デジタルに加え、ご近所ネットワークで「安心」「安全」。ロンドン・セキュリティー事情【LONDON STORIES】

インフレと不景気の影響か、イギリスでは最近空き巣が増えています。そこでさまざまな防犯対策や、SNSを使ったご近所ネットワークが一気に広まっています。今回は、イギリスの防犯対策ついて、ロンドン在住の宮田華子さんが紹介します。

防犯ネットワークを構築して空き巣対策

「今冬は暖冬」と言われていたものの、年始から本格的な寒波がやってきた。イギリス内では比較的暖かい地方にあるロンドンでも氷点下の寒い日が続いた上に、雪が降り、強風が吹き荒れた。冬の嵐の中出掛けると、身も心も凍り付く。

今年1月9日に近所に住む友人が撮影。凍るように寒い日だった。Video by Josh Ma

そんな痛いほどの寒さからスタートしたロンドンの2024年。遅めのごあいさつですが、皆さま、本年もどうぞよろしくお願いします。

この記事が公開される1月後半、クリスマスやお正月はすでに遠い昔のことだが、少しだけ時計の針を戻して昨年からの話にお付き合いいただきたい。

イギリスも日本同様、インフレに苦しめられている。昨年秋ごろからあらゆる物の値上がりをはっきりと感じている。加えイギリスの場合、EU離脱とコロナ禍の衝撃から脱却できず、経済も5年連続で低迷している。不況とインフレのダブルパンチにより、「持つ人」と「持たざる人」の経済格差が拡大することも懸念されている。

人々の生活が厳しくなっている今、何起きているかと言うと・・・空き巣が多発している。

留守中の家を狙った窃盗事件が相次でいる。(BBCニュースより)

直接の知り合いに被害者はまだいないが、「知り合いの知り合い」程度の遠さ(=近さ)の人は被害を受けている。特に12月は、インフレや天気の話と同じぐらいの頻度で、「防犯対策、どうしてる?」の話を友人たちとしていた。

これは「クリスマス帰省のため家を留守する人が多いから」が理由だが、良い意味も含んでいる。人々が独自の方法で「友人知人」「ご近所」との防犯ネットワークを構築し始めたので、話題に上りやすいのだ。

ご近所でSNSグループを作る

12月初旬のことだが、近所に住む友人のP君がわが家に遊びに来たとき、「こんなフライヤーが今朝ポストに入っていたんだ」と印刷された紙を見せてくれた。

そのフライヤーは、P君と同じストリートに暮らすA氏が作成したものだ。読んでみると、A氏の家はごく最近、2回も空き巣に入られたという。そこで防犯カメラを設置したところ、不審な人物3名がA氏の家の周りを頻繁にうろついている姿が写っていた。フライヤーには「不審な人物」の写真と共に空き巣に入られた日時、盗まれたものなどが書かれており、「2回の空き巣は同一グループによるものだと思う」というA氏の分析が書かれていた。

そして最後に「このストリートを守るために、皆で情報をシェアしませんか? 興味のある方はWhatsApp(「Line」に似たメッセージングおよび音声通話サービス)でメッセージを送ってください。グループに追加します」と携帯番号が書かれていた。

ほぼLineと同じように使えるMeta社の「WhatsApp」。イギリスで最も使われているメッセージアプリ。

P君はフライヤーを見てすぐにA氏にメッセージを送り、グループに加入したという。

近所の人の顔は知っているし家の場所も分かるけれど、電話番号やメールは知らなかった。A氏が呼び掛けてくれたおかげで、気軽に連絡が取れるようになってすごく良かったよ」

ほっとした表情でそう語ったが、それには訳がある。P君はクリスマス前からしばらく家を留守にするため、家の防犯対策を懸念していたからだ。

P君の家の玄関にはセンサーがあり、何かあった場合にP君のスマホにアラームが届く。そして、必要な場合は近所に住む私と夫が駆け付けることになっている。しかしグループに加入したことにより、私たちがすぐに行けない場合でも誰かが様子を見に行ってくれることになった。留守中に頼れる防犯仲間が増えたことで安心したのだ。

P君のグループは現在までに20戸近くが参加しているそうだが、こうしたSNSを通じたグループ構築は、ここ半年で急速に広まっている。

留守の予定をさりげなく伝える方法

私が暮らすストリートにはまだこうしたネットワークはないのだが、両隣の家族とは防犯や日々の暮らしについて情報をシェアしている。

現在の住まいに引っ越したときに両隣とメールアドレスと携帯番号を交換した。以来、両隣とは頻繁に連絡している。「今日は大工さんが屋根の修理をします。うるさくてごめんなさい」「今日は1日留守にしているのですが、もしかしたら宅配が届くかも。ハナコは今日家にいるかしら?」――そんなやりとりをスマホ片手に気軽にできる関係だ。防犯に対しても頼り合えるサポート関係を強化してきたが、年に数回、「ちょっと粋な方法」でお互いの在宅情報をシェアしている。

