「クリスマスは家族の日」だけど。人それぞれのクリスマス【LONDON STORIES】

イギリスのクリスマスは「家族が集まる日」。しかし、あえてイスラム教圏など「クリスマスを祝わない」国でのんびり過ごす人や、ホームレス用シェルターでボランティア活動をする人もいます。ロンドンに住む宮田華子さんがイギリスのクリスマスについて紹介します。

クリスマス商戦が本格的に始動する11月初旬

10月末のハロウィーンが終わると、翌日から一気にクリスマスムードに切り替わるのが毎年変わらぬロンドンの風景だ。

今年も11月初旬にはメインストリートのクリスマスライト(=イルミネーション)が点灯した。クリスマス商戦が本格的に始動するが、11月末にはブラックフライデーも重なり、毎年最後の2カ月のショッピング街はとてもにぎやかだ。

ロンドン目抜き通りRegent Streetには今年も天使が舞っている。

現在の予測ではこの冬は暖冬らしい。とはいえ朝は気温が2-3度まで下がり、厚手のコートなしでは外出できなくなっている。日も短くなり午後4時過ぎには暗くなる。いよいよ長く厳しい冬に向かっていることを実感するが、クリスマス時期には「祭り」特有の華やかさがある。

毎年この時期、ENGLISH JOURNALにクリスマスについて書かせてもらっているので、何度か書いたことだが、イギリスにおけるクリスマスは「恋人がデートする日」ではなく「家族が集まる日」だ。感覚的には日本における「お正月」に近い。クリスマス前に多くの人々が実家や家族が集合する場所に移動するので、12月の公共交通機関は大混雑の上に値段が上昇する。ロンドンは「もぬけの殻」状態になり、帰る実家のない外国人は友人たちで集まってパーティーをして過ごすことが多い――そんな話を過去に紹介させてもらった。

しかし、こうしたスタンダードなクリスマスの過ごし方をあえてしない人たちもたくさんいるのも事実だ。

クリスマスを「あえて避けたい」人々

S君とJ君(共にイギリス人男性)は知り合って15年以上になる友人だ。彼らとは毎年12月初旬ごろ「早めのクリスマスディナー」をするのが習わしだ。2人を含めた友人数名と共にレストランを予約し、飲んだり食べたりしながら楽しく過ごしている。

帰省に伴う「民族大移動」が始まる前に、友人たちと集まり夕食会や飲み会を開催するのはよくあることだ。しかし、S君とJ君がクリスマスに家族のもとに帰省しているのを、私はただの一度も見たことがない。

彼らはクリスマスに帰省するのを嫌い、「必ず」暖かい国を選んで長めに一緒に旅行をする。私たちの「クリスマスディナー会」は、2人の旅行の出発日に合わせて予定するので毎年早めの開催なのだ。

パブでまずは一杯飲んだ後レストランに移動し、食事の後またパブで飲み直す。深夜まで続く“私たち流”クリスマスディナーを毎年楽しみにしている。

S君とJ君には、共に帰省したくない理由がある。S君の両親は既に他界しているものの、きょうだいはたくさんいるので帰省先がないわけではない。しかし「子ども時代にあまり良い思い出がないので、『ファミリー感』に包まれるこの時期に、イギリスにいたくない」と語る。

J君は両親共に健在であるが、家族と複雑な問題を抱えている。「『帰りたい実家がない』ことを考えたところで解決しないしね。だからクリスマス時期は旅行しているのが一番」と言う。

S君やJ君のように「クリスマスをあえて避けたい」人たちは多く、これまで何人もそんな人たちに会ってきた。「旅行に行くから」と言えば実家に帰らない言い訳が簡単だし、旅先の非日常はさまざまなことを忘れさせてくれる。

キリスト教を国教にしている国、またキリスト教信者が多い国におけるクリスマスは、イギリス同様「家族が集う日」だ。この日ばかりはショッピング街も飲食店も閉店するので、キリスト教国を旅してもホテルにこもっていることしかできない。よって彼らが向かうのは、イスラム教圏など「クリスマスを祝わない」「クリスマスは平日」である国々だ。気候が温暖で暖かく、かつ英語もそこそこ通じるトルコやモロッコが人気の旅先である。

トルコはクリスマス時期に大人気の旅行先。

外国人としてロンドンで暮らす私にとって、クリスマスは「楽しい時期」であるとともに帰る実家が近くにない寂しさを突きつけられる時期でもある。とはいえイギリスならではのクリスマスの風景は、何年ロンドンに暮らしてもどこか「非日常」のワクワク感を味わえる。

