アメリカで生まれ、日本で暮らし、博多弁を操る言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんが、「日本語に訳しづらい英語」と、その裏にある文化の違いを考察します。第5回では、accountabilityという言葉を取り上げます。
目次
「アカウンタビリティー」よく聞くけれど、意味は?
私は大学生の頃、キリスト教のサークルに入っていました。学生同士で歌ったり、聖書を読んだり、いろんなボランティア活動をしたりしました。
特に思い出に残っているのは、「accountability partner」です。同じグループのメンバーとペアを組んで、定期的に聖書を読んだり、祈ったりしているかを確認し合う役割がありました。別に強制的なものではありませんでしたが、誰かと一緒にすることで、継続する可能性を高めることができました。
アメリカでは最近、キリスト教に限らず、日常生活にもこのaccountability partnerの概念が浸透してきました。
私は日本に来て、「accountability」のいい日本語訳が見つからなかったので、適当にカタカナで「アカウンタビリティー」と言っていたのですが、相手の表情から、よく分かってもらえていないことにすぐ気付きました。
「コミット」や「ダイバーシティ」など、よく聞くけれど、正直に言うと意味がよく分からないカタカナ用語はたくさんありますよね?
今回は、「accountability」にまつわる表現を詳しく説明していきたいと思います。日本語になかなか訳せなくても、英語のaccountabilityを使いこなせるようになりますよ!
accountabilityは成功の鍵
さて、始めましょう。
accountabilityはよく「説明責任」と訳されますが、多くの日本人にとって、すぐにはピンとこない言葉だと思います。普通、日本語で「説明責任」という言葉をあまり使わないからでしょう。外来語として「アカウンタビリティー」と言われることもあります。
辞書で調べると、以下のような定義が出てきます。
the fact of being responsible for what you do and able to give a satisfactory reason for it, or the degree to which this happens
( Cambridge Online Dictionary )自分の行動に責任を持ち、納得のいく理由を述べることができるという事実、またはそれがどれほど実現できているかの程度のこと。
the quality or state of being accountable especially : an obligation or willingness to accept responsibility or to account for one's actions
( Merriam-Webster Online Dictionary )説明責任があるという性質または状態。特に、責任を負う、あるいは自分の行動を説明する義務や意志のこと。
例文を見てみましょう。
There needs to be accountability for a business to be successful.
ビジネスを成功させるためには、説明責任が必要です。
Honesty and accountability are important factors for success.
誠実さと説明責任は成功のための重要な要素です。
They demanded accountability from their leaders.
彼らはリーダーに説明責任を求めた。
次に、日本語で「アカウンタビリティー」はどのように説明されているか見てみましょう。
自分が権限を持っている職務についての現状を、関係者に説明する義務のこと
( アカウンタビリティとは?言葉の意味や使い方の例、企業に求められる取り組みを解説 | あしたの人事オンライン )
アカウンタビリティとは、自身が担当し権限を持つ事柄の状況やより詳細な内容を利害関係者に説明する義務のこと
( アカウンタビリティとは? 説明責任の意味、ビジネスでの用例、責任の種類まとめ - カオナビ人事用語集 )
- 財産管理の受託者がその委託者に対して負う会計上の責任。株式会社の場合、取締役が株主に対して負う。会計責任。
- 企業・行政などが自らの諸活動について公衆や利害関係者に説明する社会的責務。説明責任。
(『広辞苑』第7版)
特に、リーダーシップの話をするときにaccountabilityという言葉をよく聞きます。リーダーは、自分の行動を部下に説明する責任があります。accountabilityがないリーダーは、やりたい放題のワンマンになってしまいがちです。なぜなら、自分の行動を誰にも説明する必要がないからです。
accountabilityがあるリーダーは、自ら部下に対してやっていることとその理由を説明することで、行動がチェックされています。好き勝手、やりたい放題は許されません。
英語でこのaccountabilityがない状況を「lack of accountability」と言います。よく使う表現です。
This problem happened due to a lack of accountability.
説明責任がなかったため、この問題が起きました。
The biggest problem in that company is that there is a lack of accountability.
その会社の一番大きな問題は、説明責任がないことです。
There is a major lack of accountability in the government.
政府には、説明責任がなさすぎる。
信頼関係と直結するため、英語圏でこのaccountabilityは欠かせないものです。accountabilityがない政治家や社長は信頼できません。信頼感がないと、物事はうまくいきません。つまり、accountabilityは成功の一つの鍵なのです。
「accountability partner」とは
accountabilityは、ビジネスや行政に対してよく使われていますが、日常会話でもよく使います。
冒頭で話した、accountability partnerの話に戻りましょう。
まず、accountability partnerって一体なんでしょうか?
