「国際唎(きき)酒師」という資格の注目度が急上昇中!この連載では、好評を博した連載「国際唎酒師をめざそう」に続いて、藤代あゆみさんがより深掘りした情報をお届け。今回は、日本酒ラベルの英訳に挑戦してみましょう!皆さんは日本酒についてどのくらい英語で説明できますか?
目次
日本酒ラベルの英訳に挑戦!
日本酒が好き過ぎて飲み過ぎたら日本酒を英語で語れるようになってしまった、日本酒オタクのあゆみせんせいこと、藤代あゆみです。
「ENGLISH JOURNAL ONLINE」の有料会員にまでなっているあなたなら、きっと英語オタクに違いありませんね。類は友を呼ぶ、ならぬ、オタクはオタクを呼ぶ!(?)ということで、日本酒オタクの証のひとつである「国際?(きき)酒師」の資格について、合格のヒントを大公開します。英語オタクのあなたが、せっかく身に付けた語学力、生かすなら今がチャンス!という 前回 とはガラリと趣向を変えて、今回は具体的な解説をメインにまとめています。
それでは、突然ですが、問題です。以下の日本酒ラベルのサンプルを英語に訳す、または英語で説明してください。
・・・できましたか?すぐに全部英訳できたよ!という方は、このページをそっと閉じて、今すぐ SSI のサイトにアクセスして国際唎酒師の養成講座へ申し込みをしてください(笑)。いくつかは英語に訳せたけれど、わからないところもある。いやいや、全然わからないよ、五百万石って何? 5 million stones? なんていう方は、ぜひこの記事を最後まで読んでみてくださいね。
日本酒ラベルが読める=日本酒のことがわかっている
日本酒のラベルってなんだか難しい漢字がいっぱい書いてありますよね。これが解読できるようになるには、日本酒に関する結構な知識が必要なのです。逆を言えば、日本酒のラベルが読めて英語に訳せるようになれば、国際?酒師試験の1次試験は安心して受けられます。
机に向かってテキストをじっくり読むのも大切ですが、日本酒は飲み物なので、テイスティングの練習も兼ねて、とにかく飲んでみましょう!そして、ラベルを見ながらテキストの説明を読めば、しっかりと日本酒の知識が身に付きますよ。
国際唎酒師試験は1~3次試験までありますが、1次試験の範囲は、とても広いのです。国際?酒師の公式テキストである『NIHONSHU-NO-MOTOI』全297ページ中、半分以上のページが1次試験の範囲です。
日本酒のラベル表示については、テキスト後半の118ページ以降にまとめられているので、1次試験の内容のまとめとして活用できちゃいます。(※ラベルに歴史の情報が含まれることはあまりないので、その点だけご注意ください)
国際唎酒師の資格を取るか迷っている方も、日本酒を飲むたびに、ラベルに注目すれば自然と知識も増えていきますので、勉強を始める第一歩としてもおすすめです。
日本酒のラベルの基礎知識
日本酒は口に入る飲み物なので、 安心・安全であることが第一ですよね。ラベルの表示は法律でしっかりと管理されているのですが、なんとその管轄は、 ほぼ国税庁 (National Tax Agency)なんです。
日本酒にかかる酒税(liquor tax)は、国にとって大事な財源の1つ。まさかお金の管理をするところが日本酒の法律を?!と驚かれるかもしれませんが、このことを知っていると日本酒に関する法律はもちろん、歴史への理解も深まるのでぜひ最初に覚えてみてください。
また、ラベルの表示に関しては大きく3つに分けることができます。
- 法律でラベルに絶対表示しなければいけないもの(required indications)
- 表示してもしなくてもいいもの(arbitrary indications)
- 表示をしてはいけないもの(prohibited indications)
これらは確実に試験で出題されるものですから、ラベルを読み解きつつ、表示のルールもついでに覚えていきましょう?!
日本酒ラベルの英訳~答え合わせと解説~
では、日本酒ラベルの英訳の答え合わせをしていきましょう。今回は「1. 法律でラベルに絶対表示しなければいけないもの(required indications)」(以下の画像①~⑧)を解説し、残りは次回に解説します。
また、この記事で解説している箇所が、公式テキスト『NIHONSHU-NO-MOTOI』のどこで説明されているかがわかるようページ数を明記してあります。テキストをお持ちの方は照らし合わせながら読んでみてくださいね!