12月頭、クリスマスカード第1号は左隣の一家からだった。この一家は、女性カップルと2歳の女児の3人家族。クリスマスカードやイースターに、カードと小さなプレゼントを贈り合っている。

カードには「今年も1年、良き隣人でいてくれてありがとう」というねぎらいの言葉と共にクリスマスのあいさつが書かれていた。そして最後に「わが家は12月15日からホリデーに出掛けますが、1月1日に戻ります」とあり、緊急連絡先も記してあった。

両隣から可愛いカードとおいしいお菓子のクリスマスプレゼントを頂く。

ほどなくして右隣からもクリスマスカードが届いた。右隣は夫妻とティーンエージャーの娘2人の4人家族。彼らからのカードには「今年はクリスマス期間、留守はせずずっと家にいます。何かあったら声を掛けてください」と書いてあった。

こんな風にさりげなく予定を伝え合うと、お互いに見守り合うことができてとても便利だ。例えば強風が吹くと、門のフックが外れて開いたり植木が倒れたりすることがあるが、そのままにしておくと「この家の住人は留守」と分かってしまう。隣人宅がそんな状態になったとき、すぐに元に戻したいと思うものの、関係性ができていなかったり、予定が分からなかったりすると「敷地内に入ってよいものか?」「今日帰ってくるかも」と思い、直すのをためらってしまう。しかし留守状況が分かっていればさっと戻せばよいだけだ。

わが家も両隣も玄関に防犯カメラを設置してあり、玄関前の様子はリモートで確認できるのだが、ひっくり返った植木を直す際、カメラにちょっとだけ顔を向けることで、不審者や不法侵入者ではないことを知らせることができる。

イギリスは公共の場に防犯カメラが多いことで有名だが、設置する家庭も増えている。

家庭用防犯カメラが急激に普及

ここ数年で高性能の防犯カメラが比較的安価で買えるようになったため、ご近所界隈でも設置する家が続出している。これも安心材料の一つだ。

お隣に「お互い見守ることができるし、設置した方がいいですよ」と勧められたことをきっかけに、わが家も昨年、玄関周辺が広域に映る防犯カメラを設置した。オンライン通販で購入し、機器そのものは22ポンド(約4000円、下の動画のブランド)と安かったが、カメラの解像度にも機能面にも大満足している。

使い方は簡単。カメラとアプリとひも付けると、スマホを経由して世界どこにいてもライブ映像を確認できる。加え、留守中に通知設定をしておくと、ドア前など、特定の場所に人が近付くとスマホに通知が届く。

通知を受けて映像を確認し、もし不審な人物と思う場合、アプリを操作して警報音を出したり、まるで家の中から話し掛けているように「どなたですか?」と声を掛けたりすることもできる。

わが家の場合、まだ家の中にはカメラを設置してはいないが、(下記の動画のような)室内に「置くだけ」タイプの防犯カメラは設置工事の必要がないのでさらに手軽だと聞いている。

わが家も次に長く留守するときに、設置しようと思っている。

年が明け、お隣さんが長めのホリデーから帰宅した。彼らはクリスマス前から長く留守していたので、たくさん届いたクリスマスカードも含め、郵便物もたまっていた。ドアに付いている郵便用の小窓からあふれていたので、「防犯上良くないと思うから、少し抜き取ってわが家で保管しておきますね」と伝えておいた。

帰宅すると、早速お土産を片手に郵便物を取りに来た。楽しいホリデーでのエピソードとお土産をいただき、「また今年も一年よろしくね」とお互いあいさつをして去って行った。

メッセージアプリや機器類は防犯をより手軽にし、コミュニティー形成にも貢献してくれる。加えデジタルや機械だけに依存するのではなく、フィジカルに(=実際に)「人」と会ったり会話したり仲良くなることで、防犯の強度はさらに上がる。

しばらくインフレは続くだろう。そして景気回復もいつになるか分からない。空き巣を含め、防犯対策はこれからも続くが、デジタルを上手に使いつつ、フィジカルな人との交流も深めながら、今年も一年しっかり防犯対策をしていきたいと思っている。

宮田華子
文・写真:宮田華子(みやた はなこ)

ライター/エッセイスト、iU情報経営イノベーション専門職大学・客員教授。2002年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。

公式サイト: https://matka-cr.com/hanako-works
instagram: https://www.instagram.com/hanako_london_matka/
X: https://twitter.com/hanakolondon_uk

トップ写真: Gleren Meneghin from Unsplash
本文1番目の「WhatsApp」の写真:Dimitri Karastelev from Unsplash
本文2番目のクリスマスカードの写真:Annie Spratt from Unsplash
本文3番目のCCTVの写真:the blowup from Unsplash

連載「LONDON STORIES」

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UnsplashToa Heftibaが撮影した写真

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