連載「ウルトラ英会話表現」の第10回。ブルーにはさまざまな種類がありますが、今回はその中でも「out of the blue」「once in a blue moon」「blue blood」という英語表現を紹介します。これらの表現にはそれぞれ独特の意味があり、日常会話や映画のセリフでよく使われます。さまざまな場面で活用してみましょう。
さまざまな種類がある色、blue
前回は女性ナレーターのシャツの色が緑なのか青なのか、意見が対立したというエピソードから、greenについての英語表現を紹介しました。そこで、今回はblueについてお話ししようと思います。
『プラダを着た悪魔』(2006、原題:The Devil Wears Prada)という映画に、blueについてのこんなシーンがあります。
映画のタイトルにもなっているdevilのようなファッション誌の鬼編集長をスタッフたちが囲み、全員でドレスに合うベルトを真剣に選んでいるとき、アン・ハサウェイ演じる新人アシスタントがくすっと笑ってしまうのです。
それを聞いた鬼編集長は言います。
Something funny?
何かおかしい?
あわててアシスタントは答えます。
No, no, no, nothing. You know, it’s just that both those belts look exactly the same to me. You know, I’m still learning about this stuff.
なんでもありません。いえ、ただ、私には両方のベルトがどちらも同じに見えるので。それになんていうか、私、今そういうものを学んでいる最中なので。
you knowを2度も繰り返しているところに、彼女の慌てぶりが伝わります。しかし鬼編集長はスタッフ全員で色合わせをしていたその場で、「色」についてアシスタントが “this stuff”(そういうもの)呼ばわりしたことに激怒して次のように言います(とても静かに怒っているので余計怖いです・・・)。
This s–, “stuff”? Oh, OK. I see. You think this has nothing to do with you. You go to your closet, and you select, I don’t know, that lumpy blue sweater, for instance, because you’re trying to tell the world that you take yourself too seriously to care about what you put on your back.
そういう、「も、もの」ですって?そう、なるほどね。この選択は自分には関係ないと思ってるのね。あなたは自分のクローゼットから自分で選ぶのよね、例えばそのダサいブルーのセーターを。私は真面目だから洋服なんて気にして生きていないって、周りに伝えようとしてるのね。
何だか恐ろしい展開になってしまって、彼女は助けを求めて周りを見回しますが、誰も助けてくれそうにありません。鬼編集長は続けます。
But what you don’t know is that that sweater is not just blue. It’s not turquoise. It’s not lapis. It’s actually cerulean.
あなたは知らないでしょうけどね、あなたが着ているそのセーターはただのブルーじゃないのよ。ターコイズでもない。ラピスでもない。それはね、セルリアンなのよ。
ただのブルーもターコイズも、ラピスもセルリアンもきっと同じに見えてしまう僕には、鬼編集長が激怒している理由は分かりにくいです。でも、「一流デザイナーや一流ファッション誌が厳選した色がコレクションに登場し、その後そっくりの色が市場に出回り、めぐりめぐってあんたがセール品の中から選んだセーターの色になっているのよ」と彼女のセリフは続くのです。
ビートルズが現役のとき、発表するどの新曲もあまりにも斬新だったため、コード進行を真似するだけで10曲以上作曲することができた、と僕を音楽学校の講師に呼んでくれた恩人である大作曲家が豪語していました。それと同じようなことか?と映画を見ながら思いました。全然違うのかもしれませんけど・・・。
ちなみに、ターコイズとはトルコ石のことで、『ウェブスター辞典』は、その色をa light greenish blue(明るい緑がかった青)と記述しています。『プラダを着た悪魔』の鬼編集長が怒りそうな説明です。
ラピスはlapis lazuli(瑠璃)という名の鉱石のことで、lapis blueという色はa rich azure blue(豊かな空色)だそうです。分かるような、分からないような説明です。
セルリアンは、『ウェブスター辞典』ではresembling the blue of the sky(空の青のような)、『アメリカン・ヘリテージ英語辞典』では Azure; sky-blue(空色の)と、これまた鬼編集長にぶっとばされそうな説明になっていました。
いろいろな種類のブルーがあるようですが、blueを使った英語表現にも、いろいろなものがあります。
out of the blue
まずは out of the blue。
どんな意味でしょう。「青から」だと意味が分かりませんよね。
『THE WIRE/ザ・ワイヤー』(2002-2008)というギャングもののテレビドラマに、これを使ったセリフが出てきます。見慣れない麻薬の包みを前に、ギャング2人が交わす会話です。
A: What’s this stuff? こいつは何だ?
B: Omar... オマーが・・・
A: Omar what? オマーがどうした?
Omarは敵対するギャングのボスです。Bは答えました。
B: Omar showed up with the stash out of the blue.