※英文の解説は公式テキストから、重要な部分を抜き出し再構成したものです。
[1] 法律でラベルに絶対表示しなければいけないもの(required indications)
①清酒(せいしゅ/seishu)
The Liquor Tax Act refers to sake as “seishu.”
酒税法(Liquor Tax Act)では、日本酒のことを「清酒/Seishu」と呼びます。そもそもこの瓶の中に入っているものがなんなのか、というのは絶対に表示しなければいけないので、ラベルには必ず書かれています(「日本酒/Nihonshu」という表記も可)。
いちばん基本的なところですが、 日本酒の正式名称が「清酒」であるということは、試験にはほぼ出る ので、必ず覚えておきましょう。
※公式テキスト『NIHONSHU-NO-MOTOI』p. 126参照
②内容量(capacity of the container)
The Act Concerning Liquor Business Associations stipulates required indications, such as the capacity of the container. Until the metric system was introduced in the Meiji period, sake was measured using the shakkan (尺貫) system.
瓶は大きくても、中身の日本酒の量が少なかったらダメですよね!というわけで、ラベルに内容量も表示することが必須となっています。
メートル法が導入されるより前は、「一合」や「一升」といった昔ながらの尺貫法という単位が使われていました。日本酒を飲むときは今でもおなじみですね。
1800mlも入っている一升瓶(いっしょうびん/Issyou bottles)は明治時代に開発されました。それまでは量り売りで量をごまかされたり、きっちりと蓋が閉まらないことで不衛生だったりしたものが、一升瓶が開発(*公式テキスト p. 154)されたおかげで衛生的になり、しかも持ち運びもしやすくなったので、海外輸出ができるようになったのです!ちなみに720mlは日本の単位で四合(よんごう/Yongo)(*同 p. 210)と言います。
※公式テキスト p. 130, 154参照
③アルコール分(alcohol content)
Liquor tax rates are determined by the categories and alcohol content of liquors. The alcohol content of fermented beverages is generally about 5-15 percent. However, it is about 18 percent for Genshu sake.
酒税はアルコール度数に対して掛けられているので、こちらもラベルに表示が必要です。日本酒は、ワインやビールと同じ醸造酒(fermented beverages)というカテゴリに分類(*公式テキスト p. 16)されます。
醸造酒は通常5~15%のアルコール度数(*公式テキスト p. 16)なのですが、日本酒は並行複発酵(へいこうふくはっこう/parallel multiple fermentation)(*同 p.16)という手法でアルコールを発生させるため、18%前後までアルコール度数が上がる(*同 p.26)こともあります。
「日本酒は悪酔いしやすい」と言われがちなのは、日本酒のせいではなく、日本酒に含まれるアルコール度数が高いことを知らずに飲み過ぎてしまうことが原因なことも。アルコール飲料全般については、 EJ新書『日本酒オタクのほろ酔い英語』 で詳しく解説しているので、そちらも併せて読んでみてくださいね。
※公式テキストpp.16, 26, 125参照
④ 原材料名(names of ingredients)
The definition of sake (seishu) is stipulated by the Liquor Tax Act as “beverages produced by fermenting and filtering a mixture of rice, koji and water” or “beverages produced by fermenting and filtering a mixture of rice, koji, water, refined sake cakes and other ingredients specified by ordinances.”
口に入れるものだから、何が使われているかをラベルに表示するのは大事ですね。水以外の原材料を、使用量の多い順番に記載する必要があります。
日本酒は、酒税法で必ず米と米麹(rice Koji)を使用することが定められており(*公式テキスト p. 126)、原材料表記は、大きく分けると「米、米麹」または「米、米麹、醸造アルコール(brewed alcohol/brewers alcohol/distilled alcohol)」の2種類(同 p.127)です。原材料の違いにより、日本酒の種類の呼び方(いわゆる純米大吟醸や本醸造など)が変わってくるので、こちらについては次回説明します。
※公式テキスト p. 126参照
⑤製造年月日(manufacturing date/manufacturing year and month or manufacturing year, month, and day)
A manufacturing date (manufacturing year and month or manufacturing year, month and day) refers to the month or day when the sake was bottled and is indicated by any of the following means.
