あまり知られていない「国際唎(きき)酒師」のお仕事。そもそもどんな資格なのか?国際唎酒師になるには?試験対策はどうすればいいの?などについて、国際唎酒師で、シンガポールで同資格の試験監督も務める藤代あゆみさんに教えていただきます。「英語を使って学ぶ・働く」ための一歩を踏み出すために、国際唎酒師の資格取得にチャレンジしてみませんか?
目次
国際唎酒師ってどんな資格?
こんにちは!日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(Sake Service Institute、以下「SSI」)公認の国際唎酒師および日本酒学講師の藤代あゆみです。
「日本酒オタクのあゆみせんせい」として、日本酒をネタに外国の方ともっと交流できるようになればとENGLISH JOURNAL ONLINEで「日本酒オタクのおもてなし英語」を連載してまいりましたが、私が持っている資格の「国際唎酒師」について「もっと知りたい!」という声が届いていたので、今回詳しくお話しする機会を頂戴しました。
実は私、シンガポールで国際唎酒師試験(英語ver.)の試験の運営を4年ほど受託しているので、あんなことやこんなことまで(?)身を持って知っているのです……!
しかも、日本語で受験する「唎酒師」と違って、日本には国際唎酒師の公式の試験対策講座がないのだとか。困りましたね。でも、大丈夫!日本酒オタクのあゆみせんせいがいます(笑)。というわけで、記念すべき第1回では、国際唎酒師って何?どうやってなるの?という基本的なことから、国際唎酒師になったらいいことあるの?という実体験までお話しし、あなたがせっかく身に付けている英語力をご自身のキャリアに生かすヒントをご提供したいと思います。
国際唎酒師はダブルの通訳
以前の連載の第5回でもご紹介したのですが、国際唎酒師は難解な日本酒用語を日本酒ビギナーにわかりやすい日本語で「通訳」できる上に、それを英語でも伝えられる、「ダブルの通訳」です。
少し古いデータですが、2013年にSSIが実施した「なぜ日本酒を飲まないのですか?」というアンケートでは、86.9%の人が「日本酒のラベルに書いてあることが理解できない」と答えました。※引用元:『日本酒の基 NIHONSHU-NO-MOTOI The Textbook for INTERNATIONAL KIKISAKE-SHI - 2nd Edition』(April, 2020)PAGE: 2/ISSUED BY: SSI International, SSI (Sake Service Institute)/AUTHORS: SSI International, Chairman Haruyuki Hioki
また、2016年6月に読売新聞に掲載された金沢大学による外国人旅行者への調査では91.2%の外国人が和食に興味があるものの、日本酒に関しては39.8%しか興味を持っている人がいなかったため、さらに調査すると「日本酒の飲み方がわからないから興味を持てない」「英語の説明がないから残念」と答えたのです。※引用元:『日本酒の基 NIHONSHU-NO-MOTOI The Textbook for INTERNATIONAL KIKISAKE-SHI - 2nd Edition』(April, 2020)PAGE: 2/ISSUED BY: SSI International, SSI (Sake Service Institute)/AUTHORS: SSI International, Chairman Haruyuki Hioki
……これ、国際唎酒師だったら解決できますよね!
国際唎酒師の主な活動
日本酒を飲みます……って当たり前ですね(笑)。唎酒師というのは、自分の飲みたい日本酒をおすすめするのではなく、「おもてなしのプロ」として、相手が飲んだら「おいしい!」と喜んでくれる提案をする役割があります。
そして、「なんでこんなにおいしいの?」と聞かれたら、理由も簡単にわかりやすく説明できるといいですね。これをベースに、レストランで働きながら一人一人のお客さまに向き合って注文の際にお話をしたり、観光客が多いエリアのお店で外国人のお客さまが日本酒を購入したりするのをお手伝いするといったことから、外国人向けの日本酒セミナーやワークショップ、ペアリングディナー、酒蔵見学ツアーや国際唎酒師になるための試験対策講座、さらには国際唎酒師の試験監督まで、幅広く活動をすることができます。
もちろん、外国人の友人や知人、取引先の方に、“I am a Japanese Sake Sommelier.”と言えば、相手もがぜん興味を持ってくれますし、自信を持って日本が誇る「日本酒の文化」について話せるだけで、交友が深まりますよ!
