ファッションから政治経済まで、変わりゆくアメリカの原動力となっている「Z世代」を多角的に考察し、現代のアメリカ文化をキャッチアップしていきましょう。NY在住のジャーナリストでミレニアル・Z世代評論家のシェリーめぐみさんに「新しいアメリカ」についてご解説いただきます。
NYの街はコロナ禍が嘘のように夏全開、若者たちの笑顔が弾けています。
若者文化に欠かせないのがファッション。Z世代のたった今のトレンドを読み解いていくと、彼らの価値観が生き生きと反映されているのがわかります。そのキーワードが「ダイバーシティ&インクルージョン」です。
ダイバーシティは「多様性」と訳され、様々な人種、民族、宗教、ジェンダーなどが共存していること。一方インクルージョンは「包括性」と訳され、少数派が除外されたり差別されないことです。
このキーワードに沿ってトレンドを検証すると、ファッションだけでなく、アメリカ社会が向かっている方向も見えて来ます。
今回は、今爆発的にヒットしているY2K(ワイ・ツー・ケー)スタイル、急速に浸透するジェンダーレス・ファッション、そしてスニーカーエコノミー、3つのトレンドをチェックしましょう。
Y2Kファッションも、インクルージョンが重要になっている
Y2Kファッションは、1990年代から2000年代にかけてのスタイルです。
バケット・ハット、クロップTシャツ、ローライズ・ジーンズ、絞り染め、ロックっぽいグラフィックTシャツもとても人気があります。
Y2Kファッションといえば当時のスターたち、例えばブリトニー・スピアーズのようにお腹を見せながら、ローライズのジーンズでキメる。TLCのようなブラトップにバギーパンツを組み合わせる。とにかく肌を見せるセクシーなスタイルが主流です。
でも今のY2Kには、1つだけ2000年代との大きな違いがあります。
当時のアメリカはダイエット全盛期で、若者はスリムなボディを競い、クロップTシャツの下から覗くお腹も、当然平らでした。でも2022年の今は、もっと健康的にありのままの自分で勝負!体型もサイズも様々な肌見せファッションで、街を闊歩しています。
変化の背景にあるのは、過去20年に起きたアメリカの高度な多様化です。Z世代の半分近くは非白人。多様である事が当然と考え、あらゆる肌の色も体型もサイズも、すべて美しいという価値観を共有しているのです。
ファッションに対しても、誰もが着たいものを着れる、インクルーシブであることを強く求めています。服のサイズに自分を合わせるのではなく、サイズの方が自分に合わせるべき。とにかく私らしく伸び伸びと着こなす、それが今のY2Kファッションなのです。
ジェンダーレス・ファッションが急速に浸透している
ダイバーシティ&インクルージョンの考え方をさらに強く反映しているのが、ジェンダーレス・ファッション。男女の区別なく着られる服のことです。
ジェンダーレスのファッション・アイコンはポップスターのビリー・アイリッシュ。ダボダボで体の線が全く見えない服を、スタイリッシュに着こなしています。
スエットなど元々ユニセックスな服が多い中で、男性がフェミニンなファッションを取り入れるケースも目立ち始めています。その代表は、なんといっても男性のスカートです。ポップシンガーのハリー・スタイルズ、俳優ジェイダン・スミス、ヒップホップアーティストのヤング・サグらが、スカートを履いて大きな話題になりました。
ジェンダーレス・ファッションは「女らしさ、男らしさという伝統的な価値観に縛られたくない!」という若者の思いを強く反映しています。
同時に、「Z世代の2割は自分をLGBGQと考えている」という事実も大いに関係があります。どんなジェンダーでも自分に似合う好きな服を着られる、それが彼らにとっては何より重要なのです。
スニーカーエコノミーこそZ世代の未来?
スニーカーは今や若者世代の「正装」といえます。履きやすくジェンダーレスで誰にでも似合う、まさにダイバーシティ&インクルージョンを体現したアイテム。
スーツにもフェミニンなワンピースにも、スニーカーを合わせるのがZ世代スタイルです。
ビーガン・レザーや再生素材だけを使うブランドも増え、サステナブルな観点からも注目されています。
特に今年ヒットしているのは、複数の色を組み合わせたカラフルなスニーカー。コロナの行動制限からようやく解放された今、とにかく明るく装いたいという思いの現れです。
こうした中で圧倒的な存在感を放っているのがコラボスニーカーです。大手ブランドからは、NBA選手からヒップホップスター、人気デザイナーまで、ありとあらゆるセレブとコラボしたスニーカーが出ています。
写真のスニーカーはAIR JORDAN 4 RETRO X TRAVIS SCOTT
コラボスニーカーの特徴は希少価値が高いこと。発売されれば瞬時にソールドアウトし、直後にリセールサイトで販売されます。元々値段が高いのに、その何倍もの価格で売られています。
実際に履くのではなく売り買いする。その結果まるで株価のようにニーズによって値段が上下するスニーカーは、「資産」とも考えられています。こうした動きはスニーカーエコノミーと呼ばれ、Z世代の独自のマネーカルチャーになると予測する人もいます。
このように一見なにげないトレンドにも、Z世代の価値観が反映されていることがわかります。
多様化するアメリカ社会では、ジェンダーや人種を区別する境界線は、いずれはぼやけて行くでしょう。
そんな中で、若者世代の価値観を先取りして見せてくれるファッションからは、やはり目を離せません。
知っておきたいZ世代トレンド用語
Diversity & Inclusion
ダイバーシティは「多様性」、多様な人種、民族、宗教、ジェンダーなどが共存していること。
インクルージョンは「包括性」、少数派が除外されたり差別されないこと。diverse、inclusive という形容詞でも使われます。
Y2K
Y2K(ワイ・ツー・ケー)は Year 2000=西暦2000年のこと。KはKilo(キロ)の略で1000という意味。
Cropped T-shirt
クロップTシャツは丈が短くお腹が出るTシャツ。croppedと過去分詞になります。
cropped T-shirtはcropped topとも呼ばれます。
Genderless
ジェンダーレスは「社会的、文化的な男女の区別がないさま」。ジェンダーレス・ファッションは、ジェンダー・ニュートラル・ファッションとも呼ばれます。
Vegan Leather
ビーガン・レザーは動物の皮革ではなく、プラスチックまたは植物性の原料で作られた素材。
サステナブル・ファッションには欠かせません。