私は写真を見るのも撮るのも好きで、美術館やギャラリーにもよく足を運びます。これまでにも杉本博司さんの展覧会を何度か見てきました。今回訪れたのは、東京国立近代美術館で開催されている「杉本博司 絶滅写真」。活動初期から現在までの銀塩写真約60点が並ぶ、写真作品を中心に構成される国内の美術館では21年ぶりとなる個展です。本展の見どころを紹介しながら、写真やアートを見て感じたことを英語で伝える表現を考えてみます。
※掲載している作品画像の無断転載を禁じます。
目次
銀塩写真約60点が並ぶ「杉本博司 絶滅写真」
「杉本博司 絶滅写真」は、2026年9月13日(日)まで東京国立近代美術館で開催されている展覧会です。写真、建築、舞台芸術など、さまざまな分野で活動する現代美術作家・杉本博司さん。その芸術の原点である銀塩写真(※1)に焦点を当て、1970年代後半の活動初期から現在までの作品約65点を紹介しています。
※1 銀塩写真:光に反応する銀の化合物を利用し、フィルムや印画紙を現像・定着することで像をつくる写真。デジタル写真に対して、従来のフィルムを用いた写真を指す言葉としても使われる。
写真作品だけで構成される杉本さんの美術館での個展は、国内では2005年以来、21年ぶり。〈ジオラマ〉〈劇場〉〈海景〉といった初期からの代表的なシリーズに加え、新作を含む全13シリーズを、三つの章を通してたどることができます。
今回の展示には、以前の展覧会や写真集で見覚えのある作品も数多く並んでいました。それでも、大きな展示空間にゆったりと配置された作品の前に立つと、過去に見たときとはまた違う時間が流れているように感じられます。急がず、一点一点をじっくり見られたことも、本展の魅力でした。
一点一点の作品の大きさはもちろん、作品同士の間隔や照明、展示室全体の静かな空気も印象に残ります。写真集やウェブサイトで見るのとは異なり、大きく引き伸ばされた銀塩写真と向き合えることは、展覧会場を訪れるからこそ得られる体験です。
また、作品解説に添えられた狂歌も見どころの一つです。厳密に構成された写真から受ける印象とは少し異なる、杉本さんの軽やかでユーモラスな一面に触れることができます。
それでは、こうした写真を見て受けた印象を、英語ではどのように表現できるのでしょうか。



写真の感想は、難しい英語でなくていい
作品の背景や制作方法を知ることは、もちろん鑑賞の楽しみの一つです。ただ、作品を見た感想を英語で伝えるために、難しい写真論や専門用語を覚える必要はありません。
まずは、次の三つを順番に言葉にしてみます。
- 何が見えるか
- どのような雰囲気か
- 自分はどう感じたか
例えば、モノクロの写真を見たときには、次のように表現できます。
The photograph is in black and white.
その写真はモノクロです。It has a quiet atmosphere.
静かな雰囲気があります。It makes me feel calm.
その写真を見ると、穏やかな気持ちになります。
いずれも、難しい単語や文法は使っていません。それでも、写真の特徴と自分の感想を十分に伝えられます。
英語で感想を伝える三つのステップ
Step 1 写真に何が写っているか説明する
最初は、目に見えるものをそのまま英語にしてみましょう。
「何が写っているか」「明るいか暗いか」「どのように配置されているか」など、客観的に説明できることから始めます。
The photograph shows the sea and the sky.
写真には海と空が写っています。A bright screen stands out against the dark background.
暗い背景の中で、明るいスクリーンが目立っています。The image is divided into two parts.
画面が二つの部分に分かれています。There is a strong contrast between light and dark.
光と闇のコントラストがはっきりしています。
写真には、photoとphotographのどちらも使えます。日常会話では短いphotoがよく使われますが、美術作品としての写真を説明するときにはphotographもよく用いられます。
Step 2 作品の雰囲気を伝える
次に、作品から受けた印象を形容詞で表してみます。
写真やアートの感想に使いやすい単語を見てみましょう。
- mysterious:神秘的な、謎めいた
- peaceful:穏やかな、安らかな
- dreamlike:夢のような
- timeless:時代を超えた
- striking:強く印象に残る、目を引く
- unsettling:不安な気持ちにさせる、心をざわつかせる
文章にすると、次のように使えます。
The photograph looks mysterious.
