特別対談!平尾アウリ先生(マンガ家)×藤代あゆみ先生(オタク) 「私たちはなぜ何かを推すのか」

『オタクなあゆみ先生の「推し英語」の世界へようこそ!』の特別編!『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(徳間書店、以下『推し武道』)のマンガ家・平尾アウリ先生と藤代あゆみ先生の対談です。『推し武道』誕生のきっかけや、おふたりの推しライフの様子などをお届けします。

今日が「私の命日」かもしれない

右から平尾アウリ先生、藤代あゆみ先生

藤代  いまだに信じられないんです、推しの前で、推しをテーマに語るなんて。どういうこと?って。今日が私の命日かもしれない。

平尾  (笑)。藤代さんの連載、楽しく読みましたよ。推しを好き過ぎるあまり、英語のつづりを間違えるとか。大文字にするだけで強い気持ちを伝えられるとか。面白いです。

藤代  ありがとうございます、うれしいです!オタクの皆さんに、オタクっぽい英語を書くコツをご紹介できてよかったです。ところで、韓国と台湾ではすでに翻訳が出ているので、今日はそれを持ってきました。台湾の繁体字版では、「推し」のことを「神推偶像」って訳していて、すごいなって。偶像はアイドルのことです。韓国語版もそうですが、オタク心のある人がちゃんと訳しているみたいなので、うれしいです。

平尾  文字からも感じが伝わってきます。台湾といえば、一度行ったことがあって。友達の推しの声優さんが、台湾のアニメフェスでサイン会をするっていうので、ついていきました。

藤代  海外旅行も推し関係とは・・・!

平尾  たくさんのオタクたちが壇上で声優さんからサインをもらうのを、ただただ見てました。私、オタクを見るのが好きなんです。服装とかもいろいろだし、眺めているだけで楽しい。自分自身も、オタクらしいことは全部やってみたいというのはありますね。

『推し武道』はどのようにして生まれたのか?

藤代  『推し武道』の企画のきっかけというか、企画の種みたいなのはどこから来たのでしょうか?

平尾  もともと、ウェブ連載の企画を考えていて。今はウェブ連載になっていますが、紙(雑誌)の連載でスタートしたんです。

藤代  ウェブのつもりが紙の連載になったと。

平尾  毎日更新みたいな感じをやりたくて、1話4ページのショートをいっぱい描いて、提出したんです。その中に、『推し武道』につながる作品があって。「この作品、とてもいいから、4ページのショートはやめて、紙で連載しましょう」と。それで連載が決まりました。

藤代  そんなふうに連載が決まったのですね。もともとアイドルには関心が深かったのでしょうか?

平尾  はい、関心は深いです(目がキラキラ)。

藤代  関心の歴は長いんですか?

平尾  高校生のころからですね。アイドルという概念そのものが好きです。

藤代  以前、インタビューで「本当は、アイドルを題材にしてマンガを描くのはためらいがあった」とおっしゃっていたと思うのですが、そのあたりについてはいかがですか?

平尾  そうですね・・・趣味と仕事、分けたいんですよ、できれば(笑)。アイドルについてはもう、一生趣味で良かった。

藤代  でも、4ページのショートの中から「これ!」と選ばれたのが、女の子のアイドルがテーマで。

平尾  そう、 担当編集の猪飼さん もアイドルが好きなので(笑)。なので、初めは「う、アイドルか・・・!」って思いました。ホントは4ページのショートでサラッと終わらせたかった。

藤代  そんなふうに始まった『推し武道』ですが、長く連載が続いていますよね。・・・なんか私、急に緊張してきました。アウリ先生のお仕事の話になったからかな?編集さんの方見ながら話していいですか?(良くない)

平尾  (笑)。

平尾アウリ先生。アイドルオタク必携のうちわは編集部で用意しました。

『推し武道』のリアルさはどこから?

藤代  『推し武道』を読むたびに、えりぴよさんやくまささん、基さんをはじめとしたオタクの登場人物たちの気持ちだったり、行動だったりが本当にリアルだなと思っていて。このオタクたちというのは、どこかにモデルがいるのでしょうか?