食べ物の場合は賞味期限が表示されていますが、日本酒はアルコールなので賞味期限が原則ありません(*公式テキスト p. 207)。よって代わりに製造年月日を表示するのです。
「日本酒って1年以内に飲まなきゃいけないんじゃなかったの?!」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、同じアルコールの飲み物であるワインはヴィンテージを見ますよね。古いワインの方が価値が高いなんてことはよくある話です。日本酒でも熟成酒(*同 p.108)などと呼ばれる数年数~年間にわたり貯蔵をしたものがあります。
気を付けなければいけないのは、 製造年月日はあくまで日本酒を瓶に入れたときの年月日 ということ。貯蔵は瓶の中だけではなく、タンクで行う場合もあるので、3年貯蔵と書いてあっても、1年以内の日付が書いてあることがあります。ちなみに、製造年は西暦の場合もあれば和暦のこともありますので、上記のサンプルの「R3」というのは令和3年という意味です。
※公式テキストp. 130参照
⑥製造者の氏名または名称(name or title of the producer)・製造場の所在地(address of the manufacturing site)
The Act Concerning Liquor Business Associations stipulates required indications, such as the name or title of the producer and the address of the manufacturing site.
誰が作ったのか、どこで作ったのかを表示しなければならない理由は説明不要ですね!ちなみに「酒造」は基本的にその酒蔵さんの英語名に揃えて訳しますが、”brewery”と言えば伝わります。
※公式テキストp. 130参照
⑦お酒は20歳になってから(advisories aimed at preventing minors from drinking, such as ”wait until you are 20 to drink”)
Advisories aimed at preventing minors from drinking, such as ”wait until you are 20 to drink” and ”drinking by minors is illegal,” are also part of required indications.<原文ママ>
日本では未成年飲酒禁止法により、20歳未満の飲酒が禁止されています。一方で、私が駐在していたシンガポールでは18歳以上から飲酒が許可されていたり、アメリカでは飲酒は21歳以上でなければならなかったりと国や地域によって法律が違います。
日本では2022年4月1日より成年年齢が20歳から18歳に引き下げられますが、飲酒は引き続き20際未満は禁止されたままです。「未成年の飲酒は法律で禁止されています」という表示は現在は使ってはいけないことになっており、「20歳」と明確にするルールがあります。
しかし、英訳する際はその国や地域の法律などが絡んできますから、”drinking by minors is illegal”という表現を使うことも含めて、 その国や地域のルールを必ず確認 し、英訳をしてください。
※公式テキストp. 131参照
⑧保存または飲用上の注意事項(notes on storage or drinking)
To ship Sake that is not heat-treated after production, such as Nama-zake, notes on storage or drinking are displayed. Sake is an alcohol type which is susceptible to changes in quality. <原文ママ>
先ほど、日本酒には原則賞味期限がない!と豪語したものの、生酒(*公式テキスト p.106, 109, 110)のように、作ってから一切加熱処理をしない日本酒は特に、保存管理(storage and management)をしっかり行わないと味わいが落ちてしまいます。
日本酒の保存管理は、紫外線(UV rays)・熱(heat)・空気接触/酸化(exposure to air/oxidation)・振動(oscillation)の4つの観点(*同 p.205)から細心の注意が必要です。
紫外線は太陽の光だけでなく、蛍光灯でも発するものがあるので注意が必要なため、魅力的な陳列が必要な売り場ではLEDや白熱球(incandescent bulbs)を使うことや、理想としては5~10度で温度変化のない環境で保管することが求められます。
「保存または飲用上の注意事項」は、すべての日本酒に表示しなければいけないわけではありませんが、日本酒を買ったら、おいしく楽しく飲むためにも保存管理はなるべく注意しましょう!
