連載「ウルトラ英会話表現」の第9回で取り上げるのは、green(緑色)に関連する表現。「go green(緑になる)」や「green-eyed(緑色の目の)」という英語は、本当はどういう意味でしょう。
目次
青に見えたシャツの話
先日あるナレーターが奇麗なブルーのシャツを着て、レコーディングスタジオに現れました。彼女は普段からおしゃれな人ですが、そのときはブルーが特に似合っていたので僕は言いました。
Hey, blue suits you! You look great!
ブルーが似合ってる。すごくいいね。
僕の言葉に彼女は怪訝(けげん)な顔をしました。
Blue? Does this look blue to you?
ブルー?あなたにはこれがブルーに見えるわけ?
彼女は隣にいる別のナレーターをつかまえて、自分の服の色を尋ねました。
What color is this? What do you say?
これって何色?どう思う?
ややけんか腰のその尋ね方にうろたえながら、彼は彼女と僕の顔を交互に見ながら答えました。
Uh, what? Blue...it’s blue, isn’t it?
え、何?ブルー・・・だろ?違うの?
そのシャツはブルーといっても、ちょっと不思議な複雑な色合いだったので、彼女はそれをただのブルーと言われたことが不満だったのかなと思いましたが、そうではありませんでした。
彼女は自分の服はgreenだ、emerald greenだと言うのです。
長い長い話し合いを経ても見解の違いの溝は埋まらず、最後は女性が見えている色と男性が見えている色は色彩が違う、ということで落ち着きました。
OK, if you say so.
君がそう言うならそういうことにしよう。
となりました。
今回は色、彼女がこだわったgreenについてお話ししようと思います。
greenが持つさまざまな意味
green、あなたはこの色にどんなイメージがありますか。
「自然豊かな」「新緑の」、そして「環境に優しい」――そう答える人もいるかもしれません。実は英語のgreenに関して言えば、「環境に優しい」はイメージではありません。
ケンブリッジ英語辞典やメリアム・ウェブスターには、 greenは色を表す他に、形容詞の項目にこう記されています。
Cambridge Dictionary:
relating to the protection of the environment
環境保護に関する
Merriam Webster:
concerned with or supporting environmentalism
環境保護主義に関心がある、または支持している
つまり、greenにはその意義自体に、the protection of the environment(環境を守ること)を含んでいるのです。
だから、例えば、
green issue=環境問題
green activist=環境活動家
green politics=環境保護政策
という日本語になるわけです。
日本語の辞書を見ると「緑」には色を表す他に「緑色の草木、植物。転じて、自然」とはありますが、「環境保護」という意義はありません。「緑」と「green」の相違点の一つです。
go greenは何を指す?
go greenという言い方があります。どんな意味だと思いますか?
「緑に行く?」「緑になる?」なんじゃそりゃ・・・と諦めないでくださいね。
go greenは「環境に配慮した生活を送るようにする」という、とてつもなく長い日本語を2語で表現できるすばらしい英語です。
例えばこんなふうに使います。
In order to go green, as a starter I stopped receiving plastic bags in a supermarket.
環境に優しい生活を送るために、私は手始めにスーパーでレジ袋を受け取るのをやめた。
緑色の目をした怪物とは?
「環境」や「環境保護」とは懸け離れた意味のgreenもあります。
green-eyed 緑色の目の
green-eyed monster 緑色の目の怪物
緑の目の怪物とはどんな怪物なのでしょう。種明かしになってしまいますが、日常生活ではこんな表現がよく使われます。
green with envy
嫉妬で緑になる
これは「嫉妬する」という意味です。
Stacy was green with envy when she saw her ex’s success.
ステイシーは元カレの成功に嫉妬した。
My brand-new Lexes and fur coat made her green with envy.
私の新しいレクサスと毛皮のコートに彼女は嫉妬した。
映画『風と共に去りぬ』(1939、原題:Gone With the Wind)で、主人公のスカーレットが故郷を再び訪れたときのセリフにもこの表現があります。
I want everybody who’s been mean to me to be pea-green with envy.
意地悪だったみんなをうらやましがらせてやりたいわ。
green with envyをpea-green(エンドウ豆のような緑色)と言っていますが、意味は同じです。
偉大な劇作家にまでさかのぼるgreen
シェイクスピアの4大悲劇の一つ、『オセロ』にもこれを使った超有名なセリフがあります。
実直な性格の将軍オセロに、果てしなく性悪な部下イアーゴが耳打ちをしました。オセロの妻デズデモーナのありもしない不実をオセロに報告した後、さらにイアーゴはこんなふうにオセロにくぎを刺すのです。
O, beware, my lord, of jealousy!
It is the green-eyed monster, which doth mock the meat it feeds on.
ああ、将軍様、嫉妬にはお気を付けなさい!
