日米間の「学年」「給食」の大きな違いが「ありがたい」の気持ちを育むワケ【多様性の懸け橋 (9)】

アンちゃんことクレシーニ・アンさん(北九州市立大学准教授・言語学者)が、「多様性」を軸に、仕事、結婚、家族、食文化などさまざまなトピックについてつづります。今回は、学校や教育の仕組みについてです。ちなみに皆さん、学校の給食で好きなメニューは何でしたか?

どちらの国も魅力たっぷり

ヤッホー!アメリカ系日本人のアンちゃんです!

アメリカ生まれアメリカ育ちの私は昨年、念願の日本国籍を取得した。そして今年、私は50歳の誕生日を迎えた。人生のちょうど半分をアメリカで、もう半分を日本で暮らしている。そのおかげで、アメリカと日本の文化や価値観、習慣、伝統などについて「よく分かる」という自信がある。どちらも知っているからこそ、それぞれのいいところと改善すべきところが見えるんだと思う。何より私は、この大好きな2つの国の架け橋になりたいです

どちらの文化も魅力に溢れている。また、どちらの国も極端になり過ぎる傾向がある。そして、どちらもお互いから見習うことがあると感じる。

今回で連載の第9回目だ。今まで、連載のタイトルでもある「多様性の架け橋」というテーマで、たくさんの記事を書いてきた。今日が初めてだったり、まだ読んでいない回があったら、ぜひさかのぼって読んでね。

◆ これまでの「多様性の懸け橋」を読む ◆

今日は、アメリカと日本の学校給食や食生活の違いについて話していきたいと思う。じゃあ今回も、私と一緒に多文化の違いを楽しもう!

日本とアメリカ、小中高&学年の違い

まず、日本の教育制度では一般的に、小中高の区切りが【小学校:6年間、中学校:3年間、高校:3年間】となっている。

一方、アメリカは学年の分け方が全国一律には決まっていなくて、町や子どもの人数によって決まる。私が生まれ育ったのはアメリカ南東部のバージニア州にある、めっちゃ小さい田舎町。アメリカで最も基本的なパターンは【小学校5年、中学校3年、高校4年】なんだけど、私の所は【小学校4年、中学校3年、高校5年】だった。日本の制度と照らし合わせると、「中2~高3まで同じ学校に通っていた」ことになる。

アメリカに行った当時、娘たちの学年は上からそれぞれ日本の【小3、小1、幼稚園の年長】だった。年長はアメリカだとkindergartenと呼ばれる学年にあたる。小学校に入る前の1年はそこに通う。

アメリカでは、「小学校から高校までで一つの教育制度」だと考えられていることが多く、そのため学年の呼び方も、「1年生、2年生、・・・12年生」となる。小・中・高で分けるのではないから、日本の小学1年なら「1st grade」、そして高校3年は「12th grade」となるわけです。

※編集部にて作成。

一方、日本の学校の多くは、小学校、中学校、高校とはっきり分かれている。ただ、最近は小中一貫教育が進んでいる地域もあり、中学生を「7年生、8年生、9年生」と呼ぶ所もある。実は、アンちゃんのいる自治体もそうです。正直、私はこの制度があまり好きじゃない。新しい物事は好きな方なんだけど、これに関しては伝統的な区切り方がいい。なかなか、「9年1組」みたいな言い方に慣れなくて・・・。

アメリカではおなじみ、「黄色いスクールバス」

私は日本で娘を3人産み、その3人とも、日本の保育園・幼稚園、小学校、中学校に行かせた。完璧な学校はもちろんないけれど、日本の学校には基本的に満足している。特に小学校は素晴らしいと思う。そしてアメリカの小学校もまた、日本にはない魅力を持っている。

10年前、私は大学の海外研修で1年間アメリカに滞在していた。単身赴任という概念は私の中になかったから、家族も一緒だ。日本生まれ・日本育ちの娘たちは、初めてアメリカの小学校に通うことに。さらにはその小学校というのがなんと、私自身が通っていた、故郷の小さな小学校!家族みんながめっちゃわくわくしていた。

