「今聴いてほしいアーティスト」と関連する楽曲を音楽が伝えるメッセージや社会的・音楽的文脈などと合わせて渡辺志保さんが解説します。
今月の1曲
リル・ウージー・ヴァートの「 Eternal Atake (Deluxe): LUV vs. The World 2」を紹介します。
日本のアニメ&コミックカルチャーに魅せられたラッパー
かねてから、日本のカルチャーに魅せられる海外アーティスト、特にヒップホップ・アーティストは少なくない。カニエ・ウェストは映画『AKIRA』(1988)に対する憧憬をあらわにしてきたし、ベテランのラップグループ「ウータン・クラン」のリーダーでもあるRZAや、ファレル・ウィリアムス、ルーペ・フィアスコといったアーティストたちもこぞって日本のアニメ&コミックカルチャーから受けた 影響 を語ってきた。
そして近年、アメリカの若きヒップホップ・アーティストと日本のアニメ&コミックカルチャーの距離はますます近くなるばかり。彼らのリリックに目を通すと、「Goku(悟空)」「Yugioh(遊戯王)」「Naruto(ナルト)」といった固有名詞が頻出する。もちろん「Pikachu(ピカチュウ)」「Pokemon(ポケモン)」も人気だ。
また、現時点において最先端のヒップホップ・カルチャーと日本のアニメ&コミックカルチャーを最も端的に結び付けているラッパーといえば、1994 年生まれのリル・ウージー・ヴァートだろう。自らの体にゲームキャラクターのタトゥーを彫ったり、『千と千尋の神隠し』(2001)のTシャツを着てライブに登場したりするなど、“ギークネス” をアピールしてきた彼だが、最新アルバム『 Eternal Atake (Deluxe): LUV vs. The World 2』でもハッキリとその世界観を表している。
収録曲「You Better Move」では“Yu-Gi-Oh, Yu- Gi-Oh, you wanna duel? Blue- Eyes White Dragon, no , I will not lose”と、カードゲーム「遊戯王」に興じながら相手を負かせる line (詩)が登場。 ちなみに 彼はかなり気合の入った痛車コレクターとしても知られ、ブガッティなどの高級車に惜しげもなくきらびやかなカスタム&ペイントを施しているので、興味のある方はぜひSNS などでチェックされたし。
アニメカルチャーとヒップホップを結び付けるラッパー5選
今回の記事で紹介している音楽のプレイリストをご紹介します。
- Hollywood’s Bleeding by Post Malone
- ZUU by Denzel Curry
- Road To Falconia by Robb Bank$
- Inuyasha by XXXTentacion *1
- Anime World by SahBabii
音楽ライター。主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳に携わる。これまでにケンドリック・ラマー、A$AP・ロッキー、ニッキー・ミナージュ、ジェイデン・スミスらへのインタビュー経験もあり。block.fm『INSIDE OUT』をはじめ、ラジオMCとしても活躍中。
※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年6月号に掲載された記事を再編集したものです。