アメリカZ世代はお財布の紐が硬いと言われて来ました。でも彼らはただの倹約家ではありません。お金が持つパワーをよく知り、最大限に利用することで社会を良くしたいと考えています。そんな彼らのお金との付き合い方をみていきましょう。
アメリカはこの夏、物価上昇率前年比9%という異常なインフレに襲われました。特にニューヨークでは、食品が2?3割値上がりし、家賃に至っては一気に6割上昇したところもあります。
このような物価高になるずっと前から、アメリカZ世代はお財布の紐が硬いと言われて来ました。でも彼らはただの倹約家ではありません。お金が持つパワーをよく知り、最大限に利用することで社会を良くしたいと考えています。そんな彼らのお金との付き合い方をみていきましょう。
貯金するZ世代
今年TikTokでバズった動画の1つが、キャッシュ・スタッフィングです。
家賃、食料品、公共料金など、これから使うお金を項目別に分けて、お札サイズのバインダーに入れる。特に新しいアイデアではありませんが、若者の間で大注目、中には再生100万回を超える動画もあるほどです。
クレジットカードや銀行の引き落としではなく、現金により出ていくお金を可視化することで、自分がいくら使っているのかをはっきり把握する、使いすぎを防ぐ効果もあるといいます。さらに毎月少し多めにお金を入れることで、貯金もしやすくなるのだそう。
実はこうした動き、今に始まったことではありません。前世代に比べてZ世代の貯蓄が増えていることは、数字にも表れています。
大手投資会社ブラックロックの調査によれば、収入から老後のための貯蓄に回す割合は、18?25歳のZ世代で14%。これまでの世代の12%に比べ高くなっています。
未来への不安がお金との付き合い方を変えている
なぜ若い世代が貯金に走っているのでしょうか?
それは苦労している親世代(X世代)を見て育っているからです。(第2回参照)特に老後は日本以上に厳しく、アメリカ人の4人に1人は退職後の蓄えが全くないという数字もあるほどです。一方国からの年金は、生活費の半分にも満たないのが現実です。
自分の未来を守るには若い時から貯蓄を頑張るしかない、そう考えるようになるのは当然です。
しかし彼らには大変な逆風が吹いています、大学の授業料が高いアメリカでは、多くが国から借金(スチューデントローン=日本の奨学金)をして進学。卒業する時には1人平均550万円もの負債を抱えています。経済への影響のみならず、晩婚化、少子化の原因として社会問題にもなっています。(バイデン大統領がこれに対し先日、所得が低い人を中心に、奨学金の負債から最大270万円を免除すると発表、大喝采を浴びました。)これではお財布の紐も硬くなるわけです。
日常が消費アクティビズム
Z世代はコスパを重視する世代でもあります。ここで注意すべきなのは、判断基準に「見えない価値」が含まれることです。
例えばブランドや企業が、環境保護にコンシャスか、ジェンダーや人種差別的でないか、こうした情報をオープンにしているかなど。
例えばシンガーのリアナが2017年に立ち上げたコスメブランド、フェンティ・ビューティが揃えた、あらゆる色の肌のためのファウンデーションは実に40色、今ではこれが、アメリカのコスメ業界のスタンダードになりつつあります。また、低迷を続けていた老舗スニーカーブランドのニューバランスは、人種的マイノリティによるストリート系ファッションブランドとコラボすることで、年配の白人イメージを払拭し若者の間で復権を果たしました。
アメリカで最もダイバース(多様)なこの世代が、インクルーシブ(包括的である)であるかどうかに厳しいのは当然(第1回参照)。自分の価値観を反映した商品こそがコスパの良い商品。使えるお金が限られているからこそ、彼らの日常は、自然な消費アクティビズムに満ちているのです。
インパクト投資で世界を変える
Z世代の過半数は、環境やサステナブルな社会に貢献する会社に投資したいと考えています。
そこで注目されているのが「インパクト投資」。企業活動が社会や環境にポジティブなインパクトを与えるのを目的とした投資のことです。金銭的リターンに加え、企業が実際にどれだけの貢献をしたかの数字が、判断材料になります。見かけだけ環境にやさしいとPRする、いわゆるグリーン・ウォッシュされたビジネスや、人種の平等をスローガンにしつつ、実際には不平等な雇用を行っている企業はNG。投入したお金が確実に目的通り使われるかどうかを、Z世代は厳しく見ています。
注目される投資・貯蓄アプリ
この動きにフィンテックも注目。
若い女性をターゲットとした株売買アプリ「Alinea(アリニア)」は、TikTokとSpotifyをミックスしたようなポップなデザイン。投資先の“プレイリスト“には、気候変動、LGBTQ、ブラック・ライブス・マターなどに貢献する会社が並んでいます。この夏最高裁により中絶が違憲と判断された直後には、中絶を擁護する企業のリストが作られ、多くのお金が動きました。
3人のアジア系Z世代が立ち上げた「Bloom(ブルーム)」は、10代への投資教育が目的のアプリで、サステナブルなエネルギー企業のリストが注目されています。
同じようにロンドンを拠点としたアプリ「Zeed(ジード)」も、TikTok風のビデオを駆使し、インパクト投資に関心が高いZ世代をターゲットにしています。
お財布の紐は固いけれど、お金が持つパワーはよくわかっている。金額が限られたているからこそ、消費や投資を通じて自然破壊や差別・偏見を少しでも減らしたい。未来が経済的にも社会・文化的にも、平等で安定したものになることを強く願っている。それがアメリカのZ世代だということが、わかっていただけたのではないかと思います。
知っておきたいZ世代用語
Cash Stuffing/キャッシュ・スタッフィング
お札サイズのバインダーに支出別にお金を入れ、出ていくお金を可視化することで、使いすぎを防ぐこと。
Impact Investing/インパクト投資
財務的リターンと同時に、ポジティブで測定可能な、社会的・環境的インパクトを生み出すことを意図した投資行動
Greenwashing/グリーンウォッシング
うわべだけ環境保護に熱心にみせること。環境に配慮しているという意味の「Greenグリーン」と、ごまかしや上辺だけという「Whitewashホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語
Alinea/アリニア
女性をターゲットに、TikTokとSpotifyをミックスしたようなデザインの投資アプリ。投資先のプレイリストには、気候変動、LGBTQ、ブラックライブスマターなど、社会貢献する会社が目立つ。
Bloom/ブルーム
10代への投資教育が目的のアプリ。投資先リストにはサステナブルなエネルギー企業が並ぶ。
Zeed/ジード
Z世代をターゲットにした投資アプリ。TikTokのような短いビデオを駆使して注目を浴びている。
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