ファッション用語にはカタカナ言葉があふれています。英語のままだったり和製英語だったり、英語ではない言葉だったり。複雑すぎて面白い。言語学者のアンちゃんにその魅力を語っていただきます。
本当の意味を知らずに使われるカタカナ言葉
日本人の日常生活に、和製英語はあふれています。
外来語も和製英語も日本語だから、人は無意識に使っています。
ある日、近くのショッピングモールに行ったときのことです。そこで働いていた店員さんが、「ブラックフライディーのバーゲンです!」のような表現を大声で連呼していました。
言語学者の私は、彼女に「すみません、ブラックフラディーってなんですか」と聞いてみました。
意地悪心が働いたわけではありません!
「ブラックフライディー」の意味を理解しているかどうか、純粋に知りたかったのです。
知らないかもしれない、と思いましたが、その通りでした。
「正直、あまりわかりません。」と彼女は答えました。
きっと、多くの日本人も同じでしょう。
ただ漠然と、「『ブラックフライディー』は11月末のセールのこと」くらいは知っているかもしれません。でも、「なんでブラックフライディーと呼ぶの?」「どういう意味があるの?」までを深く考えたことがある人は多くありません*1。
この「なんで?」の好奇心が生まれると、和製英語の魅力が分かってくると思います!
ところで、他の地域にある別の店では、今年「ブラックフライングデー」を始めました。なぜそんな名前にしたかというと、「ブラックフライディー」の前の日だからだそうです。だから、立派な和製英語の「フライング」を使った。
日本人のこんな言葉遊びが好きすぎてたまらん!
ファッション業界にも、無意識に使われている和製英語がたくさんあります。洋服は、その名前の通り「西洋」から日本に入ってきたものですから、当然、その洋服に関連する外来語がたくさん入ってきていて、和製英語もたくさん作られています。
そんなファッションに関連するカタカナ言葉のどれが和製英語なのか?どれが外来語なのか?今日は、それについて話していきたいと思います。
では、始めましょう!
英語には形容詞の意味のみ!洋服のワンピース
最初に取り上げるのは「シャツ」。シャツ自体は英語ですが、Yシャツは和製英語です。Yシャツは、Yという文字の形から来たのではなく、「ホワイトシャツ」の音から来たと言われています。
英語では、dress shirtと言います。
When I got hired at that company, I went out and bought ten new dress shirts.
あの会社に採用されたとき、Yシャツを10枚買いに行った。
では「ワンピース」は?
これは残念ながら和製英語です(イギリス英語で一枚布の水着をone-pieceと言うことがあるようですが、それでも洋服のワンピースの意味はありません)。英語ではdressと言えば大丈夫です。
one-pieceは形容詞のため、単独で使うことはできません。dressを修飾する形容詞としてone-piece dressの形で使うのであればオーケーです。これと同じように、スーツの「ツーピース」や「スリーピース」も英語では単独で使いません。
Two-piece suit ツーピース
Three-piece suit スリーピース
I really like the dress you are wearing.
あなたが着ているワンピースは本当にすてきです!
You should really wear a two-piece suit to your interview.
面接にはツーピースを着ていったほうがいいよ。
私が大好きな和製英語に「コーデ」があります。これは、「コーディネート」を略したものですが、英語のcoordinateはというと、「合わせる」という意味の動詞で、名詞ではありません。
「コーディネート」は英語でoutfitと言います。
My sister posts pictures of her outfits on Instagram every day.
妹は毎日、コーデの写真をインスタにアップする。
パーカー?フーディー?あなたはどう呼びますか?
他にももっとあります!では、「パーカー」は?
parkaという単語は英語に存在しますが、意味は日本語の「パーカー」」と全く違います。
英語のparkaは、エスキモーが着るようなとても分厚いコートのことです。日本語の「パーカー」が指す衣類は、英語ではhooded sweatshirtと言います。これをさらに略すとhoodieになります。
このhoodieという言い方は、特に若者がよく使います。日本語でも「フーディー」という単語が使われているのをたまに見かけますが、和製英語と外来語の両方が同時に使われているということですね。
ところで、この連載の第5回で触れたSNSにも同様の現象が見られます。SNSという言葉は和製英語ですが、最近、外来語の「ソーシャルメディア」もよく目にするようになりました。両方とも日本語として定着するのか、またはどちらか一方だけが残るのか。こればかりは時間がたたないとわかりません・・・。
さて、「フーディー」の話に戻りましょう。
この「フーディー」は別の意味の英語と似ています。それはfoodieです。foodieは「食べることが大好きな人」を表す単語です。日本語で言えば「グルメ」。日本語では/h/と/f/を区別しませんから、「パーカー」と「グルメ」の「フーディー」は発音が同じになります。面白いですね。
I forgot my hoodie, so I was cold all day.