※公式テキストpp. 130, 205参照
これ以外にも、輸入品(海外でも日本酒が作られています)であれば原産国名(country of origin)や、外国産清酒(海外で作られた日本酒)と国内産の両方を使用して製造する場合は、その外国産清酒の原産国名および使用割合を明記するといったルールもあります。外国産の日本酒はあまり使われることがないので、ラベルで見たことがない人の方が多いと思いますが、法律として定められていますので、しっかり覚えておきましょうね。
日本酒ラベルは試験範囲を網羅する
前回も書きましたが、国際?酒師になるためには、以下の項目を勉強する必要があります。
【国際?酒師になるために勉強する項目】
- 原料
- 製造方法
- 日本酒にまつわる法律
- 歴史
- テイスティング
- サービス方法
- セールスプロモーション
- 世界のアルコール飲料と比較した日本酒の立ち位置 etc.
ここまでしっかり読んでくださった方は、お気付きでしょう! ラベルに書いてあることを知るだけで、日本酒の知識を幅広く付けられちゃう のです。
今回は、法律上ラベルに表示しなければならないものを解説しましたが、次回は、表示しなくてもいいけれど、ラベルに書かれていることについて解説しようと思います
「今回の記事でのラベルの説明、味について何もわからなくない?」
もしかしたら、こんなことにも気付いてしまった人もいるかもしれません・・・。そう、国税庁が作った法律だからでしょうか、味よりも消費者の安心・安全を守りつつ、しっかり税金を取れるようなことばかり表示するように言われているような・・・。試験中に、ラベルに表示が必要な項目ってなんだったっけ?!と焦ったら、このことを思い出してみてください(笑)。
日本酒を飲もう!
せっかくならば、次回の記事が公開されるまでにいろいろな日本酒を飲んでおこうと思ったあなた!素晴らしい心掛けです!えらい!すごい!しこたま飲んでおいてください(笑)。
ラベルを正しく読めることも大事ですが、お酒を飲める体質の方は、やはり実際に日本酒を手に取り、飲んでおくと理解が深まります。今回紹介したサンプルのラベルは、「コンビニ最強酒」と名高い、菊水の「生原酒 ふなぐち菊水一番しぼり」をイメージして作ってみたので、近所のコンビニで気軽に買えちゃいます。お財布にもやさしい価格でおいしい日本酒なので、ぜひ試してみてください。
日本酒のラベルの解説と称していますが、こんなに書いてもまだ半分。まだまだ道のりは長いですね。とはいえ、この連載は次回で最終回なので、国際唎酒師を目指すあなたの力になれるよう、要点をうまくまとめられるよう頑張ります!
最後に
日本酒は飲み物なので、英語で説明できなくても、とりあえず飲んでみればわかっちゃうんですよね。とはいえ、お店で買うときも、居酒屋やレストランで注文するときも、判断基準は日本酒のラベルであることが多いと思います。
ラベルのデザインも伝統的なものもあれば、おしゃれでかわいいものもあったりして、見ているだけでも楽しめます。とはいえ、ラベルのデザインがかわいいものがすべて「甘口の日本酒」とは限りません。やはり 知識があると飲みたいと思っている日本酒に出合える確率が上がる わけです。
これはおまけですが、今回使用したサンプルのラベルに「歩正宗」と名付けたように「正宗」が付く日本酒をよく見ませんか?これ、実は「●正宗」という日本酒が江戸時代にめちゃくちゃ流行ったことから、いろいろな酒蔵さんがまねしたらしいという説があります。
国際唎酒師試験で出題される範囲を理解して覚えることも大事ですが、このようなちょっとしたネタも知っていると、国際唎酒師として活躍するときに、外国の方にも喜んでいただけますよ!小ネタ系は、 EJ新書『日本酒オタクのほろ酔い英語』 にたくさん書いてありますので、ぜひ読んでみてくださいね?!
第3回は2021年4月27日(火)に公開予定です。お楽しみに!
藤代あゆみさんの過去連載
藤代あゆみさんの書籍
藤代さんの連載「日本酒オタクのおもてなし英語」がEJ新書(電子新書)になりました!追加原稿も加わりパワーアップした内容になっています。お酒が好き、英語を使った仕事に興味がある、英語を学習中など、すべての方におすすめの1冊です!
【トーキングマラソン】話したいなら、話すトレーニング。
語学一筋55年 アルクのキクタン英会話をベースに開発
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