言葉だけでなく「かたち」も翻訳する――英語の詩の心地よさを日本語へ【若い世代の物語を訳す】

「若い世代の物語を訳す」第5回のテーマは、詩や絵本のリズムと翻訳。英語ならではの「かたち」をそのまま再現できないとき、原文の楽しさや心地よさをどう日本語に移すのか、翻訳家・三辺律子さんが実際の翻訳例を交えながら語ります。

英語版を読んでびっくり!『かくれんぼかくれんぼ』

今年の初め、代官山で開催された「絵本作家・五味太郎 絵本出版年代記展 ~ON THE TABLE」にお邪魔した。1973年のデビュー作『みち』から、52年間にわたる五味さんの絵本372作が、ずらりと並べられている。この絵本懐かしい!こんな絵本もあったんだ!と興奮して見て回った。

中でもやはり引きつけられてしまうのが、世界各国で出版された翻訳版の展示コーナー。英語、フランス語、韓国語、中国語……アラビア語もある!気がつくと、展示してある日本語版と英語版を1ページ1ページ見比べていた。ああ、職業病。

そして、あの名作『かくれんぼかくれんぼ』の英語版を見て、驚いた。なぜって――いや、そのまえに、まずあらすじを簡単に紹介。ねずみくんがかくれんぼで、ほしくさのかげに隠れる。ところが、ほしくさだと思ったものがいきなりしゃべりはじめる。実はキツネだったのだ!そのキツネも木のかげに隠れている――と思っていたけど、実は木はカバだった!じゃあ、カバの隠れている岩は……?そうやって、隠れ場所だと思っていたものが、次々に別の生き物だと判明していくというストーリー。ねずみくんが隠れる場面では、ほしくさに見える茶色いもこもこが描かれている。ところがページをめくると、その全体が見え、キツネのおしりだったとわかる。絵を巧みに使った絵本ならではの作品だ。

ここで面白いのは、文章にはキツネ、カバ、ゾウといった動物の名前が一度も出てこないこと。正体を教えてくれるのは、絵だけなのだ。読者は、木、岩、山の正体を推測しながらページをめくる。そのどきどきやわくわくが楽しい絵本だ。

――と思っていた。ところが!英語版のテキストは日本語版と大きくちがっていた。例えば、ねずみくんがほしくさ(のように見えるキツネ)のかげに隠れる場面。

日本語版では

「もういいよー。この ほしくさの かげなら みつからない。」/すると ほしくさが いったよ。「しっ、しずかに!(後略)

(五味太郎『かくれんぼかくれんぼ』偕成社、1978年)

そして、ページをめくると、キツネの絵が現れる。そして、ねずみくんは(読者も)びっくり。

でも、英語版はこうなっていた。

8...9...10. The counting stops. Jeep crawls behind some great big rocks./“Hey, I’m a fox,” said one of the rocks.

(Taro Gomi, Hide and Seek, Garrett Educational Corp., 1989)

「もういいよ」の部分はより演出的にしたのかな。あれ、「ねずみくん」にJeep(ジープ)って名前がついてる。ん?隠れるのがほしくさじゃなくて岩になってる!そして、ええっ!岩が自分で「ぼく(わたし)はキツネだよ」って言っちゃってる!キツネの絵が出てくるのは次ページ。ってことは、ネタバレ?!

びっくりして、英語版をもう一度読み直して、ああそうか、と思いあたった。おそらくだけど、英語版は韻を踏むことを優先しているのではないか。rocksとfoxは、語末の音がそろっている。hay(ほしくさ)ではこの韻は成立しない。声を出して読むと、stops → rocks → foxときれいな音の流れが生まれている。

そう思ってほかのページを見直すと、やはりきれいに韻が踏まれている。日本語版で岩に見立てられていたのはゾウだが、英語版では岩をキツネに使っているので、ゾウのところはどうなっているかなと見ると、Behind a high hill they went, / But the hill said, “Hey, I’m an elephant.” 「high」と「hill」が頭韻、「went」と「elephant」もゆるく韻を踏んでいる。ねずみの名前が韻を踏んでいる箇所もちゃんとあった。

英語の韻を日本語でどう伝えるか

この英語版では、ページをめくる驚きよりも、韻を踏む楽しさを優先したのかもしれない(あくまでわたしの推測だけど)。そう思うと、英語の絵本における韻の重みを、あらためて感じた。なぜそんなに感じ入ったかというと、絵本翻訳に関する授業やイベントで、本当によくきかれる質問が、「英語で韻を踏んでいる場合、どう訳せばいいんですか?」だからだ。というわけで、前置きが長かったが(え、前置きだったの?!)、今回のテーマは、英語の韻やリズムを、日本語でどう伝えるか。

英語の詩や歌では、韻が大きな役割を果たしてきた。もちろん、訳文でも原文と同じように韻を踏めたら理想的だ。とはいえ、韻を踏んでいる英単語に相当する日本語もたまたま韻を踏んでいた、なんてことはまず起こらない。かといって、韻に合わせて言葉を選ぶと、意味が取りにくくなったり、無理をしている感が漂ったりする。あるいは、原文は格調高く美しい押韻なのにダジャレみたいになってしまうとか。

今では日本語のラップなども広まり、韻を踏むことも身近になったが、「肺に睡蓮」「遠くのサイレン」(米津玄師「感電」)なんて、昔だったらダジャレだったかも(いや、そんなことないか)。

