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「死んだ比喩」を蘇らせる!陳腐な慣用句をネタに英語の文芸創作に挑戦

クリエイティヴ・ライティング

連載「クリエイティヴ・ライティング入門講座」では、立命館大学の吉田恭子さんが、英語で書く文芸創作エクササイズを出し、読者の皆さんに実際にクリエイティヴ・ライティングに挑戦していただきます。さらに、応募作品の一部を吉田さんが記事内で講評してくださいます。英語での表現力を広げるチャンスです!ぜひチャレンジしてみてください。

第3回の応募作品の中から作品を講評

この連載は、英文創作のエクササイズに挑戦して、第二言語で空想的文章を書く楽しみを体験してもらうのが目的です。読者の皆さんからの投稿を毎回紹介していきます。

前回の課題は、第1文を選択肢の中から選んでもらい、そこからand, so, but, thenといったシンプルなつなぎ言葉を使って、思いつくままに、無理矢理にでも物語をどんどん前へ進めていこうという課題でした。そして10センテンス書いたところで、突然、“The End”で終えるというのも今回の課題の決まりです。andやthenをたくさん使うことになるので、洗練された文章を目指すことはできません。その代わり、話の活きのよさや勢いが求められました。

今回も十数作の応募がありました。びっくりする話、愉快な話、かわいい話、ちょっと怖い話、不思議な話と多彩な物語が集まりました。悩んだ末に、物語にスピード感があり、つなぎ言葉がうまく話を展開させている町娘さんの作品を選びました。

町娘さん

I opened the closet door first thing in the morning and found a penguin there. And it jumped out of the closet and started waddling about. Then I searched the closet for the magical portal. But my dreamy adventure never began. Then I shared the incident with a photo of the waddler on SNS, expecting it would go viral.

And soon the post got many likes by penguin lovers with the same penguin avatars, putting the same words ‘The Penguin and Peace Party’ in their bios. Then I noticed most of my followers including Mab had changed their avatars and bios as well. And somehow their posts had been replaced by all penguin emojis and penguin pictures.

Then I suspected Mab of having played a bad prank on me again. So I rushed to her room, then I found a small piece of paper with the word ‘PENGUIN’ written in red ink on it on her empty bed. Then I ran downstairs to tell my dad and Jo on my dear crazy sister, only to find two more penguins in our living room, where pamphlets of The Penguin and Peace Party were scattered on the floor.

THE END

「朝起きてクローゼットの扉を開けるとペンギンがいた(I opened the closet door first thing in the morning and found a penguin there)」――これが課題の選択肢の中から選んでもらった冒頭文です。町娘さんの物語の語り手は、よちよち歩きで出てきたペンギンなどおかまいなしに、異世界への扉がクローゼットの奥にあるのではないかと探します。早くも冒頭第3文から、想像力がたくましく、冒険好きの語り手の性格が伝わってきます。活動的な物語を予感させて、先を読み進めたくなりますね。

しかし、ところがどっこい、そんなステキな扉はありませんでした。ここで思わず笑ってしまいました。テンポがいいですね。課題ではbutは一度しか使ってはいけない決まりでしたが、割と序盤で使っているのも潔い決断です。

語り手はつづいて、スマホでペンギンの写真を撮って、SNS上でバズらせようとします。ここもニヤリとする箇所です。クローゼットから突然ペンギンが出てきたという現実よりも、どこでもドアがあることを期待したり、SNS上の仮想の自己像を優先したり、語り手にはちょっと思い込みが強くて自己中心的な側面も感じられて、キャラクターに一貫性が見られます。そのため、とても短い物語であるにもかかわらず、語り手を信憑性(しんぴょうせい)のある存在として感じることができますね。これはとても大切なことです。

さて、ここでもまた語り手の期待は裏切られます。そうしてSNS上の異変に気がついて、きっとこれは姉妹のMabのいたずらに違いない、と思ってしまうのも、目の前の現実(ペンギン)よりも、仮想現実(ネット)を優先する語り手らしい反応です。そうして家族にMabのいたずらを報告しようと階下に降りていくと、なんとそこには人はおらず、2羽のペンギンと謎のチラシが・・・ここで唐突に物語は終わります。

どうやら「ペンギンと平和党」(略称PPP?)という謎の組織が、人類をペンギンに変える計画を発動した・・・のでしょうか?読者のわたしたちは想像するしかありません。この短編の冒頭で、語り手は異世界への扉が見つからなかったことにがっかりしたのですが、実はこの作品の結末こそが異世界への扉になっている、そんな終わり方です。チラシが壁に貼ってあったりするのでなく、床に散らばっている、というのも(なぜだかわかりませんが)ペンギンらしさが感じられると同時に、なんとなく不穏な感じで余韻のある終わり方です。

ペンギンによる人類の乗っ取りという解釈は、読者間でおおむね一致すると思うのですが、では果たしてなぜペンギンなのか、どうやって人類はペンギンに変わっていくのか、なぜ赤いペンなのか、そしてそれはペンギンとのシャレなのか、これから語り手に何が起こるのか、ペンギンの人類補完計画は成功するのか、ペンギンによって実現した平和な世界とはどんな世界なのか・・・短い物語ですが次から次へと想像が誘われます。これも、作品にスピード感があったからこそ。読者によって十人十色の空想が広がりそうなところも魅力です。

文章も無駄がなく、思い切りよく前に進んでいくので、andやthenなどを文頭に使うという少し子どもっぽいスタイルとマッチしています。ただ最後の文だけは、only to find という不定詞句やwhereで始まる修飾節があり、そこが少し説明的な印象を与えてしまうかもしれません。文の数が制限されているので、すべての情報を盛り込むのが難しいのですが、たとえば以下のような書き方もできるでしょう。

Then I ran downstairs to tell my dad and Jo on my crazy sister, and there, in our living room, I found two more penguins waddling about on pieces of paper scattered all over the floor, on the pamphlets of The Penguin and Peace Party.

