「今聴いてほしいアーティスト」と関連する楽曲を音楽が伝えるメッセージや社会的・音楽的文脈などと合わせて高橋芳朗さんが解説します。
今月の1曲
デュア・リパの「Future Nostalgia」を紹介します。
2017年にアルバム『Dua Lipa』でデビュー。セカンドアルバム『Future Nostalgia』に収録された「Don't Start Now」のMVはYouTube視聴回数2億7000万回を突破し、ミレニアル世代のポップアイコンとして注目を浴びている。
理不尽なジェンダーロールに異議を唱える1曲
昨年の第61回グラミー賞で最優秀新人賞を受賞、ダンスポップの新女王として注目を集めるデュア・リパがニューアルバム『Future Nostalgia』をリリースした。2017年発表のデビューアルバムでは、失恋した女の子に守ってほしい3つのルールを提唱した「New Rules」、そして復縁を迫る元カレを追い払う「IDGAF」など、女性の自尊心を高めるエンパワメントソングを積極的に歌ってきたデュア・リパ。しかし今回の新作に収録されている「Boys Will Be Boys」では、フェミニズムについてさらに一歩踏み込んだメッセージを歌っている。
Boys will be, boys will be boys / But girls will be women / When will we stop saying things? / ’ Cause they’re all listening / No , the kids ain’t alright / Oh, and they do what they see / ’ Cause it’s all on TV / Oh, the kids ain’t alrightこの曲でデュア・リパが題材にしているのは、近年問題視されているセクシャルハラスメントやマンスプレイニング(男性の女性に対する上から目線の説教)などを含む「トキシックマスキュリニティ(有害な男らしさ)」について。タイトルの「Boys Will Be Boys」は直訳すると「男の子はいつまでも男の子のまま」という意味になるが、古くから「男の子がいたずらをするのは仕方がないこと」とのニュアンスで使われてきた決まり文句になる。デュア・リパはこのフレーズによって正当化されてきた理不尽なジェンダーロールに正面から異議を唱え、悪しき伝統に終止符を打とうとしているのだ。男子はいつまでも男子/男子のまま/だけど女子は女性になっていく/みんなが聞いているからと、いつまであれこれ言ってるの/子どもたちは大丈夫じゃないわ/テレビでやっているから、見たことをやってしまう/子どもたちは大丈夫じゃない
「有害な男らしさ」について考える5選
今回の記事で紹介している音楽のプレイリストをご紹介します。
- The Man by Taylor Swift
- Gaslighter by Dixie Chicks
- Boys Will Be Boys by Stella Donnelly
- Woman feat. The Dap-Kings Horns by Kesha
- Real Men by Mitski
文:渡辺志保(わたなべ・しほ)
編集:ENGLISH JOURNAL編集部音楽ジャーナリスト、ラジオパーソナリティー、選曲家。TBS ラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」にレギュラー出演中。著書に『生活が踊る歌』(駒草出版)、『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』(NHK 出版)など。
※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年7月号に掲載された記事を再編集したものです。