「日本人の宗教」は何?日本とアメリカの「拝む」意味の違いは?複雑だけど大切な「宗教観」【日米文化の裏側】

アメリカ出身のアン・クレシーニさんが、アメリカと日本、2つの国のさまざまな違いや“あるある”についてお届けする連載。今回のテーマは「宗教」です。

日本人の「宗教感」

700年続く「神事」が「宗教ではない」!?

皆さんは、「みあれ祭」というお祭りをご存じでしょうか。私が住んでいる福岡県宗像(むなかた)市には、2018年に世界文化遺産登録された「宗像大社」という神社があり、「みあれ祭」は宗像大社が毎年10月に行っています。海の安全や大漁を願うのが目的で、約700年前に始まったお祭りだそうです。私は去年、この「みあれ祭」に行ってきました。

せっかくなので、もう少し詳しく「みあれ祭」について見ていきましょう。日本の神話によると、天照大神あまてらすおおみかみは、娘3人に神勅(しんちょく)(神の命令)を授け、彼女たちを宗像地方に送りました。宗像大社は、「辺津宮(へつぐう)」「中津宮(なかつぐう)」「沖津宮(おきつぐう)」という3つ宮の総称で、それぞれの場所と祭られている神様は次の通りです。

みあれ祭では、湍津姫神(中津宮:大島)と田心姫神(沖津宮:沖ノ島)のご神体がそれぞれ「御座船(ござぶね)」に乗せられ、市杵島姫神が鎮座する辺津宮へと送り届けられます。普段は離れ離れの三姉妹にとって、年に1度の再会となるわけです。御座船の周りは、色鮮やかな大漁旗を掲げた100隻以上の漁船が囲み、ご神体を守りながら一緒に進みます。

みあれ祭の漁船団(©福岡県観光連盟)

この「みあれ祭」を見て感動した私が市の職員さんに「日本の宗教が本当に好きです!」と言ったところ、彼は「これ、あまり宗教感がないんです。(宗教と言うより)日本の文化ですね」と返事しました。私は、その発言にびっくりでした!だって、神様を迎えに行く儀式です。これはどう見ても神事だろう!と思いました。

「宗教」と「religion」の間にあるもの

私は、大学時代からずっと「宗教」に関心を持ち続けています。そして、宗教のおかげで日本に来たとさえ言えるかもしれません。大学では、宗教哲学学科で宗教を専攻しました。私自身はキリスト教ですが、いろいろな宗教について勉強することが大好きです。

ある日、各国の宗教について研究や調査を進める中で、非常に面白い発見がありました。調査の内容をざっくり言うと、さまざまな国の人たちに「あなたの宗教は何ですか?」と質問して、その答えを集計するというもの。キリスト教、仏教、イスラム教など、たいていの国では、その割合の合計が100%になります。「そりゃ当然でしょ」と思うかもしれませんが、実のところ、日本だけは結果が大きく違いました。どういうことかと言うと、割合の合計が150%を超えたのです!「なんで100%を超えるわけ?」と不思議に思い、さらにいろいろな人に聞いたり調べを進めたりしていきました。

そうして、「日本人は人生の節目となる行事に応じて宗教が変わる」ことが一因だとわかったのです。例えば、赤ちゃんのお宮参りは神道にあたります。チャペルで挙式したり、ウェディングドレスやタキシードを着たりする結婚式はキリスト教。僧侶を招き読経を行う葬式は仏教。こういう考えや習慣ですから、なかなか「合計100%」という枠には収まらない、というわけです。

しかしながら、「個人的な宗教は?」という尋ね方になると、恐らく「無宗教」と答える日本人が多いに違いありません。では、これは「矛盾」と言うべきなのでしょうか。もしかすると、日本語の「宗教」と英語の「religion」は、若干ニュアンスが違うのかもしれません。今日は、読者の皆さんと一緒に「宗教」と「religion」について考えていきたいと思います。

「宗教」の定義を考えてみる

まずは、日本に根付いている昔ながらの「神道」について考えましょう。私は大学で、「これは日本特有のreligionだ」という風に教わりました。神道は、多神教(多数の神々を信じて崇拝する宗教)とアニミズム(あらゆる自然物や自然現象に霊魂があると考えて崇拝する信仰)の要素が合わさっていて、自然、そして八百万(やおよろず)の神(多種多様な数多くの神)を崇拝する宗教です。アメリカ人の考えからするとこれは明らかにreligionなのですが、多くの日本人にとってはどうでしょう。

そもそも、「宗教」の定義とは何か――。なかなか難しいけれど、いくつか挙げてみましょう。

① 神や霊的な存在を信じること/Belief in a god or supernatural being
② 死生観・死んだ後どうなるかという教えがあること/Explanation about what happens after death
③ 道徳規範や「どう生きるか」という教えがあること/Has a moral code and principles for living
④ 人生・信念・振る舞いについて導く経典があること/Has a scripture which guides life, belief and behavior
⑤ 教祖がいること/Has a founder
⑥ 人間性(あり方や行動)について説明すること/Explains human nature
⑦ 礼拝や参拝する所があること/Has a place to worship

