アメリカ英語やイギリス英語があるように、国によって英語の特徴はさまざまです。この連載では、シンガポールの英語「シングリッシュ(Singlish)」や文化について、現地で約7年もの間ビジネスを行ってきた藤代あゆみさんに教えていただきます。今回は藤代さんがコテコテなシングリッシュを話せるようになった理由と、どんなときでも“Never mind lah.(気にしない)”精神であるシンガポール人の気質についてお話ししていただきました。
初対面の人に「日本語が上手ですね!」とよく言われる日本生まれ日本育ちの日本人、藤代あゆみです!こんなとき、どんな顔をすればいいかわかりませんが、取りあえず笑っています!
さて、過去の連載「 日本酒オタクのおもてなし英語 」や、「 英語で受験!国際?(きき)酒師をめざそう 」では、日本酒学講師・国際?酒師として日本酒と英語について書いてきましたが、この連載では、私が約7年間住んだシンガポールで独学で身に付けたシングリッシュについてお話ししています。 前回の記事 は、「シングリッシュはダメ!」と言われた、というところで終わりましたが、今回は、それでもなぜ私がシングリッシュを話すようになったのかをお話しします。ハンカチをご用意ください・・・。
それでもやっぱりシングリッシュ!
私は留学をしたことがありません。しかし、親戚がアメリカ国籍の方と結婚したので、子どもの頃からどちらかというとアメリカンな英語を(一生懸命)話していました。仕事でシンガポールに行くことになり、現地に着くと・・・自分の知っている英語とは違う英語が飛び交っている。っていうかシンガポール人、何言ってるのか分からないし、こっちの言葉も伝わらないし、どうやってシンガポールで生きていけばいいのよ・・・と頭を抱えて日本酒を飲みまくる日々を過ごしていました。初めての海外生活、右も左もわからない中、仕事に追われ、お酒だけが友達。人間の友達が出来ない。だって「英語」が通じないんだもん。
でも、ある日、シンガポール人相手に話をしているときに、“OK………lah”っとぼそっと “lah” を付けてみたんですよね。そしたら!シンガポール人がそれはそれはうれしそうな顔をして「あゆみももうシンガポール人だね!」って言うんです。え、 “lah”を付けただけでシンガポール人 になれんの?はい、じゃあもう私はシンガポール人です!・・・という感じで、シングリッシュを話すだけで一気にローカルの人との距離が縮んだんです。待って、「シングリッシュは話すな」と私に言ってきた人たち、なにゆえのアドバイス???もっと早くシングリッシュを覚えればよかった!と逆に後悔したのでした。
中華系、マレー系、インド系、さまざまな民族のシンガポール人から、いろいろなシングリッシュを教えてもらい、マスターした私。ついには日本人だと思われなくなり、「あゆみって名前、自分で付けたの?アユミハマサキが好きなの?日本大好きなんだね!」とか言われるようになりました。いや、それ私の本名だから。両親が付けてくれた大事な名前だから。
シングリッシュがうま過ぎてラジオに出演
そして、ついにシングリッシュが話せる日本人(日本酒の先生)としてシンガポールの超人気ラジオ番組“Get Up with Gerald & Kim” *1 に出演することになりました。
放送された番組がこちら。(3分10秒後あたりでシングリッシュを褒められています笑)
www.facebook.com実は、今年も別のラジオ番組のPodcast “THE SENSITIVE MAN Podcast with Simon Lim-CHILL OUT CONVERSATIONS” *2 に出演したのですが、DJのSimonさんに、「日本人っぽくしゃべってくれないか」と言われる始末。なんかわかんないけど、ごめん(笑)。顔が見えない分、話し方だけで私が日本人であることを信じてもらうのって大変なんです。
だから、自分の英語の発音に自信がない人、 心配 要りません! 日本人っぽい話し方だって需要がある のですから。 ちなみに 、私は結局「ジャパングリッシュ」が逆に話せず、先方に諦めてもらい、コテコテのシングリッシュで収録をしたのでした。Paiseh ...(パイセー/福建語 *3 でごめんね的な意味)
シンガポールではとにかくNever mind lah.精神!
突然ですが、最近、何かに怒ったりしましたか?私、本当に怒らないんです。最後に怒ったの、いつだろう?怒らないから、ストレスもない。イライラもしない。お酒はストレス解消のために飲んでいるのではなくて、本当に心から楽しんでいるのです。だからいつもお酒がおいしい!周りの人からしたら、気楽でいいわね、という感じでしょうが、はい、そのとおりです!いえい!
