「子どもだった」大人たちへ向けたクレイジーな作品【FILMOSCOPE】

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気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に長谷川町蔵さんが解説します。

今月の1本

『グッド・ボーイズ』(原題:GOOD BOYS)をご紹介します。


『グッドボーイズ』予告編

小学6年生の仲良し3人組が同級生の女子たちから「初キス・パーティー」に誘われる。キスの経験がまったくない彼らは、背伸びをしてさまざまな手を使いリサーチを開始する。そこで垣間見られる“オトナの世界”に、好奇心が止まらない少年たち。しかし、とある事件をきっかけにとんでもない騒動へと発展し、永遠に友情が続くと思っていた彼らに絶交の危機が訪れる……。

R指定のキッズムービー?

We’re in sixth grade now. We need to start doing sixth-grade things.

僕らはもう6年生だ。だから6年生らしいことを始めなきゃ。

口ではそんなことを話し合いながらも実行に踏み出せないマックス、ルーカス、ソーの12歳トリオにパーティーへの誘いが舞い込んだ。そこでは6年生っぽいことの極みである「キス・ゲーム」が行われるという。キス未経験のマックスたちは予習をしようと、父親のドローンを使って隣家の女子大生ハンナを盗撮しようとするが失敗。その代償としてパーティードラッグを買いに行かされる羽目に陥ってしまう……。

そんな物語が展開される『グッド・ボーイズ』は、アメリカ本国ではfilm rating system(映画の年齢制限の枠)からR指定(17歳未満の観賞は保護者の同伴が必要)を受けて公開された。ショービズ的には本来あってはならないことである。なぜなら主人公が子どものいわゆるキッズムービーは、メインの観客層として想定される同世代の子どもでも観られるG指定を獲得できるように、セックスや暴力についての描写が過激にならないよう注意深く作られるのが常識だからだ。それなのに本作は手加減なしの過激なコメディーに仕上げられてしまった。おかげでジェイコブ・トレンブレイをはじめとするローティーンの主演俳優たちは、完成した映画を観られずじまいだという。

しかし、一見マーケティングを無視したかのように思われた本作は、大人たちが口コミで劇場に押し寄せ大ヒットを記録した。キス・ゲームに興奮する一方で、ルーカスの両親の所有物であるアダルトグッズの用途については何も知らない主人公たちの無邪気さに、観客はかつての自分を見いだしたのである。こうした無邪気さがやがて失われてしまうことを知っているのは、当事者である子どもではない。それをすでに体験している大人の方なのだ。そういう意味でも本作はR指定に選ばれるべくして選ばれた映画なのかもしれない

『グッド・ボーイズ』(原題:GOOD BOYS)

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(C)Universal Pictures
Cast & Staff

ジーン・スタプニツキー/出演:ジェイコブ・トレンブレイ、キース・L・ウィリアムズ、ブレイディ・ヌーンほか/近日公開予定/配給:パルコ ユニバーサル映画

goodboys.jp

文:長谷川町蔵(はせがわ・まちぞう)

ライター&コラムニスト。著書に『あたしたちの未来はきっと』(タバブックス)、『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワーブックス)、『文化系のためのヒップホップ入門3』(アルテスパブリッシング)など。

編集:ENGLISH JOURNAL編集部

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年6月号に掲載された記事を再編集したものです。