それは緑色の目をした怪物で、餌食とする人間をもてあそぶのですから。
でっち上げのうそでオセロに嫉妬をたきつけておいて、嫉妬こそが身を滅ぼすと忠告する、劇中盤クライマックスのセリフです。
初めて「オセロ」を見た高校生のときから、体が震えるくらい嫌いな場面でしたが、何度もこの芝居を見ているうちに、「僕は観劇中、いつもこのセリフを待っているんだ」と気付いて、ぞっとしたことがあります。
そのくらいパワフルな場面なのですが、お伝えしたかったのは、シェイクスピアの脚本で嫉妬が「緑色の目をした怪物」と表現されていることです。
また、『ヴェニスの商人』でも、green-eyed jealousy(緑の目をした嫉妬) という言葉が出てきます。
このように、「緑色の目」を「嫉妬」の象徴にしたのはシェイクスピアが最初です。
その昔、嫉妬は病気の一つと考えられていた?
古代ギリシャでは嫉妬は緑色の胆汁の過剰な分泌による病気の一つとされていて、嫉妬と緑色は紀元前から関連付けられていたようです。
古代ギリシャの女性詩人サッフォー(またはサッポー:Sappho)は、同性愛を含め数多くの恋愛の詩を残した人です。紀元前には既に、彼女が嫉妬に苦しむ彼女自身を次のように詩に記しています。
I see nothing with my eyes,
何も見えない、
my ears hum, sweat pours from me,
耳鳴りがして、汗は流れて、
trembling seizes me all over,
体中震えが止まらない、
I am greener than grass.
私は草よりも緑色。
原詩は古代ローマ語です。英語はデイビッド・A・キャンベル(David A. Campbell)という人による訳です。サッフォーの作品は恋心、嫉妬、別れ、同性愛、異性愛、モチーフは問わずどれもやたらと情熱的です。英訳もたくさん出版されています。
僕は高校2年生の春休みの研究課題で扱ったので少しだけ詳しいのですが、興味を持った人はぜひ読んでみてください。何もかもを投げ出すこんな恋愛をしたいと思うかもしれません(思わないかもしれません・・・)。ちなみに彼女の出身地の地名レスボス島からレズビアンという語が生まれました。
青信号が緑色の謎
最後にgreenについてもう一つ。
日本語では緑色の交通信号を「青信号」と言いますよね。これ、不思議だと思いませんか。僕はずっと理解できないと思っていたので調べたことがあります。
日本語では古来、「緑」のことを「青」と呼んでいたそうなのですが、信号については実はこれとは別です。日本に信号が生まれた1930年(昭和5年)は「緑信号」と呼ばれていたそうです。でも現在では「緑信号」と言う日本人はいませんよね。誰もが「青信号」と言います。
そのため英語でも思わずblue lightと言ってしまう人がいるのではないでしょうか。僕の周りには数人います。
A: Turn right at that blue light there.
B: What? Blue light? Where?
A: あの青信号のところを右折ね。
B: え、何?青色の信号?どこ?
アメリカでは、日本語で緑を青とも言うことが知られていませんから、こんなことになってしまうかもしれません。
英語では見える色のまま green lightと言います。ちなみに黄色信号のことをイギリス人の友人はみなamber(琥珀[こはく]色)と言います。そしてオーストラリア人の友人はなんとorangeと言います。アメリカでは聞いたことがなかった言い方です。
青信号に話を戻します。green lightは日本語で言う「ゴーサイン」(和製語です)という意味もあり、こんなふうに使います。
Our boss gave us the green light to start the new project.
上司から新しい企画をスタートするゴーサインをもらえたよ。
If you’re given the green light from your mother, I can take you to the camping trip.
お母さんに了承をもらえたら、君をキャンプに連れて行くよ。
日本語では緑色のリンゴも青リンゴと言いますね。信号と同じで英語では見えるままgreen appleと言います。僕が育ったアメリカのウィスコンシン州では、青リンゴは大抵Granny smithと、その品種名で呼ぶことが多かったですけどね。
「青二才」も緑色
先ほど、最後と言いましたがもう二つだけ(多い!)。
日本語に「青二才」という言葉がありますね。小学館の辞書によると「経験の浅い年若い男。あざけりや謙遜の気持ちを込めて言う」とあります。女性には使わないそうです(知りませんでした)。
英語ではこの青もgreenで表現します。
green as grass
「草のように緑色」で「青二才の」「未熟な」という意味です。英語では女性にも使います。
He’s just a trainee and green as grass.
ヤツはただの見習いで青二才だよ。
最後にgreen cheese。green cheeseとは、緑色のチーズのことではなく、熟成が進んでいない若いチーズのことです。青カビのチーズを指すblue cheeseとは意味が違います。
今回はgreenについて紹介しました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回もぜひお楽しみに。
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本文写真:Marco Xu, Robert Thiemann, Jametlene Reskp from Unsplash
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