私が、この超お気楽人生になったのもシンガポールのおかげ。シンガポールでは、とにかく “Never mind lah.”(気にしな?い) と言います。今日だけでも、私は10回以上、“Never mind lah.”ってシンガポール人に言いました。 ちなみに 全然“Never mind.”じゃないときにも“Never mind.”と言います。もはや“mind”はどこかへ消えてしまったのか!?と思うくらい、とにかく 気にしないことが大事 なのです!例えば、日本では遅刻は絶対に許されませんよね。しかし、シンガポールではプライベートの待ち合わせで30分くらいの遅刻で怒ると「細かいやつだなあ」とか、「心の狭いやつだなあ」と思われます。嫌われます(笑)。もちろん、仕事での遅刻は叱るし、その分給料も減らすし、それこそ私が怒られる(←こら)こともありますが、 多少の遅れは“Never mind lah.” です。コテコテのシングリッシュでよくある会話を音声付きでご紹介します!(一人二役で私が録音しました)
夕飯の約束をするAさんとBさん
A: Let’s go makan.B: Can.A: 6 p.m., can?B: Can can.A: ご飯行こう!
B: うん。
A: 午後6時でいい?
B: うん、いいよ。
このやりとりでのポイント
- makan(マカン)
- can(キャン)
午後6時過ぎ、待ち合わせ場所に到着したAさん
A: Here already. You leh?B: Otw. Reaching.A: Ok can.A: Where are you? (?????)A: 私はもう着いたよ、そっちは?
B: 向かってる。もうすぐ着く。
A: オッケー、わかったよ。
A: どこにいるの(??????)
このやりとりでのポイント
- 状況
- leh(レー)
- otw(オン・ザ・ウェイ)
- reaching(リーチング)
*4 )にようやく現れたBさん">午後6時半を過ぎ、待ち合わせ場所(Tampines West駅 *4 )にようやく現れたBさん
A: Walaoe! Why you always like that! So late meh! B: Paiseh, paiseh. Jam lah.A: Where got jam one~! You take MRT mah! B: Aiyo, joking lah. Sorry leh. A: Jialat lah, you. Aiya, never mind lah. Go makan makan.A: もう!なんでいつもそうなの!超遅刻じゃん!
B: ごめんごめん、渋滞にはまっちゃって。
A: 何が渋滞だよ?!MRT *5 で来てるじゃん!
B: 冗談だってば。ごめんね。
A: まったくもうあんたって人は。まあいいや。ご飯行こう行こう。
この会話でのポイント
- walaoe(ワッラオエー)
- paiseh(パイセー)
- Jam(ジャム)
- aiyo(アイヨー)
- Joking(ジョーキング)
- jialat(チアラ)
今回のあとがき
これのどこが英語?!と驚いたでしょうか?これぞ シングリッシュ なのです!私はとにかくシングリッシュが大好き。超ユニークで面白くないですか?こんなに魅力的なシングリッシュですが、 日本人で使いこなせている人はほとんどいない のが実情です。なぜなのでしょうか?
次回の最終回では、シンガポールに約7年間住んだ私の経験から、海外に住むこと、海外で働くことについてちょっと真面目にお話ししながら、シングリッシュでも“OK LAH!”(オッケーラァァアアア!)な理由を突き詰めていこうと思います!読んでくださった方は、TwitterやInstagram(どちらもアカウント名は@ayumi_and_sake)で気軽に感想を聞かせてくださいね?!
藤代さんの書籍
藤代さんの連載「日本酒オタクのおもてなし英語」がEJ新書(電子新書)になりました!追加原稿も加わりさらにパワーアップした内容になっています。お酒が好き、英語を使った仕事に興味がある、英語を学習中など、すべての方におすすめの一冊です!
- 作者: 藤代 あゆみ
- 発売日: 2020/12/08
- メディア: Kindle版
*2 :シンガポールのラジオ局ONE FM 91.3の人気ラジオDJ、Simon LimによるPodcast。
*3 :中国語の方言の一つ。主に福建省で話されている。
*4 :駅の名前は公用語のうち、英語、中国語、タミル語で書かれている。 ちなみに Tampines(タンピネス)というスペルだが、シンガポール人は皆「テンパニーズ」と呼ぶので、スペルと読み方が一致しないこともあるのがシングリッシュの特徴の一つ。
*5 : Mass Rapid Transitの略。電車・地下鉄のこと。
*6 :シンガポール人が困ったときや驚いたときに使用する感嘆詞の一つ。
藤代あゆみ 平成元年、東京生まれ、共立女子大学文芸学部劇芸術コース卒。日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)公認国際?酒師・日本酒学講師・酒匠。「日本酒オタクのあゆみせんせい」として、シンガポールを中心に、アジア、オセアニア、ヨーロッパ、北米、南米など世界20カ国以上の人に向けて日本酒を広める活動を経験。好きな漫画は『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(平尾アウリ著、徳間書店)
Official Website: https://www.ayumi-and-sake.tokyo/
Twitter: @ayumi_and_sake
Instagram: @ayumi_and_sake
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