この二つの感情があることで、私はこの時期心のバランスが取れているのかもしれない。S君やJ君の話を聞きながら自分が日本にいた頃(特に若かった頃)のことを思い出してみると、2人の「クリスマスを避けたい」気持ちがとてもよく分かるのだ。私自身、家族や親せきが集まる正月の日々を、いつもいつも楽しんでいたわけではなかった。帰省するのを苦痛に感じたこともあったし、大みそかギリギリまで帰省しなかった年もあった。

「家族」とはありがたい存在であると同時に、よくも悪くも強烈な印象と影響力をもたらすものだ。濃密に「家族」を感じるクリスマスの日々を幸せに感じる人もいれば、孤独と直結する人も多いだろう。誰かにとっては傷口に塩を擦り込まれるような時期でもあるのがクリスマス。そのことを忘れずに過ごさなくては・・・と毎年思う。

クリスマスは「ボランティアをする日」

もう一人、自分なりのクリスマスを過ごしている友人がいる。Jさん(イギリス人女性)は毎年12月24日と25日は必ず、一人暮らしの自宅から歩いていける場所にあるホームレス用シェルターで過ごしている。

彼女は会社員の傍ら、月に数回程度シェルターを運営するチャリティー団体でボランティアをしている。「ホームレス」とは「ラフスリーパー」と呼ばれる路上生活者に加え、何らかの事情で安定居住できる家を失った人、虐待や暴力から逃れるために自ら家を離れた人なども含まれる。その中には子どもも多数いる(下記は、イギリスを代表するホームレス支援団体「Shelter」が募金を呼び掛ける動画)。

冬季はチャリティー団体の繁忙期であるが、常勤スタッフが不足する時期でもある。彼女は毎年大きなシェルターでクリスマスディナーの調理を手伝い、また夜間の施設受付業務を担当しているという。

「クリスマス時期にシェルターでボランティアをするのは、なんだか偽善みたいな気もするのだけれど・・・。確かにそんな気持ちがないわけじゃないのよ」。彼女は正直な気持ちを打ち明けてくれた。

「でもね、それだけじゃないの。楽しいからやっているの」

大量のローストターキーをみんなで一緒に用意し、食べ、その後は歌を歌ったりするそうだが、「ごちそうの準備を皆でするのはすごく楽しいし、何より忙しいからあっという間に時間が過ぎてしまう。作業を通じ、いつもではできない話ができることもある。子どもたちもたくさんいるので、彼らと遊ぶのも楽しいし」。

クリスマス当時の定番メニューは「ローストターキー」。

彼女のように「クリスマスはボランティアをする」人の話もわりとよく聞く。クリスマスの過ごし方は人それぞれ。人の数だけ異なる「クリスマス物語」があるのだなと思う。

11月から「メリークリスマス」

年の私のクリスマスシーズンは、11月中にキックオフすることになっている。

S君とJ君が例年よりも早めに旅行に出発するため、毎年恒例のクリスマスディナーを11月末に設定したからだ。「ずいぶん早いな~」と今は思っているが、これを皮切りに友人たちと順次会っては「メリークリスマス!」と言っているうちにあっと言う間にクリスマス当日がやってくるのだろう。

12月に入ると、ツリーを販売する露店があちこちに現れる。

実家や旅行へ旅立つ友人たちを見送った後、今年は静かなクリスマスを過ごす予定にしている。のんびり料理し、ゆっくりと1年を振り返るのが楽しみだ。

にぎやかな雰囲気をまとう季節だからこそ、つらい気持ちで過ごした年のことも思い出す。そしてバタバタと忙しく12月を過ごせることはとても幸せなことだと毎年かみ締めている。

クリスマス商戦が始まっているロンドン。高級デパートFortnum & Maisonも混雑している。

この記事を読んでくださる皆さま、それぞれの場所、それぞれの思いで12月を迎えることと思います。皆さまの心に、ほんの少しでも暖かな光がともるクリスマスになりますように。心から願っています。Happy festive season!

宮田華子
文・写真:宮田華子(みやた はなこ)

ライター/エッセイスト、iU情報経営イノベーション専門職大学・客員教授。2002年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。

トップ写真: AdobeStock
本文2番目のレストランの写真:Jay Wennington from Unsplash
本文3番目のトルコの写真:Hussein A.Himmati from Unsplash
本文4番目のターキーの写真:Christopher Ryan from Unsplash

連載「LONDON STORIES」

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