境界線のない学び舎 ―─ ウガンダの「ごちゃ混ぜ」コミュニティースクールが教えてくれたこと

「世界を旅する英語教師」飯塚直輝さんが世界各地の教室で授業を行い、「誰のため、何のために英語を学び、教えるのか」という問いへの答えを探していきます。第2回は、ウガンダの「ごちゃ混ぜ」コミュニティスクールでの体験についてです。1クラス80人、教材も設備も十分とはいえない環境の中で、子どもたちは助け合い、笑顔で学んでいました。先生や保護者、地域の人々、幼い子どもや動物までが共に暮らす学校。そこで飯塚さんが得た、教育や学校の在り方を考えるヒントとは――。

第1回はこちら↓

世界一周の旅で、最も心に残り続けている国

3年間にわたる世界一周の旅の中で、「教室のあり方」や「学校という場所の概念」を根底から揺さぶられるような、最も強烈で愛おしい印象を受けた国があります。それが、東アフリカに位置するウガンダ共和国です。

前回の連載でお話しした通り、僕は「学校に行けずに生きづらさを抱えている、もっとたくさんの子どもたちに出会いたい」という衝動を抑えきれなくなり、12年間勤めた日本の私立校を飛び出しました。世界中の様々な教育現場をこの目で見るためにバックパックを背負って旅を続ける中、ウガンダで訪問したのが、「コミュニティースクール」と呼ばれる地域共生型の学校でした。

ぬるくて、酸っぱくて、美味しい!五感を圧倒された、ウガンダでの鮮烈な出会い

ウガンダの地に足を踏み入れた瞬間から、僕の五感は心地よい刺激で満たされました。 まずは食文化との衝撃的な出会いです。つぼの中で発酵したビール。みんなで長いストローを使って飲むのですが、ぬるくて酸っぱい!市場に行けば、日本では決して安くはないアボカドが、その時は一つ20円ほどで売られていました。しかも、信じられないくらい濃厚で美味しい。

学校へ向かうと、到着早々、ものすごいエネルギーにあふれた歓迎を受けました。地元の伝統衣装をまとった子どもたちが、男女に分かれて大地を震わせるような伝統ダンスを披露してくれたのです。

授業を始めると、今度は美しい自然との出会いが待っていました。ウガンダの空は表情豊かで、スコールが上がったかと思うと、窓の外に信じられないほど巨大で鮮やかな虹がかかったのです。その瞬間、誰からともなく「A big rainbow!!」と声が上がり、生徒も先生も、僕の授業をそっちのけで全員が外へ飛び出していきました。日本では「授業中断」といえばトラブルのように聞こえるかもしれません。しかし、この時の中断は美しい自然を前にみんなで足を止めるという、ずっと自然で豊かな時間のように思えました。

ひとクラス80人の熱気と、少年からもらったサトウキビの甘さ

しかし、そんな美しい瞬間の一方で、学校の教育環境は日本の常識からすれば「過酷」そのものでした。 そのコミュニティースクールには、約1,000名もの生徒が在籍していました。ひとクラスの人数は、なんと80名です。当然、教材を全員に行き渡らせるほどのお金はなく、プリントは10人に1枚という割合で配られ、子どもたちは身を寄せ合ってそれをのぞき込んでいました。教室の主役であるはずの黒板は、長年の使用によって劣化しきっており、文字を書いても書いても、擦れてしまってほとんど読めない状態でした。

生徒のうち約200名の男女は寮生活を送っていました。彼らの多くは学費を払えないほど貧しい家庭の出身で、中にはHIVなどの病気で親を亡くした孤児も多く含まれていました。 彼らの食事は、毎日朝・昼・晩、一貫して「豆とウガリ(トウモロコシの粉を練った主食)」のみです。子どもたちは「たまにはお米を食べたいなぁ」と本音をこぼしながらも、いつも本当に美味しそうに、残さず平らげていました。

そんなある日の放課後、一人の少年が「僕の家に遊びにきてよ!」と、はにかみながら僕を招待してくれたことがありました。 案内された彼の家は、お世辞にも裕福とは言えない、とても小さく簡素なたたずまいでした。しかし彼は、自分の家にある大切な「サトウキビ」を、僕のために嬉しそうに差し出して、ごちそうしてくれたのです。

ナイフで皮をむき、繊維をガリガリとかみ締めると、口いっぱいに素朴で優しい甘さが広がりました。「遠い日本から来た僕を、精一杯のおもてなしで歓迎してくれようとしているんだ」。その少年の誇らしげな笑顔と、サトウキビのみずみずしい甘さに、胸の奥がじわっと熱くなったのを今でも鮮明に覚えています。

