日常でぶつかる困難を表現する「きゃぱい」「無理ゲー」「メンケア」ってなに?【ウェス先生の日本語スラング採集記】

連載「日本語スラング採集記」では、マッコーリー大学講師で日本語の研究をしている言語学者のウェス・ロバートソン先生が、日本語のスラングや若者言葉のあれこれを英語で解説し、日本の文化について考察していきます。今回取り上げるのは「きゃぱい」「無理ゲー」「メンケア」。困難やつらいことがあった際に使用するこれらの言葉たちについて考察します。

きゃぱい:ギャルモデルが考案した大ヒットスラング

「きゃぱい」は「キャパシティーがいっぱい」の短縮形です。つまり、誰かの「容量」が「満杯」であることを意味します。この言葉は、EGGモデルの古川ゆなさんが、年配の女性が「キャパオーバー」(つまり「キャパシティー オーバー」)と言っているのを聞いたことから広まったそうです。彼女はこのフレーズを気に入りましたが、少し長すぎると思い、「きゃぱい」という略語にしました。彼女が考案したこの言葉は大ヒットし、2021年にはギャル雑誌『EGG』で最もポピュラーなスラングにもなっています。

この言葉は、感情的にも身体的にも精神的にも、ほぼ限界に達している場合に使用される表現です。つまり「きゃぱい」の「ぱい」は「オーバー」ではなく「いっぱい」から来ているので、「きゃぱい」は、「オーバー」する直前の状態であり、あなたが限界の近くにいることを意味します。「いっぱい」は最大であることを意味しているので、「溢れ出る」ことを意味しません。

ストレスとは関係のない「きゃぱい」の使い方もあります。例えば、喜びの感情に満ちている場合も、「きゃぱい」と呼ぶことができます。たとえば、以下の人物は、ゲームでプレゼントを受け取った喜びと感謝を表現するためにこの言葉を使用しています。アガーとありがとうございますの繰り返しは、これがストレスの状況ではなく、むしろ喜びの限界を試すものであることを明確に示しています。

英語の原文

きゃぱい is a shortening of キャパシティーいっぱい. That is, someone or something’s “capacity” is “full”. The term was popularized by the EGG model Kogawa Yuna, who heard some older woman in Osaka say she was キャパオーバー (that is キャパシティーオーバー). Yuna liked the phrase, but thought it was a bit too long, so shortened it. Her coining – which she has actually said should be written entirely in hiragana – was a hit, and became popular enough to become EGG’s #1 slang term for 2021.

If you’re at your near limits emotionally, physically, or mentally, you are きゃぱい. I suppose its worth stressing that this is pre rather than post going to full on “overload”, as きゃぱい puts you at the border. The ぱい is from いっぱい not オーバー. いっぱい means at the maximum, not at overflowing.

There are uses of きゃぱい which don’t relate to stress. When you are full of joy, you can also call it/them きゃぱい. For example, the person below uses the term to express joy and appreciation at receiving some presents in a game. The repetition of アガー and ありがとうございます shows clearly that this is not a stressful situation, but rather one that tests their capacity for joy.

無理ゲー:攻略不可能なテレビゲームから転じて

「無理ゲー」は文字通り、多くの人にとって攻略不可能なゲームを意味します。または、少なくとも非常に難しいゲームのことです。ここから転じて、現実の中で何かを「無理ゲー」と呼ぶ場合は、それが非常に難しいということを意味しています。例えば、「明日までに1万語の原稿を書く?無理ゲーだ」などです。

単なる「無理」と「無理ゲー」とでは意味の実質的な違いはありませんが、後者はもちろん俗語的で、単に不可能なことではなく、攻略不可能なテレビゲームを想起させます。したがって、圧倒的に不可能な状況を少し軽快で楽しい響きにするかもしれません。

また「無理ゲー」という言葉はほとんどの場合、ある種の不満として使用されます。基本的には名詞で、他の名詞を「無理ゲーの」という形で修飾することができます。下記の例では、「無理ゲー」という言葉を「ありえない日」という意味で使っています。