このような視点で残りの部分も見直すと、語り手の声がピリッと締まってくるでしょう。

また今回、次点に選ばれたのはHokuさん、ちにすけさん、Yu Yukitoさん、micchieさん、ぬいさん、Kitisaさんです。次点に選ばれた方々には、吉田先生からの講評コメントをメールでお送りいたしますので、ぜひそちらもチェックしてみてください。

今回の文芸創作エクササイズのテーマは?

皆さんも英語創作エクササイズに挑戦してみましょう!応募作品の一部を吉田さんが選定し、次回の記事内で講評してくださいます。ぜひチャレンジしてみてください。

【課題】英語創作エクササイズ4:死んだ比喩を生き返らせる!

日本語にも英語にも面白い慣用句が無数にある。たとえば、日本語だと「左うちわ」「猫をかぶる」「虎の子」「腹を割る」。英語だと“put on dog” “cool as a cucumber” “break a leg”など。使い慣れている者にとっては意味を考えるまででもないが、改めて見直すと、不思議なフレーズも多い。中学校や高校の英語の授業で、“It rained cats and dogs.”という表現をはじめて教わったときの驚き――このような刺激こそが語学の楽しみであり、言葉がクリエイティヴな素材に変化するきっかけだと思う。

それと同時に、慣用句は定型的な「紋切り型」であり、創作的文章において、避けられるべき表現と見なされている。そもそも聞く者に新鮮な驚きを与える表現として生まれた比喩なのに、万人に使われるようになると次第に手あかがついて、陳腐な言い回し、いわゆる“dead metaphor”と化してしまう。しかし、その言語を母語に育った者にとっては安っぽい表現である慣用句も、外国語として新たに学ぶものには鮮明な印象を与える。だから、学習者の想像世界には「死んだ比喩」を生き返らせるという奇跡を起こす潜在能力が宿っている。

ノーベル賞作家J. M.クッツェーは、慣用句を文字通りに捉えなおすことで死んだ比喩を鮮やかに生き返らせる名手だ。たとえば、『マイケル・K』(くぼたのぞみ訳、岩波文庫)の終盤。収容所の医師が主人公の放浪者マイケル・Kに母親の安否を尋ねると、彼は“She makes plants grow.”と答える。それは「亡くなった」という婉曲(えんきょく)的な慣用表現“She is pushing up the daisies.”のことだろうと医者は解釈する。たしかにKの母は死亡して埋葬されたのだが、ここまでのKの道のりを知っている読者は、Kは手あかのついた紋切り型で母の死を告げているのではなく、文字通りの意味で「母が植物を大きくしている」のだと知っている。旅の途中で死んだ母は火葬され、Kには遺灰が渡された。Kは母の思い出の地にたどり着くが途方に暮れる。そこで、庭師である彼にできることは植物を育てることだと気づき、遺灰をまいて土地を耕し、かぼちゃの種を植えるのだ。そうして育ったかぼちゃは、Kが大事に育てた子どもであると同時に、母親でもある。だから文字通り“She makes plants grow”なのだ。

以下に挙げた英語の慣用句の中から、あなたの想像力を刺激するフレーズを選び、自由に状況を想像してみよう。意味を知らない慣用句の方が、飛躍した状況が描き出しやすいかもしれない。あるいは、知っている慣用句でも、しばらくじっと考えると「実は結構ヘンだな」と思えてくる。その瞬間に、言葉の異化作用は始まっている。あなたの力で、死んだ比喩をまったく新しい状況で生き返らせてみよう。

a ballpark figure

a kangaroo court

a pie in the sky

and Bob’s your uncle

bite the bullet

blow one’s socks off

cat got your tongue

cold turkey

give someone the hairy eyeball

go postal

hear something straight from the horse's mouth

hit the sack

kick the bucket

the best thing since sliced bread

wigs on the green

100ワードから250ワード程度。ひとつの光景や場面を描いたスケッチ風の文章でも、故事成語の由来譚(ゆらいだん)のような短いお話でもかまわない。文中に該当の表現を使う必要はないけれど、タイトルには選んだ慣用句をつけること。

まずは自由な発想で課題にチャレンジしてみてください。どうしても難しいなあというときや、書き終わってからほかの例を見たいときには、以下の回答例を見てくださいね。

【参加方法】

課題に従って英語の文章を作成し、以下のGoogleフォームからご応募ください。

ご応募はこちら

【募集期間】

2021年6月18日(金)~7月2日(金)※募集は終了しました。

※2021年7月16日(金)公開予定の次回の記事で、応募作品の一部について吉田さんが紹介し、講評します。

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吉田恭子

吉田恭子(よしだきょうこ)立命館大学教授。英語で小説を書く傍ら、英語小説を日本語に、日本の現代詩や戯曲を英語に翻訳している。著書に短編集『Disorientalism』(Vagabond Press、2014年)、翻訳にデイヴ・エガーズ『ザ・サークル』(早川書房、2014年)など。