過去形にすると、なぜ敬語になったり丁寧な表現になったりするのでしょうか。3問のクイズを通して、英語の「仮定法」を分かりやすく解説します。
目次
まずはクイズに挑戦!
3題あります。考えてみてください。
Q1
あなたは友人に「試験に合格するといいね」と励ましの言葉を言おうと考えています。①と②の英文ではどちらのほうが適切な表現でしょうか。
① I hope you will pass the exam.
② I wish you would pass the exam.
Q2
あなたは友人たちと食事をしています。「塩を取ってほしい」と伝えるのに適切な表現は次の①~③のうちどれでしょうか。
① Pass me the salt, please.
② Will you pass me the salt?
③ Would you mind passing me the salt?
Q3
これはアメリカのピザ店のポスターです。WE would be happy to make YOU happy!からどのようなメッセージを読み取ることができますか。
今回のテーマは「仮定法」
仮定法って何だっけ?
誰しも一度は「鳥みたいに空が飛べたらいいのに」とか「アメリカ人だったら英語がペラペラだったのに」などと、実際にはありえないことを考えてみたりすることがあるでしょう。英語では、このように実現が不可能だと思われることについて話をするときに「仮定法」という形を使います。
仮定法と聞くと、どうしてもSFで描かれるような世界を話すときにしか使わないと思いがちですが、実は日常生活でも頻繁に使われます。人によっては「昨日をやり直せたらいいのに」と、絶対に取り返しのつかないことに対して後悔の念を浮かべることもあるかもしれませんが、これも仮定法を使って表現します。
現実離れしたことについて話をするため、普段では考えられないような形を使うことになりますが、それだけ「ありえないよね」という思いが強いと考えることにしてください。
今回のテーマである仮定法はどのような形をしているのか、そして日常生活のどんな場面で役に立つのか。早速、見ていくことにしましょう
現在のことなのに「過去形」?
仮定法の基本は、動詞や助動詞をすべて「過去形」にすることにあります。「イギリスに住んでいるならなぁ」や「車が運転できればなぁ」という願いは、どちらも「今、そうならいいのに」と現在のことについて話をしていますが、現実にはありえないことなので、すべて「過去形」を使って表現するということです。これが仮定法の不思議なところです。
もちろん、ただ「過去形」にするだけでは、I lived in Britain.(イギリスに住んでいた)という過去の話と区別することができなくなってしまうので、I wish ~.(~ならなぁ)という表現などと一緒に使われることになります。I wish I lived in Britain.(イギリスに住んでいるならなぁ)I wish I could drive a car.(車が運転できればなぁ)という言い方なら、たとえ過去形を使っていても、I wish があるおかげで仮定法の文なのだとすぐに判断することができますね。
見た目は「過去」なのに現在のことについて「仮定」しているので、この形には「仮定法過去」という名前が付けられています。
仮定法ならではの特別な動詞の変化もあります。それはbe動詞はすべてwereにするということです。普通ならisとamの過去形はwasになりますが、仮定法のときだけはwereを使うことが許されています。I wish I were you.(ぼくが君だったらなぁ)というような、be 動詞のありえない変化形が仮定法のありえない感じを演出していると考えておきましょう。ただ、会話表現などでは was を使うこともありますので、どちらを使うかは好みの問題です。
願いは1つではない?
wish(願う)という語を使うことで、ありえないことを仮定しているというのはわかりましたが、これと似た意味を持つhope(望む)とは一体どのように違うのでしょうか。hope もI hope ~. という形で、I wishとほとんど同じような意味を表すことができるのですが、「願い」の種類が違うということなのでしょうか。冒頭のクイズで考えてみましょう。
あなたは友人に「試験に合格するといいね」と励ましの言葉を言おうと考えています。①と②の英文ではどちらのほうが適切な表現でしょうか。
① I hope you will pass the exam.
② I wish you would pass the exam.