An accountability partner is a trusted companion who helps you make progress toward a commitment you have made.
( What Is an Accountability Partner? - Accountable2You )
アカウンタビリティー・パートナーとは、あなたがやると決めたことに向かって前進するのを助けてくれる、信頼できる仲間のことです。
元々キリスト教でよく使われていたけれど、最近は「トレーナー」や「コーチ」みたいな意味で使われています。このaccountability partnerは、コーチであろうが、友達であろうが、自分を応援する存在です。
具体的な例を見てみましょう。
例えば、私と友達は2人ともチョコチップクッキーが大好きで、朝昼晩にクッキーを食べても全然飽きません。けれど、2人とも少し痩せたいと考え、ダイエットを始めたとします。クッキーを食べていてはダイエットがなかなか成功しませんから、2人で1カ月の間クッキーを我慢して、ジムに行くことに決めます。2人とも意志が弱いけれど、毎日「クッキー食べていないよね?」とお互いに聞き合うので、2人ともクッキーの誘惑に負けず、定期的に一緒にジムに行くことができました。
これがaccountability partnerの事例です。
このaccountabilityの用法は、非常に日本語に訳しにくいです。だって、「説明責任相手」と訳すと、めっちゃおかしいと思いませんか?
やっぱり、カタカナの「アカウンタビリティー・パートナー」しかないかな。
「keep+人+accountable」ってどういう意味?
形容詞のaccountableもよく使われています。特に、「keep+人+accountable」はよく日常会話で使われます。
Please keep me accountable!
I will keep you accountable!
Let’s keep each other accountable.
これは「人がやるべきことを本当にやっているかどうかをチェックする」という意味です。例文を見てみましょう。
I wrote on social media that I was going to go to the gym every day so that my followers would keep me accountable.
フォロワーが私をチェックしてくれるように、毎日ジムに通うとSNSに書いた。
You told me you were going to practice the piano every day. I am going to keep you accountable on that!
毎日ピアノを練習すると言っていたよね。私がチェックしてあげるよ!
実は私は、長年摂食障害と闘っていました。食べることに罪悪感を抱いたり、「運動しなければ食べる権利はない」と思ったりして、食事でかなり悩みました。食べ物は、私に栄養を与えるものじゃなくて、私を太らせるものだとずっと思っていました。特に、昼ご飯を食べることが苦手でした。朝食を食べたうえに昼食も食べたらきっと太ってしまうと思い、よく昼食を抜いていました。
どん底にいた時、親友のマキコに出会いました。マキコは、食事で悩んでいる私を助けたくて仕方がなかったようです。料理を教えてくれたり、日本の食文化について教えてくれたりしました。
もう一つ大事なことをしてくれました。ほぼ毎日、私がちゃんと昼食を食べたかどうか聞いてくれたのです。私がなかなか昼食を食べることができないと分かると、マキコは毎週月曜日に小さなお弁当を作ってくれるようになりました。
幼い子どもが使うようなアンパンマンの小さい弁当箱に、プチトマトや卵焼き、おにぎりなどを入れてくれました。マキコは「私がアンちゃんのためにお弁当を作ったら、アンちゃんは必ず食べる」と思って、毎週そのお弁当に愛情を注いでくれました。そして、お弁当がない日でも「ね、アンちゃん。今日は、お昼食べた?何を食べた?」と聞いてくれました。
これは、まさにaccountability partnerです。私は元気になりたかったので、毎日昼食を食べることに決めました。私の意志は弱かったけれど、マキコが必ず毎日確認してくれたから、毎日ちゃんと食べることができました。
もし、マキコに聞かれなかったら、できなかったことかもしれません。マキコは、弱い私を支えながら、私の行動をチェックしてくれました。そのおかげで、私は25年間闘ってきた摂食障害を克服しました。
Makiko kept me accountable when it came to eating a healthy lunch every day.
実は訳しづらいaccountability
いろいろ調べたり考えたりした結果、ビジネスや政治に対して使う「accountability」は「説明責任」と訳せるけれど、日常生活で使う「keep+人+accountable」や「accountability partner」は非常に訳しにくいと思います。
だって、考えてみてください。マキコが私にしてくれたことを、どうやって日本語に訳したらいいでしょうか?上記の英文も、どうやって日本語に直したらいいかわからなかったので、英語のまま紹介することにしました。
もしあなたが英語の勉強をサボりがちなら、accountability partnerを探してはいかがでしょうか?毎日友達に「ね、今日は英語を勉強した?」と聞かれたら、きっと毎日勉強するよね!もしかしたら、私と同じようにいろいろ克服ができるかも!
アン・クレシーニさんの本
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