アメリカで一般的な「date night」って何?言葉に表れる「家族」のあり方

アメリカで生まれ、日本で暮らし、博多弁を操る言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんが、「日本語に訳しづらい英語」と、その裏にある文化の違いを考察します。第4回では、date nightという言葉を取り上げます。

家族の中心は子ども?それとも夫婦?

私は子どもを産んだ後、日本とアメリカの文化の違いにたくさん気付かされました。

まず、お母さんが赤ちゃんと一緒に寝ること。もちろん、アメリカにも添い寝をする家族はいるけれど、日本みたいに皆がやっているわけではありません。

そして、夫婦同士の呼び方。赤ちゃんが生まれる直前までは「ひろしくん」みたいに名前で呼び、赤ちゃんが生まれると、「パパ、おむつを取ってくれる?」という風に、呼び方を「パパ」「ママ」などに変える方が多いのではないでしょうか。

日本では、赤ちゃんが家族の中心であることに気付きました。

一方、アメリカでは家族の中心は子どもじゃなくて、夫婦の関係だと思います。夫婦仲がいいということが子どもの幸せだと思っているので、子どもが生まれても、夫婦の時間を必死に守ります。

単身赴任という働き方もないし、多くの夫婦はずっと一緒に同じ部屋で寝ます。子どもが生まれても、下の名前か、愛称の「Honey」「Sweetie」「Darling」「Sweetie Pie」「Baby」などでお互いを呼びます。そして、里帰り出産もあまり聞きません。赤ちゃんが生まれる前も、生まれた後も、一緒にいることが多いです。

アメリカで一般的な「date night」って何?

もう一つ、アメリカにあってあまり日本で見ないものは、「date night」です。

date nightって聞いたことがありますか?そして、date nightと聞くと、何を思い浮かべますか?私が講演会でこの話をした時は、ほとんどの方がこの言葉を聞いたことがありませんでした。

アメリカの多くの夫婦は、定期的に二人きりでデートに行くことを心掛けています。子どもをおばあちゃんか、ベビーシッターに預けた後、二人でご飯を食べに行ったり、映画を見に行ったりします。こうしたdate nightなど二人だけの時間は、結婚生活に欠かせないものです。

この話を日本人の友達にしたら、「ええ?すごい!私の母は夫とデートに行くためと言っても、絶対に子どもを見てくれん!」と言いました。それを聞いて、やっぱり、日本では子どもが生まれた後、夫婦二人きりの時間があまりないのかなと思いました。

そこで、その友達の結婚10年の記念日に、「子どもは私が見ているから、旦那さんと二人で出掛けたら?」と言いました。友達は旦那さんのことを「パパ」と呼んでいたけれど、10年ぶりのデートから帰ってきた後には、「てっちゃん」と呼び方が変わっていました。超ウケた!!

今日は、アメリカの世界観を表すdate night、またよく似たmovie nightgame nightについて話していきたいと思います。

date nightを日本語にすると

英語のdateに完全に一致する日本語はあまり思い浮かびませんが、外来語になっている「デート」は、日本人誰もが知っていますね。

I’m going on a date with my girlfriend tomorrow.
明日、彼女とデートに行く。

「デートに行く」は、going outと言ってもいいと思います。

I’m going out with my girlfriend tomorrow.

ちなみに、英語のdateには以下の二つの意味があります。

  • デートに行く:go on a date / go out
  • 付き合っている:dating/going out

ちょっとだけ脱線するけど、文を見てみましょう。

I’m going on a date with him tomorrow.
I’m going out with him tomorrow.
明日、彼とデートに行く。

Masako and Shinji have been dating for four years.
Masako and Shinji have been going out for four years.
マサコとシンジは4年間付き合っている。

「告白する」は、ask outと言います。

He asked me out.
彼に告られた。

date nightは日本語でどう表したらよいでしょうか。たぶん一番簡単なのは、そのまま外来語としてカタカナ表記することです。

Tomorrow is date night, so my mom is watching the kids.
明日はデートナイトだから、母が子どもを見てくれる。