娘たちはしょっちゅうディズニー・チャンネル(ディズニー作品を中心に、主に子ども向け番組を放送している専用チャンネル)でアメリカの番組を見ていたから、なんとなく、「アメリカの学校がどんな感じか」を分かっていた。

何よりも楽しみにしていたのは、あの有名な黄色いスクールバスに乗ることだったらしい。地域による違いはあるものの、アメリカでは日本の小学生のように歩いて学校へ行く習慣はあまりない。家から遠いし危ないから、多くの場合は親が送っていくか、スクールバスに乗って通う。学校が家から近い場合は徒歩や自転車で通う子どももいるけれど、基本的な移動手段はスクールバスだ。

ただし、アメリカでは16歳から運転免許証をゲットできるので〔*1〕、高校生になるとマイカーで行くことも可能。だからスクールバスに乗るのを「極めて恥ずかしいこと」だと思っている子もいる。うちの子たちはスクールバスが好きで、運転手と仲良くなり、友達もできた。

  • 〔*1:編集部注〕
    州によって運転免許が取得できる年齢は異なります。

日本とアメリカ、給食の違い

そして、もう一つ楽しみにしていたのが給食。日本の給食とは全然違って、「ジャンクフードが出る」と聞いていたからだ。

その学校の給食は冷凍食品のオンパレードだった。ハンバーガー、ホットドッグ、チキンナゲット、パスタ、タコスのサイクルで永遠に出ていた気がする。自分で昼ごはんを持ってくるという選択肢もあった。けれど、日本みたいな「弁当」じゃなくて、“なんとか”サンドやチップス、お菓子、果物や生野菜が入っている「lunch box」が多い。

ある日、遠足の引率として子どもたちと一緒に出かけた時のこと。児童たちのlunch boxを見て、バリびっくりした。ピザ、ハンバーガー、ケーキ、クッキー、わけ分からんミステリーお肉、などなど・・・。日本の親御さんたちがこういう「弁当」を見たら、ショックで気絶するかもしれない

ジャンクフードに大喜び!・・・は束の間!?

日本だと小学生は教室で給食を食べるのが一般的だと思うけど、アメリカの小学生の多くは、順番に食堂に移動し、そしてスタッフが給食を配ってくれる。

通い始めて最初の1週間くらいは、「やった!ハンバーガー!タコス!ポテト!ピザが食べられる!」と興奮した顔で言っていたわが娘たちだが、それも束の間。すぐに飽き、彼らの興奮は「ママ、何でアメリカ人はお魚を食べないの?」「ママ、味噌汁を飲みたい!」に変わっていった。

車で1時間ほど行った町にアジア食材を取り扱うスーパーがあったものの、日本のものはバリ高くて、そんなに買うことができない。納豆3パックの値段はなんと400円!

小学校では月1回、クラスの誕生日会というものもあった。その月に誕生日を迎える子のお母さんたちがクラスの生徒たちみんなの分のクッキーやケーキを用意しくれて、持ち寄りお菓子パーティーみたいな形で開催される、砂糖まみれの誕生日会だ。日本ではなかなか見かけないブルーやレッドのクリームが乗ったケーキにクッキー!

“お菓子な”よもやま話

ここでちょっと脱線させてね。私はアメリカに行くたび、“歯がずっと汚れている”ような気持ちになる。飲み物も、デザートも、おやつもあまりにも甘過ぎて、1日中「歯磨きしたいなあ」と思ってしまうほど。日本人も最近はアメリカ人みたいに甘いものが好きになってきているけれど、なんか、甘さのレベルが違う。

家族でアメリカにいた1年間も、ずっと砂糖と戦っている気がしていた。娘たちはどこに行っても――学校、習い事、教会、友達の家でも、砂糖まみれのものを食べていた。滞在中の住まいだった私の実家では、私が見ていない隙に、私の親が娘たちに「ね、このおいしいドーナツを食べてみてね!」とこっそり勧めていた。

ハロウィンもやばかった!近所へのtrick or treatingを回り終えると、袋には5キロ以上のキャンディーが・・・。もちろん、これを家に持って帰る。マジで冗談じゃない。なぜアメリカの肥満率が40%にも上るのか、なんとなく分かってきた。〔*2〕