『ゾウがやってきた』(ホリー・ゴールドバーグ・スローン著、三辺律子訳、小学館)は、トルコ系アメリカ人の少女シラとゾウのヴェーダの交流を描いた作品だ。シラのお父さんは、クルド人の政治亡命者としてアメリカに移民してきた。しかし法律が変わったため、配偶者であるお母さんは、いったんトルコに帰って移民申請をやり直さなければならなくなる。結果、お母さんはトルコで足止めを食い、シラはもう8か月もお母さんに会えていない。

そんなシラがひょんなことからインドゾウのヴェーダの飼育を手伝うことになり、飼い主の老人ジオや「みんなとちがって」いる同級生マテオとの交流を通して、自分を取りもどしていくというストーリーだ。ゾウの飼育のあれこれが、本当に楽しい。

さて、この『ゾウがやってきた』の中に、シラが4年前の小学校2年生の時に書いた詩が出てくる。

My Teacher
Fills my hart with love
More than she will ever no.
My Teacher
Is named Lillian Gardino
And I will miss her next yere
But also for ever.
(※スペルの間違いはそのまま)

(Holly Goldberg Sloan, The Elephant in the Room, Dial Books for Young Readers, 2021, pp. 203-204)

そして、7歳のシラは最後にこう書く。

Sila Tekin age 7 (Sorry I kood not find a word that is good with for ever)

「for ever」と韻を踏む言葉が見つからなくてごめんなさい、と謝っているのだ。これを読んで、わたしは思った。そうか、7歳のシラにとっても、詩を書く時には韻を踏むことが大事なのか!

で、以下がわたしの訳。スペルの間違いをすべてひらがなの間違いに置き換えると、日本の2年生の文章としては不自然に思えたので、こんなふうにしている。 

わたしのせんせいは
わたしのこころをあいでいっぱいする
せんせいにはそうぞできないくらい、いっぱいにする
わたしのせんせいは
リリアン・ガルディーノせんせい
らいねんはせんせいがいなくてさみしい
らいねんだけじゃなくて、ずっと 

(ホリー・ゴールドバーグ・スローン『ゾウがやってきた』三辺律子訳、小学館、2025年、211~212頁)

そして、 (Sorry I kood not find a word that is good with for ever) の部分は編集者と相談し、悩んだ末、訳さないことにした。最初は、「(「ずっと」と韻をふむことばが見つからなくてごめんなさい)」と訳してみたりしていたのだが、日本の10代にはこれだけでは伝わりにくいだろう。説明の注を付けることも考えたが、ほかにも注が必要な箇所があり、注だらけにするのは避けたかった。作者のスローンさんとは4冊目のお付き合いなのだが、日本語と英語の違い等についてはよく理解してくださる。

詩を訳すときに大切にしていること

さて、詩の翻訳と言えば、最近多くいただくようになった質問に、「ヴァースノベル(詩の形式で書かれた小説)に関して、詩を訳すのは難しくありませんか」というものがある。たぶんわたしが、ヴァースノベルを強く推しているからだと思う。

ヴァースノベルは、詩によって物語が語られる小説。物語形式の詩自体は古くから存在するけれど、21世紀の今、ふたたび脚光を浴びている。その理由や魅力については、わたしの訳したヴァースノベル『タフィー』(サラ・クロッサン著、岩波書店)や『ムーンライズ』(同)のあとがきに書いているので、読んでいただけたら嬉しい。

実は、サラ・クロッサンの文章とは相性がいい(と勝手に思っている)ので、いつもあまりつかえることなく訳している。原文はもちろん詩的なリズムにあふれているが、一方で押韻が多用されているわけではなく、韻を踏むために選ばれたと思われる言葉が少ない(もしくは、そう感じさせない)。詩形式なので改行も多いが、基本的にはリズムを重視して原作の改行に従い、倒置になっている箇所では、句点の位置を工夫して文の構造が伝わるようにしたつもりだ。でも、言葉だけでなく、文章の形まで工夫されている箇所もあった。

(Sarah Crossan, Toffee, Bloomsbury YA, 2020, p. 365)

どう訳したかは、ぜひ拙訳書を!

最後に、わたしが審査員をしている「いたばし国際絵本翻訳大賞」の講評の一部を参考までに引用したい。結局、訳す時に大切なのは、韻の形を再現することだけでなく、原文のリズムや心地よさをどう日本語に移すかなのだと思う。

「このコンクールでも何度か言っているとおり、今回も、英語の原文を読んだときの、リズム、楽しさ、心地よさ、を日本語でも感じることができるか、ということを考えながら審査しました。つまり、訳文が韻を踏んでいなくても、リズムよく訳せていれば、作者の意図は(ある程度)訳せた、と判断したということです。」(第30回いたばし国際絵本翻訳大賞 英語部門 講評)

三辺律子さん翻訳の書籍

三辺律子(さんべ りつこ)
三辺律子(さんべ りつこ)

翻訳家。訳書に『 エヴリデイ 』『 エイダンをさがして 』(小峰書店)、「 ズィーラーン国伝 」シリーズ(評論社)、『 ムーンライズ 』(岩波書店)、『 答えは本の中に 』(理論社)、『 わたしを忘れないで: アンネが日記を書く前の物語 』(NHK出版)など。共編著書に『 BOOKMARK 翻訳者による海外文学ブックガイド 』1&2など。 〈 10代がえらぶ海外文学大賞 〉選考委員。

写真:サトノリユキ

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