平尾  そうですね、友達だったり自分だったり。周囲に推しがいる子がめちゃめちゃ多くて、界隈も次元も、各種オタクを取りそろえてます(笑)。えりぴよが鼻血出して倒れたのは、近しい友達のエピソードからですね。その子はライブ中に「鼻血出たんだけど」って言いながら、最後まで観てましたけど。

藤代  だからリアルさが半端ないんですね。そして、アウリ先生ご自身の経験も入っているんですね。

平尾  だいぶ入ってます。例えば、えりぴよが接触(握手会やチェキ撮影会など、アイドルと直接触れ合える機会のこと)で言っていることは、ほぼほぼ言ったことがありますね。

藤代  ええーっ、そうなんですか!まさか「臓器〔*1〕」もですか・・・?
〔*1:主人公のえりぴよさんは、推しの舞菜ちゃんに貢ぐために日々バイトに励んでいるが、もろもろの事情で資金が底を尽いたときに、かなりの確率で「臓器を売るしかない」と思い詰める〕

平尾  あ、臓器は言ったことないかも(笑)。

藤代  シンガポールに駐在していたときに初めて『推し武道』を読んだんですけど、衝撃だったんです。「臓器売る、ってその発想何?!」って。当時は日本の状況に疎かったので、『推し武道』読んで「日本って今そんな感じなんだ」と思って。いろいろ学ばせていただきました。

平尾  それは特殊(笑)。

藤代  接触イベントでは、アウリ先生はどんな感じでお話なさるんですか?

平尾  剥がされるまで話します。接触イベントって、1枚分だけ話したら最後尾について順番を待つパターンとか、自分の券を全部出して一気に話せるパターンとかいろいろあるんですけど、1枚分だけ話せるパターンだと、相手もさっきの話とか覚えてないしなかなか大変・・・。

藤代  ファンがいっぱい並んでますもんね。ところで、アウリ先生は、推しを決めたらその人一筋のタイプですか?

平尾  その人だけですね。推しの活動は最後まで見届けます。別にその人が人気にならなくてもいいんです。私がその人を推せれば、それでいいので。布教(気に入った作品やアイドルなどを、周囲の人に広める活動)もしないタイプですね。でも、友達の推しの話を聞くのは大好きです。熱量が高い話って、聞いてて楽しいから。

藤代  ちなみに、推しがいない時期って今までありましたか?

平尾  はい、そんな時期もちょこちょこあって。そういうときは、いろんなものを観に行きましたね。次の推しに出会いたいから。ふふふ。

藤代  その過ごし方、すごくポジティブでいいですね。

平尾アウリ先生のお話に熱心に耳を傾ける藤代あゆみ先生

推しの決め手はズバリ・・・

藤代  「この人を推そう」と思う決め手は何ですか?

平尾  顔ですね(即答)。顔しか見てないです(笑)。

藤代  はっきりしてる・・・!

平尾  どうでもいい、性格は。

藤代  (爆笑)。ファンサービスとかは気にしますか?

平尾  全然(きっぱり)。「対応良ければラッキー」ぐらいの気持ちです。接触では「今日もきれいだね」「顔が好き」とか伝えられればいいので。それで、推しに「毎回それ言うね」って言われるという(笑)。でも、推しの圧倒的に好きなところは顔だから、それしか言うことがない。

藤代  面白過ぎます、先生。でも、顔に出ますもんね、いろいろ。ちなみに、好みのタイプは全然変わらないんですか?

平尾  ずっと一緒ですね。

藤代  身長とかそういうのは・・・?

平尾  関係ないです。やっぱり顔ですね。いちばん譲れないパーツは目かな。

藤代  ちなみに、女の子のアイドルの中で「理想の顔」といえば?

平尾  「モーニング娘。」の亀井絵里ちゃんですね。もう引退しちゃいましたけど。目の幅が理想的なんですよね。

藤代  目の・・・幅?

平尾  目頭から目尻にかけての幅ですね。それが広めなのが理想的なんですよ。そういえば、二次元でも、自分が好きなキャラクターの目は似ているような気がする。

藤代  もしかして、実際にマンガを描くときにも目は意識されたりしますか?

平尾  そうですね、目はいつも力を入れて描いていますね。

推しがいないと仕事しない!

藤代  オタクとして「ここだけは譲れない」ということはありますか?

