディネーター」という言葉は普通に使われていますが、いずれ消えていく可能性は非常に高いです。多くの流行語はそんな感じですよね?

ただ、「知らんけど」は違うで。この単語は永遠に流行る自信がある。

知らんけど。

アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ

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