ネイティブも言う「There’s + 複数形」は文法的に正しいの!?【ラクする英文法】

英文法のエキスパート、鈴木希明さんと一緒に、英文法の疑問を一つずつ解決していく連載第5回!目指すのは、英文法に煩わされることなくラクに英語を使えるようになる状態です。今回は「There’s + 単数形/複数形」を取り上げます。

複数形の名詞もthere’sに続けちゃえばラク!

今回は、「~がある(いる)」という「存在」を伝えるときに使う「There + be動詞 ...」の構文を取り上げます。まず、次の文を見てみましょう。

There’s so many attractions to ride.
乗るアトラクションは山ほどあります。

ある遊園地のホームページを見ているときに、この文が目に入りました。「(ここには)アトラクションがとてもたくさんあります」ということを伝える文です。

「何かがどこかにある」と、伝える相手にとって新しい情報を提供するときに、「There + be動詞 ...」という表現を使います。be動詞に「何が」を続けることで、次のような文ができます。

There is a cat under my car.
僕の車の下に猫がいる。

伝えたい「何か」が複数の場合は、There are two cats under my car.のように、be動詞をareにします。ということは最初の文も、There are so many attractions to ride.としなければならないはずです。これはいったいどういうことなのでしょうか。

実は、There isの後に複数形の名詞を続けることはできないのですが、There isの縮約形であるThere’sには複数形の名詞を続けることができるのです。

There’s tons of things to do in San Francisco.サンフランシスコではすべきことが山ほどあります。

なぜThere’sに複数形が続くのか

「There + be動詞 ...」のthereは文の主語の位置にありますが、構造上の主語として文頭に置かれているだけで、「そこ」という意味はありません。そのため、thereの発音は[ðeər]ではなく、[ðər]という弱い音になります。

be動詞の形は意味上の主語である名詞に合わせますから、その名詞が単数であればThere is/was ...、複数であればThere are/were ...となります。でも、後続する名詞にbe動詞の形を合わせるのは、話しているときにはちょっと面倒です。伝えるものが単数か複数なのかを確認した上で、形を選択する必要があるからです。

そこで、There isの縮約形であるThere’sを、単数・複数に関係なく使っちゃおう、ということになったのです。There’sを1つののまとまりとして捉えるようになり、isが含まれているという意識が薄れてしまったのです。

There’s a lot of places to visit in Paris.
パリには訪れる場所がたくさんあります。

There’sに複数形を続けるのは、基本的には話すときだけです。また、縮約しないThere isに複数形を続けてはいけません。

なぜthereをわざわざ使うのか

そもそも、thereを構造上の主語として使うのはどうしてなのでしょう?伝えたいものを表す名詞を、そのまま主語にすればいいのではないでしょうか?

A cat is under my car.
猫が僕の車の下にいる。

文法的には問題ありませんが、この文だけだとかなり不自然になってしまいます。それは、伝える相手にとって新しい情報であるa catが文の最初にいきなり出てくるからです。a catのような不定冠詞の付いた名詞がいきなり出てくると、「えっ?猫?何?」と、いったい何を伝えようとしているのか分からなくなってしまうのです。

英語では、伝える相手も知っている情報(旧情報)から、相手にとっては新しい情報(新情報)へ、という情報の基本構造があります。英語を話す人たちはこの流れになじんでいるため、新情報で文が始まることに違和感を覚えるのです。「There + be動詞」で文を始めることで、何かの存在を新しい情報として出しますよ、と相手に伝える合図になります。

a catを文頭で使えないわけではありません。例えば、車に猫の足跡が付いていて、「あっ、こいつが犯人だ」ということであれば、A cat is under my car! と言えます。猫の足跡があることから、どこかに猫がいることが分かるからです。

「There + be動詞」の後の名詞に the は付かない?

「There + be動詞」には、相手も知っている固有名詞や定冠詞theの付いた名詞を続けることはできない、と思っている人がほとんどだと思います。でも、伝える相手に「ここにはこれがあるよ」と言うときに、次のように言うことができます。

In Paris, there is the Louvre.
パリにはルーヴル美術館がある。

「There + be動詞 ...」を使うのは、「何かがどこかに存在する」ことを新情報として伝えるときです。例えば、「パリには何があるの?」と聞かれたのであれば、固有名詞であるthe Louvreはその時点では相手にとっての新情報になる、というわけです。

相手にとっての新情報でなければ、「There + be動詞 ...」は使いません。

The cat is under my car.
その猫なら僕の車の下にいるよ。

Mona Lisa is in the Louvre.
モナ・リザはルーヴル美術館にあります。

猫の話やモナ・リザが話題になっている場合は、the catやMona Lisaで文を始めればいいのです。

there を2つ使わなければならない場合もある

ところで、海外にいるときに、「日本語を話す人はいますか?」と尋ねたことはありませんか?そんなときには、「There + be動詞 ...」の構文を使うことができます。

Is there someone who speaks Japanese?

疑問文にするときはbe動詞をthereの前に出すだけですから、これでよさそうです。でも、この文にはちょっと問題があります。厳密に言うと、「日本語を話す人」はあなたを含めていっぱいいるわけです。英語ははっきりと言語化しなければならない言語ですから、次のように言います。

Is there someone there who speaks Japanese?
そこには日本語を話す人はいますか?

このように、「どこに」を表す言葉を付け加えると明確になります(「ここに」ならhereを使えばOKです)。日本語は「空気を読む」文化ですから、そこまで言わなくてもお互い了解済み、となりますが、英語では(明らかに話し手と聞き手とで共通認識がある場合を除き)明言することが必要です。


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鈴木希明(すずき のりあき)
鈴木希明(すずき のりあき)

英語教材編著者。東洋大学、武蔵野大学非常勤講師。立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科修士課程修了。研究テーマは認知文法と英文法教育。『総合英語be』など著書多数。文部科学省検定済教科書『be English Expression』編集委員。

  • この記事は、『学校では教えてくれない!英文法の新常識』(NHK出版)の内容に加筆・修正して再構成したものです。
  • 作成:2019年8月13日、更新:2024年10月1日

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