同時通訳者の「聞きながら、訳す」テクニックで英語力を上げよう【同時通訳者・横山カズ】

同時通訳者の横山カズ先生が、英語スピーキングの大人気講師としても活躍する中で、実際に役に立った「無限のスピーキング力上達法」を教えます。第11回は、会話力に同時通訳のテクニックを取り入れた練習法を紹介します。

「ICEE」という名の実験室

こんにちは。同時通訳者の横山カズです。皆さんは、 「ICEE」(Inter-Cultural English Exchange) という英語のスピーキングのコンテストをご存じでしょうか?

コンテストはトーナメント形式で行われ、9つのステージで勝ち抜き最後の一人が優勝となります。その7つ目のステージが「同時通訳」です。

トーナメントでの同時通訳は、それぞれ「1分(60秒)」で行われます。話される内容は直前まで知らされないので、知識だけではなく、ぶっつけ本番での同時通訳のスキルが試されます。また、「60秒」という制約の中では訳の抜けを後から補完することもできません。私はこのトーナメントで優勝した経験があるのですが、普段の仕事でやっている、10~15分交代の同時通訳よりも 厳しい 条件だと感じました。

同時通訳の現場では緊張感を伴いますが、できるだけ平静を保つ方法があります。それは、日常の英会話力を上げる方法でもあります。どんな方法かというと、 スピーキングで応用の利く、英文の基本パターンをしっかりと頭に入れておく というものです。今回は、同時通訳者も使っているそんな基本パターンのいくつかご紹介したいと思います。

一語一句を聞こうとしなくてもいい

ところで、パターンを紹介する前に、一つ大切なことをお伝えしておきます。通訳の実践では「一語一句を漏らさないようにしなければ!」とガチガチに緊張してしまうケースもありますが、私は常に「力まず、リラックス」することを心掛けています。その理由は「専門的な内容を通訳する場合でも、6、7割くらいは中1レベルの 機能語(実際の英語の運用で使われる単語リスト) で占められている」という事実があるからです。

発音や文法の基礎とコツをしっかりと押さえていれば、その6、7割は無理なく聞き取れます。そのため、残りの3、4割の専門的な語彙に集中すればいいのです。こうして生まれた集中力の余裕を、 次で紹介する基本的なパターンと組み合わせると、「聞きながら話す」ことができる ようになっていきます。この点については、同時通訳に限らず、一般的な英語学習で、もっと周知されるとよいと私は思っています。

パターン1:主たる内容を文頭でひとかたまりの主語に

日本語で思い浮かんだ内容を「英語にしにくいなあ」と感じることはありませんか?それは日本語と英語では語順が違うという、「語順の壁」があるからです。しかし、発想を変えれば英訳が楽になります。それは、 主たる内容を文頭でひとかたまりの主語にしてしまう ことです。ひとかたまりの主語は 英語の基本構造の“A is B” のAにあたる部分 となります。
「主語+動詞」であるという事実は ~です。

The fact that「主語+動詞」 is[means, etc.] ~.

伝染性のウイルスで蔓延し続けているという事実がある 以上、時間が可決する問題ではなことは明白です。

The fact that it’s a contagious virus that continues to spread means that this problem will not solve itself.

パターン2:「名詞=主語+動詞」

例えば、「意見」を英語で表現しようとしたときに、真っ 先に 名詞のopinionが思い付くかもしれません。しかし、 名詞を単語一つで訳そうとせずに「主語+動詞」に置き換えて みましょう。

つまり、opinion(意見)は、some people say/think/believe(~と思う人たちもいる)と表現できるのです。こうすると、名詞のopinionを使うよりも、英文を作りやすいことに気が付くと思います。

このように、「名詞=主語+動詞」、名詞を主語と動詞に分ける発想に慣れてくると、発話力は向上します。

~という意見もあります。

Some people say/think/believe/feel ~.

今回の事案の 影響 でとてもくやしい 思いをしている人もいる

Some (people) feel (that) it is extremely frustrating because of what happened.

パターン3:無生物主語を使う

日本語で浮かんだ内容を英語に変換しづらいと感じたときに使えるのが、主語に「無生物主語」です。

例えば、「大事にします」を英語にする場合、important(大事)を使って、I think it’s important. と思い付くかもしれません。しかし、importantという単語だけでは思いの強さや深さなどは表現しずらいのです。そこで登場するのが無生物主語を伴った動詞 mean の出番です。話し手にとって意義深い言葉や物のすべてに使える便利な表現です。

話し相手の言葉や物事など を)大事にします。

It means a lot to me. 

あの人の言葉のすべてが 私には凄く 刺さり ました。

Every single word he said meant so much to me.

ほかにも、It means a lot to me.で、次のような日本語を表現することができます。
  • (言葉や贈り物を)大事にします
  • 深い言葉だな
  • かけがえのないものだな
  • 看過できない
  • 重要性が高い
  • のっぴきならない
普段、主語に I を使っているなら、it や、人間以外の名詞を使う英文に置き換えるパターンに慣れましょう。言いたいことが すぐに 英語に変換できるようになります。詳しくは、 連載2回目 で紹介しています。

パターン4: there構文 を使って、あえて曖昧に

主語が定まらない日本語の文体や、英語での交渉通訳などで責任の所在などをぼかす必要があるときに威力を発揮するのが、There 構文です。ビジネスでは使用頻度が高いパターンです。
「英語はロジック」「論理こそすべて」と思い込み過ぎるとこのような技が出なくなってしまうので、時には「あえて曖昧にする」技術も実践においては必要な武器だと考えましょう。

~を求める声が高まりつつある。

There is a growing demand for ~.

守秘義務と情報保護を求める 声が高まりつつある

There is a growing demand for confidentiality and protection of information .

「聞きながら、訳す」テクニックを自分のものに!

英語スピーキング力アップに欠かせないのが「十八番(おはこ)のパターン」です。紹介したパターンを書き留めておいたり、増やしていったりして、自分が気に入った表現をリストにして用意しておきましょう。いざというときにパッと口から出るようになります。

私が同時通訳をしているときは、 話されている専門的な内容をフォロー しつつも、 自分の得意(十八番)のパターンに持っていく ように心がけて頭の片隅でスタンバイしています。

通訳のスキルは、慣れることで磨かれていきます。日常ではなかなかそのような機会がない人は、英語学習仲間や、オンライン仲間に、 「これ、君ならどんなふうに英語にする?」 と問い掛けて「どちらがいい訳を出せるか」を競って楽しんでみてはいかがでしょう。これによって、自分だけではなく互いの話す内容がどんどん英語として口から出やすくなっています。相手がいない場合でも、できないことはありません。私は普段から思ったことをいつも頭の中で英語に変えてはそのプロセスを楽しんでいます。

ビジネスでは、プロの通訳者でなくても、通訳ができる社員は重宝されます。英語が必要とされる場で、相手が話している内容を適度に要約し通訳ができたら、頼りにされる存在になるでしょう。

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