「無理ゲー」という名詞は、次のようないくつかの連語でも使用されます。

  • 無理ゲーを勝利する:「無理ゲーを打ち負かす」
  • 無理ゲーを続ける:「無理ゲーな状況を続ける」
  • 無理ゲーを攻略する:「無理ゲーな状況に勝とうとする」
  • 無理ゲーを強いられる:「無理ゲーな状況に強制的に置かれる」
  • 無理ゲーを立ち向かう:「無理ゲーな状況に立ち向かう」
  • 無理ゲーを感じる:「何かが無理ゲーの雰囲気を醸し出している」

したがって、「無理ゲー」は非常にわかりやすい用語ですが、さまざまな動詞との組み合わせによって興味深い用途を持っています。

英語の原文

A 無理ゲー is literally a game that is impossible. Or at least really difficult. By extension, calling something in real life a 無理ゲー is simply a way of saying that it’s really hard. For example, write 10,000 words by tomorrow? 無理ゲーだ!

There’s no real difference between 無理 and 無理ゲー in terms of the literal meaning of the expression, but the latter is of course more slangy and helps evoke the idea of impossible video game stage rather than just, well, being impossible. So maybe it makes the crushing impossibility sound a bit more lighthearted and fun.

As you can see from the examples above and below, 無理ゲー is most commonly used as some kind of complaint. It’s basically a noun, and can modify other nouns via the 無理ゲーの construction. The person below uses this form to mean “an impossible day”.

The noun is also used in a few collocations, such as:

  • 無理ゲーを勝利する:「無理ゲーを打ち負かす」
  • 無理ゲーを続ける:「無理ゲーな状況を続ける」
  • 無理ゲーを攻略する:「無理ゲーな状況に勝とうとする」
  • 無理ゲーを強いられる:「無理ゲーな状況に強制的に置かれる」
  • 無理ゲーを立ち向かう:「無理ゲーな状況に立ち向かう」

So 無理ゲー is a pretty straightforward term, but has a lot of interesting uses via combination with a range of verbs.

メンケア:ハッシュタグ #メンケアとは?

「メンケア」は、アイケアやメンヘラなどのフレーズを思い出させるもので、明らかに「ケア=care」と「メン=mental」という他の単語に基づいています。

おそらく既にお気づきかと思いますが、「メンケア」は「メンタルヘルスケア」の短縮形です。また、メンケアの動詞形「メンケアする」も存在し、誰かの精神的な健康をお世話するという意味です。

「DMやLINEを通じてメンケアをしてくれたみなさんに感謝」などの投稿に、ハッシュタグ #メンケア を添えて、人々に真剣なメンタルケアや助けを求めるような使い方もされていますが、またもっと広範に日常的な元気づけを指すために使用されるようになっています。たとえば、ここでは「メンケア」という言葉で、褒め言葉を求めたり、投稿者を元気づけるコメントを求めたりしています。

転じて、他の人々のメンタルヘルスを気遣い、励まし、世話をする人のことを指す、「メンケア担当」という言葉もあります。また、「メンケア担当」に単に「する」を付け加えることで、「メンケア担当をする」という表現もあります。

英語の原文

メンケア kind of reminds me of phrases like アイケア and メンヘラ, as メンケア is clearly drawing on the well-established “ケア=care” and “メン=mental” forms that we see in other Japanese words.

As you probably guessed already then, メンケア is just a shortening of “mental health care”. The verb form of メンケアする also exists, and indicates that someone takes care of someone( else)’s mental wellbeing.

The hashtag #メンケア is also used as kind of a cry for help when you want or need people to メンケアしてくれる you.

More broadly though, メンケア has begin to refer to a variety of more everyday positivity boosters and pick-me-ups. For instance, here メンケア seems to refer to a request for compliments, or comments that make the poster feel better…

By extension, a メンケア担当 is someone who takes care of other people’s mental heath by cheering them up, taking them out, etc. You can also “do” メンケア担当 just by adding する to it as well.

生きていれば誰しも困難や辛いことが必ず伴いますが、これらのスラングを使っていれば、嫌な気分も少しは晴れるかも?次回も新しいスラングや面白い表現を紹介しますので、お楽しみに。また、日本語に興味を持っている皆さんが、より深く理解し、楽しむ手助けになれば幸いです。

校正・翻訳:渡邊雄介

ウェス・ロバートソン
文:ウェス・ロバートソン

マッコーリー大学講師。言語学者。著書に”Scripting Japan: Orthography, Variation, and the Creation of Meaning in Written Japanese”。HP : https://wesleycrobertson.wordpress.com

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