英語では何て?エッセー集『翻訳地獄へようこそ』からクイズ3題

博識ぶりと名訳で知られる宮脇孝雄氏によるエッセー集『翻訳地獄へようこそ』。この珠玉のエッセー集の一部を、クイズ形式で紹介します!

翻訳地獄へようこそ
 

【クイズ1】「秋の男」はどんな男?

こちらはアメリカのジョーク。さて、2つ目の英文の( )にはどんな単語が入るか、わかりますか?

What happend to her summer romance ?

彼女の夏のロマンスはどうなった?

 

She started looking for a  ( ) guy.

、秋の男を探し始めたところさ。

答えは fall 。「秋の男」はそのまま fall guy でいいのです。

これは、文字通り「夏のロマンスが終わったので『秋の男』を探し始めた」という意味ですが、それだけでありません。 fall guy にはアメリカの俗語で「だまされやすい人」という意味もあるのです。つまり「彼女は次のカモを探し始めたよ」ということ。

本書によれば、レイモンド・チャンドラーのミステリー小説の中にこの fall guy がよく登場するそうですが、ここではまた違ったニュアンスになるそうです。

A dead man is the best fall guy in the world. He never talks back.

死んだ者は世界最高の身代わりだ。絶対に口答えしないから。

ここでは、 fall guy は「身代わり、スケープゴート」という意味で使われています。確かに「カモ」では違和感がありますね。

文脈によってどの訳語を使うかが、翻訳者の腕の見せ所でしょうか。

【クイズ2】nurseはどんな職業?

nurse といえば看護師のこと。最近は、日本語でもこのまま通用しますね。

では、あなたなら次の訳文の( )にどんな職業名を入れますか?

This is your new nurse,  Mary Poppins.

こちらはあたらしい( )のメアリー・ポピンズよ。

「メアリ―・ポピンズって看護師だったっけ?」と気づいた方は、なかなか鋭い。

nurse は今では看護師ですが、昔の小説では、乳母または保母を意味することが多いのです。保母には「子守り」や「家庭教師」が含まれることも。

上記の英文なら、やはり 「こちらは新しい家庭教師のメアリ―・ポピンズよ」 と訳すのがしっくりくるでしょう。

本書によれば「nurse というのは日本の翻訳家が苦手とする単語であるらしい」とのこと。nurseをめぐるエピソードは、このほかにも数回出てきます。

nurse が出てくる英文を読んで混乱したら、「看護師」ではなく「子守り」や「家庭教師」に置き換えて考えてみるといいかもしれません。

【クイズ3】妻にあげたものは?

最後の問題は、本書の著者、宮脇孝雄氏が読んでいた翻訳のミステリー本から。

主人公の男が仕事相手の家で商談をしています。うまくまとまり、お酒をくみ交わすうちに「奥さんも呼んだら」という話に。仕事相手が唐突にこう言います。

奥さんに指輪を買ってあげたらどうです?
これは意味が分かりませんね。さて、原文はどのようになっていたと思いますか?

ピンと来た宮脇氏は すぐに 原文に当たります。答えはこちら。

Why not give her a ring?
give ~ a ring で「~に電話する」という意味。つまり、仕事相手は「奥さんに電話をしたら?」と言っていたわけです。プロの翻訳者がこんな誤訳をするとは驚きですが、編集者も気づかなかったのでしょうか……。

まとめ

宮脇氏は、英文や翻訳文を読んで気になる部分があったら、 すぐに 、そして徹底的に調べます。原文に当たるのはもちろん、英和辞典、英英辞典、ネイティブ向けに書かれた文法書や表記法の本、英語圏で出版された図鑑や図表の類まで。英語の小説の中に京都弁を話す人物が出てきたときには、京都出身の知人にも 協力 を仰ぎ、できる限り自然な京都弁を追及しています。

それだけの努力をしても、「こんな訳文では駄目だと、(中略)自分で自分をちくちくと攻撃することになる」のだとか。

翻訳者がこの「地獄」を潜り抜けるからこそ、私たち読者は海外文学を日本語で楽しむという「天国」を味わえるわけで、実にありがたい限り。地獄をよくご存じの翻訳者や、ちょっとのぞいてみたい翻訳志望者、海外文学ファンや英語学習者にもおすすめの1冊です。

翻訳地獄へようこそ
 

構成・文:GOTCHA!編集部
GOTCHA(ガチャ、g?t??)は、I GOT YOUから生まれた英語の日常表現。「わかっ た!」「やったぜ!」という意味です。英語や仕事、勉強など、さまざまなテー マで、あなたの毎日に「わかった!」をお届けします。

語彙力&フレーズ力を磨く、おすすめの本

ネイティブと渡り合える、知的で洗練された英単語力。

本書は、アルクの『月刊ENGLISH JOURNAL』(1971年創刊~2023年休刊)に掲載されたネイティブスピーカーの生のインタビューやスピーチ、約300万語のビッグデータから、使用頻度の高い英単語300個を厳選し、一冊に編んだものです。

すべての英単語は日本語訳、英英定義、例文と共に掲載、無料ダウンロード音声付きで、読んでも聞いても学べる英単語帳です。また、難易度の高い単語をしっかり定着させるため、穴埋め問題やマッチング問題、さらに構文や使用の際に気を付けるべきポイント解説も充実しています。伝えたいことが明確に伝えられる、上級者の英単語力をこの一冊で身に付けましょう!

英語中級者と上級者の違いは、的確で、気の利いたフレーズ力!

50余年の歴史を持つ、アルクの『月刊ENGLISH JOURNAL』(1971年創刊~2023年休刊)に掲載されたインタビューやスピーチ約300万語というビッグデータの中から、頻出する英語フレーズ300個を厳選。日常会話やemail、SNSではよく使われているのに、日本人が言えそうで言えない、こなれたフレーズを例文と英英定義と共に収載しました(全音声付き)。

厳選した300種類の穴埋め問題&マッチング問題を通して、「見てわかる」のレベルから「自分でも使える」ようになるまで、しっかり定着させます。上級者への壁をこの一冊で打ち破りましょう!

難関大を目指す受験生が英単語を「極限まで覚える」ための単語集

大学入試などの語彙の問題は、「知っていれば解ける、知らなければ解けない」ものがほとんど。昨今の大学入試に登場する単語は難化していると言われており、文脈からの推測や消去法では太刀打ちできない「難単語の意味を問う問題」が多数出題されています。こうした問題をモノにして、周囲に差をつけるには、「難単語を知っていること」が何よりのアドバンテージです。

SERIES連載

2024 03
NEW BOOK
おすすめ新刊
観光客を助ける英会話
詳しく見る
メルマガ登録