英会話の達人、カン・アンドリュー・ハシモトさんの連載がパワーアップ。「イージー」から「スーパー」に名前が変わりましたが、中身はいつものまま、楽しくためになること間違いなし!です。パワーアップした初回では、“Do you want to...?”の本当の意味について考えましょう。
自慢の姪(めい)が日本語を勉強しにやって来た
ちょうど2年前の10月、カリフォルニアに住む僕の姪が日本語の勉強のために何度目かの来日をしました。Double major(2分野専攻)で大学を卒業し、獣医の資格も持っている自慢の姪ですが、望むところに就職できず大学卒業後は仕事を転々としていました。そんな彼女から連絡がありました。
I quit my job again. Don’t ask me why. I guess I’m in my moody 20s.
また仕事辞めちゃった。理由は聞かないで。たぶん私、悩める20代なんだわ。
そして言いました。
「今度こそ本気で日本語を勉強しようと思うんだけど、何カ月かそっちに行ってもいい?泊めてくれる?」
「パパ(僕の弟)の了解はもらってるの?」と僕がたずねると彼女は笑いました。
I’m not a kid anymore, Kan.
私もう子どもじゃないのよ。
小学生の頃から何度となく日本語に挑戦してきた彼女でしたが、結局最後はスペイン語やフランス語に変更して単位を取り直していたので、日本人の血が入っているのに彼女はほとんど日本語を話すことができないままでした。
アメリカに住む僕の弟も、最初こそ張り切って、
I could be a big help.
たくさん手助けができるよ。
と、平仮名のドリルを日本から取り寄せたりしていたのですが、何しろ「お正月は12月だっけ?それとも1月?」というレベルだったので、全く頼りになりませんでした。
僕は日本語教材の担当だったアルクの編集者に連絡をして、お勧めの日本語学校を教えてもらいました。姪の決意も今度は固いようでした。
マンガの決めぜりふならペラペラなんだけど?
「私も以前とは違う。もう既に知っている言葉も随分あるんだ。日本語のマンガとアニメをたくさん見てるから。『ナルト』ってマンガ、知ってる?え、知らない?じゃ『デスノート』は?すごくイイよ。知らないの?『ランマ』は?『ラ、ン、マ』。え、それも知らない?どうして?マジ?全部日本のマンガだよ」
彼女が口にしたタイトルを僕は聞いたこともありませんでした。でもそれらを通して彼女が日本語をもう一度やってみようと思ったのなら、日本のマンガのパワーに感謝だな、と思っていました。
日本語学校でクラス分けの試験を受け、彼女は25あるレベルのうち下から3番目のクラスに入りました。落ち込んでしまうかなと心配しましたがそんなことは全くなく、下のクラスはアメリカ人が多くてたくさん友達ができそう、と喜んでいました。
ただ入学説明会の日に担当者がみんなに言った言葉には憤慨していました。
So mad I was speechless.
むかついて何も言えなかった。
「何て言われたの?」
「アニメやマンガが好きな人は多いでしょう。でも学校でその話し方で話してはいけません」
最初は彼女に尋ねても、アニメやマンガの話し方というものがさっぱり分からなかったのですが、どうも留学生たちは自分の好きなマンガのキャラクターを真似てこんな話し方をするようなのです。
「カンネンするしかないぜよ」「すごいコトだってばよぉ」「せっしゃはおぬしが大好きでござる」「神が降臨した」「おまえはすでに死んでいる」・・・。
「改札口」とか「再来週」とか「鉛筆」って言葉も勉強中なのに、そんな言葉の意味が分かるの?と思ったのですが、これらはマンガ好きの間では有名なせりふのようでした。
僕は言いました。
Do they? But you don’t talk like that.
ホントに?だって君はそういう話し方をしないじゃない。
姪は答えました。
I wish I could.
