いよいよ連載第6回!2020年に迫る小学校での「英語必修化」。お子さんからくり出される英語に関する素朴な疑問、答えられる自信はありますか?昔習ったはずの英文法、その内容を「子どもにも説明しやすいようにわかりやすく」大竹先生と一緒に復習しましょう!
冠詞って何だっけ?
「名詞」や「動詞」は聞いたことがあるけれど、「冠詞」はそれに比べると知名度が低いため、中には「そんなの聞いたことない」と言い出す人もいるかもしれません。みなさんは 具体的に どんな語が「冠詞」の仲間なのか知っていますか。
正解は、a(またはan)とtheです。a cat や the cat のように a も the も「名詞」の前に使うのでしたね。「冠(かんむり)」だからといって、他の語と比べて特別偉いというわけではありません。
ただし 、英語において非常に重要であることは間違いありません。というのも、 the は英語で一番多く使われている語 だからです。
今回は、日常生活のどの場面でも活躍する the について考えていきましょう。
theはなんて訳せばいいの?
the にはいろいろな使い方がありますが、基本的には 「 候補 をひとつに絞れること」を表します 。たとえば、world(世界)や sun(太陽)は世の中にひとつしかありません。そのため、これらの語を実際に使うときは I want to travel around the world.(世界中を旅したいな)とか The sun is shining .(太陽がまぶしい)のようにtheと一緒に使うのが約束です。
pen(ペン)や man(男性)など世の中にたくさんあるものでも、一度話題に出てきた人物であれば 候補 をひとつに絞れるため、theを使うことができます。日本の昔話『桃太郎』で考えてみましょう。
Once upon a time, there lived an old man and an old woman. The old man went into…(むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは…)みなさんご存じのとおり、赤い文字のおじいさんは冒頭で「あるところに住んでいると説明があったおじいさん」と同一人物です。ここで再び An old man went into…と言ってしまうと、おじいさんが何人も出てくるお話になってしまうというわけですね。
例えば、お子さんにこんなことを聞かれたら、どう答えたらいいでしょうか。
theはなんて訳せばいいの?
先ほど紹介した例では the は日本語に訳されていませんが、一語ずつきっちりと訳を付けたいと思う人もたくさんいるでしょう。 Close the window, please. は「その窓閉めてください」、 Pass me the salt. なら「その塩取ってよ」と、一見すると、theには「その」という訳語がぴったり当てはまるような気もします。見た目も this(この)やthat(あの)に似ているので「その」ですべて解決できるなら完璧なのですが、そんな単純な問題ではないのです。
たとえば、 Look at the moon! が「その月を見て!」という意味でないのは、 すぐに わかりますよね。「(この月でも、あの月でもなくて、)その月を見て!」と言えるほど、夜空にはたくさんの月がないからです。では一体、the はどう訳せばいいのでしょうか。次のような場合を考えてみましょう。
Could you tell me the way to the station?
the は「 候補 がひとつに絞れること」を表すので、その人が一番行きたいであろう駅を思い描いて道案内をすることになります。突然話しかけられたのであれば、普通は「一番近い駅」を教えますよね。
もちろん、「東京駅が素敵だね」などと話をしていて、話し相手からこのセリフを言われたのであれば、たとえ大阪にいたとしても「その素敵な東京駅にはどうやったら行けるんだい?見てみたいなぁ」という意味にもなるでしょう。この場合なら「その駅」と訳しても間違いありません。
しかし一般的に、the には「その」よりも多くの情報が込められているということがわかります。考えてみれば、日本語でも「駅までの道を教えて」と言うだけで、「今いるところから一番近い駅」のことを指しますよね。結局、 theは特別な場合を除いて、あえて訳さない方がいいのかもしれません 。
日本語と英語は別の言語です。the だけに限らず、訳したくても訳せないことがたくさんあります。そう割り切って考えられると、日本語訳に縛られず楽に学習できるのではないでしょうか。
お子さんにはこう答えてみましょう。
「それ」って訳せることもあるけど、無理に日本語に訳しちゃうと意味がわからなくなることもあるんだよ。単語を全部訳さなくてもいいってことを覚えておこうね。
「品詞」って覚えないといけないの?
pen(ペン)は物の名前だから「名詞」で、walk(歩く)は動きを表しているから「動詞」……というように、単語はその意味などによってある程度グループ分けをすることができます。こうやって分類されたものを「品詞」といいます。実はこの連載もこれまでの5回では「品詞」を中心に英文法の話をしてきました。
みなさんの中には、単語を覚えるときに「意味」だけでなく「品詞」もメモしたり暗記したりしたという人もいるのではないでしょうか。暗記が苦手な人はここでめいってしまいます。できる限り覚える量を減らしたい。それはきっと子どもたちも同じでしょう。
「品詞」って覚えないといけないの?
