ファッションから政治経済まで、変わりゆくアメリカの原動力となっている「Z世代」を多角的に考察し、現代のアメリカ文化をキャッチアップしていきましょう。NY在住のジャーナリストでミレニアル・Z世代評論家のシェリーめぐみさんに「新しいアメリカ」についてご解説いただきます。
あなたはまだZ世代を知らない
最近何かと耳にするZ世代という言葉、日本ではその特色が「子供の頃からインターネットやパソコン、ソーシャルメディアと慣れ親しんできた世代」と紹介されることが多いと思います。だから他の世代と大きく違うのだと。
確かにその通りです。でもそれだけではZ世代の顔は半分しか見えて来ません。
初めまして。ミレニアル・Z世代評論家のシェリーめぐみです。 ニューヨークに31年住むフリージャーナリストで、Z世代に注目したきっかけは、彼らが生まれた今から20年くらい前、2000年ごろからアメリカが激変を始めたからです。
彼らをもっと知りたくて、アメリカのZ世代から直接話を聞くプロジェクト、NYフューチャー・ラボを2019年に立ち上げ、ラジオとウェブで発信を始めました。 すると若者の文化やトレンドだけでなく、ジェンダーや人種などの社会問題、政治の分断まで、アメリカの今がはっきりとつながりを持って見えてきました。
この連載では、私がZ世代の生の声から学んだ「アメリカの今」が、皆さんのお役に立つことを願いつつ書いていきたいと思います。
Z世代の定義とは?
日本と違い、アメリカには社会の共通認識となる世代区分があります。およそ15年ごとに区切られ、第二次大戦までに生まれたサイレント世代、戦後のベビーブーマー世代、X世代、ミレニアル世代、そしてZ世代。
Z世代は1996年?2011年生まれ、下は10代から上は25歳くらいまで。 その特色は、ざっくり3つに分けられます。
デジタル・ネイティブ
Z世代は生まれた時から身近にコンピューターやソーシャルメディアがあった世代です。ネイティブというのは「生まれつき」という意味で、彼らがデジタル・ネイティブと呼ばれるのはそのためです。これは日本も含め世界共通です。そしてここからが、日本と大きく違う、ちょっと見えにくい部分です。
ダイバーシティがアメリカZ世代の代名詞
Z世代にはこれまでの世代にはなかった大きな特色があります。それが多くの大人が「Z世代がわからない!」と焦る理由にもなっています。
みなさんがアメリカの若者を想像する時、おそらく多くの方が白人の顔を思い浮かべるのではないでしょうか。でもZ世代において白人は圧倒的多数ではありません。 アメリカのZ世代の白人率は51%。残り約半分は白人以外の人種です。 その内訳は黒人14%、ヒスパニック25%、アジア系5%、そして残りがミックス人種。 これは移民の影響です。
1980年代のアメリカの顔は白人でした。白人が全人口の8割を占めていたからです。 ところが移民が急増した結果、わずか40年後の今、白人率は6割にまで下がっています。 そして2045年にはついに過半数を割ると予測されています。
アメリカZ世代の代名詞は「ダイバーシティ」と言えるほど、彼らは史上最高に多様化しています。だからこそ文化的にも社会・政治的にもこれまでになかった大きな変化が起きているのです。
3割が移民の子供たち
日本では少子化による若者の減少が言われていますが、アメリカは逆です。40代以下の若者と子供が全人口の過半数を占めています。 でもアメリカの出生率は日本と同じように下がっています。なのになぜ若者が増えるのでしょうか?
答えはやはり「移民」です。
アメリカに住みたい、働きたいという時、いわゆる短期の就労ビザとは別に、移民ビザと呼ばれる永住権(グリーンカード)を取ることができます。 この永住権は毎年平均100万人もの人に与えられています。永住権を取れば母国から子供を呼び寄せることができ、子供を産めば自動的にアメリカ人となります。また取得から5年経てばアメリカ人になることも可能です。これがアメリカの人口を支えているのです。
アメリカのZ世代の人口は6500万人で全人口の2割にあたりますが、そのうち3割が移民の子供です。この割合はこれまでのどの世代よりも大きく、移民の影響を色濃く映し出しています。
Z世代 か゛「アメリカを動かす」と言われるワケ
アメリカ人が最初にZ世代を強く意識したのは、2018年のバレンタインデーでした。
フロリダ州のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で銃撃事件が起こり、17人もの生徒が射殺されたのです。
アメリカ史上最悪の学校銃撃となったこの事件の直後、生き残った生徒たちが涙ながらに銃規制を訴える姿は人々の胸を打ちました。それが全米のZ世代による大規模なデモにつながりました。
翌2019年秋には、スウェーデン人のZ世代グレタ・トゥーンベリさんによる気候変動マーチがアメリカにも広がり、高校生による抗議行動は現在も続いています。 さらに2020年にピークを迎えたブラック・ライブスマター運動もZ世代が中心となり、アメリカ史上最大規模と言われるほどの社会運動となりました。
Z世代=社会運動などで戦う世代、政治的な世代というイメージがここで定着したのと同時に、彼らの影響力を大人たちも無視できなくなっています。 この世代は、銃犯罪や温暖化、人種問題、さらにはコロナ禍、戦争という、人類史上最も深刻な問題が同時に存在するという、とても厳しい環境で生きて行かざるを得ないことの現れとも言えるでしょう。
でもアメリカのZ世代はそれに絶望していません。なぜならテクノロジーやソーシャルメディアを信じているからです。それらを駆使して多様な同世代を地球規模で結集することで、問題が解決できるという希望を持っているのです。
そんな彼らは、企業の環境対策や人権への取り組みなどを厳しくチェックする「ポリティカル・コンシューマー=政治的消費者」として一目置かれ、政治の世界でも有権者そして候補者として、熱い視線を集めています。
Z世代は日本では耳新しい言葉かもしれませんが、アメリカではもうとっくに「Z世代を無視してはビジネスも政治も成り立たない」という時代に突入しているのです。
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