もしもできるなら、私だってそういう話し方をしてみたい。
?20代の子の考えることは分からん、と僕は思ったのですが、でもまあできる限り彼女のサポートをしようと決めました。日本語学校は僕の会社の近所だったので、彼女はほぼ毎日、宿題を持って会社に来ました。そんなとき、彼女から質問されて答えに困ったことがありました。
彼女の指が置かれたのはテキストのこの一文。
「次の中からカッコにもっとも適当な言葉を入れなさい」
「『適当な』ってirresponsible(無責任な、いい加減な)ってこと?辞書にはこう書いてある。make irresponsible comments(適当なことを言う)、irresponsible promise(適当な約束、無責任な約束)、irresponsible person(適当な人、いい加減な人)・・・。でもさぁ『irresponsible(いい加減)な言葉を入れなさい』ってどういう意味?」
「いや、この場合の『適当な』はirresponsible(いい加減な)じゃない。appropriate(ふさわしい)とかadequate(適切な)かな」
「ホントだ、そうとも書いてある。でも反対の意味だよね。日本人はそれ、どうやって区別するの?」
・・・僕もこれ、ずっと前に同じことを思ったことがあります。まったく同じ言葉なのにほぼ正反対の二つの意味を持つ「適当な」という形容詞、これらを日本人はどのように区別して使い分けているのでしょうか。
僕は姪にはきちんと答えることができませんでした。でも、ごく最近、日本人から英語の表現について同じような質問をもらいました。
今回はそれをご紹介したいと思います。
Do you want to...?は「~したい?」という意味ではない
「僕と映画を見に行かない?」
「僕とワインを飲まない?」
「僕と買い物に行かない?」
こう言いたいとき、アメリカ英語では、Do you want to~? という言い方をします。
Do you want to go to a movie with me?
Do you want to have some wine with me?
Do you want to go shopping with me?
これらは決して
「君は僕と一緒に映画を見に行きたい?」
「君は僕とワインを飲みたい?」
「君は僕と買い物に行きたい?」という意味ではありません。
「?しない?」と誘っている表現であって、「君は僕と?したい?」と尋ねているわけではないのです。
以前友人の引っ越しの手伝いをしたことがありました。僕がワゴン車を運転しているとき、窓が開かない後部座席からアメリカ人の友人が言いました。
Hey, Jun, you wanna open the window?
助手席のジュンさん(日本人)は言いました。
It’s OK. I’m good.
友人は「窓を開けてくれない?」と言ったつもりでした。でもジュンさんは「君は窓を開けたい?」と聞かれたと思ったのでしょう。彼は「そんなことないよ。僕は大丈夫」と答えたのです。ちょっとしたニュアンスの違い(ちょっとじゃないかな?)ですが、アメリカ人特有のこの質問の仕方は日本人にあまり知られていないように思います。
You wanna grab beer or something?
話者(アメリカ人)は「ビールでも飲まない?」と言ったつもりだったのに、相手(日本人)は「ビールを飲みたいのはあなたでしょ?どうして『あなたはビールを飲みたい?』という聞き方になるの?」と思う、そんな誤解をたびたび聞きます。
僕がもらった質問も同じでした。
国際結婚をしたお姉さんの家庭に遊びに行くたびに、小学生の娘さんからこう聞かれると言うのです。
You wanna play the game?
「『ゲームをしたい?』とその子から聞かれます。でも『あのぉ、ゲームをしたいのはあなただよね』と思ってしまうのです。私、童顔なので小学生の姪になめられてるのでしょうか」そんなメールでした。
違いますよ。全然違う、誤解しないで。
アメリカ人特有の聞き方で、それは「ゲームをしようよ!」という意味です。童顔は全然関係ないし、なめられているなんてこともありません。
そう説明すると彼女は驚いていました。彼女が驚いているのを知って僕の方が驚きました。とても単純な表現なのにこんなに誤解があるんですね!学ぶことは多いです。
彼女は僕に尋ねました。「じゃ、『あなたはゲームをしたいのですか?』と尋ねるときにはどう言うの?」実はそれは同じ表現です。“You wanna play the game?”
せりふの意味が「ゲームしようよ!」なのか「あなたはゲームをしたい?」なのか、それをどう判断するのか、と言われると答えは難しいです。
もし、友人が“You wanna open the window?”ではなく“Will you open the window?”と聞いていたら、もし、小学生の言葉が“You wanna play the game?”ではなく“Let’s play the game!”だったら、誤解はなかったはずです。
でも、アメリカ英語では前者の言い方をすることが多いです。知っておいてください、としか言いようがありません。「?しようよ!」なのか「?したい?」なのかは話の流れで判断するしかないのです。それは僕の姪の「適当な」をどちらと考えるべきなのかという質問と同じです。
適当な(irresponsible)意見を言っているつもりはありません。適当な(adequate)意味はどちらなのか、話しの流れで判断するということが実際の生活では意外と多いのかもしれませんね。
いろいろと思いが伝わらないことも少なくないかもしれないけど、もしも誤解があるなら、“You wanna talk over a bottle of wine?”(ワインでも飲みながら話さない?)と僕はいつも、いつも、いつも思います。
今回も最後まで読んで頂いてありがとうございました。?
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