国際唎酒師で食べていけるの?講演の相場は○万円から
趣味で資格を取りたい方は別として、せっかく時間とお金をかけて、国際唎酒師になったとしても、本当にキャリアにつながるのでしょうか?
私の場合は、シンガポールに駐在し、日本製品の輸入販売および販路拡大のための日本文化の啓発活動に従事しながら、一時期は日本酒カフェ&バーの運営もしていたので、かなりダイレクトによい効果があったのですが、今されているお仕事の内容によっては、直接関わらない方もいらっしゃるかもしれませんね。
会員限定記事なので、普段は言えないことも書いてしまいますが、シンガポールでは日本政府や自治体の案件で日本酒セミナーやワークショップを行う場合だと、15分〜2時間くらいの講演での相場は数万円から。規模の大きいイベントだと、参加者の費用の合計も高額になるので、謝礼を10万円以上もらえることもあります。
もちろん、事前の準備や打ち合わせも大変ですし、日々自分を磨くために日本酒を飲……勉強しなきゃいけないので、ただ単にオイシイ副業を探している人にはあまり向きません。
また、国際唎酒師の資格を取ってから下積みの時代が始まるので、地道に結果を残していくことが必要になりますから、資格取得後も最低1年間は修行の身だと思って耐えることです。
私もまだまだ修行中の身なので、売れようと頑張っているアイドルの子たちにとても共感します……!でも、一つ一つが実を結ぶと、人に喜んでもらえることでお金を頂ける、とてもありがたいお仕事なんです。
「今の自分は、仕事は、このままでいいのだろうか?」そんなふうに悩んでいる方に、このやりがいのあるお仕事に興味を持っていただけたのならばうれしく思います!
国際唎酒師の試験対策講座は〇百万円?!
私は、基本的に国際唎酒師の試験対策講座はやっていません。内気でシャイだから……というのもありますが、シンガポールでの国際唎酒師の試験監督や運営を務めているからです。「試験の運営者は試験対策講座をやってはいけない」と言われたわけではないのですが、ついうっかり口が滑っちゃいそうなので、やらないことにしています(笑)。
なので、基本的には日本酒ビギナーに向けた「日本酒よくわからんけどなんかおいしいね!ウェーイ!」みたいなセミナーやワークショップがメインです(笑)。普段はただのオタクですが、仕事中は無理やりパリピ感を出そうと必死です(笑)……おっと、話がそれました。
国際唎酒師の試験対策講座も、本当に講師やそのときの内容によりけりではあるのですが、シンガポールだとだいたい一人10万円〜20万円くらいかかります。高いですか?高いですよね?
しかも、試験対策講座は一人のために開催するわけもなく、最低でも10人以上から開催されるものですから、講座一回につき100万円以上の売上!
とはいえ、会場代やテイスティング用の日本酒の仕入れ代金、講座の宣伝費用などなどかかるコストもそれなりにありますから、100万円ボロ儲(もう)けではありません。しかし、売れっ子の講師になれれば、国際唎酒師として生きていくことは夢ではないのです!
国際唎酒師はこれからもっと需要が高まる(はず)
ここだけの話ですが、「日本酒」って政府や自治体、そのほか諸々からの助成金が付きやすいのです。会員限定記事だと、ここだけの話がたくさんできてうれしい(笑)。なぜ助成されやすいかというと、日本を代表する飲み物だから!……というのは聞き飽きましたよね。
もっと本質を探ると、日本酒はお米で造られているからです。日本酒が売れれば、第一次産業である農業も潤います。お米の加工品の一つである日本酒を推すことで、農業から流通業者まで、幅広く支援することができるため、国からのサポートも手厚いのです。
ところが、国際唎酒師は世界にたった4000人ほどしかいません。そのうち、日本人は900人もいません。しかも、国際唎酒師は英語・中国語・韓国語・フランス語・スペイン語があるので、英語の国際唎酒師は1500人にも満たないのです(2020年6月現在)。※国際唎酒師の人数参考:国際唎酒師の活躍 | SSI INTERNATIONAL
さらに、私のように日本酒学講師の資格を持つ人はだいたい350人くらいしかいない上、英語が話せる人は10人程度しかいないと小耳に挟んだことがあります。どおりで私なんかにも仕事が来るわけだ!(笑)
ウィズ・コロナの時代を生きる私たちは、人の移動は難しいものの、物の移動はそこまで制限されていないので、国産物の輸出はこれからも促進していくことでしょう。そうなると、オンラインでのイベントはこれからもっと増えるでしょうし、人が移動しない分、気軽に行えるので、国際唎酒師の需要はもっともっと増えていくと思います。
むしろ、今増えないと、日本酒を世界にアピールできる人材が足りず、そのまま縮小してしまうので、ぜひご検討ください!一緒に日本酒を飲……じゃなかった、世界中で宣伝しましょう!