今日はパーカーを持って行くのを忘れたから、ずっと寒かった。
My brother is such a foodie. He spends all his time looking for delicious foods.
弟は、本当にグルメだ。ずっとおいしい食べ物を探しています。
アメリカともイギリスとも違う、日本のジャンパー
着る「コート」(coat)とテニスの「コート」(court)はカタカナが同じになるため、学生はよく“I played on the tennis coat today.”と書きます。
コートは本物の英語で「ジャケット」もそうです。でも、日本の「ジャンパー」は和製英語です。ちなみに日本では、おしゃれな「ジャンパー」を「ブルゾン」と呼びますが、これはフランス語由来の外来語です。
日本語のジャンパーを英語で言うと、jacketやcoatになります。その境界線には個人差があるように思います。何がジャケットで何がコートなのか、そして何がブルゾンなのか、人によってイメージが違うようです。でも、「ジャンパー」が和製英語なのは間違いありません。
アメリカ英語の場合、jumperは妊婦さんが着るようなワンピースを指します。イギリス英語の場合は分厚いセーターです。どちらも日本語の「ジャンパー」とは全くの別物です。
It’s really cold today, so don’t forget your jacket.
今日は、バリ寒いからジャンパーを忘れないでね。
My husband gave me a new fur coat for Christmas.
夫がクリスマスに新しいファーコートをプレゼントしてくれました。
「インナー」と「アウター」という言葉もありますね。これはどちらも和製英語です。英語ではinnerwear、outerwearと言わなければなりません。
ファッション関係のそのほかの言葉をリストアップしておきます。英語のままだったり和製英語だったりして興味深いです。
- ノースリーブ sleeveless shirt
- タートルネック turtleneck
- セーター sweater
- マフラー scarf
- 耳当て、イヤーマフ ear muffs
- ズボン pants、slacks
- デニム、ジーンズ jeans
- 半ズボン、ショートパンツ shorts、short-pants
- ルームシューズ slippers
- ルームウェア loungewear
- パジャマ pajamas
- パンティー、パンツ、ショーツ panties, underwear
- トランクス boxer shorts
- ブリーフ briefs
- 下着 underwear
ピアスとイヤリングはどう違う?
最後にアクセサリー関連の言葉に行きましょう!(accessoriesという言葉は英語ですが、英語ではそれほど使わない言葉のように思います。)
ここで取り上げたいのは「ピアス」という言葉。これは、立派な和製英語です!英語にpierceという単語がありますが、これは動詞としてしか使われません。意味は「穴を開ける」とか「刺す」という意味です。
日本語の「ピアス」は英語でpierced earringsや earringsと言います。「イアリング」はというと、英語でclip-on earringsとなります。ややこしいですね・・・。
I got my ears pierced yesterday, so my Mom bought me some cute earrings.
昨日、ピアスを開けたから、お母さんが可愛いピアスを買ってくれました。
My ears aren’t pierced, so I am wearing clip-on earrings.
ピアスは開いていないので、イアリングを着けています。
最後に「ボディーバッグ」について話をさせてください!ある日、ショッピングモールで「ボディーバッグセール!」のようなポップ広告を見かけました。言語学者のアンちゃんは爆笑しました。「ショッピングモールで?ボディーバッグ?いらん!」と思いました。
なぜ?
日本語の「ボディーバッグ」は、若者がよく使う「斜め掛けかばん」を指します。でも、英語のbody bagは「死体を入れるチャック付きの袋」のことです。よく犯罪ドラマに出てきますよね?誰かが殺された後、警察はその死体をbody bagに入れます。だから、「ボディーバッグを買いたい!」なんてアメリカで口にしたら、絶対に怪しい人だと思われる!
さて、今回の話はいかがでしたか?勉強になりましたか?ファッションの世界は和製英語であふれています。日本人同士でも解釈が異なる言葉がありますが、日本語のコミュニケーションでは、楽しく和製英語を使ってほしいと思います。
でも、英語圏に旅行するときには、絶対に“I want a body bag.”と言わないように気を付けて!
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文:アン・クレシーニ
アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中!
写真:リズ・クレシーニ