「自業自得だ」って英語でなんて言う?訳しづらい「deserve」の正体

アメリカで生まれ、日本で暮らし、博多弁を操る言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんが、「日本語に訳しづらい英語」と、その裏にある文化の違いを考察します。第2回では、deserveを取り上げます。

ポジティブにもネガティブにも使えるdeserve

私が子供の時、マクドナルドのキャッチコピーは、“You deserve a break today”でした。このコピーは数年間使われ続けたので、中年のアメリカ人でこれを知らない人はいないと思います。私も、物心がついてからほぼ毎日、“You deserve …”という表現を耳にしていたような気がします。

You deserve a break.
You deserve to be happy.
You deserve the very best in life!
Take some time off. You deserve it.

deserveは、このようにポジティブな使い方もたくさんありますが、以下のようにネガティブな使い方もあります。

I don’t feel sorry for you at all. You deserved it.
He deserves to be unhappy.

「ちょっと待って!同じ単語なのに、すごく良い意味とすごく悪い意味があるわけ?」

はい、その通りです。今日は、この不思議な、そして日本語に訳しにくい、 deserve という単語を解説していきます。

さて、始めましょう!

ポジティブな使い方

私は、日本に来てすぐ、日本語になかなか訳せない英単語がたくさんあることに気付きました。例えば、 “I miss you.” です。

日本に来たばかりの頃、ホームシックになりました。どうしても母親に会いたかったです。ハグしたり、たくさん話したりしたかったけれど、残念ながらできませんでした。周りの友達に“I really miss my mom.”と言いたかったけど、「お母さんに会いたい」と日本語に訳しても、なんだか物足りない感は半端なかったです。

「お母さんに会いたくてたまらない!」と言うと結構近いような気もしますが、“I miss my mom.”は、 恋しい思い、そして、切ない思いが込められています

結局、「お母さんをすごくミスしている!」と勝手に訳してしまいました(笑)。

missと同じように、deserveも、日本語でどうやって言い表せばいいのか、何年もわかりませんでした。

例えば、私の友達が一生懸命テスト勉強をして合格通知が届いた時、“Wow! I’m so happy for you! You totally deserve it!”と言いたいと思いました。日本語でどう言うのか友達に聞いてみたところ、 deserveは「ふさわしい」と訳す と教えてくれました。

けれど、「友達よ!あなたはこの結果にふさわしい!」なんて言ったら、「 教科書感が半端ない! 」と思われてしまいそうです。

もしかしたら、この場合の一番ふさわしい日本語は、「よかったね!相当頑張っていたから、そうなる(合格する)と思っていたよ!」「めっちゃ頑張ってたんだから、この結果は当たり前やん!」みたいな感じかもしれません。

英語のニュンアンスとしては、「 頑張ったあなたは、その結果にふさわしい 」ということです。

頑張ったから・・・You deserve it!

You studied so hard for the TOEIC test. You totally deserve to get a high score.
めちゃくちゃTOEICの勉強してたから、高得点は当然の結果だよ。

苦労したから・・・You deserve it!

You suffered so much as a child. You deserve to be happy.
子供の時、とても苦労していたから、何よりも幸せになってほしい(むしろ、幸せになる権利がある)。

我慢したから・・・You deserve it!

He gave up sweets while training for the Olympics. He deserves a giant ice cream cone!
彼は、オリンピックのトレーニングのために甘いものを断っていた。だから、バリでかいアイスクリームを食べるべきだ!

努力したから・・・You deserve it!

He trained every day for 10 years. He so deserves that gold medal.
彼は10年間毎日トレーニングしてきたので、金メダルを勝ち取る資格がある。

英語でよく言う “You deserve to be happy.” は、下記のようにいろんな日本語訳があります。

  • 「あなたは絶対に幸せになるべきよ!」
  • 「あなたには幸せになる権利がある!」
  • 「あなたは幸せになるべき人よ!」
  • 「あなたには、幸せな人生しか似合わないわ!」

また、deserveの日本語訳として、「ふさわしい」や「値する」が使われる場合もあります。

He deserves to be president.
彼は、大統領にふさわしい。

He doesn’t deserve to be president.
彼は、大統領にふさわしくない。

I think you deserve better.
あなたには、もっといい結果がふさわしいと思う。

You deserve this job.
あなたはこの仕事に値する人です。

このように、 「資格がある」「ふさわしい」「権利がある」「~するべきだ」「値する」など、文脈によって日本語訳が全然違う ので、混乱してしまうかもしれませんね。

残念ながら、deserveの意味はこれだけでなく、もっとありますよ!