国際唎酒師に向いてる?向いてない?自己診断チェックリスト
国際唎酒師に興味を持っていただけましたか?「でも、自分がなるのはどうしよう……」と迷う方も多いと思います!そんな方に向けて、自己診断チェックリストを作ってみました。
- 日本酒が好き!日本酒に興味がある!
- 人に喜ばれることが幸せ
- 外国人と交流することが多い/交流したい
- 食べることが好き
- 日本各地を旅行するのが趣味
- 飲み会やイベントを企画するのが得意
- 日本史の勉強が好き(だった)
- 理系の話題も興味がある
- TOEICのスコアが600点以上/英検2級を取得済みで、準1級を目指して勉強している
半分以上、チェックが入った人は、国際唎酒師に向いています!
ちなみに、チェックが入らなかった部分はどこでしょう?勉強系のところでしょうか。もちろん、TOEICや英検の成績が上のレベルに届いていなくても受かります!逆に、TOEICで満点や英検1級を持っていても、日本酒が嫌いで飲めないのだったらそもそも受けようと思いませんよね。
また、お気付きかもしれませんが、お酒を飲める量はあまり関係ありませんので、チェック項目には入れていません。私が酒豪なばかりに、唎酒師はお酒が強くなくてはダメと思われがちなのですが、テイスティングの際は吐き出すので、お酒が強くない方も大丈夫ですよ!
全部にチェックが入った人は迷わずに国際唎酒師になりましょう!
国際唎酒師になるまでの期間や必要な費用は?
自己診断チェックリストで、「どうやら自分は国際唎酒師に向いているらしい!」とわかったあなた。おめでとうございます!資格取得を目指すとなれば、準備期間やコストがどのくらいかかるのか気になりますよね。
どれくらいの準備期間が必要か
いざ受験したいと思っても、毎日忙しくしているし、資格を取るまでにどれくらいの期間、勉強しなきゃいけないんだろうと不安ではありませんか?
個人差はありますが、最低でも3カ月はかかるかなという感じです。もちろん、国際唎酒師の試験対策講座などに参加すれば、1カ月で合格することも夢ではありません!私は、相性のいい先生に巡り合えて講座を受けたので、1カ月で合格できました。
どれくらいの費用がかかるのか
時間以上に気になるのが、お金のことですよね。国際唎酒師の資格取得に必要なお金は、ワインのソムリエになるための試験に比べるとかなり安いとはいえ、気軽にポンと出せる金額ではないのですが、以下のとおりまとめてみました!
| 項目 | 費用 | 内容 |
|---|---|---|
| テキスト代 | 3,000円 | 試験勉強のために必須のテキストです!試験を受けるか迷う方は、テキストだけ買って読んでみてから考えるのもいいかもしれません。 |
| 受験料 | 25,000円 | 試験を受けるための費用です。 |
| 認定料 | 5,000円 | 合格した場合に支払う費用です。 |
| 合計 | 33,000円 | そのほか、テイスティングのトレーニングのために日本酒を買ったりする必要もありますので、ご留意ください。また、不合格の場合に再度受験する際には別途受験料がかかります。 |
※申し込みを検討される方は、必ずSSIのWEBサイトをご確認ください。
試験勉強に最低でも3カ月はかかるし、ちょっと頑張って1カ月に1万円くらい貯金できれば、受けられなくもない金額です!コストも気になりますが、国際唎酒師になるために勉強し、身に付いた知識はあなたのもの。日々の食事から将来のキャリアにまで生かせますから、自己投資だと思えばそれほど高い金額ではありません!
