就職活動で使う「NNT」や「ガクチカ」英語で説明できる?日本の「シューカツ」事情【ウェス先生の日本語スラング採集記】

連載「日本語スラング採集記」では、マッコーリー大学講師で日本語の研究をしている言語学者のウェス・ロバートソン先生が、日本語のスラングや若者言葉のあれこれを英語で解説し、日本の文化について考察していきます。今回取り上げるのは「ガクチカ」「お祈りメール」「NNT」という言葉。日本の就職活動で使われる言葉です。海外とは違うニッポンの「シューカツ」の現在形について、考察します。

ガクチカ:「学生時代に力を入れたこと」を表す新たなスラング

現代の就職活動には、新たなスラングや表現が次々と登場しています。フォーマルな印象が強い就職活動の現場ですが、そこから生まれてくる謎めいたスラングは、日本の若者たちの就活の現実を象徴するものであり、魅力的な言葉たちです。近年では、スラングの域を超えて一般的に使われることが増えている言葉もあるので、具体的にそれぞれの意味と使い方について探ってみましょう。

「ガクチカ」とは、「学生時代に力を入れたこと」を省略したもので、就職活動の面接でよく質問される「学生時代に力を注いだこと」というトピックについて簡潔に表現するために使われます。もちろん、実際の面接では「じゃ、ガクチカは?」などとは言われませんが、就職活動に関するウェブサイトなどでは、「ガクチカ」という言葉はよく使われており、「ガクチカ」に関する質問に面接でどのように話すかを考える際の便利な言葉として広まっています。

以下のツイートは、就職活動を支援するアカウントからのもので、ある「ガクチカ」に関するエッセーを称賛しています。

基本的に、「ガクチカ」という言葉は面接の際に話題にする可能性のあるスキルについてにしか使わないという点で、やや限定的です。あるいは、面接で「ガクチカ」を聞かれたときに何を話すかという議論のなかで用います。 また現在は、採用担当者にもによく使われています。

英語の原文

ガクチカ is a job-hunt related slang term. The term is a shortening of a full sentence: 学生時代に力を入れたこと. That is, the thing you put your energy into when you were a student. This is, obviously, a rather common topic that comes up in interviews, so ガクチカ has become a useful shortening for discussing the interview process or what you are going to talk about when asked about your ガクチカ. It’s not used in the interview itself, obviously. No interviewer will say “じゃ、ガクチカは?”. But ガクチカ sees a lot of use in particular in otherwise formal websites discussing how to get a job.

The tweet below, for instance, comes from a job hunt assisting account praising an essay on ガクチカ.

In short, ガクチカ is somewhat limited in that you only really use it to talk about skills that you might bring up in an interview. Or in discussions of what to say when ガクチカ comes up during an interview. But at bare minimum, it’s certainly seeing a lot of use at the moment by job recruiters and guides to getting hired in Japan.

お祈りメール:不採用を伝えるメッセージに対する皮肉

お祈りメールとは、就職活動で選考に応募した企業から不採用を伝えられるメッセージのこと。では、なぜ「お祈りメール」と呼ばれるのでしょうか?日本企業の不採用メールにはよく、 「~をお祈り申し上げます」という文で終わります。 よくある例としては、「今後の応募に良い結果が出ますように」とか、「ここからの就職活動がうまくいきますように」というような意味のフレーズでしょう。英語で同じような言葉を作るとしたら、"best of luck mails "とか、"best wishes (for your future applications) mails "とか、そんな感じでしょうか。

「お祈りメール」という言葉は、恋人からの交際のお断りなどに使う場合、違和感をもたらします。必ず何らかの仕事や雇用、お金を稼ぐこと、または少なくとも正式な申請が必要なものに関連している必要があります。そして、ほぼ常に否定的な意味で使われます。Twitterを検索してみると、ほとんどの人がかなり不満げです。

「祈られる」という言葉の意味はもうお分かりだと思いますが、もうひとつ面白い例を見てください。なかなか巧妙な使い方です。この人は「祈られる」という言葉を文字通りに受けとり、自分が実は神様なので何度も「祈られている」のではないかとジョークを述べています。

英語の原文

Common examples are phrases meaning things like “good outcomes for your future applications” or “better luck on your job hunt from here” as in 今後のご活用を祈り申し上げます. If we made a similar term in English, we might call these “best of luck mails” or ”best wishes (for your future applications) mails” or something like that.

That said, you absolutely cannot use お祈りメール for rejection from a romantic partner or something similar. It has to be related to some kind of work, employment, or at least something that makes you money and/or requires a formal application. And it’s almost always used in a negative sense. Searching Twitter shows the vast majority of people quite upset.

I know you’ve gotten the point of 祈られる by now, but I want to show one more example because its quite clever. This person takes 祈られる quite literally, wondering if they keep getting “prayed” because they are actually a deity.

NNT:就職活動の現実を象徴する略語

NNTとは、「無い内定」の略語で、「内々定」(スラングではない)という言葉から派生したダジャレ、もしくはパロディです。また「内々定」自体も、「内定」という言葉に由来します。

まずは「内定」という言葉の説明から始めましょう。ご存じのように、内定とは非公式で行われる仕事のオファーのことです。ただ非公式と言っても「水面下で」という意味ではありません。「仕事が決まったという連絡はあるが、まだすべての書類にサインしたわけではないので、100%決定というわけではないが、おそらく間違いない」という意味です。

つまり、「内々定」とは「内定」から転じて生まれた言葉で、まだ公式には発表はされていないけれども、何らかの形で「内定」を知っている状態を意味しています。つまり、内定が非公式であれば、内々定は非常に非公式で、会社と応募者しか知らない内定です。

そして「内定がない」という意味で、内々定の最初の「内」を「無い」に置き換えたのが「無い内定」です。つまり、内々定すらないほど、就活がうまくいっていないということを意味します。そして、さらにややこしいのが、「無い内定」が「NNT」になっていることです。この言葉は、最近2021年の「就職関連俗語人気ランキング」で1位になったほど人気があります。

英語の原文

NNT is an abbreviation of 無い内定、 or ないないてい (nainaitei). Now, 無い内定 itself is actually a bit of slang in and of itself, as it’s a pun/parody of 内々定, which is itself a (not necessarily slang) derivation from the term 内定.

So let’s actually start with 内定. A 内定 is an unofficial job offer. Not unofficial as in “under the table”, but as in “there has been communication that you’ve got the job but the documents aren’t all signed yet so it’s not 100% but it’s probably for sure”.

So somehow 内々定 came about from 内定 to mean an actually unofficial offer, or an offer that can’t be announced yet but you somehow know about.

無い内定 then came out as a pun-slash-parody of 内々定, replacing the first 内 with 無い to mean “no 内定”. In other words, your job hunt is not going well to the extent that you don’t even have an unofficial unofficial offer. And then, to make things even more complicated, 無い内定 became NNT (pronounced エヌエヌティ). The term is popular enough to have recently made #1 on a 2021 survey of “current popular employment related slang“, so it’s absolutely in use right now.

就職活動はどこの国でもやはり大変なものですが、そこから多様な表現が生まれてくるのは、ひょっとすると言葉を作ったりその言葉で遊んだりすることで、就職活動自体が少し楽しいものになるからかもしれませんね。まぁ、少なくとも皆様が就職活動でこれから祈られないように、私はお祈りします。

校正・翻訳:渡邊雄介

ウェス・ロバートソン
文:ウェス・ロバートソン

マッコーリー大学講師。言語学者。著書に”Scripting Japan: Orthography, Variation, and the Creation of Meaning in Written Japanese”。HP : https://wesleycrobertson.wordpress.com

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