その写真は神秘的に見えます。It has a dreamlike atmosphere.
夢のような雰囲気があります。The image feels timeless.
その作品は、時代を超えたもののように感じられます。It is simple but striking.
シンプルですが、強く印象に残ります。I find the image a little unsettling.
その作品を見ると、少し落ち着かない気持ちになります。
lookは目で見た印象、feelは作品全体から受ける感覚を伝えるときに使いやすい動詞です。
Step 3 自分がどう感じたかを加える
最後に、自分の気持ちや、特に印象に残った部分を付け加えます。
アートの感じ方は人によって異なるので、「私はこう感じた」と率直に伝えて構いません。
It makes me feel ~.
It makes me feel ~.は、「それは私を~な気持ちにさせます」という意味です。
It makes me feel calm.
穏やかな気持ちになります。It makes me feel a little uneasy.
少し不安な気持ちになります。It makes me feel as if time has stopped.
時間が止まったような気持ちになります。
I’m drawn to ~.
be drawn to ~は「~に引き付けられる」という意味です。作品の中で特に目を引かれた部分を伝えられます。
I’m drawn to the contrast between light and dark.
光と闇のコントラストに引き付けられます。I’m drawn to the simplicity of the image.
その作品のシンプルさに引き付けられます。
It reminds me of ~.
作品を見て、何かを思い出したときに使える表現です。
It reminds me of a scene from a dream.
夢の中の一場面を思い出します。It reminds me of the sea I saw as a child.
子どもの頃に見た海を思い出します。
I’m not sure why, but ~.
作品に引き付けられても、その理由をうまく説明できないことがあります。そんなときは、分からないことも含めて感想にしてしまいましょう。
I’m not sure why, but I can’t stop looking at it.
なぜか分かりませんが、目が離せません。I’m not sure why, but the image stays with me.
なぜか分かりませんが、その作品が心に残ります。
杉本博司の作品を英語で表現してみる
ここからは、「杉本博司 絶滅写真」に展示されている作品を見ながら、英語で感想を表現してみます。
作品の意味を正しく説明しようとするのではなく、自分の目に見えたものと、そこから受けた印象を言葉にするのがポイントです。
水平線が画面を分ける〈海景〉シリーズ

私自身、海の風景を撮り続けていた時期に、杉本さんの〈海景〉シリーズをまとめた写真集を購入しました。今も手元に置いている、個人的にもなじみの深いシリーズです。
会場で実際の作品を前にすると、まず目に入るのは、海と空の間を走る一本の水平線です。写っているものは非常にシンプルですが、その静けさをどう表現するかによって、さまざまな感想が生まれます。
The horizon divides the photograph into two parts.
水平線が写真を二つの部分に分けています。The image is simple, quiet, and timeless.
シンプルで静かで、時代を超えたような印象があります。Looking at it makes me feel calm.
眺めていると穏やかな気持ちになります。
horizonは「水平線、地平線」です。
divide A into Bで「AをBに分ける」という意味になります。画面の構成を説明するときにも使える表現です。
暗闇にスクリーンが浮かぶ〈劇場〉シリーズ

〈劇場〉シリーズでは、暗い空間の中に、白く光るスクリーンが浮かび上がっています。スクリーンの明るさと周囲の暗さが、強いコントラストをつくっています。
A bright screen stands out against the darkness.
暗闇の中で、明るいスクリーンが際立っています。There is a dramatic contrast between light and dark.
光と闇の劇的なコントラストがあります。It makes me wonder what this theater was once like.
この劇場がかつてどのような場所だったのか、想像させられます。
stand outは「目立つ、際立つ」という意味です。
stand out against ~とすると、「~を背景にして際立つ」と表現できます。
光の形を捉えた〈放電場〉シリーズ

〈放電場〉シリーズでは、暗い画面の中を、稲妻のような白い光が走っています。美しいと感じる一方で、少し怖さや不安を覚える人もいるかもしれません。
A bright line runs through the dark image.
暗い画面の中を明るい線が走っています。The photograph looks powerful and mysterious.
力強く、神秘的な写真に見えます。I find it both beautiful and a little unsettling.