日本の基準で測れば、彼らの暮らしは間違いなく「物不足」であり「貧困」の環境です。しかし、彼らの目は驚くほど輝いていました。毎日3食のご飯が食べられ、仲間と寝食を共にできる学校は、彼らにとって大きな救いであり、最高の安全基地だったからです。彼らは制約だらけの環境の中でも、自分たちの夢を語り合い、日々の小さな幸せを自分たちの手で見つけ出しながら、たくましく、そして最高の笑顔で暮らしていました。

先生も、親も、動物も

この学校を観察していて、僕が最も感動し、心地よさを感じたのは、その「ごちゃ混ぜ」の構造にありました。 コミュニティースクール(地域共生型の学校)の名の通り、ここでは教員だけでなく、生徒の保護者も、地域の人たちも、みんなが一緒になって子どもたちを育てています。

興味深いことに、先生や生徒の親の多くが、学校の敷地内で一緒に生活しています。先生は日中教壇に立ち、生徒の親たちは1,000人分の給食を作るために、朝からまきを使って大がかりな仕込みをします。 学校の敷地内には、生徒の弟や妹にあたる小さな赤ちゃんもいれば、走り回る幼児たちもいて、手の空いている大人が誰彼構わず面倒を見ています。僕が教室で英語の授業中に音楽を流すと、トコトコと小さな子どもたちが教室に入り込んで一緒に踊りだすこともありました。女性の先生は、自分の幼い我が子を他の大人に預け、安心して授業に向かっていました。

休み時間になると、お母さんたちが手作りの可愛いドーナツのようなお菓子(一つ日本円で約4円!)を売り出し、子どもたちは小銭を握りしめて列を作ります。授業の空き時間には、暇になった先生たちが校庭で「ジーナッツ(土の中で育つウガンダのピーナッツ)」を天日干しし、授業を終えた子どもたちが一緒になって手伝いながら、おやつ代わりにつまみ食いをしていました。

敷地内の畑では野菜やフルーツ、メイズ(現地でよく栽培されるトウモロコシ。ウガリの材料になる) が育ち、牛や鶏、七面鳥や山羊が自由奔放に歩き回っています(クリスマスなどの特別な日には、彼らは食用肉として貧しい家庭に寄付される仕組みだそうです)。

先生、生徒、親、赤ちゃん、そして動物たちまでをも「ごちゃ混ぜ」にしたこの空間は、最初は混沌(カオス)に見えましたが、よくよく観察すると、誰にとってもこれ以上ないほど温かく、心地よい空間でした。

大人みんなで子どもを「引き受ける」心地よさ

人数が多く、寮生活だからという理由もありますが、ここでは大人みんなが子どもたちの姿を、愛情を込めて「引き受けて」います。学校とは、単に国語や算数といった「科目」を学ぶ場所ではありません。大人の働く姿を見て「仕事」を学び、手作りのものを食べ、多様な年代や立場の人と交流する。すなわち、「社会で生きる」ということそのものが、生活の中に学びとして溶け込んでいたのです。

日本の学校のように、社会と距離を取り、外部の人を介入させないことにも一定の利点はあります。しかし、地域全体が学校に入り込み、境界線などあってないようなウガンダのスタイルは、僕の教育観を激しく揺さぶりました。

「もし自分が将来、学びの場をデザインするならば、こんな場所にしたい」 ウガンダの風に吹かれながら、僕はそんな未来の夢を描いていました。手伝ってくれる地域の大人や、その小さな子どもたちがいつも出入りしていて、近くには田んぼや畑があり、昼食はそこで採れたものをみんなで調理して食べる。多様な世代の大人といつでも交流でき、働く大人の背中から生きる知恵を同時に学べる場です。

学校を「閉じた場所」にしない。ウガンダのコミュニティースクールは、僕がこれから日本で実践していく教育への、大きな、そして色あせないヒントをくれた気がします。

(第3回へ続く)

飯塚 直輝(いいづか なおき)
飯塚 直輝(いいづか なおき)

1987年生まれ。静岡県出身。大学卒業後、神奈川県の中高一貫校で12年間英語教員を務める。2023年3月より世界の学校や孤児院を訪問し、子どもたちに授業を行う旅を開始。3年間で58カ国以上を巡り、各地で教育支援を行う。 また「世界を旅する教室」を主宰し、長期休みには日本人の中高大生向けに、カンボジアやバリ島などを訪れる海外スタディーツアーや哲学対話教室を実施。2026年3月の帰国後は長野県佐久市へ移住し、同年4月より大日向中学校・高等学校にて英語教員として新たなカリキュラム構築に携わっている。
note: https://note.com/iizukanaoki
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