「名詞」は文の主語になれるだとか、「動詞」から始まる文は命令文になるなど、各語の「品詞」を知っていることで英文法の理解が進んでいくのは間違いありません。
しかし、新しい語を覚えるときに「品詞」にこだわりすぎるとかえって頭が混乱してしまうこともあるので注意が必要です。
たとえば、yesterday(昨日)の「品詞」は何でしょう。「昨日という日」を表しているから「名詞」でしょうか。それとも、「昨日、~した」と、ある 動作 を行った時間を説明しているので「副詞」なのでしょうか。
次の例文で考えてみてください。
① Yesterday was Sunday.
② It was Sunday yesterday.
yesterday という語が、文の中でどのような役割をしているかで「名詞」なのか「副詞」なのかが決まっていることがわかります。
しかし、「品詞」がなんであれ、どちらも「昨日は日曜だった」と同じ内容を伝えていることに気がつきませんか。少なくとも今回は、yesterday が「昨日」という意味であることを理解していれば、「品詞」にそれほどこだわらなくてもなんとかなりそうです。
「カレー」は本来「食べ物」のはずなのに、冗談で「飲み物」だと言う人がいますが、どちらも「カレー」に変わりないのと同じようなことです。
「品詞」についてあれこれ考えるのも英語の勉強のひとつかもしれませんが、「yesterdayには『名詞用法』と『副詞用法』がある」といった覚え方をする必要はありません。自分で使う分には、どちらかひとつを知っていれば十分ですからね。
次は、辞書にも「品詞」が載っていない例で考えてみます。
“Difficult” is an easy word for me.
通常であれば difficult は「難しい」という意味の「形容詞」です。しかし、ここでは「“ ”(ダブルクオーテーションマーク)」があることで、「『difficult』という語」という「名詞」として特別な使い方をしています。
学校で単語テストでもあったのでしょうか。「『difficult』は、僕には簡単な単語だよ」と、つづりを書けたことを友達に自慢しているのかもしれませんね。
辞書に載っている「品詞」は、よく使われる役割を示しているだけにすぎません。この語は絶対にこの「品詞」だけだと決めつけるのではなく、 文の中での役割を冷静に見つめることが大切 です。
お子さんには、このように答えてみてはいかがでしょうか。
確かに、「品詞」を知るのは勉強になるんだけど、あんまりこだわらなくても大丈夫だよ。覚えるのは大変だから、「意味」に集中しようね。
品詞クイズに挑戦!
今回は「品詞」に関するクイズを用意しました。柔軟な発想で考えてみてください。もちろん、ここで出てきた使い方を暗記する必要はありません。「こういう使い方もできちゃうんだな」と思っていただければ十分です。
Q1.次の英文はどんな意味でしょうか。
canには色々な意味があるのです。
Q2.次の詩で使われているTodayの品詞は何でしょうか?
【Q1の答え】 「キャンさんは缶を缶詰にできる」という意味です。ここでは can が4つ使われています。左から順に、次のような意味です。
- キャンという名前(名詞)
- ?できる(助動詞)
- 缶詰にする(動詞)
- 缶詰(名詞)
もちろん、実際には「缶を缶詰にする」ことはしないので想像するのが難しいのですが、こういうナンセンスなことを表現できるのも言語の面白いところですよね。
【Q2の答え】 文の主語になっているので「名詞」です。前述した yesterday と同じで、「今日という日」という意味で使われています。
今日という日は贈り物present には「プレゼント、贈り物」だけでなく、「現在」という意味があります。この2つの意味を使ったダジャレなのですが、とても素敵な言葉ですね。だから “ present ” っていうんだよ
まとめ
いかがだったでしょうか。これまで6回に渡って英文法について話をしてきましたが、それも今回で一旦おしまいです。
品詞ですら自由になってしまうのを知ると、英文法には「絶対にこうだ」というものはほとんどないのだと感じます。もちろん、自分の気持ちを正確に伝えるために守らなくてはならない約束事はありますが、あまりルールに厳しすぎると英語を学ぶ楽しみが奪われてしまうかもしれません。
言語はコンピュータが機械的に作ったものではないですから、「例外」はたくさんあります。しかし、その「例外」の中に人間らしい温かさを感じることができれば、英文法との距離はぐっと縮まるはずです。文法と仲良く付き合って、英語の学習を続けてくださいね。
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文:大竹保幹(おおたけ やすまさ)
神奈川県立厚木高等学校教諭。1984年横浜市生まれ。明治大学文学部文学科卒業。平成23年度神奈川県優秀授業実践教員(第2部門)表彰。文部科学省 委託 事業英語教育 推進 リーダー。趣味は読書。好きな作家はスティーブン・キング。
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