美しいと同時に、少し心をざわつかせる作品だと感じます。
一つの作品から、相反する印象を受けることもあります。そんなときはboth A and Bを使うと、「Aであると同時にBでもある」と表現できます。
It is both simple and powerful.
シンプルであると同時に力強い作品です。It feels both familiar and strange.
親しみやすくもあり、不思議でもあります。
三つの文で自分の感想を作ってみよう
写真を見たら、次の三つの型から一つずつ選んでみてください。
1. 見たものを説明する
The photograph shows ~.
写真には~が写っています。There is ~ in the image.
画面の中に~があります。~ stands out against the background.
~が背景の中で際立っています。
2. 雰囲気を伝える
It looks mysterious.
神秘的に見えます。It has a peaceful atmosphere.
穏やかな雰囲気があります。The image feels timeless.
時代を超えたような印象があります。
3. 自分の気持ちを加える
It makes me feel ~.
~な気持ちになります。I’m drawn to ~.
~に引き付けられます。It reminds me of ~.
~を思い出します。
例えば、〈海景〉シリーズについては次のような三文が作れます。
The photograph shows the sea and the sky.
写真には海と空が写っています。It has a quiet and timeless atmosphere.
静かで、時代を超えたような雰囲気があります。It reminds me of a distant memory.
遠い記憶を思い出します。
一文一文はシンプルでも、三つを組み合わせると、自分らしい鑑賞コメントになります。
英語で語る杉本博司さんの言葉を聞いてみよう
杉本博司さん自身が英語で作品や創作について語る短編ドキュメンタリー「TIME」も公開されています。
動画は、ニューヨークのスタジオと、杉本さんの芸術や思想が凝縮された文化施設「江之浦測候所」を舞台に、杉本さんが長年向き合ってきた「時間」というテーマをたどる内容です。
全ての英語を聞き取ろうとしなくても構いません。作品について語るときの言葉の選び方に加え、話す速さや間の取り方、声の調子にも注目してみてください。杉本さん本人の語りに耳を傾けることで、作品の背景にある考え方を、英語の響きとともに味わうことができます。
感じ方が違うから、英語にしてみると面白い
アートの感想には、正解がありません。
同じ作品を見ても、ある人はpeacefulと感じ、別の人はunsettlingと感じるかもしれません。一人の中でも「美しいけれど少し怖い」と、複数の感情が同時に生まれることがあります。
英語を使うときには、つい「正しい表現」を探してしまいます。しかし、作品の意味を説明するのではなく、自分が見たものや感じたことを伝えるのであれば、まずは知っている単語を使えば十分です。
展覧会で作品を前にしたら、次の二つを自分に問い掛けてみてください。
What can you see?
何が見えますか。How does it make you feel?
どのような気持ちになりますか。
杉本さんの作品を見るたびに、「写真とは何だろう」と考えさせられます。ただ、その問いに難しい答えを出そうとしなくても、まずは自分が何を見て、どう感じたのかを言葉にすることから、作品との対話は始まるのだと思います。
日本語であっても、写真から受けた印象を言葉にするのは簡単ではありません。だからこそ、「静か」「不思議」「目が離せない」といった短い言葉から始めてみるのがよいのではないでしょうか。
「杉本博司 絶滅写真」を訪れる際には、実際の作品を見ながら、自分なら英語でどう表現するかも考えてみてください。言葉にしようとすることで、自分が作品のどこに引かれ、何を感じたのかが、少し見えやすくなるはずです。
「杉本博司 絶滅写真」開催概要
展覧会名:杉本博司 絶滅写真
英語名:HIROSHI SUGIMOTO: EXTINCTION
会期:2026年6月16日(火)~9月13日(日)
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー https://www.momat.go.jp/access
開館時間:10:00~17:00(金曜・土曜は20:00まで)
入館:閉館の30分前まで
休館日:月曜日
観覧料:一般2300円、大学生1200円、高校生700円
※本展の観覧券で、入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」も鑑賞できます。3階の所蔵品ギャラリーでは、サテライト展示「劇場・海景・スギモトノート」も開催されています。
会期、チケット、関連イベントなどの最新情報は、展覧会公式サイトでご確認ください。