ただ「デートナイト」とカタカナで言っても、ほとんどの日本人はあまり意味が分からないと思うので、下記のようにするといいでしょう。

「明日の夜、夫と出掛けるので、母が子どもを見てくれる。」
「明日の夜、夫とご飯を食べに行くから、母が子どもを見てくれる。」

あくまで外来語はコミュニケーションをよくするためにあるものなので、それがかえってコミュニケーションの妨げになるような場合、日本語(和語や漢語)で説明したほうがいいと思います。

他にもある「〇〇 night」

date nightにちょっと似ている言葉として、movie nightとgame nightがあります。date nightと同じように、定期的に家族で時間を過ごす決まりのことです。アメリカで超人気があるボードゲームやカードゲームをしたり、皆でピザを食べながら家で映画を見たりします。

基本、こうした「〇〇 night」の間は、子どもは「友達と遊んだら駄目」、親は「家で仕事をしたら駄目」という暗黙のルールがあります。頻度や形は家族それぞれですが、週1回行うことも珍しくありません。こうした家族だけでさまざまなことをして過ごす時間を、英語で「family time」と言います

私には、長年アメリカに住んでいた日本人の友達がいます。その友達は自分の子どもが生まれた後、無意識にアメリカのfamily timeという概念を取り入れていました。日本で誘いを受けた時に、「あ、ごめん。その日は駄目だ。その日はファミリータイムなんだ。」と言ったそうです。友達を誘った人は、それを聞いて少し混乱したような表情をしていて、友達はハッとしたそうです。その後、私に「日本では、あまりfamily timeという概念はないよね!」と教えてくれました。

確かに、日本で「この日、家族で過ごすから他の予定を入れないで!」と言うのは珍しそうです。もちろん、言う人もいると思いますが、あまり一般的ではありません。

私の友達の話を聞いていると、日本では、たまたま皆が同じ時間に家にいる時に家族と過ごしたり、何かを食べに行ったりすることはあるけれど、アメリカほど「意図的に」家族との時間をつくることはあまりしないようです。

日本でこの話をすると、「ええ?子どもは嫌がらないの?友達と遊びに行きたがるでしょう?」と聞かれることがあります。確かに、成長するにつれてfamily timeをわずらわしいと思う子どもはいると思います。ただ意外と、高校生になってもfamily timeが好きという人はいます。小さい時からfamily timeに慣れているので、当たり前になっているんです。

もちろん、全てのアメリカの家族がdate nightやmovie night、game nightを定期的にしているわけではありません。私の家族はそこまで定期的にfamily timeをつくりませんでしたが、野球が大好きだったので、baseball nightはありました(笑)。そのため、私の子どもの時の一番の思い出は、父と電波が悪いラジオで野球の実況中継を聞いていたことです。

私は子育て中、意図的にfamily timeをつくるようにしていました。一番好きだったのは、movie nightでした。ポップコーン、チップス、ソフトドリンクなどを準備して、皆で楽しくビデオを見ていました。「ジャンクフード食べ放題」みたいな感じでした。

ここで例文を見てみましょう。

A: What are you doing this weekend?
今週末、何をする?

B: On Friday, we are having family game night, so I can’t hang out.
金曜日の夜は家族とゲームをして過ごすから、遊べない。

これも、カタカナで「ゲームナイト」とか「ムービーナイト」と訳してもいいけれど、日本にこの概念がない場合、意味が通じないかもしれません。

無理やり当てはまる日本語の単語を探すよりは、その概念を説明したほうがいいと思います。例えばmovie nightなら、「金曜日の夜、家で家族揃って映画をたくさん見るんだ」とか、game nightなら、「毎週日曜日の夜、必ず家族でボードゲームをするの」といった感じです。

「デート」も「ナイト」も、日本人誰もが知っている言葉ですが、たぶんdate nightの以下のニュアンスは伝わらないことが多いでしょう。

  • 夫婦の行事である
  • 子どもを預ける
  • 頻繁に行く
  • 意図的に時間をつくる
  • 夫婦がリフレッシュするためにある

こういった情報が伝わらないと、単に「付き合っているカップルが夜に出掛けること」と勘違いされるかもしれません。

同じように、「ゲームナイト」とカタカナで言うと、「一人で夜にPCゲームをすること」と勘違いされるかもしれません(日本語で「ゲーム」と言うと、PCやスマホ、ゲーム機を使ったゲームを指しますが、英語ではボードゲームも含まれます)。

「ムービーナイト」と言うと、単に「夜、映画館に行くこと」と思われるかも。

このように、カタカナで表現するのが簡単に見えますが、実はそんなに簡単ではありません。説明したほうが確実に通じます。

あなたは〇〇 nightを取り入れてみたい?