子どもたちを育む素晴らしい“ルール”

食事に関して、確かにやばいことは少なくなかったけれど、好きだと感じることもいくつかあった。

まず、通っていた小学校で朝食が提供されていたこと。家で朝食を食べる時間がない子や、経済的に恵まれていない子など、必要とする子どもたちのために準備されていた。もちろん、食べてもいいし食べなくてもいい。栄養満点とは言えないものがよく出たけど(シリアル、パン、ドーナツ、ジュースなど)、お腹を空かせた状態の子どもがなかなか勉強に集中できないのも事実だ。その対応策として考えられたことは素晴らしいと思った。

そして、保護者はいつでも子どもと一緒に給食を食べていいというのも素晴らしい。事前連絡の必要はそんなになくて、事務室に声をかけるだけで大丈夫だった。マックやピザを持ってきている親御さんも見かけたことがある(笑)。すごいなあ、アメリカは自由な国だ。日本ではあり得ないだろう。まあ、後で「ファストフードはあまり望ましくない」と学校から連絡があったけど・・・。

全世界注目の「食育/ shokuiku」

なぜ、日本の学校給食はこんなにもおいしくて栄養があるのか。ずっと考えているけど、やはり「食育」がすごく大事にされているからだろう。日本の古くからの「いただきます」「もったいない」精神はもちろんのこと、日本の政府と学校は食育に非常に力を入れている。〔*3〕

海外でも日本の食育への関心は高く、特に飲食業界において「shokuiku」は英語の単語として通じるようになっている。

日本の学校給食は、日本人の誇り――そう、誇るべきものだ。安くて、おいしくて、栄養のある給食を提供する日本の学校は褒められるべきだと思う。

自分の外の世界を知る意義とは

ただし、他の国の給食制度を知らなければ、日本の給食がどれほど素晴らしいか分かるわけがない。私がこれまで常に言ってきたように、「他の国を知ることによって、自分の国をもっと深く知ることができる」。日本の子どもたちも、他国の給食制度について分からないままだと、日本のおいしい給食を「当たり前だ」と捉えてしまうかもしれない。そして、何かを当たり前だと思ってしまうと、感謝の気持ちもあまり抱けない。

私はわが子を見ていて、改めてそれを実感した。アメリカに行くまで、娘たちが日本の給食について話してくることはさほどなかった。ところが、1年間アメリカの学校給食を経験して帰国してからというもの、日本の給食への感謝の気持ちがとても大きくなっていたのだ。学校から帰ってきては、「ママ、やばい!今日の給食、マジでおいしかった!」「今日はおかわりしたよ」という報告をよくするように変化していた。

「ありがたい」を持ち続けていたい

それから、ある日、「ありがたい」の反対語について書かれた記事を見た。その内容が、「『ありがたい』の反対語は『当たり前』」というもの――何かの物事を当たり前だと思うと、感謝の気持ちはなくなる。まさにその通りだなあ、と共感した。

子どもたちにとっても、母親である私にとっても、アメリカで過ごした1年間はめっちゃ貴重な経験だ。アメリカのいい所、そして、日本のいい所がはっきり見えてきて、海外を知ることの大切さに改めて気づかされた。これからも、海外と日本を観察しながら、ずっと「感謝」の気持ちが溢れている人間でいたい。

次回は、研修の日々を終え、日本に帰国した後の大変な出来事について話すバイ。お楽しみに!


クレシーニ・アン
クレシーニ・アン

アメリカ・バージニア州生まれの日本の言語学者(海外語学研修・言語学)。学位は応用言語学修士(オールド・ドミニオン大学・2002年)。北九州市立大学基盤教育センターひびきの分室准教授。和製英語と外来語について研究している。作家、コラムニスト、ブロガー、コメンテーター、YouTuber、むなかた応援大使、3人の娘を持つ母。(写真:リズ・クレシーニ)

●ブログ:「アンちゃんから見るニッポン
●Instagram:@annechan521
●X:@annecrescini

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