――などなど。もちろん、他にもたくさんあります。

には経典がなく、教祖もいません。そして、キリスト教やイスラム教とは異なり、死後についての教えはあまりありません。こうして見ていくと、神道はそんなに「教え」がないですね。

そして、漢字を見てみると、「神道」には「道」が付いています。「茶道」「剣道」「書道」「空手道」などは、どちらかと言うと「宗教」よりも「生き方」のイメージが強いと思います。一方、「仏教」「キリスト教」「ヒンズー教」「イスラム教」などは「教」が付いているので、「宗教」という感じが強いと思います。これらの宗教は外国由来ですが、仏教だけは日本の文化に強く根付いたものです。神道と仏教と儒教を合わせると日本人の「宗教観」が分かる、と私は思っています。そして、その宗教観の中心にあるのは、「先祖供養(仏壇に手を合わせる、お墓参りをするなど、先祖への感謝や尊敬の気持ちを伝えること)」です。仏壇やお墓など、先祖供養に関するものは仏教の教えと考えられがちですが、先祖を供養するという概念は、元来、仏教にはありませんでした。これは儒教の影響を強く受けた慣習です。

すでに述べたように、「神道」は「道」が付いているので、「茶道」「剣道」「書道」などと同じように、「宗教」より「生き方」のイメージが強いです。先日、大学の授業で学生たちに「神道を宗教だと思う?」と聞いたところ、「いや、思わない」という答えの方が多かったです。ちなみに、仏教は6世紀に朝鮮半島の百済(くだら)から日本に入ってきました。そのときまで、「神道」という単語は存在していませんでした。仏教と区別するために生まれたのだそうです。

神輿(みこし)を担ぐのは神事?ただのお祭り?

以前、私に神輿に関する取材の依頼が来たことがあります。一神教のキリスト教信者である私は、「この神事に参加してもいいのだろうか」としばらく迷っていました。日本人の友人たちに尋ねてみると、「あれは宗教じゃなくて、ただのお祭りごとなんだよ!」という答えが多くの人から返ってきました。「ええっと・・・お祭り自体が神事なんだけどなあ」と不思議に思ったものです。

そこで神職の方にも聞いてみたら、「神輿を担ぐというのはバリバリ神道だよ」とのこと。やはり一般人と神道に携わる神職の方たちの間には、認識や感覚にずれがあるのだと感じた出来事でした。

同じように、仏教の禅宗にもあまり宗教感がないと思います(禅宗とは仏教の一派。臨済(りんざい)宗、曹洞(そうとう)宗、黄檗(おうばく)宗の3つの総称)。友人が座禅に誘ってくれたことがあって、このときも私は、「キリスト教の私がこれをやっていいのかな」と悩みました。欧米では、禅宗は間違いなく宗教だと捉えられています。しかし、日本のウィキペディアで調べたら、宗教ではなくて精神を整える方法、みたいなことが書いてありました。やっぱり、「宗教」の概念が違うなあ・・・。

平たく言うと、日本では、宗教は「所属するもの」で、神道や禅宗などは「個人でやるもの」――という感じがします。

ここまでの話から考えられるのは、多くの日本人は「無宗教」かもしれないが、「無神論者」ではない、ということ。つまり、特定の宗教のみに所属しているわけではないし、そうしたくもないけれど、霊的な、何か超越した存在や、天国、天使などを信じる人が多いと思うのです。

ちなみに、「無宗教」を英語ではnon-religiousagnosticと言っていいと思います。「無神論者」はatheistです。atheistはギリシャ語から来た言葉で、意味はno god。つまり、atheistsは神様や天国、永遠に生き続ける魂などを信じていません。目に見えるものしか存在しておらず、人の死後に魂は消えるという考えです。

アメリカには、無神論者は割と多くいます。同時に、いわゆるSBNR(Spiritual But Not Religious)、つまり「スピリチュアルなことに興味はあるけれど無宗教」と自分をアイデンティファイしている人も増えています。Pew Researchの2017年の調査によると、アメリカの成人の約4分の1が「自分はSBNRだ」と考えています。スピリチュアルなものに興味がある点は、アメリカと日本の共通点だと感じました。私の周りにも、「無宗教だけど占い・星座・手相などに興味がある」という人は多いです。

宗教についての英語の例文

ではここで、文を見ていきましょう。

The two major religions in Japan are Shinto and Buddhism.
日本で最も影響がある宗教は神道と仏教です。

Many Japanese don’t think Shinto is a religion but a way of life.
多くの日本人が、神道は宗教ではなく生き方だと思っている。

Shinto and Buddhism have a huge influence on the way many people live, think, and interact with each other.
神道と仏教は、日本人の生き方、考え方、人間関係に計り知れない影響がある。

My father was brought up in a Christian family, but he became an atheist in college.
父はキリスト教の家庭で育ったが、大学時代に無神論者になった。

I guess I would say that I am an agnostic. It’s not that I don’t believe in god, I just don’t know or care all that much.
まあ、どちらかと言うと私は無宗教かな。神様を信じていないわけじゃないけど、いるかどうかよくわからないし、あまり興味がないんだ。

「信じる」強さと「拝む」対象

あなたは神を信じますか?