では、復習しましょう。

Tomorrow is date night, so we have hired a babysitter.
明日の夜は夫婦でデートなので、ベビーシッターを雇いました。

We are having family game night on Saturday, so don’t make plans with your friends.
土曜日の夜に家族でゲームをすることにしているので、友達と計画を立てるのはやめておきましょう。

We have family movie night every Sunday.
毎週日曜日の夜に家族で映画鑑賞をすることにしています。

Family time is really important to us, so no one makes any plans on Sundays.
家族との時間を大切にしているので、日曜日は誰も予定を入れません。

私は告白しなければいけないことがあります。アメリカ人のくせに、実はあまりgame nightが好きじゃありません。子どもの時からずっと、ボードゲームが好きではないんです。

けれど、movie nightは大好きです!ジャンクフードを食べながら映画を見るのは最高です。

アメリカの意図的なfamily timeでも、日本の「たまたまfamily time」でも、家族と時間を過ごせるなら、どんな形でもいいと思います!

今回の解説はそこまで複雑じゃないと思いましたが、いざ説明してみると意外と深かったです。英語の「〇〇 night」ファミリーは、いかがでしたか?

あなたは、日本でも「デートナイト」や「ゲームナイト」をクリスマスやハロウィーンと同じように取り入れて欲しいと思いましたか?それとも、なくてもいいと思いましたか?

「デートナイト」は少しハードルが高いかもしれないけれど、「ムービーナイト」から取り入れるのはいいかも!ああ、ポップコーンを食べたくなってきた・・・。

アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ

アン・クレシーニさんの本

アン・クレシーニさんの連載

語彙力&フレーズ力を磨く、おすすめの本

ネイティブと渡り合える、知的で洗練された英単語力。

本書は、アルクの『月刊ENGLISH JOURNAL』(1971年創刊~2023年休刊)に掲載されたネイティブスピーカーの生のインタビューやスピーチ、約300万語のビッグデータから、使用頻度の高い英単語300個を厳選し、一冊に編んだものです。

すべての英単語は日本語訳、英英定義、例文と共に掲載、無料ダウンロード音声付きで、読んでも聞いても学べる英単語帳です。また、難易度の高い単語をしっかり定着させるため、穴埋め問題やマッチング問題、さらに構文や使用の際に気を付けるべきポイント解説も充実しています。伝えたいことが明確に伝えられる、上級者の英単語力をこの一冊で身に付けましょう!

英語中級者と上級者の違いは、的確で、気の利いたフレーズ力!

50余年の歴史を持つ、アルクの『月刊ENGLISH JOURNAL』(1971年創刊~2023年休刊)に掲載されたインタビューやスピーチ約300万語というビッグデータの中から、頻出する英語フレーズ300個を厳選。日常会話やemail、SNSではよく使われているのに、日本人が言えそうで言えない、こなれたフレーズを例文と英英定義と共に収載しました(全音声付き)。

厳選した300種類の穴埋め問題&マッチング問題を通して、「見てわかる」のレベルから「自分でも使える」ようになるまで、しっかり定着させます。上級者への壁をこの一冊で打ち破りましょう!

難関大を目指す受験生が英単語を「極限まで覚える」ための単語集

大学入試などの語彙の問題は、「知っていれば解ける、知らなければ解けない」ものがほとんど。昨今の大学入試に登場する単語は難化していると言われており、文脈からの推測や消去法では太刀打ちできない「難単語の意味を問う問題」が多数出題されています。こうした問題をモノにして、周囲に差をつけるには、「難単語を知っていること」が何よりのアドバンテージです。

SERIES連載

2024 04
NEW BOOK
おすすめ新刊
観光客を助ける英会話
詳しく見る
メルマガ登録