「ありえない」という気持ちが伝わってはいけないはずです・・・。
ここで大切なのは、話し手が本当に起こると思っているかどうかです。②のように仮定法を使用しているということは、それが「ありえない」と考えているからだということになってしまいます。ここでは、試験の合格を願っているわけですから、②は「絶対にないと思うけど、受かるといいね」というなんだか嫌味たっぷりのせりふに聞こえてしまうかもしれません。
一方で、① I hope you will pass the exam.は仮定法ではないので、本当に試験に合格するといいなと思っていることがわかります。なんとなく wish を使いたいと安易な気持ちで動詞を選んでしまうと、友人関係で取り返しのつかないことになってしまうかもしれないのです。
仮定法が「ありえない」ことを伝えてくれるということは、裏を返せば、やんわりと逆の意味を伝えられるということです。例えば、Can you help me with my homework?(宿題手伝ってくれる?)と頼まれたときに、I wish I could.(できればいいんだけど)と言うことで、相手にはI can’t.(できません)と答えるよりも遠回しに断ることができます。後でも触れますが、実は仮定法は英語の「丁寧表現」に欠かせない文法なのです。
もしも願いがかなうなら・・・
現実には起こりえないことについて話をするとき、日本語の「もしも~なら」に当たる if を使った表現を知っておくと、非常に便利です。if は2つの文をつなげることができる接続詞なので、「もしも~なら、・・・なのに」という日本語と同じような感覚で使用することができます。If I lived in the USA, I could speak English every day.(もし、アメリカに住んでいるなら、毎日英語を話せるんだけどなぁ)という文からは、英語を使いたくても機会に恵まれない現状がひしひしと伝わってきますね。
仮定法で丁寧にお願いする
ifをうまく使えば、If you were OK, would you help me?(もし大丈夫なようなら、手伝ってもらえないかなぁ)のように相手に遠回しにお願いをすることができます。仮定法を使っている分、「本当はこんなお願いを聞いてもらえるとは思っていないけど・・・」とだいぶへりくだった感じが相手に伝わるようです。
もちろん、この文から if ~の部分を取り除いて、Would you help me?(手伝ってくれませんか?)にしても構いません。むしろ、こちらのシンプルな形のほうが使いやすそうですね。
皆さんは、同じように「~してくれませんか」という意味を持つ依頼表現であってもWill you ~?よりWould you ~? のほうが丁寧だと聞いたことがあるかもしれません。助動詞の過去形が丁寧に響くのは、仮定法だったからだと考えれば納得ですね。
Q1の答え
仮定法ではない①の文が適切です。
I wish ~が使われている②は仮定法過去の文なので、「試験に合格すること」が「ありえないこと」だと解釈されてしまいます。これでは友人はがっかりしてしまいますので、実際にそうなると信じているときは、仮定法過去を使ってはいけません。
Q2の答え
相手が「友人」であることを考えると、①が適切です。
一緒に食事をしているのはあなたの「友人」ですので、①「塩取って」くらいの言い方が自然です。もちろん、②「塩を取ってくれますか?」でも問題はないでしょう。ただし、③のWould you mind ~ing?(~してくださいませんか?)は、ここでは丁寧すぎます。「親しき仲にも礼儀あり」とは言いますが、仲の良い相手に対して丁寧すぎる表現を使うと、それがかえって「皮肉」に聞こえたり、「いらだち」を伝えたりすることになるので注意が必要です。相手によって言葉を使い分けるのは、コミュニケーションの基本です。
Q3の答え
「あなたを幸せにできたら、私たちは幸せです」と伝えています。
この文には if が使われていませんが、would be happy(幸せだなぁ)と言っていますので、立派な仮定法過去の文です。ここではto make YOU happyという不定詞が、ifの代わりに「もし~なら」という条件を補足していると考えてみてください。「うちのピザが、まさか皆さんを幸せにできるなんてこれっぽっちも考えていませんけど、そんなことできたら幸せなんですがねぇ・・・」という英語らしい仮定法を使った丁寧表現です。少し高度な文に感じてしまうかもしれませんが、if がない仮定法の文はいくらでもあるんですよ。
まとめ
ポイント1:「ありえない」かどうかは自分が決める
ありえないことを表すときには仮定法過去を使うのがお約束なので、どんなときでも動詞や助動詞を過去形にします。ただし、そうなる可能性も十分あると考えられるときには現在形を使ってください。ありえないかどうかを判断するのは話し手自身であって、その気持ちを動詞の形で表現しているのだということに気付かせてあげましょう。
① If my parents say OK, I will come to the party tonight.
(親がOK を出してくれるなら、今夜のパーティーに行くよ)
② If my parents said OK, I would come to the party tonight.
(親がOK を出してくれるなら、今夜のパーティーに行けるんだけどねぇ)
①には現在形が使われているので、親からOK をもらえる確率は五分五分だと考えられますが、②は仮定法過去の文なので、絶対に親が許してくれないことがよくわかります。
ポイント2:仮定法は丁寧表現の1つ
「英語には敬語がない」とよく言われます。確かに、相手によって「食べる」ではなく、「召し上がる」や「いただく」という別の語を使わなくてはならない日本語と比べると、英語では相手が誰であっても、eatの1語だけ知っていればいいので単純です。しかし、だからといって英語に「丁寧表現」がないというわけではありません。英語圏にだって上下関係はあるわけですから、相手に失礼のない言い方を知っておくことも大切なのだと教えてあげましょう。
I would like a coffee. (コーヒーをいただきます)
want(欲しい)よりも丁寧な表現として習うことの多いwould likeも、仮定法の表現だからこそ丁寧に聞こえるようです。
初対面や目上の人に丁寧な言葉を使うのは日本語も英語も同じです。「丁寧表現」を身に付けて、周りから好かれる存在になりましょう。
大竹保幹さんの本
『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』では、「仮定法」をはじめとする、子どもが抱きそうな疑問・質問に対して、ある程度答えられるように英文法の基礎を学ぶことができます。英語を学ぶ面白さに触れられる雑学的な小話も随所にあり、楽しみながら英文法を復習できます。
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