多くの英語学習者が迷う「動名詞の前の代名詞」の問題。この記事では、英文法のエキスパート、鈴木希明さんが所有格と目的格の違いを分かりやすく解説し、日常の会話で自信を持って使えるようになるためのポイントを伝授します。
目次
動名詞の意味上の主語は、動詞の後なら目的格にしちゃえばラク!
今回は、動名詞の意味上の主語の示し方を取り上げます。まず、次の文を見てみましょう。
I couldn’t imagine her winning the Women’s British Open.
彼女が全英女子オープンで優勝することは想像できなかった。
imagineは、動名詞を目的語にすると、「~することを想像する」という意味になります。そして、動名詞の「意味上の主語」を示す必要があるときは、her winningのように、動名詞の前に「誰が」を入れます。
では、このherは「目的格」なのでしょうか、「所有格」なのでしょうか?「あなたが」と言いたいときは、youとyourのどちらを使えばいいのでしょうか?そんなときは迷わず、動詞の後だから目的格にしちゃいましょう。
I couldn’t imagine you winning the election.
あなたが選挙に勝つことは想像できなかった。
「動名詞の意味上の主語は所有格」と覚えている人もいますよね。もちろん、I couldn’t imagine your winning the election.としても問題ありませんし、文法的に正しい形です。でも現代英語では、所有格ではなく、I can’t imagine you winning ~.のように、目的格を使うことが多いのです。
「動名詞の意味上の主語」とは?
ここで、動名詞について改めて確認しておきましょう。動名詞は動詞のing形で、主語や補語、目的語として使うことができます。
I can’t imagine living abroad.
私は海外で暮らすことを想像できません。
この文では、living abroad(海外で暮らすこと)が動詞imagineの目的語になっていて、「海外で暮らす」のは、文の主語の「私」ということになります。
「彼が海外で暮らすことを私は想像できない」と言いたければ、「海外で暮らす」の主語に当たる「彼が」を入れなければなりません。これが「動名詞の意味上の主語」で、人称代名詞なら所有格か目的格を動名詞の前に入れて、次のように言います。
I can’t imagine his/him living abroad.
私は彼が海外で暮らすことを想像できません。
所有格なのか目的格なのか?
動名詞の意味上の主語を示すときに所有格を使うのは、動名詞が名詞の働きをするからです。名詞の前に「誰の」を入れるときは、次のように所有格を使いますよね。
I can’t imagine his situation.
私は彼の立場を想像できません。
動名詞のときにhis livingとするのも、これと同じなのです。
では、文法的に正しい所有格ではなく、目的格を使うことが多いのはどうしてなのでしょう?これは、後続する動名詞の主語を示すというよりも、前にある動詞の目的語であることを示すという感覚で、I can’t imagine him ~.としているからです。
目的格を使うのは直前の他動詞の影響ですから、文の主語として動名詞を使う場合は、意味上の主語に所有格を使います。
His winning the prize was unexpected.
彼が賞を取ることは予想していなかった。
この場合、× Him winning ~.とはしません。
Do you mind ~?で動名詞を使うときは?
mindは「~を気にする」「~を嫌だと思う」という意味の他動詞として、動名詞を目的語にすることができます。
Do you mind sitting here?
この文は、相手に対して「ここに座ってもらえませんか」という依頼をするときの表現です。文字通りの意味は「あなたはここに座ることを気にしますか」ですが、相手が気にするかどうかを聞くことで、遠回しに「そうしてくれませんか」と頼んでいるのです。
「私が座ってもいいですか」と尋ねて、許可を求める場合は、次のようにします。
Do you mind me sitting here?
所有格なら、my sittingになりますね。「あなたは私がここに座ることを気にしますか」が文字通りの意味で、「ここに座ってもいいですか」という、相手の気持ちに配慮する表現になるのです。
Do you mind me/my sitting here?は、これから座ろうとする場合と、すでに座っている場合のどちらでも使うことができます。これから座ろうとする場合は「ここに座ってもいいですか」、すでに座っている場合は「ここに座っていてもいいですか」という意味です。
ちなみに、「ここに座ってもいいですか」は、次のように言うこともできます。
Do you mind if I sit here?
ところで、Do you mind me sitting here?と言われたときの返事には、注意が必要です。mindは「気にする」「嫌だと思う」という意味ですから、Yes, I do.だと「はい、嫌ですよ」となってしまいます。「どうぞ座ってください」と言いたいときは、No, not at all.やOf course not.のように否定しなければなりません。Noと言うのに違和感があれば、Sure, go ahead.でもいいですよ。
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- 作成:2019年8月27日、更新:2024年10月11日
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