平尾  取りあえず「どれだけ現場に行けるか」ってことですね。

藤代  (爆笑)。確かに!私もシンガポールにいるときに、アウリ先生が出演された「推し武道」関連のイベントにどうしても参加したかったんですが、仕事の調整がつかなくて、結局行けなくて。「なんで私海外に住んでるんだ?」って自分と仕事を呪いましたもん。

平尾  私は「現場派」だから、「どれだけ回数入れるか」に命賭けてます。家でいくら応援しても意味ないっていう・・・。なので、今の状況はなかなか厳しいんですけど。

藤代  先生のお仕事だと締め切りがありますから、そこの縛りがありますよね。推しがいることで、お仕事を頑張れるといったこともあるのでしょうか。

平尾  というか、推しがいないと仕事しないですね(笑)。取りあえず「推しに会う」という目標があるから、生活のリズムができるというか。振り返ってみると、私の人生、そうですね。

藤代  推しがいることで、自分もちゃんと生きようとするっていうところはありますよね。私、アウリ先生に出会っていなかったら、今ごろ「生きる屍(しかばね)」になっていたかもしれない。とにかく一生懸命仕事をして、お金を稼いで、お酒を飲めればいい。そんな生活を送っていました。それが、アウリ先生に出会ったことで、価値観が大きく変わりましたし、今は「生きがい」ともいえる人やものを軸に、自分の人生を生きている実感がありますね。アウリ先生には感謝しかありません。

笑いの絶えない対談でした!

推す立場、推される立場

藤代  アウリ先生はずっと推しがいる生活を送ってこられていますが、一方でマンガ家として推される立場でもあります。推される立場になったことで、戸惑いなどありましたか?

平尾  それは特にないです。人気を得たいというよりは、シンプルに、仕事としてマンガを描いている感覚です。私のマンガが、必要としている誰かに届けばいいなって。それだけですね。

藤代  アウリ先生は、ファンの人のツイートをよくご覧になっていますよね。

平尾  いいね!を押したり、リツイートしたりはしませんが、できるだけ見るようにしています。SNSで反応してくださっているファンの人に会えたときに、直接答えたりはしますね。

藤代  やっぱり、アウリ先生は推される立場になっても「現場派」なんですね。

平尾  はい、会いに来てくれるファンが大好きです。

藤代  1日も早く、アウリ先生と会えるイベントが実現する状況になればいいなと思います。今日はすてきなお話をしていただき、本当にありがとうございました。

(2021年6月8日 百合カフェアンカーにて。新型コロナウイルス感染防止のための対策を行い、対談者の距離を十分に取って収録しました)

協力/ 百合カフェアンカー
おいしいごはんとスイーツ、お茶、お酒とともに1000冊以上の百合マンガを楽しめる隠れ家カフェ。

百合カフェアンカーの店内。本を読んだり、お茶を飲んだり、思い思いの時間を過ごせます。

撮影/安宅雅美(アルク)

継続は力なり。いつか3748億回読了達成しようね!

日常生活にまつわる英語力を強化したい人におススメの参考書はこちら!

藤代あゆみさんの過去連載

藤代あゆみさんの書籍

日本酒でも漫画でも!「推し」について英語で語ろう

SNSで推し(応援している存在)の情報収集をしたい、素晴らしさを世界中に広めたい、オタク同士つながりたい、推しに愛を伝えたい・・・そんな人にピッタリなのが、藤代あゆみさんの著書『推し英語入門』です。「推し活」が何倍も楽しくなるシンプル英語のフレーズ集であるのはもちろん、藤代さんの最推し「平尾アウリ先生」、そしてその平尾アウリ先生の傑作漫画『推しが武道館いってくれたら死ぬ』への愛がダダ漏れの1冊。

本書の主人公は、ある日突然、『推しが武道館いってくれたら死ぬ』の沼にはまり、推し活を始めた「ちぷちぷ」。ちぷちぷの心の動きやつぶやきが、ストーリー仕立てで展開します。楽しく共感しながら「推し活に使えるシンプル英語」=「推し英語」を身に付けましょう!

お酒と英語、どちらも楽しく学べるおいしい1冊!

藤代さんの連載「日本酒オタクのおもてなし英語」がEJ新書(電子新書)になりました!追加原稿も加わりパワーアップした内容になっています。お酒が好き、英語を使った仕事に興味がある、英語を学習中など、すべての方におすすめの一冊です!

藤代あゆみ
藤代あゆみ

平成元年、東京生まれ。世界に10人しかいない、国際唎酒師・日本酒学講師・酒匠・焼酎唎酒師。海外勤務の経験を生かし、世界20カ国以上の人に向けて日本酒の素晴らしさを広めつつ、平尾アウリ先生の『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(徳間書店と百合マンガの魅力を伝える筋金入りのオタクとしても活躍中。著書に『推し英語入門』(アルク)、『日本酒オタクのほろ酔い英語』(アルクEJ新書【電子書籍】)がある。
X:@ayumi_and_sake
Instagram:@ayumi_and_sake
note:日本酒オタクのあゆみせんせい

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