また、「試験は不安!」という方に向けて、通信講座も用意されています。通信講座であれば、自分のペースで、いつでもどこでも勉強できて、講師の先生に添削もしてもらえるので、安心です。
ただし、試験よりも割高になってしまうので、そちらだけご注意ください。詳しくはSSIのWEBサイトよりご覧ください。
どんな試験なの?
国際唎酒師を目指すとなれば、実際にどんな試験内容なのか、気になりますよね?
これを読んでしまったあなたはもう受けるに違いないので、こっそり情報をお伝えすると、国際唎酒師試験の内容は、日本語の唎酒師とちょっとだけ違うんです。
基本的な学習範囲や試験範囲は日本語の唎酒師と同じですが、国際唎酒師の場合は日本人以外の外国にお住まいの方へのセールスプロモーションを想定しているので、そのことに不必要な内容は試験では問われなかったりします。
以下にて、各試験の概要と試験時間をまとめてみました。
| 試験 | 時間 | 内容 |
|---|---|---|
| 第一次試験 | 50分 | 【筆記】選択式(一部記述式) ・日本酒に関する専門知識(原材料、歴史、製造方法、法律など) ・種類をはじめ飲食全般に関する基礎知識 |
| 第二次試験 | 50分 | 【筆記】選択式(一部記述式) ・日本酒のサービス、セールスプロモーションに関する設問 |
| 第三次試験 | 50分 | 【テイスティングを伴う筆記】記述式(一部選択式) ・日本酒のテイスティングを通じた品質の評価、個性の抽出 |
※すべて70%以上の正答率で合格。一つでも不合格だと認定されないので、例えば第二次試験に不合格だった場合は、もう一度、第二次試験だけを受けることになります。
「なんだか難しそう……」と思うでしょうか?しかし、しっかりと勉強をして、テイスティングのトレーニングをすれば、絶対に合格できます!
そして、次回以降の記事では、それぞれの試験の攻略方法を書いていくので、独学で勉強される方にもヒントがいっぱい詰まった連載になりますよ。
また、もっと詳しく見たい方は、こちらから、過去問(改訂前ですが、非常に参考になります)を見ることもできます!見ると挫折しそうな人は、あまり見ないで、次回の記事をお待ちください(笑)。
まとめ
よくある話ですが、外国に行ってから日本のよさを改めて感じる人がいたり、外国人に日本のことを聞かれて答えられなくて恥ずかしかったり、英語を勉強することで日本への意識が高まったりする方は多いと思います。
気軽に知っておきたい方は、ぜひ連載「日本酒オタクのおもてなし英語」全11回を読んでもらうとして(笑)、日本について本気で学びたい方は「日本酒」というテーマはとてもいい切り口になりますよ。
英検やTOEICも同じですが、資格を取ることはゴールではなく、通過点です。国際唎酒師の資格も、取ることは一つのゴールではあるものの、長い目で見たら通過点です。英語や日本酒の勉強を通じて身に付けた知識やスキルは一生モノです!活用しない手はありません!
ちなみに、最近、17Live(イチナナライブ)で公式ライバーになりました!中国語を勉強する日本人ライバーとして一から頑張っています。なぜならば、国際唎酒師の中国語ver.も取得することが目標だから!意識他界しそうです!
私は今年で31歳になりましたが、若者に負けじと日々勉強。自宅にいても新しい世界を切り開きながら人生楽しんでいこうと思います!
藤代あゆみさんの過去連載
連載「日本酒オタクのおもてなし英語」では、国際唎酒師および日本酒学講師の資格を持つあゆみせんせいが、日本酒の知識や日本酒にまつわる英語表現などを紹介しています。外国の方とコミュニケーションを取るきっかけや話題のネタにもなる「日本酒」を英語で学びましょう!連載第5回では国際唎酒師のお仕事についても触れています。
▼連載第1回はこちら!
藤代さんの書籍
藤代さんの連載「日本酒オタクのおもてなし英語」がEJ新書(電子新書)になりました!追加原稿も加わりさらにパワーアップした内容になっています。お酒が好き、英語を使った仕事に興味がある、英語を学習中など、すべての方におすすめの一冊です!
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