オマーがstashを手に out of the blue で現れた。
stashという単語が試験に出ることは絶対にありませんが、ギャング映画や刑事ドラマでは最重要頻出語の1つです。「隠しているもの」のことで、麻薬や現金、拳銃などを示す隠語です。日本語の「ブツ」が近いニュアンスだと思います。
そして、out of the blueは「突然」という意味です。先の会話では「ブツを手にオマーが突然現れたんだ」となります。
ミュージカル映画の『マンマ・ミーア!』(2008)でもこの表現が使われています。主人公が、母親の大昔の日記を友達2人の前で、声を出して読み上げるシーンです(2分31秒くらいから)。
August 11, Harry turned up out of the blue, so I said I’d show him the island. He’s so sweet and understanding I couldn’t help it.
8月11日、ハリーが突然やってきた、だから私は島を案内してあげると言った。彼はとても優しくて思いやりがあって、私、もうどうしようもないわ。
out of the blueはa bolt out of the blue(青空からの稲妻)という言い方をすることもあります。「寝耳に水」や「晴天の霹靂(へきれき)」という日本語に当てはまります。
The bankruptcy of that company was like a bolt out of the blue.
あの会社の倒産は寝耳に水だった。
My ex visited me last night. It was like a bolt out of the blue.
昨晩、元カレが訪ねてきたの。晴天の霹靂ってやつよ。
once in a blue moon
次はonce in a blue moon 。「青い月に一度」・・・、どんな意味でしょう。
blue moon とは、同じ月(month)に現れる2度目の満月のことを言います。月の満ち欠けの周期は約29.5日なので、通常は1カ月に1度だけ満月を見ることができます。しかし月初めの1日か2日が満月だったら、その月の最後の日あたりで、また満月になります。(2月は28日か29日しかないので当てはまりません)。このようにblue moonを見る機会はとても少ない(約2年半に1度)ことから、「めったに〜ない」「たまにしか〜しない」のような意味で使います。
My boyfriend gets angry only once in a blue moon.
私の彼はめったに怒ったりしない。
Our CEO Mr. Jones only appears in public once in a blue moon.
私たちの最高責任者、ジョーンズ氏はめったに人前に出ない。
ある医療ドラマにこの表現が使われているシーンがありました。その日運び込まれた若い男性の患者の体内には、なんと卵巣があることが精密検査により判明しました。ドクターたちは顔を見合わせ、そのうちの1人がこう言いました。
A case like this comes once in a blue moon.
こんな症例はめったにないぞ。
ちなみにblue moonが実際に青く見えるわけではありません。NASAによると、1833年にインドネシアで火山が噴火した際、大気にただよう灰によって月が青く見えたことがあり、それがこの呼び方のきっかけになった可能性がある、とのことです。
1934年に書かれた“Blue Moon”という名のスタンダードナンバーがあります。エルビス・プレスリーやフランク・シナトラをはじめ、数えきれないほど多くの歌手にカバーされた曲ですが、ここでのblue moonは珍しい月という意味ではありません。「寂しげに見える月」という意味です。
サム・クックによるカバーを聴いてみてください(とても良いです。僕はプレスリーやシナトラのバージョンより、こちらの方が好きです)。
blue blood
最後は blue blood 。She’s a blue blood.のように使います。「青い血」を想像すると、宇宙人のようですが違います。「彼女は名門の血筋だ」という意味です。
blue bloodは「高貴な人、貴族、名門の血筋」という意味で、blue-bloodedという形で形容詞として使うこともあります。
ある刑事ドラマで次のようなセリフがありました。メキシコギャングのボスが殺された後、ろくでなしの息子がその後を継ぎたいと手を挙げますが、それに賛同する部下は誰もいません。そのうちの1人のセリフです。
He just thinks himself blue-blooded, which means nothing. Who cares?
ヤツは自分が名門の血筋だと思っているんだろ、意味ねえよ。誰が気にする?
イタリアマフィアだと、どんなに駄目なやつでも血のつながりはほぼ絶対の優先事項なのに、中南米ではそうでもないのか?と思いながら見ていましたが、このセリフではギャングのボスの息子であることをblue-blooded(高貴な)と表現しているところが、皮肉めいたスパイスになっています。
普通は次のような使い方をします。
Kate is marrying a super rich man from high society. He seems to be a real blue blood.
ケイトったら上流階級の大金持ちと結婚するのよ、そいつマジで上流階級らしいよ。
My blood is not blue, I can’t afford to buy this new Ferrari.
僕は貴族じゃないんだから、この新しいフェラーリなんて買えないよ。
A blue blood can never understand the pain of being homeless.
名門の家柄の人に、ホームレスの痛みは決して理解できない。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回もどうぞお楽しみに。
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