以下では、deserveのネガティブな使い方について話していきたいと思います。私の母語が難しすぎて、申し訳ございません・・・。

ネガティブな使い方

You totally deserve it.

この表現は、文脈、イントネーション、表情によって意味が変わってきます。

A: Yes! I passed the test!
B: You worked so hard! You totally deserve it!

A: やった!試験に合格した!
B: めっちゃ勉強したんだから、当然の結果だよ!

A: My wife left me because I’d had an affair. Then she married another guy.
B: Sorry, but you TOTALLY deserved it.

A: 浮気したから妻に捨てられた。そして、彼女は再婚した。
B: ごめん、でも、ざまあみろ。

後者のdeserveの使い方は、 日本語の「バチが当たる」に近い と思います。「悪いこと(浮気)をしたんだから、悪いことが返ってくるのは当たり前やん!」みたいな感じです。「バチが当たる」は少し強いかもしれないので、 「当然の報い」 といったところでしょうか。

ちょっと話は脱線しますが、この間、私は財布を落としてしまいました。拾った誰かが近くにある交番へ届けてくれていました。もしアメリカで財布を落としたら、絶対に戻ってきません。

なぜ、日本では財布が戻ってくるのでしょうか?いろんな理由があると思います。親切心、同情心、そして 「バチが当たる」という概念 です。多くの日本人は、子供の時からずっと「バチが当たるよ!」と言われています。アメリカでは、「悪いことをしたら駄目だよ!」とは教えられていますが、「悪いことをしたら自分に返ってくるよ!」とはあまり言いません。

とはいえ、全くそういった考えがないわけではありません。You totally deserved that.の表現には、少し「バチが当たる」のような考え方が入っていると思います。

別の言い方で、 “You got what was coming to you.” (自業自得だ)とも言えます。

A: I cheated on my wife, so she left me and married another guy.
B: You got what was coming to you.

A: 浮気したから妻に捨てられた。そして、彼女は再婚した。
B: 自業自得だね。

他の文を見てみましょう。

A: I cheated on a test, so I got kicked out of school.
B: Sorry, but I don’t feel sorry for you at all. You deserved to be kicked out of school.

A: 試験で不正行為をしたので、退学させられた。
B: ごめん、けど同情できない。退学させられたのは当然の報いだよ。

A: During my senior year I didn’t study at all. So, I couldn’t graduate on time and my job offer was retracted.
B: Well, you deserved to lose your job offer for being so irresponsible.

A: 4年生の時、全然勉強しなかったから卒業ができなくて、内定が取り消された。
B: まぁ、そんな無責任なことをしていたなら、内定を取り消されても自業自得だね。

最後のセリフの「自業自得だね」は、他にも “You made your bed, so now you have to lie in it.” とか、 “I guess your irresponsibility came back to bite you.” など、いろんな言い方ができます。

ということで、ネガティブな“You deserve it.”の意味としては、日本語の 「ざまあみろ」「当然の報い」「自業自得」「当然やろう!」に近い意味 だと思います。

否定形で使うとどんな意味になる?

最後に、 “I don’t deserve it.” という表現について話したいと思います。これは、 「私にはふさわしくない」 という意味になります。

I don’t deserve your kindness.
私は、あなたの親切にはふさわしくない。

I don’t deserve your love.
私は、あなたの愛情にはふさわしくない。

I don’t deserve to have such great friends.
私は、こんな素晴らしい友達にはふさわしくない。

いずれも、 感動している時によく言う表現 です。「私は、あなたのしてくれていることにふさわしくないのに、こんなに親切にしてくれたり、愛を注いでくれたりしているなんて、言葉がない・・・」みたいな感じです。

例えば、妻が夫の浮気を許したとします。こういう時、夫は妻に “I don’t deserve your forgiveness.” と言います。ふさわしくないにもかかわらず、許してくれることに深く感動したり、感謝の気持ちが溢れたりしていることを伝える表現です。

そして、 不運なことがあった時にも使います

Why is this happening to me? I don’t deserve this misery!
どうしてこんな目にあうの?こんなみじめな思いをする筋合いはないわ!