Do you believe in God?(あなたは神を信じますか?)

日本に来る宣教師の方々は、よく日本人にこの質問をしますが、多くの日本人はなかなかすぐには返事ができないと思います。まず、「何の神様?」という疑問が浮かびますよね。そして次に来るのが、「believeってどの程度?」でしょう。日本人は「神道/仏教を信じる」「神を信じる/信じない」などとはあまり言いません。よほど信仰心が強くない限り、「信じる」「信仰している」という表現は使いませんよね。

これに対して、アメリカ人は、Do you believe in God?と聞かれたらすぐに答えると思います。I believe in God. / I believe in Christianity. / I don’t believe in God.といったように普通に言います。アメリカでは日頃から宗教について考える機会が多く、「はい、信じます」「いいえ、神なんかいませんよ」とはっきり答える人が多いような気がしています。

「拝む」と「worship」の違いに要注意

同様に、「拝む」という単語も、微妙に違う気がします。「拝む」「崇拝」を英語に訳す場合、worshipが使われることが多いですが、「拝む」と「worship」が完全に同じ意味というわけではありません。日本語でも、「拝む」は状況によってニュアンスが変わっていくものです。

例えば、仏壇の前で手を合わせて拝むのと、神社で手を合わせて拝むのは、「誰に対してか」というのが違う気がしませんか?仏壇の前で拝むときは、「故人やご先祖さまにあいさつ」をしていますよね。これについては、キリスト教信者がお墓を訪れて、故人やご先祖さまに語りかけることとあまり変わらないと思います。一方、神社で手を合わせるときは、「神様に願い事やお祈り」をしています。でも、どちらの行為も「拝む」だと言えます。

英語のworshipは意味がとても強くて、自分よりもずっと大きな力のある、人間を超越した存在に礼拝を捧げるイメージで考えてください。一神教の考えでは、その存在とは「神様」です。日本は多神教でありアニミズムの国なので、「神」「ご先祖さま」「仏様」などが参拝の対象になっています。拝む対象が、人によっても異なるし、時と場合によっても変わる――つまり、ご先祖さまだったり仏様だったり、あるいは神様になったり、風になったりとさまざまな考えがあるため、worshipという単語だけではその死生観を説明することは不可能だと思います。

「拝む」についての英語の例文

仏壇の前で拝む、神社で拝む、さらにお墓参りで拝む、これらの英語表現の違いを見ていきましょう。

【仏壇の前で拝む】
おじいちゃんにお参りしてね。
Go pay respects to your grandad.
Go say hi to granddad.
Go visit granddad.

ここでは、Go worship your grandad.とは言わないと思います。

【仏壇の前で拝む】
お参りしたい。
I want to pay my respects.

pay one’s respectは「対象となる存在を尊重する」という意味です。

【お墓参りで拝む】
お盆の間、お父さんのお墓参りに行ってきました。
I visited my dad’s grave during obon.

【神社で拝む】
いつか伊勢神宮にお参りに行きたい。
I want to visit Ise Shrine someday.

【神社で拝む】
神社へお参りに行きます。
I am going to pray at the shrine.
I am going to worship at the shrine.

まとめ

日本では「宗教の話はしてはいけない」という意識が今も強いでしょう。しかし、宗教を理解できなければ、文化や言葉を理解する機会も失われてしまいます。だからこそ、宗教を知るということは多文化理解のために欠かせないものだと思います。

個人的な信仰は置いておくとして、宗教を「学問」として勉強することは非常に大事です。なぜなら、人間の価値観とは、知らないうちに宗教観に影響されているものだと思うからです。たとえ日本人が自分で「無宗教です」と言っても、アメリカ人の宗教離れが進んでいても、その文化の土台ができあがっているのは、宗教の影響が大きいと言えるでしょう。

「神」と「god」、「信じる」と「believe」、「信仰」と「faith」、「参拝」と「worship」・・・。長く日本に住めば住むほど、これら全てのニュアンスが違うということにますます気付かされます。

言葉。文化。価値観。全部繋がっていると考えながら、楽しく多文化と言葉を楽しみましょう!

アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ

●宗像大社、ならびに「みあれ祭」については主に以下のサイトを参照:
宗像大社 / 文化遺産オンライン / まつりと / 解説文データベース
●本文写真:Nana Fuzimi from Unsplashbeeboys from Adobe Stock

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