言葉の奥深さを再発見!

今回は、さまざまな場面で使うdeserveについて話しました。

この単語の使い方は山ほどあります。私は英語のネイティブスピーカーなのに、記事を書いている間に、たくさん気付きがありました。

やっぱり、言葉を勉強すればするほど、言葉の奥深さに気付かされます。私は、日本のめっちゃ優れている、レベルが高いアルクの「ENGLISH JOURNAL ONLINE」に「ふさわしい」ライターでいられるように、力の限り頑張ります!

アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ


アン・クレシーニさんの書籍や連載などはコチラ

TEDxFukuoka~世界観を知ると人は変わる

アンちゃんが2018年に登壇したTEDxFukuoka。「世界観を知ると人は変わる(Understanding Worldview Changes Us)」のトークはすべて日本語で行われましたが、YouTube動画には英語字幕も付きました!アンちゃんが考える「学び」の原点とは?

アンちゃんが英語&英会話のポイントを語る!

upset(アプセット)って「心配」なの?それとも「怒ってる」の?「さすが」「思いやり」「迷惑」って英語でなんて言うの?などなど。四半世紀を日本で過ごす、日本と日本語が大好きな言語学者アン・クレシーニさんが、英語ネイティブとして、また日本語研究者として、言わずにいられない日本人の英語の惜しいポイントを、自分自身の体験談・失敗談をまじえながら楽しく解説します!

アンちゃんの電子書籍も好評発売中

アン・クレシーニさんの連載

語彙力&フレーズ力を磨く、おすすめの本

ネイティブと渡り合える、知的で洗練された英単語力。

本書は、アルクの『月刊ENGLISH JOURNAL』(1971年創刊~2023年休刊)に掲載されたネイティブスピーカーの生のインタビューやスピーチ、約300万語のビッグデータから、使用頻度の高い英単語300個を厳選し、一冊に編んだものです。

すべての英単語は日本語訳、英英定義、例文と共に掲載、無料ダウンロード音声付きで、読んでも聞いても学べる英単語帳です。また、難易度の高い単語をしっかり定着させるため、穴埋め問題やマッチング問題、さらに構文や使用の際に気を付けるべきポイント解説も充実しています。伝えたいことが明確に伝えられる、上級者の英単語力をこの一冊で身に付けましょう!

英語中級者と上級者の違いは、的確で、気の利いたフレーズ力!

50余年の歴史を持つ、アルクの『月刊ENGLISH JOURNAL』(1971年創刊~2023年休刊)に掲載されたインタビューやスピーチ約300万語というビッグデータの中から、頻出する英語フレーズ300個を厳選。日常会話やemail、SNSではよく使われているのに、日本人が言えそうで言えない、こなれたフレーズを例文と英英定義と共に収載しました(全音声付き)。

厳選した300種類の穴埋め問題&マッチング問題を通して、「見てわかる」のレベルから「自分でも使える」ようになるまで、しっかり定着させます。上級者への壁をこの一冊で打ち破りましょう!

難関大を目指す受験生が英単語を「極限まで覚える」ための単語集

大学入試などの語彙の問題は、「知っていれば解ける、知らなければ解けない」ものがほとんど。昨今の大学入試に登場する単語は難化していると言われており、文脈からの推測や消去法では太刀打ちできない「難単語の意味を問う問題」が多数出題されています。こうした問題をモノにして、周囲に差をつけるには、「難単語を知っていること」が何よりのアドバンテージです。

SERIES連載

2024 04
NEW BOOK
おすすめ新刊
英会話は直訳をやめるとうまくいく!
詳しく見る
メルマガ登録